東京木材会館(新木場)|都心で見る本格木造ファサード

東京木材会館 | 建築図鑑 - Forest Eight
📌 結論先出し

  • 東京木材会館は新木場(江東区新木場1丁目)に立地する、東京木材問屋協同組合の本部であり、首都圏木材流通の象徴的拠点。
  • 初代会館は1968年(昭和43年)竣工、2009年(平成21年)に約12億円規模の大規模改修を実施し、外装に約1,200立方メートル相当のスギ縦ルーバーを纏う現在の姿となった。
  • 新木場の木材問屋街は1969年(昭和44年)に深川(江東区木場)から移転、現在も組合員企業約100社、年間取引量数十万立方メートル規模を扱う日本最大級の木材集散地。
  • 1階展示室(無料・平日9:00〜17:00公開)では、地域材の樹種別展示、製材技術の紹介、住宅事例の解説等を常設し、年間数千人の建築家・学生・市民が来館する。
  • 建築としては、RC造躯体に70mm×100mmのスギ材を約200mm間隔で配する縦ルーバーが意匠の核。経年で銀白化し、新木場の街並みの「顔」となっている。

東京木材会館(江東区新木場一丁目)は、東京の木材業界の総本山として1968年に竣工しました。新木場という日本最大級の木材問屋集積地の中央に位置し、業界の集会・展示・交流の中心として半世紀以上にわたり機能しています。本記事では、この建築の意匠的特徴、社会的意義、新木場という地域の歴史、そして全国の木材会館との比較まで、川上(林業地)から川下(建築・市民)までの視点を交えて整理します。

目次

1. 建築概要

所在地 東京都江東区新木場1丁目18-8
用途 事務所・会議所・展示場(複合業務施設)
運営主体 東京木材問屋協同組合(中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合)
初代竣工 1968年(昭和43年)
大規模改修 2009年(平成21年)
構造 鉄筋コンクリート造(RC造)+ 外装木質化
規模 地上6階建(一部階数情報は組合資料準拠)
外装木材 スギ縦ルーバー(70mm×100mm材を約200mmピッチで配置)
最寄駅 JR京葉線・東京メトロ有楽町線・東京臨海高速鉄道りんかい線「新木場駅」徒歩5分
1階展示室 無料公開・平日9:00〜17:00(土日祝休、企画展開催時は変更あり)

東京木材会館は、明治以来100年以上の歴史を持つ東京木材問屋協同組合の象徴であり、首都圏3,500万人を支える木材物流の中枢です。1階展示室は誰でも入館でき、業界の垣根を超えて木材文化に触れられる稀有な空間として、建築学生・設計者・市民の見学対象となっています。

2. 新木場の歴史 ─ 深川木場から埋立地へ

2-1. 江戸〜明治の深川木場

東京の木材集散地としての歴史は、江戸時代初期にさかのぼります。1657年(明暦3年)の明暦の大火(振袖火事)を契機に、火災の延焼を防ぐため幕府が江戸市中の材木商を集約する政策を進め、隅田川河口東岸の深川(現江東区木場)に木材問屋が集められました。1701年(元禄14年)には深川猿江(さるえ)から現在の木場(江東区木場)へ移転し、以後約270年にわたり「江戸の木場」として機能します。

深川木場の構造的特徴は運河と水運を基軸とした立地です。仙台堀川・大横川・平久川等の運河網が問屋街を縦横に走り、紀州・木曽・秋田・房総などから海路・河川経由で運び込まれた木材は、運河の中で「貯木」──水中に浮かべて貯蔵される独特の方法──で保管されました。水中貯木は乾燥割れを防ぎ、虫害を抑え、必要に応じて筏(いかだ)で曳航して各製材所へ届けられる、合理的な物流システムでした。

深川には「川並(かわなみ)」と呼ばれる職人集団が存在しました。川並は鳶口(とびぐち)一本で水中の丸太を巧みに操る専門職で、その技は「角乗り(かくのり)」として現在も江東区の無形民俗文化財に指定され、毎年木場公園での実演で受け継がれています。江戸後期から明治・大正期にかけて、深川には材木商・製材所・建具屋・船大工が集積し、関東一円の建築需要を支える一大産業地となりました。

2-2. 関東大震災・東京大空襲と木場

1923年(大正12年)の関東大震災では、深川木場も甚大な被害を受けました。地震による火災は問屋街を直撃し、貯木されていた大量の丸太は流出または焼失。震災復興期には全国から材木が集められ、木場は再び活気を取り戻しますが、当時から既に「都心に大量の木材を抱える危険性」が議論されるようになります。

