この結論
- シロダモ(Neolitsea sericea)はクスノキ科シロダモ属の常緑広葉樹で、葉裏が白く、赤い実と花が同時に見られる独特の生態を持つ樹種です。
- 気乾比重0.50〜0.55の中軽量材で、用材としては限定的ですが、観賞性・里山生態系の価値で注目される樹種です。
- 関東以南の暖地の照葉樹林・社叢林の中木層構成種として広く分布し、樹高は通常10〜15m、最大で20mに達することもあります。
- クスノキ科の中ではシロダモ属(Neolitsea)に属し、雌雄異株、結実までに約13ヶ月を要する独自の生活史を持ちます。
関東以南の暖地、社寺境内、照葉樹林の中木層──葉裏が白く、秋〜冬に赤い実と新しい花が同時に見られる独特の常緑樹がシロダモ(学名:Neolitsea sericea (Blume) Koidz.)です。前年の果実が熟した頃に翌年用の花が咲くため、同じ枝に「赤い実と花」が共存する珍しい生態を持ちます。葉を裏返したときの銀白色の輝き、若葉に密生する金色の絹毛、雌雄異株であることなど、観察ポイントが極めて多い樹種としても知られます。本稿では植物分類学的位置づけ、形態と生態、木材性質、林業的視点、文化・薬用、近縁種との識別、よくある質問まで、専門的観点と里山実用の双方から徹底的に整理します。
クイックサマリ:基本スペック表
シロダモは形態・生態・利用の各面で他のクスノキ科樹種と一線を画す特徴を持ちます。以下の基本スペック表で全体像を把握してください。数値は林木育種センター、森林総合研究所、日本産木材データベース等の公的データに依拠しています。
| 和名 | シロダモ(白椨、別名:シロタブ、タマガヤ、タマガラ) |
|---|---|
| 学名 | Neolitsea sericea (Blume) Koidz. |
| 分類 | クスノキ科(Lauraceae)シロダモ属(Neolitsea) |
| 主分布 | 本州(関東以南)〜四国〜九州〜沖縄、朝鮮半島南部、中国南部、台湾 |
| 垂直分布 | 標高0〜800m(暖温帯〜中間温帯下部) |
| 樹高 | 10〜15m(最大20m) |
| 胸高直径 | 20〜40cm(最大60cm) |
| 樹齢 | 推定100〜200年(社叢林の古木で実例あり) |
| 気乾比重 | 0.50〜0.55(中軽量) |
| 葉 | 長楕円形〜披針形、長さ8〜18cm、幅3〜6cm、革質、互生、3行脈、葉裏は銀白色 |
| 花期 | 10〜11月(雌雄異株) |
| 果期 | 翌年10〜11月(赤熟) |
| 主要用途 | 家具材、薪炭材、社叢林、観賞樹、薬用(葉・果実油) |
| 独自特徴 | 葉裏白色、赤い実と花の同時観察可能、若葉に金色絹毛 |
| レッドリスト | 環境省・各都道府県とも該当なし(普通種) |
分類学的位置づけ:クスノキ科シロダモ属
シロダモは被子植物のクスノキ科(Lauraceae)シロダモ属(Neolitsea)に属する常緑広葉樹です。クスノキ科は世界に約50属2500種を擁する大きな分類群で、熱帯〜亜熱帯を中心に分布し、日本ではクスノキ、タブノキ、ヤブニッケイ、ホソバタブ、カゴノキ、ヤマコウバシ、ダンコウバイ、クロモジなど、林業的・薬用的・園芸的に重要な樹種が多く含まれます。
シロダモ属(Neolitsea)は世界に約100種が記録され、東アジア〜東南アジアを中心に分布します。属名は「新しい(neo-)」と「Litsea(ハマビワ属)」の合成で、ハマビワ属に近縁ながら花の形態(雄しべ数、花被片の形状)が異なる新属として19世紀に分離されたという経緯があります。日本産シロダモ属は本種のほか、奄美・沖縄に分布するアオモジモドキやクスノハカエデなど数種が知られ、いずれも常緑性で葉裏が淡色傾向を示します。
