枝打ち─無節高品質材生産の基本作業

枝打ち─無節高品質材生産の基 | 育みと収穫 - Forest Eight

結論先出し

  • 枝打ち(pruning)は下枝を計画的に切除して節のない高品質材を生産する施業。スギ・ヒノキ・カラマツの建築用材生産で必須技術で、林野庁「森林・林業基本計画」でも国産材高付加価値化の柱に位置付けられる。
  • 主要時期:植栽後8-15年、林分の1/3〜1/2の高さまでを打ち上げ。冬期(11〜2月)実施が標準。1ヘクタールあたり延べ20-50人日(人件費30-100万円)の労働投入。
  • 効果:無節材生産で材価1.5-3倍、銘木・化粧材で5-10倍向上。北山杉磨き丸太は1本数十万円〜100万円超の事例も。林分通風改善で病害減。一方で労働コスト・節太りリスクも考慮、経済性判断が必要。

枝打ちは、日本の人工林施業における伝統的かつ重要な技術です。下枝を計画的に切除することで「節のない木材」(無節材)を生産し、材価を大きく高めることができます。一方で労働集約的でコストもかさむため、経営的判断が常に伴います。本稿では枝打ちの目的、技法、効果、コスト、樹種別戦略、伝統銘木産地(北山杉・吉野杉・屋久杉)の事例、近年の機械化動向、カーボンクレジットとの関係、後継者問題、そして気候変動下の新しい考え方まで詳しく解説します。Forest Eightの育みと収穫カテゴリで扱う他の施業技術と組み合わせることで、林分価値を最大化する一助となれば幸いです。

標準実施年8-15年生植栽後打上げ高さ1/3-1/2樹高比目安労働投入20-50人日/ha1回あたり材価向上1.5-3節なし化効果
図1:枝打ちの主要諸元(出典:林野庁「森林・林業統計要覧」、森林総合研究所・著者整理)
目次

枝打ちの目的と効果

枝打ちの第一の目的は、無節材の生産です。樹木は枝を張りながら成長し、枝の付け根が将来の幹の中で「節」となります。節は木材の意匠性・強度・加工性を低下させます。柱・梁等の構造材で材価が大きく落ちるため、無節材は需要があり高値で取引されます。林野庁の市場調査では、無節柱材は並材の1.5-3倍、特上の四方無節材は5-10倍の価格差がつく事例も報告されています。

節が形成されるメカニズムを理解することは重要です。生きている枝の組織は幹の年輪と連続して形成されますが、枝が枯れて落ちる、または枝打ちで切除されると、その後に成長する幹の年輪は枝の痕跡を巻き込むように形成されます。つまり枝打ち実施後に成長した部分が無節材となるため、早期実施ほど無節材率が高まります。林分の主伐時(40-60年生)に末口20cmの柱材を採るなら、地際から半径6-8cm程度の心材部に節が残り、その外側の20cm近い辺材が無節層として活用できる計算です。

枝打ちの主要効果:

1. 無節材化:下枝を早期に除去することで、その上に成長する材が節のない高品質材となります。一般的に1.5-3倍の材価向上が期待でき、特に化粧材・銘木等のプレミアム市場で顕著。京都の北山丸太、奈良の吉野杉などは長年の枝打ち施業の蓄積で銘木地位を確立しています。

2. 病害虫リスクの軽減:下枝除去で林冠下の通風・採光が向上し、菌害・虫害のリスクが低下します。特にスギの溝腐病、ヒノキの胴枯病など、鬱閉した林分で発生しやすい病害の予防効果があります。

3. 隣接木との競合緩和:間接的ですが、林分構造の改善に寄与。下層植生の発達も促され、生物多様性の向上にもつながります。

4. 林業従事者の安全性:林内作業時の視界・通行性が向上。下刈り・間伐・調査作業の効率も上がります。

5. 山火事抵抗力の向上:地表火が樹冠火に移行する「ラダー燃料」を除去することで、林分の山火事被害リスクを低減。米国西部の森林火災対策では、下枝処理(limbing up)が標準的な防火施業として推奨されています。