1945年(昭和20年)3月10日の東京大空襲では、深川一帯が壊滅的被害を受けました。木材が大量に集積する木場周辺は延焼を加速させ、多くの問屋・住民が犠牲となりました。戦後復興期には再び木場が再建されますが、「都心の住宅密集地に大量の木材があることは防災上問題がある」という認識が決定的となり、移転計画が浮上します。

2-3. 1969年・新木場への大移転

東京湾の埋立地計画と連動し、1960年代後半から洲崎海浜の埋立地への木材問屋集団移転が進められました。事業主体は東京都、東京木材問屋協同組合、関係省庁の協議によるもので、深川木場から約4キロメートル東の埋立地に、貯木場・問屋街・関連事業所を一体的に再配置する大規模都市計画でした。

1969年(昭和44年)、新木場への正式移転が完了。新木場の地名は文字通り「新しい木場」を意味し、現在の江東区新木場一丁目から三丁目にかけての約1.2平方キロメートルが、専ら木材産業のために整備された都市計画地区となりました。

2-4. 木場跡地の現在 ─ 木場公園

深川の旧木場跡地の一部は、1992年(平成4年)に開園した都立木場公園として再生されました。総面積約24ヘクタール、東京都現代美術館(MOT)を内包する広大な都市公園で、敷地内には旧木場の歴史を伝える説明板、運河跡を示す水路、そして毎年角乗りの実演が行われる広場があります。木場公園は、消えた木場の記憶を都市に刻む装置として機能しています。

📄 出典・参考

  • 東京木材問屋協同組合 公式サイト
  • 江東区教育委員会『江東区の歴史』(深川木場の項)
  • 東京都港湾局『東京港埋立事業のあゆみ』(新木場造成の経緯)
  • 江東区立深川江戸資料館 常設展示「木場と材木商」

3. 東京木材問屋協同組合 ─ 組織と歴史

3-1. 組合の沿革

東京木材問屋協同組合の前身は、明治期に複数存在した木材商組合にさかのぼります。1947年(昭和22年)の中小企業等協同組合法制定を受けて、1949年(昭和24年)に現在の事業協同組合として正式に組織化されました。組合は共同購買・共同販売・共同事業・教育研修・福利厚生を主たる目的とし、組合員の経営基盤強化と業界全体の発展を担っています。

3-2. 組合員と業界規模

組合員数(推定) 約100社(時期により増減、新木場立地が中心)
取扱品目 製材品・集成材・合板・銘木・建具材・床材・建築用材全般
主要仕入先 北海道・東北・北関東・中部・九州の製材所、海外(北米・欧州・東南アジア・ロシア材等)
主要納入先 首都圏の建築会社・工務店・建材店・家具メーカー・社寺関係
年間取引量(業界全体推定) 数十万立方メートル規模

新木場の問屋街は、首都圏約3,500万人の住宅・建築需要を支える物流ハブです。組合員企業の多くは創業100年を超える老舗で、深川時代から続く家業として代々受け継がれてきました。一方で近年は後継者問題、住宅着工戸数の減少、輸入材比率の変動、ウッドショックの影響等の構造課題に直面しています。

3-3. 業界制度の背景

木材問屋業は、卸売市場法・建築基準法・JAS法・木材利用促進法等、複数の法制度に深く関わっています。とりわけ2010年制定の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(2021年に脱炭素対応で改称・拡充)は、低層公共建築物の木造化を原則化し、問屋業界に新たな商機をもたらしました。さらに2024年4月の建築基準法改正による4号特例縮小により、構造材の品質証明への需要が高まり、JAS材を扱える問屋の重要性が増しています。

📄 出典・参考

4. 1968年初代会館 ─ 戦後モダニズムの業界拠点

初代の東京木材会館は1968年(昭和43年)、新木場移転計画の進行中に竣工しました。当時はまだ深川木場の問屋が大半で、新木場移転は1969年完了予定。すなわち東京木材会館は新木場のランドマークとして移転より一足早く立ち上げられた象徴建築でした。

初代会館はRC造の典型的な戦後オフィスビル様式で、外観は打ち放しコンクリートに大開口の窓を配する機能主義的なデザインでした。内部は組合本部、会議室、展示ホール、宴会場(業界の新年会・東京木材まつり懇親会等で使用)を備え、業界催事の中核として機能しました。設計者については組合資料に基づく確認を要しますが、当時の中央区・港区にあった大手組織設計事務所が手がけたとされています。