種小名 sericea は「絹のような」を意味するラテン語で、若葉を覆う金色の絹毛に由来します。基本異名(バシオニム)は Litsea sericea Blume(1851年記載)で、これを1923年に小泉源一が現在の組み合わせ Neolitsea sericea (Blume) Koidz. として新分類群を確立しました。和名「シロダモ」は「白いタモ」、すなわち葉裏が白いタブノキ類という意味で、別名のシロタブも同義です。タマガヤやタマガラといった別名は、果実の球状性に由来します。
近縁種とのDNA系統解析によれば、シロダモは東アジアの暖温帯固有種群を形成し、氷期残存植物の一つと位置づけられています。
形態の詳細:葉裏の白さと若葉の金色綿毛
シロダモの形態的特徴は、観察者を瞬時に魅了する独自性に満ちています。順に詳述します。
葉:長楕円形・革質・葉裏銀白色
葉は単葉互生、長楕円形〜披針形で、長さ8〜18cm、幅3〜6cmが標準域です。葉先は長く尖り(鋭尖頭)、基部は鋭頭〜くさび形、縁は全縁で波状になることはありません。葉質は厚い革質で、表面は光沢のある暗緑色、裏面が著しく白く銀白色〜淡青白色を呈します。これがシロダモの和名由来であり、最大の識別ポイントです。
葉脈は3行脈と呼ばれる独特の脈系で、基部近くから伸びる主脈と、その両側に並走する2本の側脈が目立ちます。クスノキやヤブニッケイ、タブノキなど他のクスノキ科樹種にも3行脈は見られますが、シロダモほど葉裏が明瞭に白くなる種は他にありません。葉柄は長さ1.5〜3cmで赤褐色を帯び、托葉はなく、芽吹きの時期には葉と一緒に密生する金色の絹毛(種小名の由来)が見られます。この絹毛は新葉を強い日射と乾燥から守る適応とされ、葉が硬化する初夏には脱落します。
樹皮:暗灰褐色で平滑、皮目が点在
樹皮は若木では暗灰色で平滑、成木になると暗灰褐色〜紫褐色となり、縦方向に細かいひび割れと小さな円形の皮目(レンチセル)が点在します。クスノキのような明瞭な縦溝は形成されず、タブノキより色が暗く平滑な印象を受けます。新枝は緑色〜紫褐色で、若い段階では黄褐色の絹毛がまばらに残ります。
花:散形花序、淡黄褐色、雌雄異株
花期は10〜11月で、葉腋に散形花序を多数つけ、雌雄異株です。花は直径約5mmで、淡黄褐色〜帯緑黄色、花被片は4枚(クスノキ科では花被片6枚が多いため、シロダモ属の重要識別形質)、雄花は雄しべ6本(うち4本が腺体を持つ)、雌花は退化した雄しべと球形の子房を持ちます。蜜量は中程度で、晩秋の数少ない蜜源としてアブ・小型ハチ・ハエ類の重要な訪花対象となります。雌雄異株のため、結実するのは雌株のみで、近隣に雄株が必要です。
果実:楕円形の核果、翌年赤熟、約13ヶ月で成熟
果実は楕円形〜球形の核果(ドルプ)で、長さ約1.5cm、幅約1cm。10〜11月に開花した花が、翌年の同じく10〜11月にようやく成熟するという、約13ヶ月の長い結実サイクルを持ちます。これは温帯〜暖温帯のクスノキ科樹種にしばしば見られる現象で、特に近縁のシロダモ属やハマビワ属で顕著です。熟果は鮮やかな赤色で、果皮は薄く、種子はほぼ全体を占める大型のものが1個入ります。種子の内部には脂質が豊富に蓄積され、後述の精油源としても利用されます。
樹形・樹高:中木〜亜高木、直立性
樹形は直立性で、樹高は通常10〜15m、好適立地では20mに達します。胸高直径は20〜40cmが普通で、社叢林などの古木では60cmを超える個体も知られます。枝張りは中庸で、葉が密集する樹冠を形成し、林内では中木層〜亜高木層を占有します。年輪幅は若齢期に2〜3mm、壮齢期で1〜1.5mm程度と中庸の成長速度です。
生態の独自性:葉と果実が同時に着く稀有な現象
分布域:暖温帯〜亜熱帯の照葉樹林
シロダモの自然分布は、本州の関東以南(神奈川・千葉以南が一般的、内陸では岐阜・愛知南部以南)から四国・九州・沖縄にかけて広がり、国外では朝鮮半島南部、中国南部、台湾に及びます。垂直分布は標高0〜800mで、一般的には標高300m以下の暖温帯照葉樹林、社叢林、海岸林、林縁、路側に普遍的に出現します。垂直分布上限は地域差が大きく、温暖な紀伊半島南部・四国南部では標高800mまで観察される一方、関東地方の北限では標高200m以下に限られます。
