【ネムノキ】Albizia julibrissin|夜に葉を閉じる就眠運動と漢方薬合歓皮

ネムノキ(Albizia julibrissin)

夕方、あたりが暗くなると葉をそっと閉じる――その姿が「眠る木」、ネムノキ(合歓木/Albizia julibrissin)の名前の由来です。6〜7月には、淡紅色の刷毛(はけ)を逆さにしたような不思議な花が枝先に咲き、夕暮れには甘く香ります。マメ科の落葉高木で、葉が眠る就眠運動、樹皮の漢方薬「合歓皮」、そして荒れ地を緑に変える窒素固定能力――見た目の優しさの裏に、いくつもの顔を持つ木です。

気乾比重0.50(0.45〜0.55)軽軟材樹高6〜10m(傘状に広がる樹冠)落葉高木概日リズム約24h(暗所連続周期)就眠運動窒素固定根粒菌共生で土壌改良やせ地でも定着
図1:ネムノキ/合歓木の主要スペック(含水率15%基準・代表値)
目次

葉が眠る仕組み――植物にも体内時計がある

ネムノキ最大の見どころが、夜に葉を閉じる就眠運動です。葉の付け根には葉枕(ようちん)という膨らんだ部分があり、ここの細胞の水圧(膨圧)が変わることで葉が折りたたまれます。夕方になると細胞からカリウムイオン(K⁺)と塩素イオン(Cl⁻)が抜け、浸透圧が下がって水が出ていき、細胞がしぼんで葉が閉じる。明け方には逆の流れで葉が開きます。

驚くのは、この運動が暗い場所に置き続けても数日間は続くこと。つまり外の明暗に反応しているだけでなく、植物自身が約24時間周期の「体内時計」を持っているのです。この性質から、ネムノキ(近縁のオジギソウを含む)は植物の概日リズム研究の古典的なモデルとして、世界中で長く調べられてきました。夜に葉を閉じる意味については、夜露や冷え込みから葉を守る、夜の無駄な蒸散を抑える、動物に見つかりにくくする、などが考えられていますが、決め手となる単一の理由はまだ定まっていません。

青空を背景にしたネムノキの2回偶数羽状複葉
沖縄県那覇市で撮影されたネムノキの葉。細かい小葉が左右対称に並ぶ2回偶数羽状複葉が最大の目印。写真: JP 日本 Japan 沖繩 OKINAWA 那霸 Naha flora green leaves 合歡樹葉 Albizia julibrissin 二回偶数羽状复叶 February 2026 N13P 01 by NORTLAUKAU 26088 JP(CC0), via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

2000年処方され続ける漢方薬「合歓皮」

ネムノキの樹皮を陰干しして乾かした生薬を「合歓皮(ごうかんひ)」といいます。古代中国の薬物書『神農本草経』に「五臓を安んじ、心志を和し、人を歓楽させ憂いを無からしむ」と記され、2000年以上前から心を落ち着ける薬として使われてきました。主成分はトリテルペン系のサポニン(ジュリブロサイド類)です。

働きは大きく三つ。気持ちを落ち着ける(安神)、血のめぐりを良くする(活血)、腫れをやわらげる(消腫)。不安や不眠、軽い気分の落ち込みに対する漢方処方に組み込まれてきました。現代の薬理研究でも、脳のGABA受容体やセロトニン受容体への作用が動物実験で報告されており、軽い不安・不眠への補助として注目されています。ツムラやクラシエの生薬製剤に配合されているほか、中国・台湾・韓国では今も現役の処方薬です。ただし妊婦には使えず、自己判断での長期・大量服用は避け、医師や薬剤師に相談するのが原則です。

荒れ地を緑にする「先駆者」

ネムノキはマメ科らしく、根に根粒菌をすまわせて空気中の窒素を取り込む「窒素固定」ができます。やせた土地でも育てる力になるため、崩壊地や河川敷、道路の法面(のりめん)、鉱山の跡地などで、まっさきに根を下ろす先駆種(パイオニア)として働きます。自分が土に窒素をためることで、あとから来る他の植物が育ちやすくなる――森が回復していく道筋を切りひらく役回りです。完全な森林化には数十年かかりますが、土壌改良の効果は比較的早い段階から現れ始めるとされます。

傘状に枝を広げたネムノキの木
傘を広げたように横へ枝を伸ばすネムノキの樹形。地際近くから枝分かれすることもある。写真: Albizia julibrissin 399607729 by eml23 / CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

街路樹・シンボルツリーとして

傘を広げたような整った樹形と、夏に咲く独特の花。さらに「葉が眠る」観察の面白さも手伝って、近年は住宅のシンボルツリーや街路樹としての人気が高まっています。落葉樹なので夏は涼しい日陰をつくり、冬は日差しを通すのも利点です。

苗木は1.5m高で5,000〜15,000円ほど。日当たりのよい場所を好み、耐寒性は-15℃程度で、青森県南部・秋田県南部あたりが分布の北限です。植えるなら落葉期の11〜3月がよく、移植にやや手間がかかるので最初の1〜2年は水やりと支柱で支えてあげましょう。注意点は、花や豆果(さや)が落ちて地面を汚すことと、立枯病(フザリウム菌)にかかりやすいこと。同じ系統ばかりまとめて植えるのは避けたほうが無難です。なお木材としては気乾比重0.45〜0.55の軽軟材で加工性は良いものの、大径材が採りにくく流通はごくわずか。細工物や薪炭材として地域的に使われる程度です。

見分け方

  • :2回偶数羽状複葉で20〜30cm。細かい小葉が15〜30対、左右対称にきれいに並ぶのが最大の目印です。
  • 就眠運動:夕方17〜18時ごろから葉が閉じ始め、夜には完全に閉じます。これを見ればまず間違いありません。
  • :6〜7月、淡紅色の刷毛状(長い雄しべが目立つ)。夕方から夜にかけて芳香を放ちます。
  • 樹形:傘のように横へ枝を広げ、地際近くから枝分かれすることも。
  • 果実:9〜10月、平たい豆果(さや)が10〜15cm。

よくある質問

「ミモザ」とはどう違うのですか?

「ミモザ」はネムノキの仲間やアカシア属をまとめて呼ぶ俗称で、混同されがちです。植物学的には別物で、ネムノキは落葉樹・淡紅色の花・6〜7月開花。一方、よくミモザと呼ばれるフサアカシアは常緑・黄色い花・3〜4月開花です。どちらも刷毛状のふわっとした花ですが、開花期と花色ではっきり区別できます。

「ねぶた祭り」と関係がありますか?

諸説ありますが、有力な説の一つに「ネムノキの葉=ねぶたい(眠たい)気持ちを川に流す行事」があります。農繁期の眠気を払う「ねむり流し」の七夕行事で、ネムノキの葉や花を笹に飾って川に流す風習が東北・北陸に残り、これがねぶた祭りの原型の一つとされます。柳田國男の『年中行事覚書』にも「眠流し考」と題した章があり、この風習について詳しく論じられています。

観察のベストシーズンはいつですか?

花を見るなら6〜7月、夕方〜夜の香りも合わせて楽しめます。就眠運動は夏の夕方17〜18時ごろが見頃。子どもと「葉が眠る瞬間」を観察すれば、植物の体内時計を体感できる絶好の自然教材になります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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