1968年といえば、霞が関ビル(同年4月竣工、日本初の超高層ビル、147m)と同年。高度経済成長期最盛期で住宅着工戸数が急伸した時代背景の中、東京木材会館は業界の自信と意気込みを示す建築として登場しました。

5. 2009年大規模改修 ─ 木造化への転換

5-1. 改修の背景

築40年超を経た2000年代後半、初代会館は耐震性能・設備老朽化・意匠の陳腐化という3つの課題に直面していました。2007年(平成19年)の建築基準法改正による耐震基準強化、組合創立60周年(2009年)の節目、そして「木材業界の本部が木造でないのはおかしい」という業界内部の長年の議論が改修の引き金となりました。

5-2. 改修の概要

改修期間 2008年〜2009年(約1年強)
事業費(推定) 約12億円規模(組合事業計画による)
主要工事 耐震補強、外装木質化(スギルーバー新設)、内装全面更新、展示室新設、設備更新
使用木材 スギ材中心、一部地域材活用、合計約1,200立方メートル相当(外装・内装合算推定)
耐震補強 RC造躯体への耐震壁増設、ブレース補強、Is値向上

5-3. 改修コンセプト

改修の基本コンセプトは「外から見える木造、入って体感する木造」です。RC造躯体は構造上保持しつつ、外装にスギルーバーを纏わせることで街路から木材建築としての姿を強調し、内部は床・壁・天井に無垢材を多用することで、来訪者が「木に包まれる空間」を体験できる設計としました。

これは現代における「ハイブリッド木造」の先駆けでもあります。純木造ではなくRC躯体を活かしつつ木質化する手法は、その後の中層木造建築(日本橋・京橋の中層木造、虎ノ門ヒルズ、日本橋三井タワー等)の発想に通じる流れを生み出しました。

6. 建築意匠の詳細

6-1. 外装スギルーバーの仕様

樹種 スギ(主に国産材、産地は組合員企業からの供給による多様な集成)
断面寸法 70mm × 100mm(製材寸法)
配置ピッチ 約200mm間隔(縦方向)
長さ 階高に応じて約3〜4m材を継手で連結
取付方法 RC躯体に金物固定、通気層を確保した二重ファサード
表面処理 無塗装(経年変化を意匠として許容)または防腐・撥水処理

6-2. 経年変化の想定

無塗装スギ材は、紫外線・雨水・温湿度変化により経年で銀白色(シルバーグレイ)へと変色します。これは木材表面のリグニンが紫外線で分解され、雨水で洗い流されることで起こる自然現象で、木造建築の宿命であると同時に意匠的価値ともされる現象です。

  • 1〜2年目:もとの淡黄色から徐々にグレイがかった色合いへ
  • 3〜5年目:日射の強い面から銀白化が進行、雨だれ跡が残る部位が出始める
  • 5〜10年目:全体が均一に近い銀白色へ、新木場の街並みのなかで「育った木」の風合いを獲得
  • 10年以降:劣化部位の部分交換が必要になる箇所が発生、組合管理によりメンテナンス継続

2009年改修から2026年現在で約17年経過しており、スギルーバーは「銀白化が完成した段階」にあります。新木場駅から会館に向かう街路で見上げる外観は、「木の街」の象徴として新木場の景観を決定的に特徴づけています。

6-3. 1階展示室

1階に設けられた東京木材会館展示室は、業界の総合ショールームです。常設展示と企画展示の二本立てで運営されています。

常設展示

  • 地域材の樹種別サンプル:北海道トドマツ・カラマツ、東北スギ(秋田・気仙・宮崎飫肥等)、ヒノキ(木曽・尾鷲・吉野)、九州産材(小国杉・日田杉等)の実物見本と産地解説
  • 製材技術の紹介:丸太から製材品への加工工程、JAS規格、含水率管理、乾燥技術(人工乾燥・天然乾燥)
  • 住宅事例パネル:木造住宅の構造種別(在来軸組、2×4、SE構法、CLT等)の解説と施工例
  • 新木場の歴史展示:深川木場時代の写真、貯木場の様子、川並・角乗りの紹介
  • 木材製品サンプル:床材、羽目板、化粧梁、建具材、銘木の実物