地理的北限は神奈川県西部・千葉県南部・茨城県南部とされ、これは年平均気温13℃の等温線とほぼ一致します。地球温暖化の進行に伴い、北限が徐々に北上している傾向が指摘されており、近年は埼玉県南部・東京都西部の里山でも自然分布が確認されています。
赤い実と花の同時観察:13ヶ月結実サイクル
シロダモ最大の生態的特徴は、果実成熟に約13ヶ月を要するため、秋(10〜11月)に新しい花が咲く時期に、ちょうど前年の果実が真っ赤に熟しているという現象です。同じ枝に「赤い実と花」が共存する光景は、林床観察者にとって極めて魅力的な題材であり、自然観察会・植物標本作成の好適期となります。
この長い結実サイクルが進化した背景には、(1) 温帯の冬季の低温を利用した種子の生理的休眠促進、(2) 鳥散布(ヒヨドリ、ツグミ、メジロ、シロハラ等)の最も活発な時期に果実成熟を合わせる戦略、(3) 春の発芽期間にエネルギーを集中させる生活史戦略、などが指摘されています。
更新と発芽生態:耐陰性が高く、林下更新が容易
シロダモは強い耐陰性を持ち、母樹下の暗い林床でも実生から大型個体まで発達できる、典型的な遷移後期種(クライマックス種)です。森林総合研究所の照葉樹林動態調査では、相対光量率2〜5%の暗い林床でも実生が定着し、生残率も比較的高いことが報告されています。
種子の散布距離は、鳥散布のため母樹から数十m〜数百mまで広がります。発芽は春(4〜5月)で、発芽率は70〜90%と高い傾向にあります。実生は1年目に高さ10〜20cm、3年で50cm、10年で2〜3mに達するなど、林床での着実な成長を示します。萌芽再生力も中庸で、伐採後の根株萌芽による更新も可能です。
植生指標としての位置づけ
シロダモはタブノキ・スダジイ・アラカシ等とともに、暖温帯照葉樹林(ヤブツバキクラス)の構成種として植物社会学的に重要視されます。特に社叢林(鎮守の森)の中木層の主要種で、関東以南の鎮守の森では林床を覆う光景が見られます。
動物との相互作用
果実は秋〜冬の鳥類の重要な食糧資源で、ヒヨドリ、ツグミ、シロハラ、メジロ等が採食します。種子は鳥の消化管通過で発芽率が向上する報告もあり、典型的な鳥散布共生関係を示します。
木材性質:気乾比重0.50〜0.55の中軽量材
物理特性:中軽量・中庸の強度
シロダモの心材は黄褐色〜淡褐色、辺材は淡黄白色で、心辺材の境界は明瞭ではありません。気乾比重は0.50〜0.55で、林野庁の樹種別木材データでは「中軽量」に分類されます。これはタブノキ(0.55)、ヤブニッケイ(0.60)、クスノキ(0.55)と同程度で、ホオノキ(0.48)よりやや重く、ケヤキ(0.69)やナラ(0.68)よりは軽い水準です。
木材の物理特性データ(含水率15%基準)は以下の通りです:
- 気乾比重:0.50〜0.55(平均0.53)
- 縦圧縮強さ:約45〜50N/mm²
- 曲げ強さ(折れ強さ):約75〜85N/mm²
- 曲げヤング係数:約8.0〜9.0kN/mm²
- せん断強さ:約8〜10N/mm²
- 収縮率(気乾→全乾):接線方向約7%、半径方向約4%
これらは概ね中庸の数値で、構造材・装飾材いずれにも一定の利用適性を持ちますが、生産量が極めて少ないため流通木材としての地位は確立されていません。
加工特性:切削性良好、釘打ち容易
木理は通直で肌目はやや粗く、切削性は良好です。鉋削りによる仕上げ面は中庸の光沢を持ち、化粧面としての利用は可能です。釘打ち、ねじ留め、接着のいずれも容易で、木工加工適性は高いと評価されます。一方、乾燥時の狂いはやや大きく、特に接線方向の収縮率が高いため、人工乾燥時には反り・割れが発生しやすい点に留意が必要です。
耐久性:耐朽性・耐蟻性は低い
