木造建築は「燃える」素材を扱うがゆえに、建築基準法の規制と常に向き合ってきました。長らく木造は都市部の中大規模建築から事実上締め出されていましたが、2000年の性能規定化を起点に、2010年代以降は「都市部の中大規模木造を可能にする」方向で改正が連続しています。この記事では、木造に関わる耐火関連の法改正を時系列で追いながら、なぜ2000年以降に木造化が連続的に拡大してきたのかを整理します。鍵を握るのは、第21条・第27条・第61条という3つの条文です。
木造を縛る3つの条文
木造建築の耐火要求は、規模・用途・立地という3軸で決まります。それぞれを担う条文が第21条(規模・高さ)、第27条(用途)、第61条(立地)です。
第21条は規模や高さが大きくなると耐火構造・準耐火構造を求める条文で、木造の中大規模設計の出発点です。かつては4階建以上または高さ13m超の木造は耐火構造が義務付けられ、事実上3階建てまでに制限されていましたが、2019年・2024年の改正で段階的に緩和されてきました。第27条は劇場・病院・学校・共同住宅といった特殊建築物を用途・規模で規制する条文。3階建共同住宅は2014年改正で、3階建学校は同年に1時間準耐火構造で木造化が可能になり、地方の老朽校舎の建替えで木造化が一気に進みました。第61条は防火・準防火地域内の規制です。地方都市の中心市街地は準防火地域指定が多く、2019年改正で「延焼防止建築物」の概念が導入されたことで、従来「耐火建築物」一択だった範囲が準耐火構造ベースで代替できるようになり、3階建店舗併用住宅などの木造化が前進しました。
耐火性能には階層がある
耐火構造は規模に応じて1〜3時間、1時間準耐火は1時間、45分準耐火は45分、防火構造は外壁・軒裏で30分が基本要求です。建築基準法施行令では、最上階から数えて4階以下で1時間、5〜14階で2時間、15階以上で3時間と、上層ほど厳しく設定されています。木造でこれらを実現する経路は3つ――仕様規定(施行令)に従う、告示の標準仕様を使う、大臣認定の個別技術を使う、です。3時間耐火を木造で実現するには、燃え止まり型耐火構造(モルタル層・石膏ボードで炭化の進行を遮断)や高度な耐火被覆が必要で、これらはすべて大臣認定で取得します。
認定取得にはISO834標準加熱曲線に従った加熱試験が必須です。試験炉内で標準曲線どおりに加熱し(30分で842℃、1時間で945℃、3時間で1,110℃)、構造部材が崩壊せず遮炎性・遮熱性を満たすことを確認します。試験費用は1検体あたり数百万〜1,000万円規模、認定取得まで含めると総額1億円超のプロジェクトになることもあります。
改正の歩み:2000年から2025年まで
大きな転換点は2000年の性能規定化でした。それまでは「告示で定められた仕様に合致するか否か」だけが審査対象で、新工法・新材料の採用には大幅な行政手続きが必要でしたが、この改正で「大臣認定による個別技術」でも要求性能を満たせる経路が明確化されました。燃え代設計が標準仕様として位置付けられ(要求される準耐火時間に応じて、燃え代寸法を数十mm単位で断面に上乗せする)、これに該当しない技術は指定性能評価機関の評価を経て大臣が個別認定する道が開かれます。2000年代を通じて木造の耐火・準耐火に関する大臣認定が数多く積み上がりました。中大規模木造の出発点といえる改正です。
2010年には公共建築物等木材利用促進法が施行され、低層公共建築物の原則木造化が国の方針として明示されました。建築基準法本体ではありませんが、地方自治体の校舎・庁舎建設で木造化の検討が実質的なプロセスになり、公共建築物の木造率(床面積ベース)は、施行前の1割前後から2024年度には全体で15.9%、低層(3階建て以下)に限れば約33%まで上昇しています。続く2014年改正では「特定避難時間倒壊等防止建築物」の概念が導入され、用途別に必要な避難時間(共同住宅・学校で60分等)を確保すれば耐火構造でなくても建てられるようになり、CLT・大断面集成材の主要構造部利用が広まりました。
2019年改正で「延焼防止建築物」「準延焼防止建築物」が導入され、防火・準防火地域で従来「耐火建築物」が要求されていた範囲を、耐火構造と同等の延焼防止性能を持つ準耐火構造ベースの建築物で代替できるようになりました。構造をRC・鉄骨から木造に変えられることで建設費を抑えられるケースもあり、都市部の3階建て店舗併用住宅・小規模事務所の木造化が現実的な選択肢になりました。
