【カシワ】Quercus dentata|柏餅葉と家系不滅の縁起木、海岸防風林の戦略樹種

カシワ | Forest Eight

柏餅を包む大きな葉、武家の家紋、海岸の防風林——カシワ(Quercus dentata)は、文化と海辺の生態系の両方に深く根を張ってきた木です。ブナ科コナラ属の仲間でありながら、葉が極端に大きく、しかも枯れても枝から落ちない。この一風変わった性質が、日本人との長い付き合いの鍵になっています。

気乾比重0.83(0.75〜0.90)カシ類最高比重葉長20-40cm(最大級)ブナ科最大葉樹高15m(10〜20m)中高木葉縁波数7-10対の波状鋸歯識別キー
図1:カシワの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
目次

とにかく葉が大きい

カシワを見分けるのは難しくありません。なにしろ葉が20〜40cm、大きいものは50cmにもなる、日本のブナ科で最大級のサイズだからです。形は先が広がった倒卵形で、縁は鋭いギザギザではなく、ゆったりした波状の鋸歯が7〜10対。葉柄(軸)がわずか2〜5mmと極端に短く、葉がほとんど枝に直接ついているように見えるのも特徴です。

よく似た仲間との見分けも、この葉が決め手になります。クヌギやコナラは葉が細長く鋸歯も鋭い。同じ大葉系のナラガシワでも10〜20cm止まりで、カシワの倍近い大きさには及びません。ドングリは殻斗(帽子)の鱗片が反り返ってクヌギに似ますが、葉を見れば一目瞭然です。

枯れても落ちない葉が「家系不滅」に

カシワ最大の個性は、枯葉が翌春の新芽が出るまで枝に残ること(marcescenceと呼ばれる現象)。特に若木や下枝で目立ちます。この性質が、「新しい芽=子が育つまで、古い葉=親が見守って落ちない」という連想を生み、家系が絶えない縁起木として大切にされてきました。

端午の節句に柏餅をカシワの葉で包むのは、まさにこの子孫繁栄の願いから。江戸時代中期に武家社会を中心に広まり、今では全国の行事食として定着しています。家紋の世界でも「柏紋」は藤紋・桐紋と並ぶ日本三大家紋の一つで、土佐藩主の山内家をはじめ120以上の家系で使われた記録があります。神事の供物を載せる葉としても古くから使われ、『万葉集』にも「柏」「槲」として登場します。

柏餅の葉は今も食品として流通しており、年間の需要は数千万枚規模。千葉・茨城・群馬などが国内産地ですが、6〜7割は中国東北部からの輸入でまかなわれています。

カシ類でいちばん重い材

木材としてのカシワは、コナラ属の中でも飛び抜けて重いのが身上です。気乾比重は0.75〜0.90(代表値0.83)で、ミズナラ(約0.68)やコナラを大きく上回り、最重量級のクヌギに次ぐクラス。海岸の風衝地で育った個体は年輪が詰まって、さらに緻密になります。

この高密度と剛性を活かして、昔から鍬や鋤の柄、木刀、家具の脚部などに使われてきました。剣術の稽古用木刀は本来シロガシが主流ですが、カシが手に入りにくい地域ではカシワが代役を務めたわけです。柾目板には虎斑(とらふ)と呼ばれる美しい縞模様が出て、米国産ホワイトオークに匹敵する意匠性があり、「ジャパニーズ・ホワイトオーク」として家具材に使われることもあります。

カシワと主要針葉樹の力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率 カシワ スギ ヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
図2:カシワとスギ・ヒノキの力学特性比較

潮風に耐える、海岸の守り手

カシワは、塩を含んだ風や乾燥に耐えられる数少ない広葉樹です。葉の表面のクチクラ層が厚く、葉裏の星状毛が塩分の侵入を防ぐ。深い直根で砂地にもしっかり根を張ります。だから北海道から九州まで、海岸の防風林・防潮林の重要な構成種となってきました。北海道の砂丘では、強風で背が低く刈り込まれた「カシワ風衝低木林」が天然記念物に指定された地区もあります。

2011年の東日本大震災は、この木の価値を改めて見直すきっかけになりました。クロマツだけの単一林が津波で大きな被害を受けたことから、林野庁の海岸防災林づくりでは、マツの後背にカシワやタブノキなど多様な広葉樹を混ぜて植える方式が標準に。津波の流速をやわらげる効果が期待され、痩せた砂地でも育つカシワは混交林の主役の一つになりつつあります。

カシワの主用途1柏餅葉2家具・農具3薪炭・原木4武具・木刀5海岸防風林
図3:カシワの主用途

気をつけたい「ナラ枯れ」

近年、コナラ属を悩ませているナラ枯れ(カシノナガキクイムシが媒介する萎凋病)は、カシワにも及びます。感受性はミズナラ>コナラ>カシワ>クヌギの順で、カシワは中程度。直径30cmを超える大径木が夏に急速に枯れやすいので、20〜30年周期で伐って若返らせる伝統的な萌芽更新が、結果的に予防策として有効です。萌芽力が強く、伐った株から勢いよく芽吹くのもカシワの頼もしさです。

よくある質問

Q. なぜ柏餅にカシワの葉を使うの?
新芽が出るまで枯葉が落ちない性質から「家系が絶えない」縁起を担いだのが由来です。江戸時代中期に武家社会から広まりました。なお東北・北海道など柏葉が採れにくい地域では、サルトリイバラ(サンキライ)の葉を使う「いばら餅」が代わりに親しまれてきました。

Q. 庭木にできますか?
可能ですが、樹高15m以上に育つので広い敷地が要ります。直根が強く植え替えに弱いため、最初の場所選びが肝心。縁起木として神社や記念植樹に好まれます。

Q. 寿命はどのくらい?
200〜400年、巨樹では600年を超えるものも。北海道森町の「鳥居のカシワ」(推定樹齢700年)など、天然記念物に指定された古木が各地にあります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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