シロダモの心材は耐朽性が低く(D3〜D4等級、低〜中庸)、シロアリ・腐朽菌に対する抵抗性は弱いとされます。屋外用途・地中用途には不適で、防腐処理を施さない場合の耐用年数は3〜5年程度です。屋内造作・家具材として用いる場合でも、湿潤環境を避ける必要があります。
主要用途:家具材・薪炭材・小物
シロダモの木材は前述の理由から流通量が少なく、用材としての地位は限定的です。用途は地域的・伝統的な範囲にとどまり、(1) 家具材(小型家具・座卓・座椅子等)、(2) 薪炭材(特に良質の備長炭の代替材として一部使用)、(3) 小物(こけし、刳物、彫刻材)、(4) 楊枝・つまようじ等の小型部材、(5) 椎茸ホダ木の代替材(クヌギ・コナラ不足地域の補助材)が知られます。古くは薪炭原木として里山の重要資源でしたが、エネルギー転換以降は用途が縮小しました。
林業的視点:用材的価値は限定的、観賞・生態的価値は高い
シロダモは林業経営の主要対象樹種ではありません。植林・育成の対象とされることは稀で、ほとんどが社叢林・里山林の天然更新個体として存在します。林業的視点からのシロダモは、(1) 暖温帯照葉樹林の構成種として人工林化の妨げにならない範囲で残置される、(2) 社叢林・公園樹・庭木としての観賞利用、(3) シカ食害が深刻な地域での残存樹種としての価値、という三層の意義を持ちます。
植栽事例:社寺・公園・庭園
シロダモは、関東以南の社寺境内、公園、和風庭園、海岸防風林、生垣等で植栽されてきました。近年は耐陰性・常緑性・赤い果実の観賞価値・葉裏の美しさが再評価され、エコロジカル・ガーデニング、ビオトープ造成、暖温帯生態系再生プロジェクトの対象として植栽事例が増えています。
シカ食害下での残存性
近年深刻化しているニホンジカの食害下において、シロダモは比較的不嗜好性とされ、嗜好性樹種が消失した林床でも残存しやすい性質を持ちます。シロダモの葉に含まれる精油成分とアルカロイド系物質がシカの忌避要因と推定されています。
森林環境譲与税の活用
(1) 暖温帯照葉樹林の生物多様性保全、(2) 社叢林・公園樹の整備、(3) シカ食害下での照葉樹林再生、という観点から森林環境譲与税の活用対象となります。詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。
文化と歴史:社叢林の構成種、季語、神事との関わり
社叢林(鎮守の森)の中核樹種
シロダモは、関東以南の社叢林の主要構成種として、古来より日本人の祭祀・信仰空間を形作ってきました。鎮守の森を散策すると、林内中木層をシロダモが占有し、林床にはその実生が密生する景観に頻繁に出会います。社叢林は伐採・開発が長期にわたり制限された半自然林として、原植生の構造を保存しており、シロダモはその指標的構成種です。
社叢林研究の第一人者である宮脇昭(横浜国立大学名誉教授)は、社叢林の植生復元・再生を全国で推進した「潜在自然植生」の概念で知られ、シロダモは関東以南の潜在植生において必須の中木層構成種として位置づけられました。
正月の門松・神饌としての利用
地域によっては、シロダモの常緑性と葉裏の白さを「清浄」「縁起」と関連付け、正月の門松・注連縄飾り・神饌の添え物として用いる慣習が残ります。葉裏の白さは「白髪」「長寿」を象徴するとされ、賀寿の演出に使われる地域もあります。
地域名と方言
シロダモは地域によりさまざまな方言で呼ばれます。九州ではシロタブ、四国南部ではタマガラ、紀伊半島・伊豆半島ではタマガヤ、伊豆諸島ではシロガシワなど、地域文化に根ざした呼称が今も残ります。
薬用・利用:葉の薬効、果実の油、伝統的活用
葉の伝統的薬用:腫れ・打撲・切り傷
シロダモの葉は、地域の民間薬として用いられてきた歴史があります。葉を乾燥粉末化したものを、打撲傷・腫れ・切り傷の外用湿布として使用する事例が紀伊半島・伊豆諸島・九州南部の民間療法書に記録されています。葉に含まれる精油成分(リナロール、シネオール等)が抗炎症・抗菌作用を持つとされます。ただし現代医療の代替としての使用は推奨されません。
