木造の梁を設計するとき、「どのくらいたわむか」を左右するいちばんの数字がヤング係数(弾性係数、記号E)です。同じ樹種・同じ含水率でも、節の位置や個体差によって実測値は大きくばらつきます。だからこそ、樹種や等級をどう選ぶかが、構造の出来栄えとコストの両方を決めることになります。
この記事では、ヤング係数とは何を表す数字なのか、樹種によってどれくらい違うのか、含水率でどう変わるのか、そしてどうやって測っているのかまでを扱います。等級や設計の話は長くなるので、続きの3本に分けました。
- JAS機械等級区分E50〜E150|目視等級との違いと基準強度──等級記号の意味と告示1452号
- 集成材とCLTのヤング係数|E105-F300の読み方と異等級構成──加工材の等級
- 木造梁のたわみ計算とクリープ|等級の選び方──設計でどう使うか
ヤング係数とは──「変形しにくさ」を表す1つの数字
ヤング係数とは、弾性域における応力(σ)とひずみ(ε)の比例定数のことです。フックの法則 σ = E × ε の E がそれで、ざっくりいえば材料の「変形しにくさ」を表します。数値が大きいほど、同じ荷重をかけても変形が小さい。
単位でつまずく人が多いので先に整理しておきます。
1 GPa = 1 kN/mm² = 1,000 N/mm²
どれも同じ値の別表記です。日本のJAS規格や告示では kN/mm² が使われ、文献や海外資料では GPa が多い。北米では 10⁶psi 表記(1.5×10⁶psi ≒ 10.3GPa)も現役です。数字が10倍・1000倍ずれて見えたら、たいてい単位の違いだと疑ってください。
木材は、力をかける向きで20倍変わる
木材の物性でまず押さえておきたいのが、強い異方性です。繊維方向(縦・L方向)、半径方向(R方向)、接線方向(T方向)の3方向で、まるで性質が違います。
構造材として効いてくるのは縦方向の曲げヤング係数で、ふつう「木材のヤング係数」といえばこれを指します。半径方向や接線方向は、縦方向の15分の1から30分の1程度しかありません。木の細胞(仮道管・道管)が幹に沿って縦に並んでいることから来る性質です。
金属と比べると、軟鋼が約205GPa、アルミ合金が約70GPa、コンクリート(普通強度)が約30GPa。それに対しスギの縦方向は7〜8GPaほどで、鋼の30分の1にも届きません。ところが、強度を比重で割った比強度で見るとスギは鋼に匹敵します。軽くて丈夫な構造材、という評価はここから来ています。
日本産樹種のヤング係数ランキング
気乾密度と曲げヤング係数はおおむね相関し、密度の大きい樹種ほどヤング係数も大きくなる傾向があります。曲げヤング係数・強度は日本木材総合情報センターが公表する代表値、気乾密度は『木材工業ハンドブック』改訂4版(森林総合研究所監修)の値です。
| 樹種 | 気乾密度 (g/cm³) |
曲げヤング係数 (GPa) |
曲げ強さ (MPa) |
圧縮強さ (MPa) |
主用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| アカガシ | 0.87 | 16.7 | 118 | 54 | 道具の柄・車両 |
| ケヤキ | 0.69 | 11.8 | 98 | 49 | 大黒柱・社寺建築 |
| ブナ | 0.65 | 11.8 | 98 | 44 | 家具・曲木 |
| アカマツ | 0.52 | 11.3 | 88 | 44 | 梁・桁(伝統) |
| ヤチダモ | 0.55 | 9.3 | 93 | 43 | 家具・運動用具 |
| ヒノキ | 0.44 | 8.8 | 74 | 39 | 柱・土台・社寺建築 |
| ヒバ(アスナロ) | 0.45 | 8.8 | 74 | 39 | 土台・水回り |
| クリ | 0.60 | 8.8 | 78 | 42 | 土台・枕木 |
| モミ | 0.44 | 8.8 | 63 | 36 | 建具・器具 |
| ツガ | 0.50 | 7.8 | 74 | 44 | 柱・梁(汎用) |
| イチイ | 0.51 | 7.8 | 69 | 39 | 装飾・彫刻 |
| シナノキ | 0.50 | 7.8 | 64 | 34 | 合板・器具 |
| カヤ | 0.53 | 7.4 | 78 | 34 | 碁盤・風呂 |