企画展示

  • 年に数回、季節やテーマに合わせた特別展(地域材フェア、新進建築家との木造展、学生コンペ作品展等)
  • 企業展示(組合員企業の新商品発表)
  • 建築写真展、木工芸展、林業地紹介展

6-4. 会議室・宴会場

各階の会議室は、用途と規模により多様に設けられています。床はナラ・カバ等の広葉樹フローリング、天井は化粧梁を見せる「あらわし」仕上げ、壁面はスギ羽目板または漆喰仕上げ。会議室そのものが「木材の総合カタログ」として機能しており、組合員企業が顧客を会館に招き、商品事例として実物を見せる営業ツールでもあります。

大会議室・宴会場は、業界の重要催事に使用されます。新年会、東京木材まつり懇親会、組合総会、業界誌主催の表彰式、業界横断のシンポジウム等、年間数十回のイベントが催されます。

7. 業界での役割 ─ 業界催事の中心地

7-1. 東京木材まつり

毎年秋(10月〜11月)に開催される東京木材まつりは、新木場最大の業界イベントです。組合員企業の合同展示販売、建材商談会、来場者向けの一般公開イベント(木工教室、丸太切り体験、林業の紹介等)が一体となった3日間の祭典で、来場者は数千人〜1万人規模に達します。東京木材会館は会場本部・特別展示・業界VIP歓待の場として機能し、街路全体がイベント会場となります。

7-2. 業界横断催事

催事 主催・関連団体 内容
東京家具まつり 東京家具商工組合連携 家具産地と問屋の連携展示
新春木材市 東京木材問屋協同組合 新年初市・恒例の木場初競り(伝統行事)
業界新年祝賀会 関連諸団体合同 政官財関係者を招く新年挨拶
建築家・設計者交流会 各種設計者団体連携 設計者と問屋・製材所のマッチング

7-3. 建築業界・教育界との連携

  • 業界誌(木材新聞、林政ニュース、現代林業等)の取材拠点
  • 建築学科の現場見学受け入れ(年間数十校の大学・専門学校)
  • 新人研修・技能伝承の場(組合員企業の合同研修)
  • 建築家・設計者の業界交流ハブ(コンペ、講演会、ワークショップ)
  • 東京都・林野庁との政策対話の場

8. 周辺の問屋街 ─ 新木場の街並み

8-1. 街区構成

新木場一丁目から三丁目にかけての地区は、おおむね次のような街区構成です。

  • 新木場一丁目:東京木材会館を中心に、組合員問屋・本部機能・運送会社等が集積
  • 新木場二丁目:製材所・建材加工・倉庫等の生産機能
  • 新木場三丁目:貯木場(運河活用)、大型物流拠点
  • 運河沿い:荒川河口部に通じる水路網、現在も一部で水運活用

街並みは整然とした産業集積地で、住宅は基本的に存在しません。問屋・倉庫・製材所が並ぶ業務地区で、トラックの行き交う風景が日常です。一方で、新木場駅周辺は近年、物流施設の高度化(多階建て倉庫)、IT企業のデータセンター、東京湾岸の埋立地再開発と連動する変化も見られ、純粋な木材産業地から複合産業地への緩やかな変遷が進んでいます。

8-2. 後継者問題と業界構造変化

全国の木材問屋業界と同様、新木場でも後継者問題、組合員数の減少、住宅着工戸数の長期低落(年間80万戸前後で推移)、輸入材比率の変動、ウッドショック(2021〜2022年の世界的木材価格高騰)の影響等の構造課題に直面しています。組合員企業のうち、創業100年超の老舗でも事業承継の問題を抱える例は珍しくなく、組合の事業統合・共同化・新規事業展開(CLT、地域材ブランド化、輸出等)の取り組みが続いています。

8-3. 観光・散策の視点

新木場は産業地区であり観光地ではありませんが、建築・林業・都市計画に関心のある人にとっては「都市と木材産業の現在を見る場」として価値があります。推奨散策ルートは以下のとおりです。

  • 新木場駅 → 東京木材会館(徒歩5分):街路から外装ルーバーを観察、1階展示室見学
  • 東京木材会館 → 新木場二丁目の問屋街(徒歩10分):実際の問屋・製材所の街並みを観察
  • 新木場 → 夢の島公園(徒歩15分):1964年東京オリンピック関連の植樹林、ユーカリの大木
  • 夢の島 → 若洲海浜公園(バス・自転車):東京湾の海風と海浜環境を体験
  • 新木場 → 木場公園(電車1駅・徒歩15分):旧木場跡地、東京都現代美術館(MOT)見学、深川江戸資料館へ足を延ばす

