結論先出し
- CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は日本独自の建築環境性能評価制度。2002年運用開始、6カテゴリ・100点満点でBEE値を算定し、C・B-・B+・A・Sの5ランクで評価する。Sランクは最高位で、BEE値3.0以上、Q(環境品質)50点以上が条件。
- 木造建築でのCASBEE Sランク取得は、地域材活用・ZEB達成・長寿命化・LCCO2削減の複合要件を満たす必要がある。年間Sランク取得は全建築種で約30〜50件、うち木造比率は10〜20%程度(IBEC公表値ベース推定)。
- 取得コストは設計料込みで建築費の0.3〜1.0%、認証手数料は10万〜80万円。容積率緩和10〜20%、固定資産税軽減、補助金加算等の優遇措置と連動し、ESG投資・テナント誘致でプレミアムが発生する。
CASBEE(カスビー、Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)は、国土交通省支援のもと2001年に開発が始まり、2002年から実運用が開始された日本独自の建築環境性能評価制度です。LEED(米国)・BREEAM(英国)・DGNB(独国)等の海外制度と並ぶ建築環境総合評価ツールとして、国内では公共建築・大規模オフィス・商業施設の発注要件として広く採用されています。木造建築のCASBEE Sランク取得は、地域材活用と省エネ・長寿命化を両立した最高水準の環境配慮を意味し、近年の脱炭素政策・ESG投資の進展により注目度が高まっています。本稿では制度の枠組み、Sランク取得要件、6カテゴリの評価点数構造、海外制度との比較、認証手続きとコスト、主要事例、政策連携、課題まで体系的に詳述します。
CASBEE制度の概要と5ランク評価
CASBEEは、建築の環境性能を客観的に評価する制度で、国土交通省支援のもと一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が運営しています。最大の特徴はBEE(Building Environmental Efficiency)指標で、これは「環境品質Q」を分子、「環境負荷L」を分母として、建築の環境効率を1つの数値で表現する独自手法です。
BEE = Q(Quality:環境品質)÷ L(Load:環境負荷)
Qは室内環境・サービス性能・敷地内環境(屋外)を評価し、最大100点で構成されます。一方Lはエネルギー・資源マテリアル・敷地外環境を評価し、こちらも最大100点で構成されます。BEE値が高いほど「少ない環境負荷で高い環境品質を実現している」ことを意味します。
5ランクの区分基準(BEE値)
CASBEEはBEE値に基づき5ランクに分類されます:
| ランク | BEE値 | 意味 | 取得難易度 |
|---|---|---|---|
| S(Excellent) | 3.0以上かつQ≧50 | 素晴らしい | 極めて高い |
| A(Very Good) | 1.5〜3.0 | 大変良い | 高い |
| B+(Good) | 1.0〜1.5 | 良い | 中程度 |
| B-(Slightly Poor) | 0.5〜1.0 | やや劣る | 低い |
| C(Poor) | 0.5未満 | 劣る | — |
Sランクは「BEE値3.0以上」かつ「Qスコア50点以上」の二重条件を満たす必要があり、年間取得件数は全建築種で30〜50件程度(IBEC公表データ推定)と極めて限定的です。
CASBEEファミリーと評価対象
CASBEEは建築物のライフサイクル全体をカバーする多様な評価ツール群です:
- CASBEE-建築(新築):新築建築物の環境性能評価。最も一般的。
- CASBEE-建築(既存):竣工後5年以上経過した既存建築の評価。
- CASBEE-建築(改修):改修・リフォームによる性能向上を評価。
- CASBEE-不動産:投資判断・取引時の市場評価向け簡易版。
- CASBEE-住戸ユニット:集合住宅の住戸単位評価。