| スギ | 0.38 | 7.4 | 64 | 34 | 柱・梁・羽柄材 |
| ヒメコマツ | 0.45 | 6.9 | 69 | 34 | 建具・器具 |
| キリ | 0.30 | 4.9 | 34 | 20 | 家具・装飾 |
密度と剛性がおおむね連動していることは表からも読み取れます。ただし完全な比例ではありません。わかりやすいのがカヤとアカマツで、気乾密度はどちらも0.52〜0.53とほぼ同じなのに、曲げヤング係数はカヤ7.4GPa、アカマツ11.3GPaと1.5倍の開きがあります。密度は細胞壁の量を表す指標にすぎず、その細胞壁がどれだけ幹の方向にそろっているかまでは教えてくれない、ということです。
なお、構造材として重要なカラマツはこの代表値表に載っていません。日本建築学会の設計規準では基準弾性係数E0=9.5kN/mm²とされており、スギとヒノキの上、アカマツの下に位置します(後述の表を参照)。
北米材・輸入材のヤング係数
輸入構造材は、米国農務省林産研究所(FPL)の『Wood Handbook』が標準的な出典になります。含水率12%時の値です。
| 樹種(英名) | 比重 (FPL基準) |
曲げヤング係数 (GPa) |
曲げ強さ (MPa) |
主用途 |
|---|---|---|---|---|
| ベイマツ(Douglas-fir, Coast) | 0.48 | 13.4 | 85 | 梁・桁・大断面集成材 |
| ハードメープル(Sugar maple) | 0.63 | 12.6 | 109 | 床材・楽器 |
| レッドオーク(Northern red oak) | 0.63 | 12.5 | 99 | 家具・床材 |
| ホワイトオーク(White oak) | 0.68 | 12.3 | 105 | 家具・床材・洋樽 |
| サザンイエローパイン(Loblolly pine) | 0.51 | 12.3 | 88 | 梁・桁(北米) |
| ホワイトアッシュ(White ash) | 0.60 | 12.0 | 103 | 建具・運動用具 |
| ベイツガ(Western hemlock) | 0.45 | 11.3 | 78 | 梁・桁(汎用) |
| シトカスプルース(Sitka spruce) | 0.40 | 10.8 | 70 | 楽器・航空機 |
| ラジアータパイン(Radiata pine) | — | 10.2 | 81 | NZ集成材ラミナ |
| ベイヒバ(Yellow-cedar) | 0.44 | 9.8 | 77 | 土台・水回り |
| ホワイトスプルース(White spruce) | 0.36 | 9.6 | 65 | 北米枠組材 |
| アメリカグリ(American chestnut) | 0.43 | 8.5 | 59 | 建具・家具 |
| ベイスギ(Western redcedar) | 0.32 | 7.7 | 52 | 外装・デッキ |
この比重の列を、上の表の気乾密度と直接比べてはいけません。定義が違うからです。FPLの比重は「全乾重量 ÷ 含水率12%時の体積」で計算されており、日本の気乾密度(気乾状態の重量 ÷ 気乾状態の体積)より1割ほど小さく出ます。同じベイマツでも、『木材工業ハンドブック』の気乾密度は0.55、FPLの比重は0.48。数字が食い違っているのではなく、測っているものが違います。
ヤング係数のほうは基準がそろっているので、表をまたいで比較できます。ベイマツの13.4GPaは日本産のどの針葉樹よりも高く、大スパンの梁や集成材ラミナに北米材が使われてきた理由がここに表れています。ラジアータパインは生育が速いぶん密度が低いイメージを持たれがちですが、10.2GPaとスギを大きく上回ります。
この表の数字を、そのまま設計に使ってはいけない
ここがこの記事でいちばん大事な注意点です。上の2つの表は代表値(おおむね平均値)であって、構造計算に持ち込む値ではありません。木材のヤング係数には、次の3つの層があります。
| 何の数字か | 意味 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 代表値(平均値) | その樹種の標準的な水準 | 樹種の比較、材料選定の目安 |
| 実測値 | その1本を測った値 | 機械等級区分の格付 |
