紙やダンボールの原料というと、なんとなく木をそのまま使うイメージがありますが、実際には木材を細かく砕いた「チップ」を化学的にほぐしてパルプにします。日本がこのパルプ・チップ用に使う木材は、年間で原料換算およそ2,700万トン。木材需要全体(原木換算で約8,500万m³)のなかでも大きな柱です。ところが内訳を見ると、国産はわずか35%。残り65%は海外の植林木に頼っています。この記事では、その需給のかたちと、紙の需要が縮むなかで業界がどう動いているかを見ていきます。
紙が減れば、原料も減る
まず押さえておきたいのが、この産業が「縮小トレンド」のなかにあることです。パルプ・チップ用材の使用量は1990年代半ばに年3,500〜4,000万トン規模でピークを打ち、今の2,700万トンはその7割ほど。背景には、紙そのものの需要減があります。
日本の紙・板紙生産は2007年の約3,100万トンをピークに、2023年は約2,300万トン。およそ27%減りました。とくに新聞用紙は6割超、印刷用紙も4割超の縮小です。ペーパーレス化や電子媒体へのシフトが直撃した格好で、原料を扱う側もまともにその影響を受けています。さらに古紙の再利用が進んだことも木材需要を押し下げました。古紙パルプ利用率は1990年代の53%から今や66%に達し、新聞や板紙では9割超が古紙です。一方、ダンボール原紙はネット通販・宅配の伸びで底堅く、これがチップ需要をかろうじて下支えしています。
国産チップは「捨てていた木」から
国産チップ約950万トンの正体は、ほとんどが端材や残材です。製材所で柱や板を取ったあとの背板や端材が400〜500万トン、合板工場の剥き残しが100万トン強、伐採後に山に残る枝条や低質丸太が200万トン前後。つまり「これまで使い道のなかった木」を砕いて紙の原料にしているわけです。樹種はスギ・カラマツ・トドマツなどの針葉樹が中心で、一部にナラやカバといった広葉樹も混じり、特殊紙に回ります。
この仕組みは、林業にとって一石三鳥です。残材を売れば収益になり、処理コストが減り、ついでに森の整備も進む。製材業が盛んな東北・中部・中国・九州では安定した供給体制が組まれ、地域経済を地味に支えています。パルプ・チップ用途に限れば国産材自給率は9割超と、ほかの用途より高いのも、この「副産物活用」という性格ゆえです。
輸入の主役は植林木のアカシアとユーカリ
では海外から来る1,750万トンはどこから、どんな木が来ているのか。下の表のとおり、ベトナム・チリ・オーストラリアが三大供給国です。
| 国 | 主要樹種 | 特徴 | 対日シェア |
|---|---|---|---|
| ベトナム | アカシア | 輪伐期6〜7年と短く近距離 | 約28% |
| チリ | ユーカリ | 大規模植林だが輸送距離長い | 約22% |
| オーストラリア | ユーカリ | タスマニア・西豪州中心 | 約16% |
| 南アフリカ | ユーカリ・パイン | 商業植林の歴史が長い | 約11% |
| タイ・他 | アカシア等 | 天然林由来は減少傾向 | 約23% |
注目はベトナムです。2010年代から急伸し、いまや最大の供給国。アカシアは熱帯で育ちが早く、わずか6〜7年で伐れるため、繰り返し安定して供給できます。輸送距離も近い。チリ・豪州のユーカリは輪伐期10〜12年とやや長いものの成長量が大きく、こちらも大規模に賄える。共通するのは、いずれも天然林を切るのではなく植林した木だという点です。今や輸入チップの9割超が植林木由来で、ここに日本のチップ調達史の大きな転換が表れています。
かつて1970〜90年代は、ロシア極東や北米の針葉樹(北洋材・北米材)が主流でした。それが90年代以降、豪州・チリのユーカリ植林へ、さらに2000年代にはベトナムのアカシアへと軸足が移ります。これは単なるコスト最適化ではなく、「天然林を切らない」持続可能性への移行そのものでした。今ではFSCやPEFCといった森林認証がほぼ必須で、大手製紙各社は認証材比率9割超を達成しています。日本の製紙業界の認証材比率は、世界でもトップクラスです。
価格は為替と運賃に揺れる
原料コストは製紙会社の収益を直撃します。国内チップは針葉樹でトンあたり8,000〜10,000円ほど。1990年代後半は12,000〜15,000円でしたから、長い目で見れば下落傾向です。輸入はベトナム産アカシアがトンあたり150〜180米ドル、輸送距離の長いチリ産ユーカリは180〜220米ドル。これに為替と運賃が乗って最終コストが決まります。2021〜2022年のウッドショックとコンテナ運賃高騰では輸入チップ価格が一時ほぼ倍に跳ね上がり、各社のコストを圧迫しました。円安と地政学リスクは、いまも調達コストに影を落とし続けています。
もうひとつの論点が、木質バイオマス発電との原料の取り合いです。2012年のFIT制度開始でバイオマス燃料の需要が急増し、低質材・廃材という原料が製紙と競合。一時は国産チップ価格が上がりました。もっとも長期的には、発電は低質・低価格の燃料用、製紙は繊維品質の必要な中質材、という棲み分けが進みつつあります。
縮小のなかで探る次の一手
国内市場の縮小は今後も続き、紙・板紙需要は2030年に2020年比でさらに1〜2割減るとの見方もあります。製紙各社はその先を見据え、海外市場や高機能紙へのシフト、2050年カーボンニュートラルに向けた製造工程の脱炭素化を進めています。なかでも期待されるのが、木材繊維をナノレベルまで微細化したセルロースナノファイバー(CNF)。鋼の5分の1の軽さで5倍の強度とされ、自動車部品から食品・化粧品の添加剤まで用途が広がります。市場規模は今は数十億円ですが、2030年に1,000億円規模との予測もあり、木材繊維産業の新しい成長軸として注目されています。
規制面でも、2017年施行のクリーンウッド法やEUの森林破壊規制(EUDR)により、原産国や伐採年、認証情報まで追跡するトレーサビリティが業界標準になりました。これは単なる法令対応を超えて、ESG経営の核に位置づけられています。紙の需要が縮むという逆風のなかでも、調達の持続可能性と技術革新の面では、日本の製紙業界は世界の先頭を走り続けています。

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