受け口・追い口・ツル:安全な伐倒手順の3要素

受け口・追い口・ツル | Forest Eight

立木を狙った方向へ、安全に倒す。その成否を握るのが「受け口・追い口・ツル」という3つの要素です。受け口で倒す方向を決め、追い口で倒し始め、真ん中に残した「ツル」が蝶番のように働いて回転を制御する——この三位一体がチェーンソー伐倒の基本中の基本。世界中の安全規格や教育プログラムが共通して扱う中核技術でもあります。この記事では、それぞれの役割と標準的な寸法、実際の手順、そして北欧式と北米式という2つの流派の違いまで、現場ですぐ使える形で整理します。

標準受け口角度45-70度(北欧式は70-90°)上面+下面の合計受け口深さ20-30%胸高直径比25%が標準ツル厚10%DBHの1/10DBH 30cm→3cm追い口段差2.5-5cm(受け口底+α)step cut高
図1:受け口・追い口・ツルの主要諸元(DBH=胸高直径)
目次

3つの要素は、それぞれ何をしているのか

受け口は、倒したい方向の幹に作るV字の溝です。ツルが折れた瞬間に幹をその側へ落とす「指向性ゲート」の役割。深さは胸高直径(DBH)の20〜30%が世界標準で、浅すぎるとツルが早く閉じて倒れず、深すぎると幹の強度が落ちて縦割れ(バーバーチェア)の危険が増します。

追い口は、受け口の反対側からの水平切り。ポイントは、受け口の底面より2.5〜5cmほど高い位置に「段差(ステップ)」を設けること。これによって、倒れる途中で幹がバーを巻き込んだり、切株から後方に滑り落ちたりする事故を防げます。

ツルは、受け口と追い口の間に切らずに残す部分。木材繊維の引張強度を活かした蝶番で、回転軸として最後まで伐倒方向を保持します。幅の標準はDBHの約10%(直径30cmなら3cm、50cmなら5cm)。米国OSHAも最低10%を求めており、破断のしやすさと制御性のバランスがとれる値とされています。

標準的な伐倒の流れ

手順は大きく7段階。事前準備に始まり、受け口(下切り→上切り)、追い口、くさび、倒れ・退避、後処理と進みます。

1. 事前準備(5分)退避路2方向確保、PPE、KY、樹形・風観察2. 下切り(受け口下面)水平〜下5°、深さDBH×25%3. 上切り(受け口上面)下切りに正確に合流、合計45-70°4. 追い口(back cut)受け口底+2.5-5cm、水平、ツル残し5. くさび挿入・打込プラ/Al、追い口に2本、3-5kg ハンマー6. 倒れ・退避伐倒線から斜め45°後方へ最低5m7. 玉切り・枝払い伸び切り跳上り警戒、樹高1.5倍が安全圏
図2:標準伐倒フロー(労働安全衛生規則477条準拠)

とくに大切なのが最初の事前準備です。退避路は必ず2方向、伐倒予定線の左右斜め45°後方に各5m以上確保します。労働安全衛生規則477条も「伐倒の方向、退避場所、合図」を作業計画として明示するよう求めています。風速10m/sを超える強風や視界不良のときは、伐倒を中止するのが原則です。

受け口は必ず下切り→上切りの順で。下切りを先にすると、上切りで出た木屑がきれいに下切り内へ落ち、合流線が一直線になります。合流が段違いになると「ステップノッチ」となり、倒れる途中でツルが早く折れて方向がずれてしまいます。追い口は受け口の底面より2.5〜5cm高い位置から水平に進入。大径木では、バー先端で幹中央を貫通させてから抜く「ボアカット(プランジカット)」を併用すると、ツルの幅を先に決められて精度が上がります。

北欧式と北米式――2つの流派

受け口の角度には大きく2つの考え方があります。日本では伝統的に北米式の45°が主流ですが、林災防の特別教育では2020年改訂以降、北欧式オープンフェイス(70〜90°)の併記・推奨が進んでいます。

北欧式(Open Face / Game of Logging)vs 北米式(Conventional / 45°)北欧式 Open Face・受け口角度: 70-90°(広開口)・深さ: DBH × 25-30%・追い口段差: 2.5cm(小)・ツル機能: 地面接地まで継続・特徴: 制御性最高、ボアカット併用・採用: スウェーデン、フィンランド、 ノルウェー、米国GOL認定校北米式 Conventional 45°・受け口角度: 45°(伝統値)・深さ: DBH × 20-25%・追い口段差: 5cm(大)・ツル機能: 倒木途中で閉合・破断・特徴: 簡便、プロ伐木師の伝統・採用: USDA Forest Service、 多くの北米林業現場、日本伝統
図3:受け口角度2大流派の比較

両者の本質的な違いは「ツルが効いている時間の長さ」です。45°だと幹が約45°傾いた時点で受け口が閉じてツルが折れ、あとは慣性で倒れます。これに対し70°なら70°傾くまで、90°なら接地直前までツルが効くため、より精密に方向を制御できます。風で20°ほどずれそうな状況でも、ツルが効いている間ならくさびを追加して修正できる。これが北欧式の大きな安全上の利点です。どちらも正しい技法ですが、安全度では北欧式に分があり、初心者は45°から始め、慣れたら70°へ、という習得順がおすすめです。

状況に応じた微調整

標準寸法はあくまで出発点で、現場の条件に応じた調整が欠かせません。樹木の傾きはとくに重要で、前傾が10°を超える「重前傾」はバーバーチェア(幹の縦割れ)の高リスク。ボアカットを先行させ、背側に「strap(つなぎ)」を残してから切り離す方法で対処します。前傾が15°以上なら、無理せず伐倒を中止する判断も大切です。後傾の木はくさびで反転させ、横傾きの木はツルを左右非対称(重心側を厚く)にして補正します。

樹冠の偏りにも注意。枝が一方向に集中していると重心がずれ、ツルで制御できる限界(おおむね20°以内)を超えると失敗します。重心が不安なときは「下げ振り法」で確認しましょう。傾斜地では下方向への伐倒が標準。建物・電線・隣接木が近い場合は、林災防が求めるとおりウィンチや引き綱といった方向伐倒装置を併用し、電線が3m以内なら電力会社へ事前連絡してください。

よくある質問

Q. 受け口の角度は45°と70°、どちらが正解ですか?

どちらも正しい技法です。北米伝統が45°、北欧オープンフェイスが70〜90°。違いはツルが効く時間で、方向修正できる余地は70°のほうが長く、安全度が高い傾向です。初心者は45°、慣れたら70°へ。

Q. 倒れ始めたあと、追いくさびを打ってもいいですか?

いけません。くさびは樹木が動き始める前に打込みを終えるのが原則です。倒れ始めたら即座に退避路へ。動き出した木に手を出すのは非常に危険です。

Q. 掛かり木になってしまったら?

労働安全衛生規則478条で、人力でのねじり・ゆさぶり・押しは全面禁止です。周囲を立入禁止にし、ウィンチやグラップルで処理します。死亡災害の約2割が掛かり木処理中に起きており、日没・悪天候時は翌日対応に回す判断も選択肢です。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次