「地域の木で家を建てると、お米券や商品券がもらえる」——2013年から2014年にかけて、そんな少し変わった補助制度が走っていました。林野庁が手がけた数少ない消費者向けの木材活用支援、木材利用ポイント制度です。家電エコポイントや住宅エコポイントの木材版、と言えばイメージが湧くでしょうか。工事着手の対象期間は1年半ほどの時限措置でしたが、その発想は今の地域材補助のあちこちに受け継がれています。
なぜ「消費者にポイント」だったのか
制度が生まれた2012年末、日本の林業は苦境にありました。木材自給率は2002年に過去最低の18.8%(用材部門では18.2%)まで落ち込み、戦後に植えた人工林の多くが伐り頃を迎えながら、需要が足りずに使われずにいた。林野庁の従来策は生産者や流通業者向けが中心でしたが、それだけでは需要そのものが動かない。そこで参照されたのが、直前に実施されて話題になった家電エコポイント(予算総額約6,900億円)と住宅エコポイント(累計1,000億円規模)でした。
消費者の財布に直接インセンティブを置けば、「どうせ建てるなら地域材で」という選択を後押しできる——この発想で、2012年度の補正予算に410億円が計上されました。事務局業務は各地の木材協同組合連合会などが担い、地域材を認定する団体は47都道府県すべてに整備されました。
どんな家が対象で、何がもらえたか
対象は、木造軸組工法などで建てる住宅のうち、柱・梁・桁・土台といった構造材の過半(50%超)を地域材で構成したもの。延床面積の下限はなく、戸建ても共同住宅も対象でした。新築なら最大30万ポイント、内装の木質化リフォームは床1㎡あたり1,000ポイント(上限同じく30万)、地域材の家具や木工品も数千〜数万ポイントの対象です。
もらったポイントは1ポイント=1円相当で、地域の農林水産品や商品券、農林漁業体験などと交換できました。交換先としては汎用性の高い商品券が人気を集めましたが、地域の農林水産物や木材製品への交換も相当の割合を占め、「地域経済を回す」という制度本来の狙いも一定程度は働きました。
実際に建った家
林野庁がまとめた優良事例集には、地域材活用の好例が並びます。岡山県津山市の在来軸組住宅では地元の美作材を構造材の大半に使って上限いっぱいのポイントを取得、高知県四万十町では四万十ヒノキを構造材から建具まで使い切る住宅が紹介されました。宮崎県諸塚村は森林認証済みの諸塚産杉をほぼ全量使い、山主・製材所・工務店の連携モデルとして注目されています。2008年に環境モデル都市に選ばれた北海道下川町では、町産トドマツを活かした住宅づくりが「地域材+経済循環+森林認証」の一体的な取り組みとして進みました。
効果はどれだけあったか
林野庁の事後検証では、事業を通じた新規発生需要は約834億円、経済波及効果は約1,794億円と見積もられました。工事着手・製品購入の対象期間(2013年4月〜2014年9月)に発行されたポイントは、累計で約473億円相当にのぼっています。当時の木造住宅の年間着工と比べても、無視できない規模の需要を短期間で動かしたことになります。
木材自給率は2002年の過去最低18.8%を底に回復基調へ入り、2016年に34.8%、2022年には40.7%まで戻しました。もちろんこの回復は合板用材の国産化や輸入材の減少など複合的な要因によるもので、木材利用ポイントの寄与だけを取り出すことはできません。それでも「どうせなら地域材で」という消費者・工務店の行動を後押しした点は、数字以上の意味を持ちました。
現場で起きていたこと
制度期間中の事業者向けの報告や業界紙の記事からは、需要側と供給側の両方が動いた様子が伝わってきます。工務店側では「地域材を使いたい」という施主からの相談が増え、営業の切り口として地域材を前面に出す動きが広がりました。一方で、短期間に需要が集中したため、伐採・搬出や製材が追いつかない地域が出たこと、時限措置ゆえに設備投資の回収まで見込めなかったこと、といった供給側の課題も指摘されました。この「需要は喚起できたが供給が追いつかない」という構図こそが、後継制度を設計するうえでの最大の教訓になっています。
短い実績、長い余韻
制度自体は2014年9月末で工事着手の受付を終え、ポイントの発行申請は2015年5月、交換申請は同年10月までで幕を閉じました。ただ、その理念はいくつもの形で生き続けています。中小工務店グループの連携を核にした地域型住宅グリーン化事業(地域材を使う高性能木造住宅に最大140万円補助)、子育て世帯向けの省エネ住宅補助、そして2019年度に配分が始まった森林環境譲与税。譲与税は2024年度から個人住民税に年1,000円を上乗せして徴収する森林環境税を財源とし、全国の市町村・都道府県に総額600億円規模を配分します。東京都中野区の多摩産材補助や各地の学校内装木質化など、今度は「市町村起点」で地域材を支える仕組みへと重心が移りました。
消費者に直接ポイントを配って行動を促すという木材利用ポイントの手法は、事業者向け補助や規制誘導を中心とする欧州の木材政策(フランスのRE2020のような建築規制、ドイツのKfWによる省エネ改修助成など)とは毛色が異なり、需要側から国産材を動かそうとした点に特徴があります。2050年カーボンニュートラルに向けてJ-クレジットなど市場メカニズムの活用が広がる今、木材政策は「補助金で行動を促す」段階から次のフェーズへ移りつつあります。
よくある質問
Q. 木材利用ポイントは今も使えますか?
いいえ。工事着手・製品購入の対象は2014年9月末まで、ポイントの発行申請は2015年5月、交換申請は2015年10月末で終了しています。いま地域材住宅で補助を受けたい場合は、地域型住宅グリーン化事業(最大140万円)や各都道府県・市町村の県産材補助を組み合わせるのが標準的な流れです。
Q. なぜ2年ほどで終わったのですか?
もともと2012年度の補正予算による経済対策としての時限措置だったためです。対象期間の延長を経て、後継制度への発展的な移行という形で役目を終えました。
Q. 地域材とは具体的に何を指しますか?
林野庁の基準を満たし、各都道府県の認証団体が認定した木材です。SGEC・FSCなどの森林認証材も含まれ、岡山の美作材、高知の四万十ヒノキ、宮崎の諸塚産杉などが代表例です。
- 林野庁:木材利用
- 林野庁「木材利用ポイント事業実施結果」「木材需給表」
- 全国木材組合連合会「木材利用ポイント事業 優良事例集」(2015年)

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