果実油:照明用・整髪用としての歴史的利用
シロダモの果実には脂質(ラウリン酸・ミリスチン酸を含むトリグリセリド)が豊富に蓄積され、伝統的に照明用油・整髪用油として利用されてきました。果実1kgから約200〜300gの油が採取でき、近代以前の里山生活では灯油・髪油の貴重な供給源でした。
木材の小物利用:楊枝・こけし
シロダモの木材は中軽量で切削性が良く、楊枝・つまようじ・小型こけし・刳物・彫刻材として伝統的に利用されてきました。特に伊豆諸島ではシロガシワと呼ばれ、地域の小物加工材として愛用されました。
観察ポイントと近縁種との識別
シロダモの観察ベストシーズン
シロダモの観察に最適なのは、(1) 5〜6月の若葉期(金色絹毛が美しい)、(2) 10〜11月の花期と果実成熟期(赤い実と花の同時観察)の二期です。特に後者は、自然観察会・植物標本作成の絶好の機会で、シロダモの全形態的特徴を一度に観察できる稀有な時期となります。
近縁種との識別ポイント
シロダモは他のクスノキ科樹種と外見が似るため、識別には葉裏の色・3行脈・葉質・果実の特徴を総合的に判断する必要があります。
タブノキ(Machilus thunbergii)との識別
タブノキは葉裏が淡緑色(白くない)、葉脈は羽状脈で3行脈ではない、葉質はより革質で大型(10〜25cm)、果実は球形で黒紫色に熟す、という点でシロダモと明確に区別できます。両者は社叢林・暖温帯林で共存することが多く、葉裏の色を裏返して確認することが識別の決定打となります。
ヤブニッケイ(Cinnamomum yabunikkei)との識別
ヤブニッケイは3行脈を持つ点でシロダモに似ますが、葉裏は淡緑色〜白緑色(シロダモほど明瞭に白くない)、葉柄を折ると独特のニッキ香(シナモン香)がする、果実は球形で黒紫色、という点で区別できます。葉柄を折って香りを嗅ぐ識別法は、フィールドで極めて有効です。
ホソバタブ(Machilus japonica)との識別
ホソバタブは葉裏が淡緑色で白くない、葉が細長く披針形、果実は球形で黒紫色という点で識別可能です。ホソバタブは九州南部〜沖縄に分布が偏っており、本州ではほぼ出会いません。
カゴノキ(Litsea coreana)との識別
カゴノキは樹皮が鹿の子模様(円形にまだら剥離する)で極めて特徴的。葉裏は淡緑色で白くなく、葉も小型(5〜10cm)。果実は球形で黒紫色。樹皮を見れば瞬時に識別可能です。
クスノキ(Cinnamomum camphora)との識別
クスノキは樹高30m超の大型木、葉柄を折ると強い樟脳香、果実は球形で黒紫色。樹形・大きさ・香りで瞬時に区別できます。
葉裏を見るだけでシロダモは即同定可能で、識別最易の樹種の一つです。
よくある質問(FAQ)
Q1. シロダモの実は食べられますか?
シロダモの果実は食用には適しません。種子に脂質が豊富に含まれているため鳥類の重要な食糧となりますが、人間が食べた場合の安全性は確認されておらず、伝統的にも食用とされた記録はほぼありません。果実から採れる油は照明用・整髪用には利用されてきましたが、食用油としての利用はありません。観察対象としての魅力にとどめ、食用には供さないことが推奨されます。
Q2. なぜ実と花が同時に見られるのですか?
シロダモは秋(10〜11月)に開花し、その果実が成熟するまでに約13ヶ月を要するため、翌年の同じ秋に新しい花が咲く頃、ちょうど前年の果実が真っ赤に熟しているという生態によります。これはクスノキ科のシロダモ属やハマビワ属に特徴的な長期結実サイクルで、温帯の冬季低温を利用した種子の生理的休眠促進、鳥散布のタイミング合わせ、春の発芽期間にエネルギーを集中させる生活史戦略などが進化的背景として指摘されています。
Q3. 庭木として育てられますか?
