木材利用ポイント─地域材住宅の先駆的補助制度

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「地域の木で家を建てると、お米券や商品券がもらえる」——2013年から2015年にかけて、そんな少し変わった補助制度が走っていました。林野庁が初めて手がけた消費者向けの木材活用支援、木材利用ポイント制度です。家電エコポイントや住宅エコポイントの木材版、と言えばイメージが湧くでしょうか。わずか21ヶ月の時限措置でしたが、その発想は今の地域材補助のあちこちに受け継がれています。

実施期間2013-2015年度21ヶ月実施予算規模500億円補正含む総額住宅上限30万ポイント1棟新築採択住宅数16万棟累計実績
図1:木材利用ポイント制度の主要諸元(出典:林野庁「木材利用ポイント事業実施結果」)
目次

なぜ「消費者にポイント」だったのか

制度が生まれた2012年末、日本の林業は苦境にありました。木材自給率は2002年に過去最低の18.8%まで落ち込み、戦後に植えた1,000万haの人工林の半分以上が伐り頃を迎えながら、需要が足りずに放置されていた。林野庁の従来策は生産者や流通業者向けが中心でしたが、それだけでは需要そのものが動かない。そこで参照されたのが、直前に大ヒットしていた家電エコポイント(総額約6,930億円)と住宅エコポイント(1,000億円超)でした。

消費者の財布に直接インセンティブを置けば、「どうせ建てるなら地域材で」という選択を後押しできる——この発想で、第1期に410億円、第2期に90億円、合わせて約500億円が投じられました。事務局は全国木材組合連合会が担い、全国78ヶ所に申請窓口を設置。地域材を認定する団体は最終的に47都道府県すべてに整備されました。

どんな家が対象で、何がもらえたか

対象は、木造軸組工法などで建てる住宅のうち、柱・梁・桁・土台といった構造材の過半(50%超)を地域材で構成したもの。延床面積の下限はなく、戸建ても共同住宅も対象でした。新築なら最大30万ポイント、内装の木質化リフォームは床1㎡あたり1,000ポイント(上限同じく30万)、地域材の家具や木工品も数千〜数万ポイントの対象です。

もらったポイントは1ポイント=1円相当で、地域産品や商品券、農林漁業体験などと交換できました。交換実績を見ると商品券が約42%と最多で、汎用性への需要の高さがうかがえます。とはいえ農林水産物(約28%)と木材製品(約18%)を合わせれば46%を占め、「地域経済を回す」という制度本来の狙いも一定程度は実現しました。

実際に建った家

林野庁の「優良事例集」(2015年、全国50事例)には、地域材活用の好例が並びます。岡山県津山市では延床132㎡の在来軸組住宅で美作材を76%使い満額取得、高知県四万十町では四万十ヒノキを構造材から建具まで使用率83%で活用。宮崎県諸塚村は森林認証済みの諸塚産杉を100%使い、山主・製材所・工務店の連携モデルとして紹介されました。北海道下川町は2008年に環境モデル都市に選ばれた町で、町産トドマツを使った公共住宅を「地域材+経済循環+森林認証」の三位一体で実現しています。

効果はどれだけあったか

林野庁の事後評価では、地域材消費の押し上げ効果は住宅で約180万㎥、内装・木製品で約80万㎥、合計約260万㎥と推計されました。当時の国産材年間需要(約2,400万㎥)の1割強にあたる規模です。木材自給率(製材用材ベース)は2012年の27.9%から2016年に34.8%へ上昇。この制度だけの寄与は数値上2〜3ポイント程度ですが、「地域材を選ぶ」という消費者・工務店の行動変容は、数字以上の意味を持ちました。

0153045%20102012201420162018202020222024木材利用ポイント期27.934.841.8
図2:木材自給率(製材用材ベース)の推移と木材利用ポイント実施期(出典:林野庁「木材需給表」)

現場で起きていたこと

制度期間中のヒアリングからは、需要側と供給側の両方が動いた様子が伝わってきます。静岡県のある工務店経営者は「お客様から『地域材を使いたい』と言われる機会が明らかに増え、営業の切り口が変わった」と語り、岡山県の製材所は地元工務店からの注文が約3割増えたと報告しています。一方、高知県の林業従事者は「需要が増えても伐採・搬出が追いつかない時期があった」と供給体制の課題を指摘。宮崎県の製材所経営者からは「期間が短すぎて投資回収が間に合わなかった」という不満も出ました。この「需要は喚起できたが供給が追いつかない」という構図こそが、後継制度設計の最大の教訓になります。

短い実績、長い余韻

制度自体は2015年3月で申請を終えましたが、その理念はいくつもの形で生き続けています。事業者連携を起点に組み替えた地域型住宅グリーン化事業(令和6年度予算125億円、最大140万円補助)、子育て世帯向けの子育てエコホーム支援事業(2024-2025)、そして2019年創設の森林環境譲与税(2024年度約500億円規模)。譲与税は個人住民税に年1,000円を上乗せして市町村に配分する仕組みで、東京都中野区の多摩産材補助や横浜市の学校内装木質化など、今度は「市町村起点」で地域材を支えています。

消費者を直接動かすという木材利用ポイントの手法は世界的にも珍しく、OECD報告(2021)でも「消費者主導型木材政策の事例」として紹介されました。ドイツのKfW助成やフランスのRE2020、オーストリアのHolzbau Plusといった欧州の制度が事業者向け補助や規制誘導を中心とするのとは、ちょうど補完関係にあります。2050年カーボンニュートラルに向けてJ-クレジット制度との接続も進む今、「補助金で行動を促す」段階から「市場の仕組みで促す」段階へと、政策は次のフェーズに入りつつあります。

よくある質問

Q. 木材利用ポイントは今も使えますか?

いいえ。2015年3月で申請受付、2016年3月でポイント交換も終了しました。今、地域材住宅で補助を受けたい場合は、地域型住宅グリーン化事業(最大140万円)や各都道府県・市町村の単県補助を組み合わせるのが標準的な流れです。

Q. なぜ2年ほどで終わったのですか?

もともと経済対策としての時限措置(2013年度補正+2014年度予算)だったためです。1年延長されたのち、後継制度への発展的統合という形で役目を終えました。

Q. 地域材とは具体的に何を指しますか?

林野庁の基準を満たし、各都道府県の認証団体が認定した木材です。SGEC・FSCなどの森林認証材も含まれ、岡山の美作材、高知の四万十ヒノキ、宮崎の諸塚産杉などが代表例です。

出典・参考

  • 林野庁:木材利用
  • 林野庁「木材利用ポイント事業実施結果」「木材需給表」
  • 全国木材組合連合会「木材利用ポイント事業 優良事例集」(2015年)

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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