| 基準弾性係数 E0・E0.05 | 設計規準が定めた値と、その5%下限値 | 構造計算・たわみ検定 |
建築基準法にはヤング係数の具体的な数値が示されていないため、実務では日本建築学会『木質構造設計規準』(2002年版)の基準弾性係数を使います。E0は一般の計算に、E0.05は変形がとくに重視される主要構造部材に用いる値です。
| 樹種(構造用製材) | E0(kN/mm²) | E0.05(kN/mm²) |
|---|---|---|
| べいまつ | 12.0 | 8.5 |
| えぞまつ・とどまつ | 10.0 | 7.5 |
| からまつ | 9.5 | 6.0 |
| すぎ | 7.0 | 4.5 |
スギで並べてみると、代表値7.4GPa → 設計規準のE0が7.0 → その5%下限値E0.05は4.5。代表値と設計の下限値では4割近い開きがあります。この差は安全率ではなく、実際のばらつきそのものです。
実測がどれだけばらつくか、実データでも確かめられます。岐阜県が県産スギの平角材459本を実大試験したところ、曲げヤング係数の平均は7.82kN/mm²、下限値は5.48kN/mm²でした。県産ヒノキ200本では平均10.90kN/mm²、下限値8.31kN/mm²。ヒノキの実測平均10.9GPaは、代表値の8.8GPaよりかなり高く出ています。試験体の寸法(小試験体か実大材か)、産地、材齢が違えば数字は動くということです。
代表値は「その樹種のだいたいの位置」を知るためのもの、設計に使うのは規準値と等級ごとの基準強度。この切り分けさえ間違えなければ、樹種選びで大きく外すことはありません。
含水率が1%下がるとヤング係数は約2%上がる
木材のヤング係数は、含水率に大きく左右されます。含水率30%(繊維飽和点)以上ではほぼ一定ですが、それを下回ると含水率1%の低下につき約2%上昇します。細胞壁から水が抜けることで、細胞壁そのものが硬くなるためです。
| 含水率 | 状態 | ヤング係数比(含水率15%を100とした場合) |
|---|---|---|
| 30%以上 | 繊維飽和(生材) | 70 |
| 25% | 未乾燥材 | 78 |
| 20% | JAS乾燥規格 D20 | 87 |
| 15% | JAS乾燥規格 D15 | 100(基準) |
| 12% | 気乾標準 | 106 |
| 8% | 暖房環境での平衡 | 113 |
JAS構造用製材には D15・D20・D25 という乾燥規格があり、それぞれ仕上げ含水率15%以下・20%以下・25%以下を意味します(人工乾燥材はSD、天然乾燥材はDの記号)。住宅用構造材ではD20以下が一般的で、化粧梁や造作材ではD15以下が求められます。
実務上の意味は2つあります。ひとつは、未乾燥材を入れると設計値どおりの剛性が出ないこと。生材のままなら15%基準の7割程度しかありません。もうひとつは、施工後に含水率が変わると収縮・反り・ねじれが起き、剛性も一緒に動くこと。設計値と実性能を合わせたければ、含水率管理は避けて通れません。
ヤング係数はどうやって測るのか
測定法は用途と精度で使い分けられています。
静的曲げ試験(破壊試験):JIS Z 2101に規定された伝統的な方法。3点曲げ・4点曲げの装置で試片に荷重をかけ、荷重−変位曲線の弾性域の勾配からヤング係数を求めます。もっとも信頼性が高い一方、試片を壊してしまうため、研究用途や規格の基準値設定に使われます。
縦振動法(FFT共振法):製材を打撃して固有振動数を測り、共振周波数 f₁・長さ L・密度 ρ から E = 4ρL²f₁² で算出する非破壊試験です。1本あたり数秒で測れるため、製材所の全数検査で広く使われています。この動的ヤング係数(Edyn)は、静的ヤング係数より数%高めに出るのが一般的です。
超音波法:製材の片端から超音波パルスを入れ、反対端での到達時間から音速Vを求め、E = ρV² で算出します。節の周りで波が屈折するため、節の少ない材ほど精度が高くなります。
グレーディングマシン(機械等級区分):製材を連続的に走行させながら曲げヤング係数を実測し、JASの等級に自動で振り分ける全数検査装置です。JAS認定工場に置かれ、格付の根拠になります。詳しくはJAS機械等級区分の記事で扱っています。