樹種別の枝打ち戦略

樹種により枝の特性、節の入り方、目標材価が異なるため、枝打ち戦略も変わります。

樹種 枝打ち重要度 標準打上げ高 主な目標 備考
スギ(Cryptomeria japonica) 高(化粧材なら必須) 6-10 m 無節柱材、磨き丸太 北山杉、吉野杉、秋田杉等の銘木産地
ヒノキ(Chamaecyparis obtusa) 非常に高 6-10 m 高級建築材、社寺用材 節径が小さく自然落枝も期待できる
カラマツ(Larix kaempferi) 4-6 m 梁桁材、合板用 枝の自然枯死・脱落が比較的早い
アカマツ(Pinus densiflora) 低〜中 4-6 m 建築材、薪炭材 樹脂分多く切口処置が重要
トドマツ・エゾマツ 4-8 m パルプ・建築材 北海道、低温下で施業
コウヨウザン(早生樹) 研究段階 未確立 建築材 2030年代に確立予定

スギは最も枝打ち効果が高い樹種です。生枝を切除しても癒合が早く、切口腐朽リスクが比較的低い特性があります。北山杉では極めて緻密な枝打ち(年1-2回、ほぼ毎年)が伝統的に行われ、磨き丸太用の特殊形質を作り上げます。一方ヒノキは天然下枯れが早く、放置でもある程度節が小さくなりますが、無節化には人工枝打ちが必須。カラマツは陽樹で下枝の自然枯死が早く、枝打ち回数を抑えても無節材化しやすい樹種です。

自然落枝(左)と人工枝打ち(右)の節形成比較自然落枝(放置)大きな節が連続的に残存人工枝打ち(適期実施)枝打ち境界上部は無節高品質材
図2:自然落枝と人工枝打ちの節形成比較(出典:森林総合研究所「人工林施業技術ハンドブック」)

技法と道具

枝打ちは、状況により異なる道具・技法を使い分けます。基本は手作業で、安全性と切口の品質が重要です。切口は「枝の付け根に沿って平滑に切る」ことが原則。突起を残すと癒合が遅れて節穴・腐朽の原因になります。逆に幹の組織まで削ると治癒組織(カルス)の形成が遅れます。

道具・技法 適用高さ 特徴 使用場面 標準価格
枝打ち鋸(手鋸) 〜2 m 手軽、コスト低、軽量400-600g 若齢林 3,000-8,000円
枝打ち高枝鋸 2-5 m 立ったまま打上、伸縮ポール式 中齢林 8,000-15,000円
長柄鋸(ポール式) 5-8 m 地上から打上、軽量カーボンも 中齢林 15,000-30,000円
はしご・脚立併用 5-10 m 高所打上、墜落リスク 壮齢林 20,000-50,000円
枝打ち機(電動・エンジン) 〜10 m 省力化、リチウム電池式 大面積施業 5-15万円
クライミング枝打ち 10 m以上 プロ専門技術、ハーネス必須 壮齢林・特殊 装備一式20-50万円
1. 対象木選定将来の柱材・主伐対象を識別(ha当り500-1500本)2. 枯枝除去枯死した下枝から優先(節穴防止)3. 生枝の段階的除去幹に沿って平滑切除(カラー残し)4. 切口処置防腐処置(必要時)、樹脂塗布など5. 次回枝打ち計画成長を見て3-5年後に上方へ(記録保存)
図3:枝打ち作業の標準フロー(出典:林野庁「森林整備事業の手引き」を基に著者作成)

安全対策と高所作業

枝打ちは林業作業の中でも墜落リスクが高い作業です。労働安全衛生規則第518条(作業床)、第519条(手すり)に準拠した装備が必要です。林業労働安全衛生協会の統計(2024年版)によれば、林業の死亡災害のうち約12%は枝打ち・高所作業由来とされ、年間数件の死亡事故が報告されています。

必須安全装備:

  • ヘルメット(JIS T8131規格):落枝・墜落時の頭部保護
  • 安全帯・フルハーネス(高さ2 m以上の作業で着用義務、2022年法令改正で胴ベルト型は原則禁止):5,000-30,000円
  • 滑り止め林業靴(スパイク・スパイクレス兼用):8,000-25,000円
  • 切創防止チャップス:チェーンソー併用時、5,000-15,000円
  • 保護眼鏡・手袋:おがくず・枝飛散対策
  • 笛・無線機:単独作業時の連絡手段

作業上の注意点:

1. はしご使用時:地面の傾斜を確認、3点支持を維持、はしごの上端を必ず木に固定。

2. クライミング枝打ち:ダブルロープ方式が標準(一方が切断されてもバックアップが効く)。資格としてアーボリスト®、ロープ高所作業特別教育修了が望ましい。

3. 気象条件:強風(10 m/s以上)・降雨・凍結時は作業中止。気温5℃以下でロープ・道具が硬化、滑落リスク増。

4. 単独作業の禁止:原則2名以上での作業。緊急時の救助体制を確保。

5. 切断方向の予測:太枝の場合は受け口を作り、追い口で切断。チェーンソー使用時はキックバック対策。

自然落枝 vs 人工枝打ち

枝打ちには「人工的に切除する」方法と、「自然に枯死・落下するのを待つ」方法(自然落枝、self-pruning)があります。経済性・林分管理目標により選択します。

項目 自然落枝 人工枝打ち
労働コスト 0円 30-100万円/ha
無節材化のタイミング 遅く不確実(30-50年) 早く確実(10-20年)
節の大きさ 不揃い、大きいことも 小さく均一
適用樹種 カラマツ、アカマツ スギ、ヒノキ全般
林分密度の影響 密植で促進 あまり影響なし
気候の影響 湿潤地で促進 影響軽微

自然落枝を促進するには、密植が有効です。本数密度を高めることで下枝への光が遮られ、自然落枝が促進されます。スギの場合、植栽密度3,000本/ha以上で自然落枝が顕著に進みますが、その後の間伐コスト増加とのトレードオフがあります。森林総合研究所の長期試験では、密植区(3,500本/ha)で枝径2cm以下の自然落枝が10年早まる傾向が確認されています。

実施時期と回数

枝打ちは「いつ、どの高さまで、何回行うか」が経営判断です。一般的なガイドライン:

1. 第1回:植栽後8-12年:樹高5-7 m頃、地上2-3 mまで打上。最も重要な施業。この時の枝径は太くて2-3 cm程度で、癒合も比較的早い。

2. 第2回:植栽後12-18年:樹高8-12 m頃、地上4-5 mまで打上。柱材1本目(地際〜4 m)を無節化する重要な段階。

3. 第3回:植栽後18-25年:樹高12-16 m頃、地上6-7 mまで打上。柱材2本目を視野に入れる。

4. 第4回(必要時):植栽後25-35年:地上8-10 mまで打上。化粧材・銘木目標の場合に実施。

実施時期は休眠期(11月〜2月)が基本です。樹液の流動が少なく、傷口の腐朽リスクが低いため。また林内作業の効率も良い時期です。一方、スギ花粉症対策の観点から、雄花着花前の秋〜初冬に集中させる動きもあります(スギの場合、12-1月の枝打ちで翌春の雄花量を一定程度減らせるという研究報告もあり)。

打上げ高さの目安は「樹高の1/3〜1/2」。これより低いと材価向上効果が限定的、これより高いと残存枝で光合成能力が低下し成長が落ちます。森林総合研究所の試験では、樹高の60%以上を打ち上げると年間直径成長が20-30%低下するというデータがあり、過剰枝打ちは禁物です。

コストと経済性

枝打ちは労働集約的で、1ヘクタールあたり20-50人日(地方賃金で30-100万円)の投入が必要です。これに対し材価向上効果は1.5-3倍ですが、20-50年後の伐採時に実現するため、現在価値換算では割引が効きます。

経済性判断のポイント:

1. 林分の将来用途:化粧材・銘木需要のある地域・林分なら投資価値あり。建築用材一般なら経済性低下。住宅着工数の長期低下(2010年代の年間80-100万戸→2024年70万戸前後)も需要側のリスク。

2. 労働コスト:林業労働者賃金の上昇傾向、機械化動向。林業労働者の日当は2010年の12,000円程度から2024年には15,000-18,000円へ上昇。

3. 補助金:地方自治体・林野庁の枝打ち補助で実質コストを下げられる場合あり。森林環境譲与税(2019年度から市町村配分、2024年度ベースで約500億円)の活用も拡大。

4. 経営方針:高品質材生産を目指す経営なら必須、量産・バイオマス利用主体なら省略可能。

近年は機械化・選択的施業(特に重要木のみ)等で、コスト効率を高める動きが進んでいます。経営判断の目安として、所有林分のうち立地良好・形質優良な上位20-30%の木を選んで集中施業する「選木枝打ち」が現実的な解として注目されています。