そして2024年公布・2025年4月施行の改正です。ポイントは3つ。第一に、大規模な木造でも防火区画やスプリンクラー等を組み合わせれば、耐火構造でなく準耐火構造で建てられる範囲が広がりました。中大規模木造のコストを下げる方向に働きます。第二に、これまで2階建以下・延床500m²以下の小規模住宅に適用されていた4号特例が大幅に縮小され、平家かつ延床200m²以下のみが簡易審査の対象に。それ以外の小規模木造は構造計算書の提出と審査が必須になりました。第三に、全規模での省エネ基準適合義務化です。2025年以降の木造設計は「構造計算+省エネ計算+耐火設計」の三位一体で進める時代に入りました。
木造で耐火を満たす3つの技術
性能規定化を経て、木造で耐火性能を満たす技術は3系統に整理されています。燃え代設計は、要求耐火時間に応じた炭化代(燃え代)を断面寸法に追加する方式。木材の炭化速度は針葉樹で約0.6〜0.8mm/分なので、表面が炭化しても内部は構造強度を保ちます。大臣認定が不要で実装でき、中規模木造の主要構造部で多用されます。燃え止まり型耐火構造は、木材の中間層にモルタルや石膏系の「燃え止まり層」を仕込み、炭化がそこで止まるようにする方式で、竹中工務店「燃エンウッド」をはじめ各ゼネコンが独自の耐火集成材の認定を取得しています。高層階や大規模建築で使われます。メンブレン型耐火被覆は、主要構造部全体を不燃材料で連続的に被覆する方式で、鉄骨造の耐火被覆と似た発想。木材露出は見えにくくなりますがコストが低く、大規模倉庫・工場・店舗で採用されます。
純木造高層建築が現実になった
2020年代に入り、世界各地で純木造(または木造ハイブリッド)の高層建築が実装段階に入りました。日本では大林組「Port Plus」(横浜、2022年竣工、地上11階・高さ44m・延床3,500m²)が国内初の純木造高層オフィスとなり、2時間耐火構造の大臣認定を取得したうえで柱・梁・床すべてに集成材・CLTを採用しています。住友林業は2041年完成目標で「W350計画」(東京・地上70階・高さ350m)を発表しており、超高層純木造の研究も進んでいます。
海外ではノルウェーのMjostarnet(2019年、地上18階・高さ85.4m)、カナダのBrock Commons(2017年、地上18階、大学学生寮)、米国のAscent MKE(2022年、地上25階・高さ86.6m、世界一高い木造)など、20階前後の高層が現実の選択肢になっています。いずれも構造材にCLT・集成材を主用し、コア・基礎をRCで補う「ハイブリッド木造」が主流です。
規制緩和が変えるコストと木材需要
規制緩和は単なる設計自由度の拡大ではなく、コスト構造を直接変えます。以前は耐火構造(鉄骨・RC)が必須だった規模・立地の建物が、準延焼防止建築物や条件付きの準耐火構造として木造で建てられるようになり、同等の建物でも坪単価を1〜3割下げられるケースが出てきました。都市部の3階建て店舗併用住宅や小規模事務所の木造化は、いまでは現実的な選択肢です。
この変化は林業にも波及します。耐火・準耐火に必要な断面は構造耐力に燃え代を加算するため、大断面集成材やCLTの需要が増えるのです。構造用集成材の生産量は年150万m³前後で推移し、CLTの国内生産量も制度が整った2010年代なかばの数千m³規模から数万m³規模へと伸びました。木造化の規制緩和は、林業の経済循環を回復させる政策効果も持っているわけです。なお日本の燃え代設計は、欧州のEurocode 5や米国IBCのType IV(Mass Timber)分類と本質的に同じ思想で、国際的に見ても標準と整合しています。
よくある質問
都市部で4階建以上の木造は可能?
可能です。耐火構造(1〜2時間耐火)が要求されますが、燃え止まり型耐火構造の大臣認定を活用すれば構造体に木材を使えます。横浜のPort Plus(地上11階)が国内事例、ノルウェーのMjostarnet(地上18階)が海外事例で、規制と技術の両面で実装段階にあることを示しています。
準耐火建築物で木材を露出してよい?
主要構造部の準耐火構造は、燃え代設計を採用すれば木材露出が可能です。燃え代は要求耐火時間×0.6〜1.0mm/分で計算し、構造耐力上必要な断面に追加します。集成材・無垢材の意匠的な露出は中大規模木造の魅力の一つで、学校・図書館・ホールで多くの実装事例があります。
2025年改正で何が変わった?
主な変更点は3つ。3階建以下の木造一定規模で準耐火構造での建築が可能となる範囲拡大、4号特例の縮小(小規模木造の構造審査義務化)、全規模での省エネ基準適合義務化です。設計実務では、構造計算ルートの選定・省エネ計算・準耐火構造の検討を、設計初期段階で同時並行的に進める必要があります。
出典・参考:国土交通省 住宅・建築(建築基準法・2019年/2024年改正の概要)、林野庁(公共建築物の木造率、木材利用促進法)、日本建築センター(BCJ)

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