- CASBEE-戸建:戸建住宅向け。
- CASBEE-街区:複数建築物の集合・市街地スケール評価。
- CASBEE-都市:都市スケールでの環境性能評価。
- CASBEE-健康チェックリスト:住宅の健康性評価。
- CASBEE-ウェルネスオフィス:オフィスの健康性・知的生産性評価。
木造建築のSランク取得は主に「CASBEE-建築(新築)」での評価が一般的ですが、改修案件では「CASBEE-建築(改修)」が用いられます。
評価6カテゴリと点数構造
CASBEEは6カテゴリで評価されますが、これらはQ(環境品質)とL(環境負荷)の2軸に再編されます。
Q軸(環境品質)3カテゴリ
Q1:室内環境(重みづけ約0.40)
- 音環境(騒音・遮音・吸音性能)
- 温熱環境(室温・湿度・気流・PMV値)
- 光・視環境(昼光率・グレア・眺望)
- 空気質環境(換気量・VOC・ホルムアルデヒド・CO2濃度)
Q2:サービス性能(重みづけ約0.30)
- 機能性(広さ・収納・情報通信設備)
- 耐用性・信頼性(耐震・耐用年数・更新性)
- 対応性・更新性(用途変更・設備更新の容易性)
Q3:室外環境(敷地内)(重みづけ約0.30)
- 生物環境の保全と創出(緑地率・在来種率)
- まちなみ・景観への配慮(高さ・形態・色彩)
- 地域性・アメニティ(地域文化・コミュニティ性)
L軸(環境負荷)3カテゴリ
LR1:エネルギー(重みづけ約0.40)
- 建物外皮の熱負荷抑制(UA値・η値)
- 自然エネルギー利用(太陽光・地中熱・自然採光)
- 設備システムの高効率化(一次エネルギー消費量)
- 効率的運用(BEMS・チューニング)
LR2:資源・マテリアル(重みづけ約0.30)
- 水資源保護(節水器具・雨水利用)
- 非再生性資源の使用量削減(リサイクル材・木材活用)
- 汚染物質含有材料の使用回避
- 廃棄物削減(解体時のリサイクル)
LR3:敷地外環境(重みづけ約0.30)
- 地球温暖化への配慮(LCCO2・運用CO2)
- 地域環境への配慮(騒音・振動・排熱・風害)
- 周辺環境への配慮(光害・廃棄物排出)
木造建築の場合、特にLR2(資源・マテリアル)でのスコア優位が顕著で、地域材・国産材活用、低LCCO2、解体時のリユース性などで高得点が期待できます。
木造建築でのCASBEE Sランク取得要件
木造建築でCASBEE Sランクを取得するには、Q軸の各カテゴリで4.5以上、L軸の負荷削減を徹底し、BEE値3.0以上を達成する必要があります。木造特有の戦略を以下に整理します。
木造でSランクを狙う主な戦略
| 評価分野 | 木造での具体的取り組み | 得点目標 |
|---|---|---|
| LR1 エネルギー | ZEB Ready以上、外皮UA値0.4以下、太陽光発電10kW以上、HEMS導入 | 4.5〜5.0 |
| LR2 資源・マテリアル | 地域材活用率50%以上、CLT・LVL等エンジニアードウッド、雨水利用、再生骨材 | 5.0(満点) |
| LR3 敷地外環境 | LCCO2を標準比50%削減、運用時CO2半減、緑化による熱島抑制 | 4.5〜5.0 |
| Q1 室内環境 | 木質内装による調湿・吸音、CO2濃度1000ppm以下、VOC基準クリア | 4.5〜5.0 |
| Q2 サービス性能 | 耐震等級3、耐用100年設計、設備更新性、可変間取り | 4.5 |
| Q3 敷地内環境 | 緑地率30%以上、在来種導入、地域景観調和、コミュニティスペース | 4.5 |
木造のスコア優位性
木造建築は以下の点でCASBEE評価で構造的に有利です:
- LCCO2の低さ:木材は炭素貯蔵効果(1m³あたり約0.9t-CO2貯蔵)があり、製造時排出量も鉄筋コンクリート造の約1/4。
- 地域材活用の追加点:CASBEEは地域性・トレーサビリティを高評価。県内産・市内産材利用は加点要因。
- 調湿性能:木材の吸放湿で室内湿度が安定、Q1(室内環境)の温熱・空気質スコアに寄与。
