東京木材会館(新木場)|都心で見る本格木造ファサード

東京木材会館 | Forest Eight

新木場駅から街路を東へ歩くと、スギの縦ルーバーをまとった建物が目に飛び込んできます。東京木材会館――東京木材問屋協同組合の本部であり、首都圏の木材流通を支えてきた業界の総本山です。木材を扱う業界の本部が木でできているのは当たり前のようでいて、実はこの「木の顔」を獲得したのは2009年の大改修から。それ以前は、ごく普通のコンクリートのオフィスビルでした。

目次

まずは基本データ

所在地 東京都江東区新木場1丁目
用途 事務所・会議所・展示場(組合本部)
運営 東京木材問屋協同組合
初代竣工 / 大規模改修 1968年 / 2009年
構造 RC造+外装木質化
外装 スギ縦ルーバー(70×100mm材を約200mmピッチ)
1階展示室 無料公開・平日9:00〜17:00(土日祝休)
最寄駅 新木場駅(JR京葉線・メトロ有楽町線・りんかい線)徒歩5分

深川から新木場へ――木場が移った理由

そもそも東京の木材集散地は、長く深川(現・江東区木場)にありました。きっかけは1657年の明暦の大火。延焼を防ぐため幕府が材木商を深川に集約し、以後約270年にわたって「江戸の木場」が機能します。運河に丸太を浮かべて貯える「貯木」、鳶口一本で水上の丸太を操る職人「川並」、その技を伝える「角乗り」――いずれも深川木場ならではの文化でした。角乗りはいまも江東区の無形民俗文化財として、木場公園で実演が続いています。

転機は災害でした。1923年の関東大震災、そして1945年の東京大空襲。大量の木材を抱える木場は延焼を加速させ、「都心の住宅密集地に大量の木材があるのは防災上危険だ」という認識が決定的になります。東京湾の埋立計画と連動して移転が進み、1969年、深川から約4km東の埋立地への移転が完了。「新しい木場」だから新木場です。旧木場跡地の一部は、いまは都立木場公園として東京都現代美術館を抱える緑地に生まれ変わっています。

1968年のオフィスビルが、木造ファサードに変わるまで

初代の東京木材会館は1968年、新木場移転の進行中に竣工しました。霞が関ビルと同じ年で、高度経済成長まっただ中。当時はまだ深川の問屋が大半でしたから、会館は新木場のランドマークとして一足先に立ち上げられた象徴建築でした。外観は打ち放しコンクリートに大開口を配する、典型的な戦後オフィスビルです。

築40年を超えた2000年代後半、耐震・設備・意匠の老朽化に加えて、「木材業界の本部が木造でないのはおかしい」という業界内の長年の議論が改修の引き金になりました。組合創立60周年の2009年、約12億円規模の大改修を実施。RC躯体は耐震補強したうえで活かしつつ、外装にスギルーバーをまとわせ、内部の床・壁・天井に無垢材を多用しました。コンセプトは「外から見える木造、入って体感する木造」。純木造ではなくRC躯体を木質化するこの手法は、後の日本橋・京橋の中層木造へと続く流れを、いち早く体現したものでもあります。

銀白化していくスギルーバー

外装のルーバーは、70×100mmのスギ材を約200mm間隔で縦に並べたもの。RC躯体に金物で固定し、通気層を確保した二重ファサードになっています。表面はあえて無塗装で、紫外線と雨で表層のリグニンが分解・洗浄され、年を追うごとに淡黄色から銀白色(シルバーグレイ)へと変わっていきます。塗装すれば短期の美観は保てますが、剥離や再塗装のコストがかかる。無塗装で経年変化を「意匠」として受け入れるこの選択は、近年の木造建築で広く採られている考え方です。

2009年の改修から十数年が経ち、ルーバーはすでに銀白化が完成した段階。新木場の街路で見上げるこの外観こそ、「木の街」を象徴する景色になっています。木造建築は「建てて終わり」ではなく、劣化した部位を部分交換しながら「育てる」もの。会館はその好例でもあります。

誰でも入れる1階展示室

1階の展示室は無料で一般公開されていて、業界の総合ショールームになっています。常設展示の目玉は、北海道のトドマツ・カラマツから、秋田・気仙のスギ、木曽・尾鷲・吉野のヒノキ、九州の小国杉・日田杉まで、全国の代表樹種を樹種別に並べた実物見本。手触りや香りを比較できる機会はなかなかなく、建築学生や設計者にとっては必見です。製材から乾燥、JAS規格の解説、木造住宅の構造種別(在来軸組・2×4・SE構法・CLT)のパネル、そして深川木場時代の写真や川並・角乗りの紹介まで、木材文化を一通り学べる構成になっています。

会館は展示だけの場所ではありません。各階の会議室は床にナラ・カバの広葉樹フローリング、天井は化粧梁を見せる「あらわし」、壁はスギ羽目板と、それ自体が「木材の総合カタログ」。組合員企業が顧客を招いて実物を見せる営業ツールにもなっています。毎年秋の「東京木材まつり」では、合同展示販売や木工教室で数千人規模の来場者が街路に集まり、会館がその本部として機能します。

消費地・東京ならではの役割

地方の木材会館の多くが「産地ブランドの発信拠点」を兼ねるのに対し、東京木材会館は性格が少し違います。東京は産地ではなく消費地・流通拠点。全国の木材を集めて首都圏に供給するハブこそが、その本質です。地方の製材所と中小工務店を直接つなぐと、小ロット・短納期・多品種への対応は難しい。新木場の問屋が在庫を持ち、必要な分だけ即配することで、首都圏の建築需要が支えられています。

近年は後継者問題、住宅着工戸数の長期低落、輸入材比率の変動、ウッドショックといった構造課題に直面する一方、公共建築物の木造化推進や脱炭素政策、地域材活用といった追い風もあります。2010年の公共建築物木材利用促進法、2024年の建築基準法改正による4号特例縮小で、JAS材を扱える問屋の重要性はむしろ高まっています。新木場の街並みも、純粋な木材産業地から物流複合地へと、ゆるやかに姿を変えつつあります。

出典・参考

よくある質問

Q. 誰でも見学できますか?

1階の展示室は無料で一般公開されています(平日9:00〜17:00、土日祝休、企画展時は変更あり)。上層階の会議室を見たい場合は事前に組合への問い合わせが必要です。

Q. 新木場は深川とどう違うのですか?

深川(江東区木場)は江戸〜1969年までの旧木場、新木場は1969年以降の現木場で、約4km離れています。深川の旧木場跡地は現在、都立木場公園として整備されています。

Q. 外装のスギはなぜ無塗装なのですか?

銀白化という経年変化を意匠として受け入れる設計判断です。通気層を確保した二重ファサード構造で内部躯体への雨水侵入を防ぎ、劣化が目立つ部位は部分交換して維持しています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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