関東以南で植栽可能で、特に和風庭園・社寺境内・公園・海岸防風林に適します。耐陰性が高く、半日陰〜日陰でも育つため、北側の庭・建物の陰でも植栽可能です。葉裏の銀白と赤い実の景観美が魅力で、常緑性のため冬期も緑を保ちます。植栽時期は3〜4月か10〜11月、深植えを避け、根鉢を少し高く植えると活着が良好です。寒冷地(関東北部以北)では戸外越冬は困難なため、温暖な地方限定の樹種となります。
Q4. 雌雄異株とはどういう意味ですか?
シロダモは雌雄異株で、雄花のみの雄株と雌花のみの雌株が別個体として存在します。庭木として果実観賞を楽しむには雌株が必要で、さらに近隣に雄株がないと受粉せず結実しません。雌雄両株を植えるか、自然分布域で他個体が近隣にある立地を選ぶことが重要です。
Q5. シロダモの葉裏が白いのはなぜですか?
葉裏の白さは、表皮細胞下にある薄い毛状細胞層と空気を含んだ層構造による光の散乱効果(光学的反射)によるものです。これは強い日射を反射して葉温上昇を抑える適応、葉裏に到達する光を表皮側に反射して光合成効率を高める適応、葉表に付着した昆虫・病原菌から葉裏を区別する識別形質の進化、などが説明として提唱されています。実用的にも、自然観察での識別を容易にする最大の特徴となります。
Q6. シカに食害されにくいというのは本当ですか?
シロダモはニホンジカに比較的不嗜好性とされ、シカ食害が深刻化している地域でもアセビ・ヒサカキ・カゴノキとともに残存しやすい樹種として知られます。森林総合研究所の食害評価では、シロダモは葉の精油成分(リナロール、シネオール等のテルペン類)とアルカロイド系物質がシカの忌避要因となるためと推定されています。シカ食害下での照葉樹林再生の指標種としても重視されます。
Q7. シロダモの寿命はどれくらいですか?
明確な寿命データは確立されていませんが、社叢林の古木では推定100〜200年の樹齢個体が報告され、自然条件下では十分長寿命の樹種と考えられます。胸高直径60cmを超える大径木も社叢林では稀に見られます。
Q8. 木材としての流通はあるのですか?
シロダモの木材は流通量が極めて少なく市場入手は困難です。植林対象樹種でないこと、自然林からの伐採量が限定的なことが理由です。社叢林整備や公園樹剪定の発生材を地域の製材所から特注で入手するのが現実的です。
Q9. 学名の Neolitsea sericea はどう読みますか?
「ネオリッツェア・セリケア」と読みます。属名 Neolitsea は「新しい(neo-)Litsea(ハマビワ属)」の合成語、種小名 sericea はラテン語で「絹のような」を意味し、若葉の金色絹毛に由来します。
Q10. シロダモを保全するために何ができますか?
シロダモは普通種ですが、(1) 社叢林の伐採・開発回避、(2) 暖温帯照葉樹林の生物多様性保全、(3) シカ食害下での照葉樹林再生、(4) 公園・庭園での植栽による生育地拡大、といった活動が間接的に保全に貢献します。森林環境譲与税を活用した社叢林整備も有効な手段です。
関連記事
- 【クスノキ/楠】Cinnamomum camphora|樟脳と御神木
- 【ヤブニッケイ】Cinnamomum yabunikkei|葉にニッキ香
- 【カゴノキ】Litsea coreana|樹皮が鹿の子模様の暖温帯常緑樹
- 【タブノキ】Machilus thunbergii|照葉樹林の高木構成種
- 【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向
まとめ
シロダモ(Neolitsea sericea)は、(1) 葉裏白色という他に類を見ない独特な形質、(2) 約13ヶ月結実サイクルによる赤い実と花の同時観察という稀有な生態、(3) 暖温帯照葉樹林の中木層構成種として社叢林・里山の中核を担う植生学的価値、(4) 自然観察・環境教育の優れた題材としての教育的価値、(5) シカ食害下での残存性と照葉樹林再生の指標性、という五層の価値を持つ樹種です。木材としての林業的価値は限定的ですが、その存在は日本の暖温帯生態系の象徴であり、社叢林の鎮守の森を構成する不可欠な要素として、今後も保全と活用が両立される樹種であり続けるでしょう。葉裏の銀白色と赤い果実の輝きは、林床に踏み入れた観察者にしか味わえない、暖温帯日本の宝物です。

コメント