よくある質問
Q. GPa、kN/mm²、N/mm²のどれが正しい表記ですか?
A. すべて同じ値の別表記です。1GPa = 1kN/mm² = 1,000N/mm²。日本のJAS規格や告示では kN/mm²、文献では GPa がよく使われます。E105の集成材なら 10.5GPa = 10.5kN/mm² = 10,500N/mm² です。
Q. ヤング係数が同じなら、強度も同じですか?
A. 違います。ヤング係数は弾性域の変形しにくさ、強度は壊れるまでの最大応力で、別の指標です。相関はありますが一致はしません。破壊強度は節の数や大きさ、繊維走向、内部応力で決まるため、ヤング係数が高くても節の多い材は曲げ強度が伸びないことがあります。
Q. 同じ樹種なら、産地が違ってもヤング係数は同じですか?
A. 変わります。とくにスギは全国で品種が多く、成長速度や年輪幅によってヤング係数が大きく違います。県レベルで実大強度試験を行い、産地ごとのデータを公表している自治体もあるので、地域材を使う場合はそちらを確認するのが確実です。
Q. 節があると、ヤング係数はどれくらい下がりますか?
A. 節そのものの影響より、節の周囲で繊維が曲がることの影響が大きくなります。また、同じ節でも引張側にあるか圧縮側にあるかで効き方が違います。だからこそ、外から見た節の大きさで判定する目視等級より、実際に曲げて測る機械等級のほうがばらつきを抑えられるわけです。
Q. 中古材や古材のヤング係数は落ちていますか?
A. 雨がかりのない屋内環境であれば、木材の材質は驚くほど安定しています。法隆寺のヒノキを対象にした研究では、伐採後200〜300年かけて強度がむしろ2〜3割上がり、1000年ほどで新材と同水準に戻るとされています。詳しくはたわみとクリープの記事で扱いました。
出典・参考
- 木材の基準強度Fc、Ft、Fb及びFsを定める件(平成12年建設省告示第1452号)
- 農林水産省 製材の日本農林規格
- 岐阜県 大規模木造公共施設の建築にかかる低コストマニュアル・事例集 第4章
- 日本木材総合情報センター 木材の強度(代表値)
- 樹種別の気乾密度の値の例(『木材工業ハンドブック』改訂4版・森林総合研究所監修/北海道)
- USDA Forest Products Laboratory, Wood Handbook Chapter 5: Mechanical Properties of Wood(Table 5-3a・5-5a)
- 北海道立林産試験場 木造建築のためのスパン表(日本建築学会『木質構造設計規準』2002年版の基準弾性係数を掲載)
- 森林研究・整備機構 森林総合研究所
- 北海道立総合研究機構 林産試験場
まとめ
ヤング係数は、木材の「変形しにくさ」を表すたった1つの数字です。単位は GPa でも kN/mm² でも同じ値。木材は方向によって20倍以上も違う異方性を持ち、構造で効くのは繊維方向の曲げヤング係数です。
樹種別に見ると、国内材ではアカガシやケヤキといった広葉樹が高く、針葉樹ではアカマツ、輸入材ではベイマツの13.4GPaが群を抜きます。ただし代表値をそのまま設計に持ち込んではいけません。スギなら代表値7.4GPaに対し、設計規準の5%下限値E0.05は4.5kN/mm²。設計が拠り所にするのはこちらです。そして含水率が1%下がればヤング係数は約2%上がる。乾燥管理まで含めて、はじめて図面の数字と建物の性能が一致します。

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