- 解体時のリユース性:木材は解体後の再利用・バイオマス燃料化が可能で、LR2の廃棄物項目で有利。
- 更新性:木造軸組は部分交換が容易で、Q2の耐用性・対応性で高得点。
木造建築でSランクを取得した国内事例
CASBEE Sランク木造の代表的な国内事例を、用途別に整理します(公表情報・自治体発表ベース)。
1. 公共建築・庁舎
高知県森林研究所新庁舎(高知県香美市):県産スギ・ヒノキを構造材に多用、ZEB Ready達成。CASBEE-建築(新築)でSランク認証。延床約1,500m²。
長野県林業総合センター:県産カラマツCLT活用、太陽光発電、地中熱利用でSランク取得。
南三陸町新庁舎(宮城県):地域材ふんだんに活用、復興のシンボルとしてSランク級評価。
2. オフィスビル
住友林業 筑波研究所(茨城県):CLT・大断面集成材によるハイブリッド構造、CASBEE A〜S評価帯。
三菱地所「Tonarie」事業:木造オフィスのプロトタイプ群でSランク級評価事例。
大林組 Port Plus(横浜):純木造11階建て、Sランク取得を見据えた設計。
3. 学校・教育施設
津市立北立誠小学校:県産材活用、ZEB Ready相当、Sランク認証。
岡山理科大学今治キャンパス:CLT・木質ハイブリッド校舎でA〜Sランク評価。
南陽市文化会館(山形):地域材集成材で大空間構築、A+評価。
4. 商業・宿泊施設
道の駅つるぎ(徳島):県産スギ多用、地域コミュニティ拠点として高評価。
星のや軽井沢:地域景観配慮・地域材活用でCASBEE高評価。
木のホテル GOOD NATURE STATION(京都):木質内装+ZEB対応でA〜Sランク。
5. 集合住宅
三井ホーム MOCXION INZAI(千葉):純木造5階建集合住宅、CASBEE-住戸ユニットでSランク。
住友林業 PROUD CITY 大泉学園:木質ハイブリッド、Sランク評価。
これらの事例に共通する特徴は、地域材活用・ZEB対応・長寿命化・コミュニティ配慮の4点を高水準で同時達成している点です。
LEED・WELL等海外基準との比較
世界の主要な建築環境性能評価制度とCASBEEを比較します。
| 制度 | 運営 | 評価方式 | 最高ランク | 取得件数(世界) |
|---|---|---|---|---|
| CASBEE | IBEC(日本) | BEE値(Q/L比) | S | 累計約8,000件 |
| LEED | USGBC(米国) | ポイント制(110点) | Platinum(80点〜) | 累計約12万件 |
| BREEAM | BRE(英国) | %スコア | Outstanding(85%〜) | 累計約60万件 |
| DGNB | DGNB(独国) | ポイント制 | Platin(80%〜) | 累計約9,000件 |
| WELL | IWBI(米国) | ポイント制(110点) | Platinum(80点〜) | 累計約7,000件 |
| Green Star | GBCA(豪州) | スター制(6つ星) | 6 Star | 累計約2,500件 |
各制度の特徴比較
LEEDは世界最普及で、グローバル企業の本社ビル等で採用。6カテゴリ110点制で、木造はFSC認証材で加点。BREEAMは世界最古(1990年〜)で欧州中心、ライフサイクル評価重視の10カテゴリ。DGNBは独国発、ライフサイクルコスト・経済性評価が強み。WELLは2014年〜の健康性・ウェルビーイング特化、空気・水・光・運動等10コンセプトで木造との親和性高。CASBEEの独自性は「BEE比率による効率評価」で、絶対点数ではなく品質と負荷の比率を重視する点。日本の高温多湿気候、地震対策、地域材文化を反映しています。
木造建築での取得相性
木造建築はCASBEE・LEED・WELL・BREEAMのいずれでも有利な評価が期待できますが、特に:
- 地域材活用重視→CASBEE:日本の地域性評価が独自
- FSC等認証材重視→LEED:MR Credit 6でFSC材加点
- 居住者ウェルビーイング→WELL:木質空間の健康効果が評価される