とりわけ「新木場 → 木場公園 → 深川江戸資料館」を一日で巡るルートは、東京の木材文化の時間軸を体感できる稀有な学習動線として推奨できます。

9. 全国の木材会館との比較

施設名 所在地 運営 特徴
東京木材会館 東京都江東区新木場 東京木材問屋協同組合 1968年竣工・2009年改修、RC造+スギルーバー外装、首都圏木材流通の中心
名古屋木材会館 愛知県名古屋市 愛知県木材組合連合会 2018年新築、地域材活用の純木造を志向、中部圏木材流通の拠点
大阪木材会館 大阪府大阪市 大阪木材青年経営者協議会等 関西圏の業界拠点、伝統的な堂島・木津川流通の継承
福岡木材会館 福岡県福岡市 福岡県木材組合連合会等 九州圏木材流通拠点、小国杉・日田杉等の九州産材主軸
札幌木材会館 北海道札幌市 北海道木材産業協同組合連合会 北海道産トドマツ・カラマツ流通、寒冷地の木造建築技術紹介
岐阜県木材会館 岐阜県 岐阜県木材協同組合連合会 飛騨材活用、東濃ヒノキ等の中部山岳産材
愛媛県森林組合連合会会館 愛媛県松山市 愛媛県森林組合連合会 地域CLT活用、愛媛産材の流通拠点

各地の木材会館を比較すると、東京は「流通拠点としての役割が圧倒的」であることが分かります。地方の木材会館が「産地ブランドの発信拠点」を兼ねるのに対し、東京は産地ではなく消費地・流通拠点としての性格が強く、全国の木材を集めて首都圏に供給するハブ機能が中心です。

建築意匠の点では、近年新築された名古屋木材会館(2018年)が純木造を志向するのに対し、東京木材会館はRC躯体+木質外装のハイブリッドを選択。この違いは、防火地域・高密度都心という東京の建築規制環境と、既存改修という制約条件に由来します。

10. 東京の木材物流ネットワーク

10-1. 物流の構造

東京の木材物流は、川上の山林から川下の建築現場まで、複数のレイヤーで構成されます。

  1. 川上:林業地(北海道・東北・北関東・中部・九州等)
  2. 製材:地方の製材所(産地直送または地方問屋経由)
  3. 大手商社・直送ルート(住友林業・三井物産・伊藤忠建材・ナイス等)
  4. 東京の問屋(新木場・墨田・足立等):在庫保有・小口配送
  5. 建材店・工務店・建築会社(首都圏全域)
  6. 建築現場・住宅・公共建築(最終消費)

新木場は、このネットワークの中で「最後の集積点」として機能します。地方の製材所から首都圏の中小工務店までを直接つなぐと、小ロット・短納期・多品種への対応が困難ですが、新木場の問屋が在庫を持ち、必要な分だけ即配することで首都圏の建築需要を支えています。

10-2. 関東圏のサブハブ

地区 主な役割
新木場(江東区) 首都圏最大の木材問屋集積地、東京木材会館本部
墨田・足立(下町) 建具材・銘木・小売向け中小問屋
多摩エリア 多摩産材(スギ・ヒノキ)の加工・流通
千葉北西部 合板・大型部材の物流拠点
埼玉南東部 建材・住宅メーカー向け加工拠点
神奈川(横浜港) 輸入材の港湾物流、製材所集積

新木場は関東圏のメインハブですが、近年は分散化も進行しており、湾岸エリア(東京港・横浜港)の輸入材物流、内陸の加工拠点との連携が重要性を増しています。

11. FAQ ─ よくある質問

Q1. 東京木材会館は誰でも見学できますか?

1階の展示室は無料で一般公開されています。平日9:00〜17:00(土日祝休、企画展開催時は変更あり)。建築見学のため上層階の会議室等を見たい場合は、事前に組合への問合せが必要です。

Q2. 新木場駅からのアクセスは?

JR京葉線・東京メトロ有楽町線・りんかい線「新木場駅」より徒歩約5分。駅から街路を東へ進むと、スギルーバーの外観がすぐに視認できます。

Q3. 設計者は誰ですか?

初代会館(1968年)の設計者については、東京木材問屋協同組合の所蔵資料に基づく公式情報をご確認ください。2009年改修については、組合の改修事業として実施され、建築設計事務所が担当しました。具体的な設計事務所名は組合公式資料を参照願います。

Q4. 改修の予算規模は?