枝打ちコスト50万円/ha・40年後の便益(割引率3%)200150100500価値(万円/ha)投資50万無節並150万PV3%46万銘木300万PV3%92万投資額
図4:枝打ち投資の経済性(並材・銘木別、現在価値換算、割引率3%、出典:林野庁試算を基に著者整理)

国産材の高級材生産:銘木産地の伝統

日本には独自の銘木産地が形成され、各地で特色ある枝打ち技術が伝承されてきました。これらは「文化としての林業」の側面も強く、近年は世界遺産・地理的表示(GI)保護制度の対象としても注目されています。

1. 北山杉(京都府京都市北区):磨き丸太の最高峰

北山杉は室町時代から続く伝統林業で、特殊な「台杉仕立て」と緻密な枝打ちで磨き丸太を生産します。1株の台木から数十本の幹を立て上げ、1本ずつ丁寧に枝打ちと表皮処理を施し、床柱・茶室材として出荷。最高級品は1本100万円超で取引されることもあります。京都市北区中川地域では現在も約100戸の生産者が伝統を継承(2024年京都府林業統計)。年間数十万本の磨き丸太が生産され、京都迎賓館・国際的な茶室建築にも使用されています。

2. 吉野杉(奈良県吉野郡):500年の長伐期施業

吉野杉は密植・多間伐・長伐期(80-200年)の組み合わせが特徴。植栽密度8,000-10,000本/haで開始し、繰り返し間伐しながら、枝打ちで無節材を作り込みます。年輪が緻密で割れにくく、日本酒の樽(樽丸)用材として400年以上の歴史。吉野林業地域は「世界かんがい施設遺産」相当の文化的評価を受けています。長伐期200年生のスギは末口60cm超、銘木で1本500万円超の取引事例も。

3. 屋久杉(鹿児島県屋久島):天然林の伝統的利用

屋久杉は人工造林ではありませんが、過去の択伐・残木の枝打ち管理が独自の樹形を作り出しました。現在は世界自然遺産指定で伐採禁止、残存土埋木・倒木の利用のみ。樹齢1,000-3,000年の老齢木が数百本残存し、年輪密度は通常スギの数倍に達します。

4. 秋田杉(秋田県)・天竜杉(静岡県)・智頭杉(鳥取県)

各地に特色ある銘木産地が点在。地域の気候・地質に適応した枝打ち体系が確立されており、地理的表示(GI)登録や森林認証(FSC・SGEC)の活用で差別化が進んでいます。

国際的な高級材育成事例

枝打ちによる高品質材生産は世界各地で見られ、それぞれ独自の発展を遂げています。

1. 欧州のヴァイオリン用トウヒ林(イタリア・パネヴェッジオ)

ストラディヴァリ等の名器に使われたパネヴェッジオの森(Foresta dei Violini)では、ヴァイオリンの響板用に特別な施業が伝承されています。1987年設立の保護林協定で、共鳴に適した年輪間隔・無節性を満たすトウヒを意図的に育成。1本数百万円で楽器メーカーに供給される高付加価値モデルとして注目されます。

2. 米国西部の高品質マツ材

米国オレゴン・ワシントン州のダグラスファー(ベイマツ)産地では、機械化された枝打ち体系が確立。ヘリコプター式枝打ち機の試験運用や、選択木への集中施業で、KOA(Knot-free Old-growth Alternative)と呼ばれる無節材プレミアムが市場形成されています。

3. ニュージーランド・ラジアータパインの集約施業

NZの主要造林樹種ラジアータパイン(Pinus radiata)は、25-30年伐期の短期集約施業で、3-4回の枝打ちにより輸出用クリアウッド(無節材)を生産。世界市場で年間数百万m³の輸出規模を持つ最先端モデルケースです。

機械化の試みとロボット枝打ち

労働力不足を背景に、枝打ち機械化研究が世界各地で進行しています。

1. 既存の機械式枝打ち機:エンジン式・電動式の高枝鋸(ハスクバーナ社、スチール社、共立社等)が普及。リチウム電池式は重量3-5 kgで作業性向上。価格帯5-15万円。

