大林組 Port Plus|純木造11階・44mの国内最高高さ木造ビル

大林組 Port Plus | Forest Eight

横浜・桜木町の駅前に、ちょっと立ち止まって見上げたくなるビルがあります。大林組が2022年3月に竣工させた研修施設「Port Plus」――地上11階・高さ44mで、柱も梁も床も耐震壁も、すべて木でできた純木造ビルです。基礎を除く地上構造は木材100%。竣工時点で日本最高高さの純木造建築でした。「木は燃えるから高い建物には使えない」という常識を、独自の耐火技術で正面から覆したパイロットプロジェクトです。

目次

純木造11階という挑戦

項目
所在地 横浜市中区桜木町
用途 研修施設(大林組次世代型研修施設)
規模・高さ 地上11階・44m / 延床約3,500m²
構造 純木造耐火建築物(2時間耐火)
主要構造材 カラマツ・スギ・ベイマツ集成材、CLT、耐火集成材オメガウッド
木材使用量 1,990m³(炭素貯蔵 約1,650 t-CO₂)
工期 2020年6月着工 / 2022年3月竣工(22ヶ月)
設計・施工 大林組

Port Plusは突然現れたわけではありません。大林組は2018年、2041年完成を目指す超高層木造ビル構想「W350計画」(地上70階・高さ350m・木比率9割)を発表しています。Port Plusはその壮大なビジョンへ向けた、最初のリアルな足がかり。「11階でできたなら、次は20階、30階へ」という段階的な技術検証の出発点なのです。2024年には日本建築学会賞(業績賞)も受賞しました。

柱は太く、上に行くほど細く

構造の中身を見ると、木という素材の使い分けがよく分かります。柱はカラマツの集成材、梁はベイマツの集成材。柱断面は重さがかかる低層部で最大500mm角もあり、上層へ向かって450mm、400mmと段階的に細くなっていきます。梁の最大スパンは9.0mで、執務スペースに柱のない開放的な空間をつくっています。

柱断面 主要梁断面
1〜3階 500×500mm 300×600mm
4〜7階 450×450mm 270×540mm
8〜11階 400×400mm 240×480mm

床はCLT 150mmに軽量コンクリート50mmを重ねた複合床。CLT単独より遮音性が大きく上がり、長スパンでも揺れにくくなります。地震に抵抗する耐震壁にはCLT(210mm・5層)を使い、柱・梁・床とは鋼板を差し込んでピンで留める「鋼板挿入式ドリフトピン接合」で一体化。木自体の延性は限られるぶん、地震のエネルギーは接合部の金物が変形して吸収するという設計思想です。

木造で2時間耐火を成立させた「燃え止まり層」

建築基準法では、高い建物の主要構造部に2時間耐火が義務づけられます。木は当然燃える――この最大の壁を越えたのが、大林組が独自開発した耐火集成材「オメガウッド(耐火)」です。仕組みは、いわば3層のバウムクーヘン。

材料 役割
外層(化粧) カラマツのラミナ 30mm 意匠性・燃え代
燃え止まり層 モルタル+難燃薬剤含浸木材 50mm 炭化の進行を遮断・自己消火
構造芯材 カラマツ集成材 240mm以上 常時・地震荷重を負担

火災が起きると外層の木は表面から燃えていきますが、燃え止まり層に達すると、モルタルと薬剤の吸熱反応で炭化がぴたりと止まります。芯材の表面温度は2時間後でも100℃以下に保たれ、構造として健全な断面が残る。さらに加熱が止まれば再着火しない自己消火性も、国土交通大臣認定の要件として確認されています。この「外は燃やしても芯は守る」という発想が、純木造の高層化を可能にしました。

木材の8割近くが国産材

使われた木材は合計1,990m³。樹種ごとに役割と産地が割り振られています。

樹種 使用量 主用途 主な産地
カラマツ 約1,150m³(58%) 柱・耐火集成材 長野・北海道・岩手
ベイマツ 約450m³(23%) 主要梁 北米西海岸(一部)
スギ 約290m³(15%) CLT床版・壁 九州・東北
その他 約100m³(5%) 内装・造作 国内各地