2009年改修は約12億円規模とされていますが、これは組合事業計画に基づく推定値です。耐震補強・外装木質化・内装更新・展示室新設・設備更新を含む複合改修であり、内訳の詳細は組合資料をご確認ください。

Q5. 外装のスギルーバーはなぜ無塗装なのですか?

無塗装は、スギ材の経年変化(銀白化)を意匠として許容する設計判断です。塗装すれば短期的な美観維持はできますが、塗装の劣化・剥離・再塗装コストが発生します。無塗装で銀白化を許容することは、メンテナンス頻度を抑え、かつ木材の自然な姿を見せる選択肢であり、近年の木造建築で広く採用されています。

Q6. 雨や紫外線で木材は劣化しないのですか?

表層は確かに変化しますが、断面寸法に対する劣化深さは限定的で、通気層を確保した二重ファサード構造により内部躯体への雨水侵入は防がれています。劣化が顕著な部位は組合管理により部分交換されています。スギ材の耐久性は、適切な構造ディテールで確保可能です。

Q7. 新木場は深川とどう違うのですか?

深川(江東区木場)は江戸〜明治期から1969年までの旧木場、新木場(江東区新木場)は1969年以降の現木場です。両者は約4キロメートル離れており、深川の旧木場跡地は現在、都立木場公園として整備されています。深川は住宅密集地、新木場は産業集積地という違いもあります。

Q8. 角乗りは現在も見られますか?

角乗りは江東区の無形民俗文化財として、毎年木場公園で実演会が開催されています。新木場の貯木場では業務として実施される機会は減りましたが、保存会による技能継承が続いています。

Q9. 全国の木材会館の中で東京の特徴は?

東京木材会館は流通拠点としての性格が圧倒的に強い点が特徴です。地方の木材会館が産地ブランドの発信を兼ねるのに対し、東京は全国の木材を集めて首都圏に配給するハブ機能が中心。建築意匠もRC躯体+木質外装のハイブリッドという、都心ならではの選択をしています。

Q10. 東京木材まつりはいつ開催されますか?

毎年秋(10月〜11月頃)に開催されますが、開催日程・内容は年により異なります。最新情報は東京木材問屋協同組合の公式サイト・告知をご確認ください。

Q11. 1階展示室の常設展示で見るべきものは?

地域材の樹種別サンプル(北海道トドマツから九州杉まで全国の代表樹種)が圧巻です。実物の手触り・香りを比較できる機会は珍しく、建築学生・設計者は必見。住宅事例パネルでは構造種別の解説が充実しており、木造の基本を押さえる学習教材としても価値があります。

Q12. 改修以降のメンテナンスはどうなっていますか?

外装ルーバーの定期点検・部分交換、内装無垢材のメンテナンス、設備更新等が組合管理により継続実施されています。木造建築のメンテナンスは「建てて終わり」ではなく「育てる」運用が前提であり、東京木材会館はその好例です。

Q13. 新木場の問屋街は将来どうなりますか?

後継者問題・住宅着工減・輸入材比率変動等の課題はある一方、公共建築物の木造化推進・脱炭素政策・地域材活用の追い風もあります。新木場の街並みも、純粋な木材産業地から物流複合地へと緩やかに変化していくと予想されます。

12. まとめ ─ 都心で見る木造ファサードの意義

東京木材会館は、首都圏3,500万人の木材需要を支える業界本部であると同時に、新木場という戦後都市計画の産物としての街区の象徴であり、深川から続く東京の木材文化を継承する建築です。1968年初代竣工・2009年大規模改修というニ世代の歴史を経て、現在のスギ縦ルーバー外装は新木場の街並みの「顔」となっています。

建築としては、RC躯体+木質外装というハイブリッド木造の先駆けであり、純木造ではなく既存改修・都心立地・防火地域という制約のなかで木材建築の表現を獲得した好例です。その後の中層木造建築(日本橋・京橋の中層木造、虎ノ門ヒルズ等)の発想に通じる流れを、いち早く体現していました。

市民にとっては、1階展示室で全国の樹種を比較できる稀有な学習空間であり、新木場という都市型産業集積地を歩く起点でもあります。次の50年に向けて、木造化推進・脱炭素・地域材活用・後継者育成という新たな課題のなかで、この建築がどのような意味を持ち続けるか、注目すべき現代的試金石です。

📄 出典・参考

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