トドマツ(Abies sachalinensis)は、北海道の森と林業を語るうえで外せない主役です。北海道の人工林の約半分を占め、エゾマツと並んで「エ・トド」と一括りに呼ばれる定番樹種。モミの仲間(モミ属)のなかでは最も低い標高に分布し、寒さへの強さと加工のしやすさで、構造材からCLT、合板、パルプまで幅広く使われています。学名のsachalinensisはサハリン(樺太)で記載されたことに由来します。
エゾマツとどう違う?
北海道で「エ・トド」とセットで語られるエゾマツですが、じつは属レベルで別物です。トドマツはモミ属(Abies)、エゾマツはトウヒ属(Picea)。一番わかりやすい見分け方は球果(まつぼっくり)で、トドマツは枝に上向きに立ち、エゾマツは下向きに垂れ下がります。トドマツの葉は線形で長さ2〜3センチ、裏返すと2本の白い気孔帯が走ります。樹高は20〜30メートル、幹の直径は太いもので1メートル級に達し、寿命は150〜250年(好条件で300年級)と、日本のモミ属では長命なほうです。
分布は北海道全域、それにサハリン・千島列島・北方四島まで。本州には自然分布がなく、本州の亜高山にいるシラビソやオオシラビソが近縁種にあたります。年平均気温マイナス2〜プラス7℃、冬はマイナス20℃以下にも耐える寒冷地仕様で、道北・道東の厳しい冬でも健全に育ちます。

軽くて加工しやすい、CLT時代の主役
木材としてのトドマツは、気乾比重0.37〜0.41の軽軟材。スギ(0.38)に近い軽さで、刃物当たりがよく、ノコもカンナもよく通ります。色は辺材も心材も淡い黄白色で色ムラが少なく、明るい木肌が内装や家具にも向きます。年輪が均質で乾燥後の寸法も安定するため、集成材や合板の材料として理想的です。
この均質さと接着性のよさが、近年の木造建築ブームでトドマツの価値を押し上げました。2010年代後半から需要が伸びたCLT(直交集成板)の原木として、トドマツは北海道産で最大シェアを握ります。スギ・カラマツと並ぶ「国産CLT3大樹種」の一角です。苫小牧・釧路・帯広・上川などのCLT工場や合板工場、製紙工場が、このトドマツとカラマツを主原料に動いています。北海道の素材生産量のなかでも、トドマツはカラマツと並ぶ最大級の樹種です。
北海道の暮らしと生態系を支える
トドマツ林は木材を生むだけの森ではありません。積雪と融雪のリズムを和らげて石狩川や天塩川といった大河の流量を安定させる水源涵養、豪雨や融雪期の土砂流出を防ぐ働き、そして広い面積を占める森林として道内のCO2吸収・固定にも大きく寄与しています。エゾヒグマやエゾシカ、クマゲラ、シマフクロウなどが暮らす針広混交林の生物多様性も支えています。
北海道らしいのが防雪林としての役割です。道路や鉄道沿いに植えられたトドマツの並木は、吹雪による視界不良や吹きだまりを防ぎ、冬の交通を守ってきました。アイヌ文化ではトドマツを「スンク」と呼び、家屋の建材や船材、神事の用材として大切に使ってきた歴史もあります。木材の主役であると同時に、北海道の暮らしそのものに根を張った木なのです。
主伐期の到来と、これからの課題
1950〜60年代に大規模に植えられたトドマツ人工林は、いま続々と主伐期(50〜80年)を迎えています。伐ったあとにきちんと植え直す再造林が大きなテーマで、北海道の再造林率は全国平均より高いものの、コストと人手不足が依然ネック。そこで、成長量1.5倍を目指す「エリートツリー」の選抜や、活着率の高いコンテナ苗の普及、植栽密度を下げて育林コストを抑える試みが進んでいます。
課題もあります。浅根性で強風・暴風雪に弱く、2004年の台風18号では、北海道全体で約3万7千ha(うち国有林約1万4千ha)もの森林が風倒被害を受けました。増え続けるエゾシカによる幼木の食害も深刻で、2023年度の道内推定生息数は約73万頭(道南除く)。北海道はこれを2026年度までにピーク時の半分程度まで減らす目標を掲げ、電気柵やシカネット、捕獲事業で対応しています。さらに温暖化で南限が北上し、道南の生育適地が縮むリスクも指摘されており、適地適木の見直しが研究されています。それでもCLT・集成材の需要は安定して伸びており、国産材自給率の向上を担う基盤として、トドマツの戦略的価値はむしろ高まっています。
よくある質問
Q. トドマツとエゾマツの違いは?
トドマツはモミ属、エゾマツはトウヒ属で別の仲間です。球果が、トドマツは上向きに立ち、エゾマツは下向きに垂れる点で見分けられます。
Q. なぜ気乾比重0.37と軽いの?
寒冷地で年輪は詰まっていても細胞壁が薄く、密度が抑えられているためです。軽くて加工しやすい性質につながっています。
Q. CLTに使うトドマツの強度は?
曲げ強度約64MPa、ヤング率7.8GPa前後。CLTのラミナに必要な強度と均質性を備え、国産CLTの主要樹種です。
Q. 耐久性は?
やや低めなので、屋外用途には防腐処理が推奨されます。屋内の構造材・内装材・合板で本領を発揮します。
関連記事
- 【シラビソ】Abies veitchii|亜高山帯針葉樹
- 【オオシラビソ】Abies mariesii(アオモリトドマツ)|樹氷を形成する針葉樹
- 【ウラジロモミとは】Abies homolepis|亜高山針葉樹林の指標種
- 【モミ】Abies firma|極相林の重鎮、無臭・白木の力学特性

コメント
コメント一覧 (1件)
[…] 【トドマツ】Abies sachalinensis|北海道造林25万haの主力樹種 […]