2. クライミング型ロボット:木の幹を登りながら枝打ちするロボット。スウェーデンSkogforsk研究所、フィンランドVTT、日本の森林総研・大学等で開発中。2025年現在、商用化前夜の段階で、20-30 cm径の幹を毎分1 m程度の速度で登攀し、センサーで枝を検出して切断する試作機が実証段階。1機あたりの導入コストは300-500万円が想定されています。

3. ドローン枝打ち:マルチコプター搭載のチェーンソー・ノコギリで枝を切断。スイスで2018年に実証実験、米国でも2022年に農業用途で実用化試験。林業適用は安定性・安全性で課題が残ります。日本では北海道大学が2024年から実証研究を開始。

4. AI画像認識による選木支援:ドローン撮影画像とAI画像認識で「枝打ち優先木」を自動抽出。施業効率化に貢献。

機械化の経済性は、現状では人件費の高い欧米・北欧で先行。日本では地形の複雑さ(急傾斜地、不整地)が機械化のハードルですが、平坦地・大規模林分から段階的導入が進む見通しです。林野庁「林業の生産性向上に資する機械化推進事業」(2024年度予算約30億円)も後押し材料となっています。

カーボンクレジットと枝打ちの関係

枝打ち単独では林分のCO₂吸収量に大きな影響を与えませんが、適切な枝打ちで木材寿命が長くなる→建築物等への長期固定が可能という間接効果で、ライフサイクル全体のカーボン収支に貢献します。

1. J-クレジット制度:国の認証制度で、適切な森林管理(間伐・植林等)でクレジット発行可能。枝打ちは直接対象ではないが、付帯施業として評価される場合あり。2024年度時点で森林系プロジェクトは約200件登録。

2. 高品質材→建築物固定の長期化:無節高級材は住宅等で50-100年以上使用される。これに対し低品質材は短期間で廃棄・焼却される傾向。Wood-Vision 2050(林野庁2021年公表)では、国産材利用拡大による2050年累積排出削減効果を1億トン超と試算。

3. SBT(Science Based Targets)対応:建設業界のScope3排出量削減で、長寿命国産材への需要が高まる可能性。大手ゼネコンの2030年目標達成のための調達戦略に、無節高品質材も組み込まれつつあります。

後継者問題と人材育成

枝打ちは熟練を要する技術で、後継者育成が課題です。林野庁「林業労働力の現状と課題(2024年版)」によれば:

  • 林業従事者数:2000年の約7万人から2023年には約4.4万人へ約4割減少
  • 従事者の平均年齢:54歳(全産業平均より約10歳高い)
  • 30歳以下の若手割合:約20%(緑の雇用事業で底上げ中)
  • 女性比率:約8%(増加傾向、2010年比で2倍)

育成施策:

1. 緑の雇用事業(2003年〜):林野庁主導の研修制度。新規就業者に3年間の段階的訓練を提供。累計2万人超が研修受講、定着率70%超。

2. 林業大学校:京都府、岐阜県、和歌山県、長野県等が運営。2年制で実践的技術を習得。卒業生の8割以上が林業就業。

3. 地域おこし協力隊との連携:地方自治体が枝打ち技術を含めた林業研修を兼ねた移住支援。年間数十名規模の若手参入実績。

4. シニア技術者の活用:定年退職した熟練者が指導員として復帰する仕組みも各地で運営。

近年の動向と気候変動下の考慮

枝打ちを取り巻く環境は変化しています。

1. 機械化進展:エンジン式・電動式枝打ち機の普及で省力化。GPS連動で施業履歴管理。スマート林業の中核技術として注目。

2. 高品質材需要の維持:銘木・化粧材市場は底堅い。輸出向けの「日本ブランド木材」需要も。中国・韓国・台湾向けスギ柱材輸出は2024年で約40万m³(林野庁統計)。

3. 林業労働力減少:林業従事者の高齢化・減少で、労働集約的な枝打ちは縮小傾向。一方で、選木集中型施業(重要木のみ高度な枝打ち)が現実解として確立しつつあります。

4. 気候変動下の樹形変化:気候変動で樹冠形成が変化、従来の枝打ち基準が見直される可能性。気温上昇で成長期間が延長、節間伸長量が増加するため、従来より早い時期の第1回枝打ちが必要になる可能性が指摘されています(森林総合研究所2023年報)。

5. 新樹種への対応:早生樹(コウヨウザン、センダン、ユリノキ等)への枝打ち技術開発。コウヨウザンは35年で主伐想定で、従来スギ50年の場合より短縮枝打ちサイクルが必要。

6. 病害虫の北上:ナラ枯れ、松くい虫の被害域が北上。下枝処理(風通し改善)による予防効果が再評価されています。

枝打ちは伝統的だが進化し続ける施業技術。日本の高品質材生産の根幹を支える重要な技として、今後も改良・継承が必要です。

出典・参考

FAQ:よくある質問

Q1. 枝打ちは絶対必要ですか?

