カーボンクレジットは日本林業を救えるか──宮城・石巻の900ha森林再生プロジェクト

カーボンクレジットは日本林業を救えるか 宮城・石巻の森林再生プロジェクト
📌 ポイント

  • 宮城県石巻地区で、放置された人工林を間伐・再造林し、国際認証カーボンクレジットを生み出すプロジェクトが進行中。
  • 対象は約900ヘクタール(うち72%が針葉樹人工林)。先行した実証実験では年2.25万t-CO2・最大約2.6億円相当の創出可能性を確認済み。
  • 広葉樹の植栽で生物多様性を高め、付加価値の高いクレジットを狙う点が新しい。
  • 日本の森林吸収量は2040年に7,200万t-CO2(2023年比+6割)が政府目標。その達成手段としても注目される。

木材価格の低迷で「持っていても採算が合わない」と放置される人工林が、いま全国に広がっています。そんな荒れた森を、カーボンクレジット(CO2吸収量を売買できる証書)の力で立て直そうという試みが、宮城県石巻地区で動き出しました。豪州の専門メディア Wood Central が2026年5月31日に報じた内容をもとに、その中身と背景を整理します。

目次

放置人工林をクレジットに変える──石巻のプロジェクト

舞台は、東日本大震災の津波被害を受けた石巻地区の約900ヘクタールの森。その72%は、数十年前に植えられたまま十分に手入れされていない針葉樹の人工林です。プロジェクトの発端は2022年、隣接する女川町でリモートワークをしていた日立システムズの社員たちのアイデアでした。そこに石巻地区森林組合、フランスのスタートアップ Everimpact、日本のスタートアップ iForest が加わり、国際的なクレジット認証機関 Verra の制度を使う形へと具体化していきます。

採用したのは、Verra の VCS(Verified Carbon Standard)の中でも「改良型森林管理(IFM)」と呼ばれる手法。古くなった針葉樹を間伐しつつ、広葉樹を含む若い木を植え足すことで、二酸化炭素の貯留量と生物多様性、そして災害への強さを同時に高めようという設計です。森林組合の担当者は「森林の価値が下がりすぎて、所有者が森を手放してしまう」と、現場の危機感を語っています。

日本の森林によるCO2吸収量(政府目標) 2023年 実績 約4,500万t-CO2 2040年 目標 2040年目標は7,200万t-CO2。2023年実績からおよそ6割の上積みが必要とされる。 7,200万t-CO2(+60%)
図:日本の森林CO2吸収量の実績と目標(Wood Central 報道・政府目標値より作成)

プロジェクトを動かす顔ぶれ──4者+認証機関

この取り組みは、一社の事業ではありません。出発点は2022年、女川町でリモートワークをしていた日立システムズの社員のアイデアでした。同社は衛星でCO2吸収量を測るフランスの Everimpact と組み、2022年10月〜2023年3月に石巻の森(当時は数千ヘクタール規模)を対象に実証実験を実施。年間約2.25万トンのCO2吸収量、最大2.6億円相当のクレジット創出が可能という結果を確認しました。これは「VCSによる森林クレジットの日本初創出」を視野に入れた先駆的な検証でした。

現在の約900ヘクタールを対象にした国際認証の取得段階では、ここに森林の評価とクレジット設計を手がける日本のスタートアップ iForest(アイフォレスト。2022年設立、丸山孝明CEO) が加わります。実際の森林管理を担うのは 石巻地区森林組合。そして、これらをまとめて国際基準で“お墨付き”を与えるのが、ボランタリークレジット市場で約7割のシェアを持つ米NPO Verra の VCS 認証です。

石巻プロジェクトの体制と役割分担 石巻地区森林組合 森林の管理と間伐・再造林の実行主体 日立システムズ 全体統括とクレジット創出〜取引の支援 Everimpact(仏) 衛星でCO2吸収量を測定・可視化 iForest(日) 森林評価とクレジットの設計(2022年設立) Verra(米NPO) 国際基準VCSでクレジットを認証
図:プロジェクトの体制と各社の役割(日立システムズ・iForest 各社公表資料より作成)