国産材比率は重量ベースで約77%。カラマツは強度等級E120、ベイマツは大断面長尺梁にE150を使い、10社以上の製材所が協力して、含水率15%以下まで乾燥させてから集成材工場へ運ばれました。この建物が1,650 t-CO₂もの炭素を貯め込んでいるのは、これだけの量の木が使われているからです。建設時のCO₂排出は、同規模のRC造に比べて60〜70%も少なくなっています。

型枠もコンクリート養生もいらない

純木造のもう一つの強みは、施工の速さです。集成材の柱・梁は工場でCNC加工機により精密加工(誤差±1mm以下)され、金物の穴や配管スリーブまで一体で仕上げてから現場に届きます。現場の主作業は金物の締結。タワークレーン1基で1日に柱8本・梁12本ほどを組み上げるペースで進みました。

結果、1階の柱建方から最上階の屋根までの躯体工期は約9ヶ月。同規模RC造(12〜14ヶ月)より3〜4割短い。型枠を組み、鉄筋を配り、コンクリートを打って養生する――その一連の工程がまるごと不要だからです。プレファブ化された木造の生産性の高さが、ここではっきり示されました。

海外の木造高層と何が違うのか

世界では木造高層が急速に進んでいます。代表事例と並べてみましょう。

建物 階数/高さ 構造 完成
Mjøstårnet ノルウェー 18階 85.4m 集成材+CLT 2019
HoHo Wien オーストリア 24階 84m 木造+RCコア(木75%) 2019
Ascent MKE 米国 25階 86.6m 集成材+RCハイブリッド 2022
Port Plus 日本 11階 44m 純木造(木100%) 2022

絶対的な高さでは海外に及びません。けれど決定的に違うのは木比率です。MjøstårnetもHoHo WienもRCコアやRC基礎を併用するハイブリッドなのに対し、Port Plusは基礎を除く地上構造を100%木でつくっています。日本の建築基準法・耐火基準が世界でも最も厳しい部類であることを考えれば、その制約下で純木造11階に到達したのは、まぎれもない技術的快挙です。

残る課題と、見えてきた道筋

もちろん、純木造高層がすぐ当たり前になるわけではありません。建設コストは同規模RC造の約1.3倍。大断面集成材を組める技能者はまだ全国に限られ、大断面ラミナ用の原木調達もボトルネックです。純木造高層の火災保険料率も、いまはRC造より高い。これらは量産効果や実績データの蓄積で、徐々に解消が見込まれています。

そうした課題を抱えつつも、Port Plusの波及効果は小さくありません。国産カラマツの需要が増えて産地の森林整備が動き、2025年の建築基準法改正に向けた実証データを提供し、竣工後には全国で純木造中高層プロジェクトが相次いで動き出しました。W350計画の最初のマイルストーンとして、そして他社の木造高層を牽引する旗艦事例として、Port Plusは日本の建築が「木で高く建てる」時代へ踏み出した記念碑なのです。

よくある質問

Q. Port Plusは見学できますか?

大林組の関係者・取引先向けの研修施設のため一般公開はしていませんが、建築学会や業界団体による見学会が年20回程度開催されています。

Q. なぜ大林組が純木造に取り組んだのですか?

2050年カーボンニュートラルには建設業のCO₂削減が欠かせません。セメントや鉄筋の脱炭素には時間がかかるため、木造化が最も実現性の高い解と位置づけられています。木は製造時CO₂が少ないうえ、建物自体が炭素を貯め込む「炭素の貯蔵庫」にもなります。

Q. オメガウッド(耐火)は他社でも使えますか?

大林組の社内仕様材で、現状は同社施工物件に限定されています。各社が独自の耐火集成材(竹中の燃エンウッド、大成のT-WOOD FRなど)を持ち、技術競争が進んでいます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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