【ヤブツバキ】Camellia japonica|冬の真紅の花、椿油と園芸品種の戦略樹種

ヤブツバキ | Forest Eight

冬枯れの庭や海辺の林で、まわりが葉ばかりになった頃にひときわ目を引く真紅の花──ヤブツバキ(藪椿、Camellia japonica)です。光沢のある厚い葉を一年中まとう常緑樹で、種からは上質の椿油が採れ、江戸の園芸家たちは二千を超える品種を生み出しました。茶花に、椿油に、そろばん玉に。千年以上にわたって日本人の暮らしと文化を支えてきた、奥行きの深い木です。

気乾比重0.81(0.75〜0.85)重硬・耐摩耗花径6-9cm5-7弁の漏斗状園芸品種2,000+日本+世界江戸期〜現代椿油80%オレイン酸高酸化安定性
図1:ヤブツバキの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
目次

サザンカとの見分け方

ツバキとよく似た木にサザンカがあり、どちらも秋から春に紅色の花を咲かせるので迷いがちです。でも、いくつか押さえれば確実に見分けられます。いちばん分かりやすいのは散り方。ツバキは花が丸ごとぽとりと落ちるのに対し、サザンカは花びらが一枚ずつ散ります。下の表に主な違いをまとめました。

ヤブツバキ vs サザンカ 識別表項目ヤブツバキサザンカ開花期12月〜4月10月〜12月落花の仕方花ごと丸ごと落下花弁が一枚ずつ散る雄しべ基部が筒状に合着個別に分離葉縁鋸歯細かく浅いやや粗く深い葉裏主脈無毛短毛あり
図2:ヤブツバキとサザンカの識別ポイント

花をのぞき込んだとき、たくさんの雄しべの根元が筒状にまとまっていればツバキ、一本ずつ離れていればサザンカ。葉は長楕円形で長さ5〜10cm、表面に強い光沢があり、縁に細かい鋸歯があります。樹高は5〜15mほどで、海岸近くから内陸の社寺の森まで、暖温帯に広く育ちます。

冬の花とメジロの深い仲

ツバキが冬から早春という、昆虫の少ない時期に咲くのには訳があります。受粉を虫だけでなく、鳥にも頼っているのです。花蜜を求めてメジロやヒヨドリが花に頭を突っ込むと、額やのどに花粉がつき、別の花へと運ばれます。「ツバキにメジロ」が日本画や俳句の定番題材になっているのは、この密接な関係を昔の人がよく観察していたから。温帯では珍しい鳥媒花の好例で、虫の少ない真冬に咲くという戦略と、しっかり噛み合っています。

千年つづく椿油

ヤブツバキの種からは、椿油(カメリアオイル)が採れます。オレイン酸が80〜85%とオリーブオイル(70%前後)を上回り、酸化に強く長持ちするのが特長です。化粧品や髪のつや出し、高級な食用油、日本髪の鬢付け油、さらには刀剣や精密機械の手入れ油まで、用途は驚くほど幅広い。記録は『続日本紀』(777年)の「海石榴油」まで遡り、日本髪文化が花開いた江戸時代に需要が一気に伸びました。

主産地は今も島々です。東京都の伊豆大島・利島は日本最大の椿油の里で、利島は島の約85%が椿林。長崎県の五島列島の「五島椿油」は2018年に農林水産省の地理的表示(GI)保護制度に登録され、地域ブランドとして守られています。種子1kgから採れる油は300g前後と少なく、化粧品グレードは100mlで数千円という高付加価値品。近年はオーガニック化粧品の流れに乗って、椿油を生かした地域の商品づくりや観光も活発になっています。こうした椿林の整備や6次産業化は森林環境譲与税の活用対象にもなり、詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。

江戸の園芸熱と世界のCamellia

ヤブツバキは、江戸時代に園芸植物として爆発的に発展しました。八重咲き、絞り模様、斑入り……1738年刊行の『百椿集』には早くも400以上の品種が載っています。現在、日本で約2,000品種、世界では3万品種以上が登録される一大園芸植物です。

属名の Camellia は、フィリピンで植物を集めたイエズス会宣教師カメルの名にちなみ、リンネが1753年に命名しました。ヤブツバキは18世紀にヨーロッパへ渡り、ヴィクトリア朝の温室で高級観賞樹として大流行。デュマ・フィスの小説『椿姫』とヴェルディの歌劇『椿姫(La Traviata)』が、ツバキを西洋文化の象徴にまで押し上げました。国内では茶道で「茶花の女王」と呼ばれ、千利休も侘茶の花として重んじています。なお「花が丸ごと落ちる=首が落ちるので武士に嫌われた」という話は明治以降に広まった俗説で、江戸期にはむしろ大名や公家の家紋・庭木として尊ばれていました。

緻密で重い、工芸の名材

木材としてのツバキも一級品です。気乾比重0.81とケヤキやサクラを上回る重硬材で、木目が緻密で均質。この性質が、指で弾いたときの感触と音が珠算競技に最適とされる最高級のそろばん玉や、捺印の彫りが長持ちする印鑑(ツゲと並ぶ国産印材の双璧)を生みました。ほかにも将棋駒、こけしや茶器、三味線の撥(ばち)やギターピック、農具の柄など、硬さと粘りが求められる場面で活躍します。太い材は取りにくいので建築の大材には向きませんが、小物・工芸の世界では別格の評価を受けています。

育てるときの注意点

庭木にするなら、関東以南の暖地で、西日を避けた半日陰、水はけのよい弱酸性土が理想です。耐陰性も耐潮性も高く、北側の花壇や海辺の庭にも向きます。いちばん気をつけたいのがチャドクガの幼虫。葉を食べるだけでなく毒針毛で激しい皮膚炎を起こすので、発生する5〜6月と8〜9月の前に予防し、見つけたら被害葉ごと早めに処分します。被害木の下で作業するときは長袖・手袋が必須です。成長はゆっくりで、10年で3〜5mほど。花の後に軽く剪定すれば、長く美しい樹形を保てます。

よくある質問

ツバキとサザンカの違いを一言で言うと?

「丸ごと落ちるか、花びらごとに散るか」です。ツバキは花全体がぽとりと落ち、サザンカは花びらが一枚ずつ散ります。咲く時期もツバキは冬〜春、サザンカは秋〜初冬と違い、雄しべもツバキは筒状にまとまり、サザンカは離れています。

椿油は自宅で搾れますか?

家庭用の搾油機があれば技術的には可能ですが、種1kgから300gほどしか採れず、精製や脱臭も難しいので現実的ではありません。大島や五島の市販品を使うのがおすすめです。未開封なら冷暗所で1〜2年、開封後は半年〜1年が保存の目安です。

寿命はどのくらいですか?

樹齢200〜500年級の老木が各地にあり、長崎県平戸市の「春日のヤブツバキ」(国指定天然記念物)などが知られます。庭木でも手入れ次第で100年を超える長命が期待できます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次