家を建てるとき、柱や梁にどんな木材が使われているか──普段あまり意識しない部分ですが、建物の強さと安全を支えているのはまさにこの「構造材」です。木造の構造材は、品質がどう保証されているか(JAS材か無等級材か)と、どんな形に加工されているか(無垢材・集成材・合板・LVL・CLT・I型ジョイスト)の2つの軸で整理できます。そして2025年4月、建築基準法の「4号特例」が大きく縮小され、これまで審査が省略されてきた小規模な住宅でも、構造材の選び方がぐっと重みを増しました。この記事では、構造材の種類とJAS制度の基本、4号特例縮小がもたらす変化、そして実務での選定基準までを、設計者・工務店・家づくりを考える人の視点でまとめます。

そもそもJASとは──木材の「品質保証書」
JAS(日本農林規格)は、農林水産大臣が定める品質規格です。制度そのものは1950年の農林物資規格法(現在のJAS法)に始まり、木材分野では合板・製材・集成材・単板積層材(LVL)と対象を広げ、2013年には直交集成板(CLT)の規格が加わりました。規格は定期的に見直され、そのつど最新の構造設計理論や市場ニーズが反映されます。
JAS認定を受けるには、登録認証機関の工場審査を通り、製品ロットごとの品質試験データを記録・保管しなければなりません。機械等級区分の製材をつくるならグレーディングマシンと木材乾燥機が要り、品質管理責任者や格付担当者を置き、「木材乾燥士」などの有資格者も配置する必要があります。認証の取得には通常6か月程度、新規認証手数料は35万円ほど(機械等級区分・格付検査を外部委託する場合)で、加えて年間の監査手数料や2か月に1回の格付検査料がかかります。この負担の重さが、製材でJAS格付材の比率が伸びにくい一因になっています。
設計図書では、規格を告示番号で参照することがあります。木質構造材に関わる主要なJASは次の通りです。
- 製材のJAS(平成19年農林水産省告示第1083号):構造用製材の機械等級区分・目視等級区分・たて継ぎ材などを規定。針葉樹構造材の基本規格。
- 集成材のJAS(平成19年農林水産省告示第1152号):構造用・造作用集成材を規定。層構成に同一等級構成・対称異等級構成などの区分がある。
- 合板のJAS(平成15年農林水産省告示第233号):構造用合板は接着の程度が特類・1類の2区分、強度等級が1級・2級。
- 単板積層材(LVL)のJAS(平成20年農林水産省告示第701号):曲げヤング係数などによる等級表示。
- 直交集成板(CLT)のJAS(平成25年農林水産省告示第3079号):層構成と強度等級を規定。
なお木質I型ジョイストには専用のJASがなく、建築基準法第37条にもとづく国土交通大臣認定品として流通しています。認定品以外は構造材として使えない点が、他の部材と大きく違うところです。
JAS材を使う実務上のメリットは大きく4つあります。第1に、等級ごとの基準強度が告示(建設省告示第1452号)に定められ、構造計算でそのまま使えること。第2に、含水率がD15/D20/D25などの区分で管理され、施工後の乾燥収縮による狂い・割れが抑えられること。第3に、寸法精度が規定され、プレカット加工が安定すること。第4に、認証ラベルによって施主や行政への品質説明がしやすいことです。とくに4号特例縮小後は、設計図書に「構造用製材(機械等級区分)E90・D20」のように品質要求を明記する運用が広がっています。
構造材の6つの顔──加工形態で性格が変わる
同じ木材でも、どう加工するかで性格はまるで違います。1本ものの無垢材から、薄板を貼り合わせた集成材、面で支えるCLTまで、それぞれに得意分野があります。まず全体像をマトリクスで掴んでみましょう。
無垢材(製材のJAS)は、立木から製材した1本もの。柱用の芯持ち材、梁桁用の芯去り材に分かれます。樹種はスギ・ヒノキ・カラマツ・ベイマツ・ベイツガが主流。人工乾燥したKD材と未乾燥のGRN材で寸法安定性が大きく異なり、現代の住宅では狂いの少ないKD材が基本です。実際に流通する機械等級は、スギならE70前後、ヒノキならE90前後が中心になります。
集成材(集成材のJAS)は、「ラミナ」と呼ばれるひき板を繊維方向を揃えて接着積層した製品。強度のばらつきが小さく、柱・梁・桁の主構造材として住宅で広く使われます。短辺15cm以上かつ断面積300cm²以上のものは「大断面集成材」と呼ばれ、体育館やオフィス、大型店舗の柱梁といった中大規模木造の主役級部材になります。
構造用合板(合板のJAS)は、薄い単板を繊維方向が交互に直交するよう積層した面材。耐力壁・床下地・屋根下地として、壁量計算の根拠材料に欠かせません。壁倍率は、合板の厚さだけでなく釘の種類・打ち方や大壁/真壁といった仕様の組合せごとに告示で定められており、同じ厚さでも仕様によって倍率が変わります。