日立システムズはこの実証で得たノウハウをもとに、衛星データによる可視化からクレジット取引までを一貫支援するサービス展開もめざしてきました。構想から国際認証の申請準備までの流れを、時系列で整理すると次のようになります。

構想から認証申請までの歩み 2022年 女川でリモートワーク中の日立社員の アイデアが発端に 2022–23年 日立×Everimpactの衛星実証。年2.25万t-CO2/ 最大2.6億円相当の創出可能性を確認 2025年 VerraのVCS「改良型森林管理(IFM)」 手法が本格始動 現在 国の森林簿データを使い、約900haを対象に 認証の申請内容を精査中
図:プロジェクトの時系列(Wood Central 報道・各社公表資料より作成)

なぜ日本の森は「放置」されるのか

日本の森林のおよそ4割は、スギやヒノキを中心に人の手で植えた人工林です。本来は適切な間伐で光と空間を確保し、太く健全に育てていくはずでした。ところが木材価格の低迷と安価な輸入材に押され、間伐や搬出のコストに見合う収入が得られない。結果として、せっかくの人工林が手入れされないまま密集し、放置・所有放棄が広がっているのが現状です。

密集しすぎた森は、地面まで光が届かず下草が育たないため、木の根がしっかり張れず土砂崩れのリスクも高まります。「間伐しなければ光は入らない」――iForest の丸山孝明CEOの言葉は、この問題の核心を突いています。

「高齢の人工林はCO2を出す」衛星が示した事実

このプロジェクトで興味深いのが、Everimpact による衛星解析の結果です。それによると、高齢化して密集した針葉樹林は、光合成の鈍化と呼吸・分解の増加によって、むしろCO2を“排出する側”に回りつつあるというのです。森は植えれば自動的にCO2を吸い続ける、という単純な話ではない。手入れを止めた森が炭素の貯蔵庫から排出源へと反転しうる、という指摘は、林業に関わる人にとっても示唆に富みます。

生物多様性で価値が上がる、新しいクレジット

クレジットには「質」の差があります。報道によれば、生物多様性への配慮を備えた“信頼性の高い”クレジットは、CO2削減だけのクレジットに比べて38〜60%高い価格で取引されているといいます。石巻のチームが広葉樹の植栽を組み込み、単なる炭素計算にとどまらない森づくりをめざすのは、この付加価値を取りにいく狙いもあります。

ただし、採用する VCS の IFM 手法は2025年に動き出したばかりで、運用実績はまだ浅いのが実情。チームは日本の国家森林資源データ(森林簿)を使って申請内容を練り直しているところだといいます。

政策の後押しと、残る課題

背景には国の政策もあります。日本の森林は2023年に約4,500万t-CO2を吸収しましたが、政府は2040年までに年間7,200万t-CO2(約6割増)という高い目標を掲げています。国内には2013年開始のJ-クレジット制度もあり、林業関連だけで3月時点で356件が登録済み。一方で、森林経営計画制度に基づく認証を受けた民有林は2024年3月時点で27%にとどまるなど、管理の裾野を広げる余地は大きく残っています。

もっとも、Verra をはじめとするボランタリー(任意)なカーボンクレジット制度には、「本当に削減効果があるのか」「森林管理の実態を伴っているのか」という信頼性への疑問も投げかけられてきました。クレジットが“絵に描いた餅”で終わらないためには、計測の透明性と現場の実行力が問われます。

編集部の視点

「森を守ると赤字、放置するとリスク」というジレンマに、外部のお金(気候ファイナンス)を呼び込む――石巻の試みは、全国の放置人工林に共通する課題への一つの現実解になりえます。鍵は、クレジット収入が間伐・再造林という“実際の手入れ”に確実に回る仕組みを作れるか。数字あわせではなく、森が健全に育ち、災害に強くなり、地域に仕事が戻る。その三つがそろって初めて、このモデルは本物になると感じます。

出典・参考

※ 本記事は上記英文報道をもとに編集部が日本語で要約・再構成したものです。人名・組織名の日本語表記、および数値は公開前に一次情報での確認を推奨します。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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