雲の上の図書館(高知・梼原)|地元スギの角材が林立する隈研吾の到達点

高知県の山あいにある梼原町(ゆすはらちょう)。人口3,300人ほど、森林率91%というこの町の中心部に、2018年、隈研吾設計の図書館が開きました。雲の上の図書館――天井から床に向かって地元スギの角材が樹木のように林立し、来館者はその下をくぐりながら本を探します。年間の来館者は約6万人。町の人口の18倍にあたる人が、この一棟を目当てにやってきます。

目次

まずは基本データ

所在地 高知県高岡郡梼原町
用途 梼原町立図書館(カフェ・ボルダリング設備を併設)
開館 2018年
設計 隈研吾建築都市設計事務所
主要木材 梼原産スギ(FSC認証材を含む)
内部架構 天井から床へ向けて角材を林立させる木組み
年間来館者 約6万人(町人口の約18倍)
備考 Wallpaper誌「世界で最も美しい図書館」に選出
雲の上の図書館の内部。梼原産スギの角材が天井から床へ向かって林立する。
雲の上の図書館の内部。梼原産スギの角材が天井から床へ向かって林立する。
Photo: Asset utilitist(CC0), via Wikimedia Commons

森の中で本を読む、を構造でつくる

この図書館の空間を決めているのは、内部に林立する木の架構です。天井側から床へ向かって梼原産スギの角材が斜めに差し掛けられ、それが幾重にも重なって書架の上を覆っています。歩くと視線の先で木の重なり方が刻々と変わり、木立の中を進んでいるような感覚になる。

ここで効いているのが、材の細さです。太い集成材の梁を数本架けて空間をつくるのではなく、細い角材を大量に使って密度で空間をつくる。一本一本は住宅の柱程度の断面でよく、梼原町森林組合が日常的に出している人工林のスギがそのまま使えます。特別な大径木を探してくる必要がありません。

これは隈研吾が梼原で繰り返してきた手法でもあります。2010年の雲の上のギャラリー(木橋ミュージアム)では、地元の伝統的な木組み「地獄組み」を再構成し、90×180mmの梼原産スギ心持ち材を斜めに積層して橋を跳ね出させました。2006年の梼原町総合庁舎では、断面30×40mmのスギを約14,000本、外周に縦使いで並べて千本格子としています。「細い材を大量に、規則的に使う」という共通の言語が、素材の入手可能性から導かれているのです。

木を出す仕組みが町の中にある

この建て方が成立する前提として、梼原には木を安定して出せる仕組みがあります。

森林率 91%(うち人工林率 約60%)/主要樹種はスギ約65%・ヒノキ約30%
素材生産 梼原町森林組合が年間約3万m³を生産
加工 町内の製材所で原木から製品まで一貫加工が可能
認証 2000年、四国で初のFSC森林認証を取得
再造林率 約95%(全国平均は約30%)

特筆すべきは再造林率です。日本の林業の最大の問題は、伐った後に植え直されない山が多いこと。全国平均で3割程度しか再造林されていない状況で、梼原は95%を維持しています。財源として大きいのが、2000年に導入した町営風力発電2基の売電収入。年間約4,000万円を全額、森林整備基金へ積み立てる仕組みを町が自前で持っています。

公共建築の地域材自給率がほぼ100%というのも、この体制があってのことです。立木の選定から伐採、製材、乾燥、プレカット、施工までが町内で回るため、外材と比べたカーボンフットプリントは約60%低いと試算されています。図書館の木架構は、この一連の仕組みの出口にあたります。

なぜこの町に隈研吾が20年通ったのか

隈研吾と梼原の関係は1987年に始まります。1948年築の木造芝居小屋「ゆすはら座」の取り壊し計画に地元有志が反対し、相談を受けた隈が保存に動いたのがきっかけでした。畳敷きの客席に廻り舞台と花道を備えたこの劇場は、いまも国の登録有形文化財として使われています。

隈自身が「梼原は私の建築家としての原点」と語っており、1994年の雲の上のホテル以降、町内に複数の作品を残してきました。雲の上の図書館はその蓄積の到達点にあたる建物です。同じ町内には、雲の上のギャラリー(2010年)、梼原町総合庁舎(2006年)、外装全面を茅葺きパネルで構成したマルシェ・ユスハラ(2010年)、YURURIゆすはらなどがあり、あわせて訪れることができます。雲の上のホテルは2021年に老朽化で閉館し、2025年にCLT構造の新棟として建て替え再開業しました。

図書館が町に返したもの

年間6万人という来館者数は、町の人口の18倍です。単純な観光客数ではなく「図書館の来館者」としてこの数字が出ている点が重要で、建築を見に来た人がそのまま滞在時間を持つ施設として機能していることを示しています。

館内には子ども向けの読み聞かせコーナーや町民の交流スペースがあり、観光施設としてではなく日常の公共施設として設計されています。地域材でつくった建築が、地域の木材需要をつくり、同時に町の外から人を呼び、なおかつ町民の日常の居場所になる。木造の公共建築が地域に対して果たしうる役割を、比較的小さな町で一通り実現している事例です。

よくある質問

Q. 誰でも入れますか?

町立の図書館なので、開館時間内であれば誰でも入館して木架構を見られます。閲覧や貸出のルールは施設の案内に従ってください。

Q. 梼原の隈研吾建築はほかにもありますか?

雲の上のギャラリー(木橋ミュージアム)、梼原町総合庁舎、マルシェ・ユスハラ、雲の上のホテルなどが町内にあり、徒歩や車で回れる距離に点在しています。

Q. なぜ細い角材を大量に使うのですか?

梼原の人工林から日常的に出てくるのが中小径のスギだからです。太い集成材を必要とする構法ではなく、細材を密に使う構法を選ぶことで、地域の資源をそのまま建築へ通せます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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