A. いいえ。経済性・経営目標により省略する選択もあります。バイオマス利用・パルプ用途なら不要、建築用材なら推奨、銘木・化粧材なら必須です。所有林の立地・市場性を見極めて判断するのが基本です。

Q2. 枝打ち時期を逃したら?

A. 節太り(節周辺の不規則成長)が進み、材価向上効果が低下します。完全には間に合いませんが、遅くとも壮齢期(25-35年生)までに打上げる価値はあります。逃した枝径が3 cm超になると、切断後の癒合に5-10年かかり、その期間中の節穴・腐朽リスクが上がります。

Q3. 1人で何ヘクタール打上げられる?

A. 1人日で0.05-0.15 ha(500-1500 m²)が標準。1ヘクタールに20-50人日。経験・地形・林分密度で変動。北山杉のような高密度施業地では、1人日0.02-0.05 haとさらに低い生産性となります。

Q4. 枝打ちの補助金は?

A. 県・市町村の単県補助、森林環境譲与税活用、林野庁の造林補助等、様々な助成制度があります。標準的には事業費の50-70%補助が一般的。地域の林務担当窓口、または森林組合に相談してください。

Q5. 機械化はどこまで進んでいますか?

A. 電動高枝鋸、エンジン式枝打ち機等が普及。スイス製・ドイツ製の高性能機もあります。完全自動化(ロボット枝打ち)はまだ実用段階に至っていませんが、2030年代の実用化が見込まれています。

Q6. 切口に防腐処置は必要ですか?

A. スギ・ヒノキの場合、適期(休眠期)に枝径2cm以下で切断するなら基本不要です。生育期に太い枝を切る場合や、雨季前後の作業では、樹脂塗料・癒合促進剤の塗布で腐朽リスクを下げられます。1ha分の処置剤コストは数千円〜1万円程度。

Q7. 枝打ちで樹木にストレスはかかりませんか?

A. 適切な範囲(樹高の1/3〜1/2、樹冠下層の枝のみ)であれば成長への影響は軽微です。逆に過剰枝打ち(樹高の60%以上)は光合成能力低下で年間直径成長が20-30%減少することが確認されています。樹木健康と材価向上のバランスが重要です。

Q8. 北山杉のような銘木林を一般林分から作れますか?

A. 技術的には可能ですが、北山杉は数百年の系統選抜・施業体系の蓄積で成立しています。短期間で同等品質を得るのは困難で、20-30年単位の長期視点が必要です。地域ブランド活用、または既存銘木産地への参画が現実的です。

Q9. ドローン枝打ちは実用化されますか?

A. 2025年現在は実証段階。技術的には可能ですが、コスト・安全性・適用範囲(風・地形)の課題が残ります。林業特化型ドローンは2030年代前半に部分的実用化、特に道路沿い・整備された林内から普及する見通しです。

Q10. 枝打ちはカーボンニュートラルに貢献しますか?

A. 直接的なCO₂吸収量増加は限定的ですが、無節高品質材は建築物等で50-100年以上長期固定されるため、ライフサイクル全体のカーボン収支に貢献します。J-クレジット制度の付帯施業として評価される事例も増えています。

Q11. 枝打ちのタイミングを判断する指標は?

A. 一般的に「樹高の1/3が達成できる時期」「下枝の枯死が始まる時期」「形質的優劣が判別できる時期」の3条件が揃った時です。具体的には樹高5-7 m(植栽後8-12年)が第1回の目安となります。

Q12. 枝打ち不足の林分を購入しました。今からでも価値は上がりますか?

A. 林齢25年以下なら、選木集中型枝打ちで上質材化が可能です。25年超でも、形質優良な上位30%程度に絞った遅延枝打ちで、一般材→中級材への格上げ効果はあります。費用対効果を試算した上で実施を判断してください。

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