LVL(単板積層材のJAS)は、薄い単板を全層平行に積層した製品。合板と集成材の中間的な構成で、ばらつきの少なさを活かし、長尺の梁桁やI型ジョイストのフランジ材に向きます。
CLT(直交集成板のJAS)は、ラミナを直交させて積層した面材。床版・壁版として「面で構造が成立する」材料で、中大規模木造の主役格です。国内の製造体制は令和3年度末時点で9工場・年間8万m³規模。政府は「CLTの普及に向けたロードマップ」で年50万m³の生産能力を目標に掲げています。CLTを活用した建築物は令和6年度末までに累計1,482件が竣工しており、4階建以上の中層木造や保育園・福祉施設での採用が広がっています。
I型ジョイストは、フランジ(水平材)とウェブ(垂直のせん断材)をH型断面に組み立てた複合梁。長スパン・軽量・高剛性で、住宅2階床の根太や長尺の小梁に使われます。配管・配線の貫通孔をウェブに開けやすいのも実務上の利点です。前述のとおりJASではなく大臣認定品なので、認定内容の範囲で使うことが前提になります。
強さを数字で測る──機械等級というしくみ
「この木はどれくらい強いのか」を客観的な数字にしたのが機械等級区分です。製材のJASでは、乾燥処理をした構造用製材を1本ずつ非破壊で測定し、曲げヤング係数に応じてE50・E70・E90・E110・E130・E150の6等級に分けます(あかまつ・べいまつ・べいつが・えぞまつ・とどまつの樹種群はE70から)。等級番号はヤング係数の目安を示すもので、たとえばE70は「5.9kN/mm²以上7.8kN/mm²未満」という区間を意味します。「以上」ではなく区間である点が、しばしば誤解されるところです。
この等級ごとに、建設省告示第1452号が曲げ・圧縮・引張・せん断の基準強度を定めています。基準強度は樹種群ごとに数値が違い、スギはヤング係数のわりに強度が高く出るのが特徴です。
樹種によって取れる等級の分布は決まってきます。スギは軽軟でE50〜E90が主流、ヒノキやカラマツはやや高めのE70〜E110、ベイマツはさらに高い等級が出やすい樹種です。つまり樹種を決めると、おおよその強度の上限も決まる関係にあります。機械等級と並んで、節や丸身などの欠点を目で見て等級を分ける目視等級区分もあり、こちらは乾燥機やグレーディングマシンへの投資を抑えたい工場が選ぶ区分です。スギの場合、目視等級区分の甲種1級の曲げ基準強度は27.0N/mm²で、機械等級E70(29.4)と無等級材(22.2)の中間にあたります。
もう一つ大事なのが含水率です。JAS材ではD15(15%以下)・D20(20%以下)・D25(25%以下)といった区分で表示され、住宅構造材ではD15かD20が要求水準になります。未乾燥のまま使うと、施工後の乾燥収縮による狂い・割れ・接合金物の緩みを引き起こすからです。プレカット工場では入荷時に含水率を測定し、規格外材は再乾燥に回します。2025年度予定のJAS改正では、マイクロ波含水率計による非破壊の試験方法が追加されることになっています。
JAS材と無等級材──同じ木でも設計が変わる
意外に思われるかもしれませんが、国内で流通する構造材の多くは、JAS格付を受けていない「無等級材」です。地域の製材所からの直送や従来からの取引慣行に加え、前述したJAS認証の設備・人員・費用の負担が重いことが背景にあります。両者の違いを整理してみましょう。
無等級材も、もちろん使えます。ただし構造計算では、樹種ごとに定められた「無等級材」の基準強度(実際の強度より保守的に小さい値)で設計する必要があります。スギの無等級材の基準曲げ強度は22.2N/mm²ですが、機械等級区分ならE70で29.4、E90で34.8、E110で40.8N/mm²。同じ断面でJAS E90を使えば、無等級材のおよそ1.6倍の曲げに耐える設計ができる計算です。
これは設計の自由度に直結します。同じ荷重条件なら梁のせいを抑えられ、スパンを伸ばせ、間取りの自由度が広がる。2025年4月の改正では、JAS材であれば柱の小径を仕様規定より小さくできる措置も導入されました。構造計算が前提になる中大規模木造でJAS材の選定が一般化しているのは、こうした設計上の利点があるからです。
2025年4月、4号特例が縮小された
そして今、構造材選びを後押ししているのが、建築基準法の「4号特例」縮小です。これまで木造2階建・延床500m²以下の住宅では、構造関係の図書審査が省略され、建築士の責任で適合を確認すればよいとされてきました。1983年の制度創設以来、この4号建築物は木造住宅市場の主流でしたが、審査が省略される運用には構造設計の質をめぐる議論が続いていました。
