有明アリーナ(東京)|大規模木材使用と五輪レガシーの設計

有明アリーナ | Forest Eight

東京・有明のベイエリアに建つ有明アリーナは、東京2020オリンピックでバレーボールと車椅子バスケットボールの舞台になった、15,000人収容の多目的アリーナです。中に入って思わず見上げてしまうのが、天井いっぱいに放射状に広がるカラマツのルーバー。コンクリートと鉄骨でできた巨大な箱の内側に、温かい木の表情が宿っています。五輪が終わったいまも年間120万人が訪れる、数少ない「成功したレガシー施設」のひとつです。

目次

まずは基本データ

所在地 東京都江東区有明1丁目
用途 多目的アリーナ(オリンピック→恒久利用)
設計 梓設計・久米設計・山下設計JV
施工 竹中工務店・東急建設・大日本土木・大林組JV
収容人数 メイン約15,000人 / サブ約3,000人
大屋根スパン 約150m(無柱大空間)
工期 2017年4月着工 / 2019年12月竣工
総工費 約370億円
木材使用量 約800m³(カラマツ集成材/炭素貯蔵 約660 t-CO₂)

天井を彩るカラマツのルーバー

このアリーナ最大の見どころは、メインアリーナの天井に放射状に並んだ大規模なカラマツ集成材ルーバーです。約150mのスパンを持つ鉄骨大屋根トラスの内側に、中央から扇のように広がる木のルーバーが連続し、約2,400本・総量約800m³に及びます。間隔は会場中央付近で密に、外周へ向かって徐々に広がる設計で、観客席最上段からの視線を遮らないよう配慮されています。

なぜカラマツなのか。理由は明快です。強度と寸法安定性が高く、大径材を国産で安定供給でき、なにより赤褐色の心材が照明と組み合わさったとき「日本らしい温かみ」を生む。スギは強度がやや劣り、ヒノキは大径材の安定供給が難しいため、この規模のルーバーにはカラマツが最適でした。ルーバーの裏側にはグラスウールの吸音材が組み込まれ、スポーツの歓声とコンサートの響き、両方に対応する可変音響の一部も担っています。

信州・北海道・岩手から集めた国産カラマツ

使われたカラマツは、国内3大産地から計画的に調達されました。地域材活用率は約95%。最も多いのが長野県(佐久・伊那・木曽など)で約45%、標高が高く目の詰まった強度の安定した材です。次いで北海道(道東・上川)が約35%で、大径材を確保しやすく寒冷地育ちで強度が高い。岩手県(遠野・盛岡)が約15%で、割れが少なく加工性に優れます。残りを群馬・山梨・福島などが補いました。

原木の入札購入から、製材・人工乾燥、集成材工場でのラミナ製造・積層、部材加工、現場搬入まで、各段階のトレーサビリティが確保されています。含水率15%以下まで人工乾燥して寸法安定性を高め、意匠材として目に触れる位置のルーバーには特に等級の高いラミナを選別。こうした調達は、3地域の林業地に原木・製材・集成材の販売収入として推定6.8億円規模の直接効果をもたらしました。「都市の大型建築が地方の山を育てる」モデルの代表事例として、林野庁も注目しています。

150mを飛ばす大屋根と防火の工夫

メインアリーナは最大スパン約150mの無柱大空間です。鉄骨トラス屋根にPC鋼線(ケーブル)を組み合わせたハイブリッド張弦構造を採用し、鉄骨単体なら約4,500トン必要だった屋根重量を約3,200トンまで軽量化しました。地震に対しては鋼材ダンパーとオイルダンパーを併用し、長周期地震動にも備えています。木質ルーバーは構造体ではなく意匠部材の扱いですが、脱落防止のため独立した支持金物で多重に支えられています。

木をふんだんに見せる空間だからこそ、防火は念入りです。すべてのルーバーはホウ素系の不燃処理を施した防火認定品。スプリンクラーを全館に設け、大空間用の放水銃や毎時10万m³の排煙能力を備えることで、15,000人が約8分で避難を完了できる設計(避難検証法)になっています。音響面では、開閉式の吸音バッフルと格納式吸音カーテンで、スポーツ時は残響1.6秒・コンサート時は2.0秒と、用途に応じて響きを作り分けられます。

アクセシビリティと環境性能

パラリンピックの車椅子バスケットボール会場だった経緯から、バリアフリーは国内最高水準です。車椅子席は固定80席・拡張時150席、磁気誘導補聴のヒアリングループを全館に完備し、点字案内・音声案内・盲導犬対応も整っています。アジアパラリンピック委員会から「アジア最高水準のアクセシブルアリーナ」と評価されているほどです。

環境性能も高く、CASBEE Aランク、WELL認証Silver、地区認証のLEED ND Goldを取得。屋上の太陽光発電(500kW)に加え、夜間電力で氷を作り昼間の冷房に使う氷蓄熱ヒートポンプでピーク電力を約25%削減し、屋根で集めた雨水を地下400tタンクに貯めてトイレ洗浄や植栽散水に活用しています。建設時CO₂はRC造比で約12%削減されました。

五輪後も動き続けるアリーナ

2022年8月から本格的な多目的アリーナとして一般供用が始まり、いまや年間約120日稼働しています。2024年度はコンサート・ライブが約32公演、プロスポーツが約45試合、展示会やコンベンションも開催され、来場者は年間約120万人。稼働率約33%は、一般的な大型アリーナの平均25〜30%を上回る優秀な数字です。年間の経済波及効果は約350億円と試算され、有明・お台場・豊洲エリア全体の地域経済を牽引しています。

有明アリーナは単独の施設ではなく、東京ビッグサイトや有明GYM-EX(旧・有明体操競技場)、有明ガーデンなどと連携して「アジア有数のMICE・エンタメ集積地」を形づくる中核です。2030年に予定される地下鉄有楽町線の延伸(豊住線)開業で、利便性はさらに高まる見込み。伝統的な木の文化と最新技術を融合させた公共建築として、また国産材活用の象徴として、長く語り継がれていく建物です。

よくある質問

Q. 見学はできますか?

原則としてコンサートやスポーツ観戦などイベント開催時に内部へ入れます。年に数回、東京都主催のオープンハウスがあり、その際は無料で内覧できます。最新スケジュールは公式サイトで確認できます。

Q. なぜスギやヒノキでなくカラマツなのですか?

カラマツは強度・寸法安定性が高く、赤褐色の意匠性が大空間に映え、国産で大径材を安定供給できるためです。スギは強度がやや劣り、ヒノキは大径材の安定供給が難しいため、大規模ルーバーにはカラマツが選ばれました。

Q. アクセスは?

ゆりかもめ「有明テニスの森駅」から徒歩約8分、りんかい線「国際展示場駅」から徒歩約12分。BRT(東京臨海部バス高速輸送)も直結しています。公式駐車場は台数限定のため、公共交通機関の利用が一般的です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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