2025年4月1日の改正で、この区分が再編されました。特例が残るのは「新3号建築物」(木造平屋・延床200m²以下)のみ。それ以外はすべて「新2号建築物」となり、構造関係規定の審査が義務化されます。ここで押さえておきたいのは、2階建ては延床面積にかかわらず全て新2号になるという点です。「200m²以下なら従来どおり」という誤解が多いところですが、200m²という線引きが効くのは平屋だけです。あわせて、構造計算(許容応力度計算)が必要となる範囲も延べ面積300m²超へ拡大されました。
影響は大きく3つに整理できます。第1に設計実務の負担増。壁量計算・偏心率・N値計算・接合金物選定などの図書化が必要になり、1案件あたりの設計工数は確実に増えます。第2にJAS構造材の追い風。建築確認申請で木材の品質確認が必須となる範囲が2階建て全てに拡大し、JAS材なら等級表示値をそのまま構造計算に使えるため、無等級材より設計が進めやすくなります。国が発注する木造官庁施設では、「木造計画・設計基準」により構造耐力上主要な部分の製材は原則JAS適合品とされている点も追い風です。第3に省エネ基準適合義務化との同時施行。断熱層と耐力壁の取り合い、貫通配管との干渉など、構造と省エネを両立させる設計が新たな課題になります。
結局どう選ぶ?──部位別の選定の考え方
では実際の選定はどう考えるか。原則はシンプルで、柱は耐久性(ヒノキ)か経済性(スギ)の選択、梁は強度(ベイマツ集成材・LVL)か国産材活用(カラマツ集成材)、土台は耐朽性(ヒノキ・ヒバ)が鉄則です。部位ごとに整理すると次のようになります。
- 土台:耐朽性が最優先。ヒノキまたはヒバの乾燥材が標準。スギは防腐処理材なら可。
- 柱:スギの機械等級E70・D15が住宅の標準的な仕様。耐震等級2以上ではヒノキE90への置き換えが増える。
- 梁・桁(4m以下):ベイマツ集成材、またはスギの機械等級E90・D20。
- 梁・桁(4〜6m):ベイマツ集成材またはカラマツ集成材。強度等級は必要曲げ応力から逆算する。
- 梁・桁(6m超):LVL、または大断面集成材。
- 耐力壁面材:構造用合板。厚さと釘仕様の組合せで壁倍率が決まるため、告示の仕様表と対応させる。
- 床版:構造用合板の厚物(剛床仕様)。CLTは中大規模が中心。
コストについては、JAS材のほうが無等級材より単価は高くなります。ただし価格は樹種・断面・産地・時期で大きく動くうえ、無等級材を使うと断面を大きくせざるを得ない場面があるため、単価だけの比較では判断できません。構造計算のしやすさ、住宅性能評価書の取得、耐震等級の向上といった効果まで含めて、案件ごとに見積りを取って比べるのが現実的です。実勢価格の水準を確かめたいときは、農林水産省の木材価格統計調査や、地域の木材市況資料が参考になります。
よくある質問
Q. 無等級材は使ってはいけないの?
使えます。ただし構造計算では樹種ごとの保守的な基準強度で設計するため、同じ部材でもJAS材より大断面が必要になりがちです。スギならJAS E90に対して基準曲げ強度が約6割の水準になるので、断面や部材数に効いてきます。
Q. 集成材は無垢材より強いって本当?
「強い」というより「ばらつきが小さく信頼できる」が正確です。ラミナの段階で等級区分し、欠点を分散させて積層するため、設計値どおりの性能が出やすいのが利点。ただし接着剤の耐久性が長期信頼性の鍵なので、使用環境A・B・Cの区分を、屋外か屋内か、湿潤条件かどうかで正しく選ぶことが重要です。
Q. CLTは普通の住宅でも使える?
使えますが、製品コストが高く、施工に専用クレーンと高いプレカット精度が必要なため、住宅単体では経済合理性が限られます。本領を発揮するのは4階建以上の中層木造や、一定規模以上の保育園・福祉施設など。住宅では、大空間リビングや薄型床版を求める意匠優先のケースが中心です。
Q. これからは全部の住宅で構造計算が必要になるの?
いいえ。構造計算(許容応力度計算)が必要になるのは延べ面積300m²超などのケースで、標準的な木造2階建なら壁量計算+N値計算といった仕様規定での確認が中心です。ただし新3号(木造平屋・延床200m²以下)以外は構造関係規定が建築確認の審査対象になるため、図書化と保存の義務が新たに発生します。
Q. 国産材構造材のシェアは伸びる?
伸びると見られます。4号特例縮小で構造計算の根拠材料としてJAS国産材の優位性が出るうえ、林野庁の「ウッド・チェンジ」の取組で公共建築の国産材活用も進んでいます。木材自給率も2010年の26.0%から2024年には42.5%まで回復しており、国産JAS構造材の供給体制が整いつつあります。

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