- ライフサイクル評価重視→BREEAM・DGNB:解体時リユースが加点
大規模プロジェクトではCASBEEとLEED両方の取得事例も増加中(東京ミッドタウン日比谷、虎ノ門ヒルズ等)。
認証取得の手続きとコスト
CASBEE Sランクの取得には、設計段階からの計画的取り組みと、第三者機関による評価が必要です。
取得プロセス(標準的フロー)
- 計画段階(基本構想):環境性能目標設定、CASBEE評価員選定。
- 基本設計段階:CASBEE評価員と協議し、各項目の目標水準を確定。
- 実施設計段階:設計図書にCASBEE要件を反映、エビデンス資料準備。
- 申請書類作成:CASBEE評価ソフト(IBEC配布)で評価入力、根拠資料添付。
- 評価員による事前確認:書類整合性・点数妥当性チェック。
- 登録機関提出:JIA、IBEC、地方自治体等の登録CASBEE評価機関に提出。
- 第三者審査:書類審査、必要に応じ現地確認。
- 評価書発行:合格後、CASBEE評価書(証書)が発行される。
- 登録・公表:IBECデータベースに登録、公表(任意)。
標準的な所要期間は申請から評価書発行まで2〜4ヶ月。設計段階からの取り組みは半年〜1年前から開始するのが一般的です。
コスト構造
| 費目 | 金額目安 | 備考 |
|---|---|---|
| CASBEE評価員報酬 | 50万〜300万円 | 建築規模・複雑性による |
| 登録機関審査料 | 10万〜80万円 | 延床面積で変動 |
| 追加設計費(環境性能向上) | 建築費の0.3〜1.0% | ZEB対応等 |
| 追加工事費(高性能化) | 建築費の3〜10% | 外皮・設備の高性能化 |
| 運用段階モニタリング | 年20万〜100万円 | BEMS等の運用費 |
Sランク取得の総追加コストは、延床1,000m²の中規模建築で約500万〜2,000万円程度(建築費の3〜10%増)が目安です。ただしZEB等の高性能化は補助金で相殺可能で、運用段階の光熱費削減・テナント賃料プレミアムで5〜10年で投資回収する事例が多数報告されています。
主要設計事務所の事例
CASBEE Sランクを多く取得している設計事務所・建設会社を紹介します。
大手組織設計事務所
日建設計(CASBEE評価員多数、Sランク取得実績国内最多級)、日本設計(環境配慮設計の老舗)、三菱地所設計(丸の内大規模木造ハイブリッド)、佐藤総合計画(公共木造Sランク多数)、梓設計(教育・医療施設)。
大手ゼネコン設計部
大林組(Port Plus 純木造11階)、清水建設(木造混構造)、竹中工務店(木造高層化技術)、鹿島建設(集成材大空間)、大成建設(木質ハイブリッド標準化)。
木造専門・林業系・アトリエ系
住友林業(W350計画、CLT技術)、シェルター(KES構法)、銘建工業(CLT国内最大手)、隈研吾建築都市設計事務所(地域材・木質意匠で国立競技場等)、坂茂建築設計(紙管・木造復興建築)、手塚建築研究所(木造保育園・学校)。
公共建築での採用
公共建築は「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(2010年施行、2021年改正で「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改正)により、木造化・木質化が推進されています。
国・自治体のCASBEE活用
- 国の発注基準:国交省の官庁営繕では大規模建築でCASBEE A以上を標準要件化。Sランクは特定の重点プロジェクトで採用。
- 地方自治体の総合評価入札:横浜市、京都市、福岡市等の総合評価入札でCASBEEランクを加点要素として採用。
- 条例による義務化:横浜市・川崎市等で延床5,000m²以上の大規模建築物にCASBEE評価書提出義務(CASBEE届出制度)。
- 公共木造建築の急増:2010年〜2024年で公共建築の木造化率は10%→25%へ上昇(林野庁データ)。
主要採用自治体
CASBEE評価書提出を条例で義務化している主な自治体:
- 北海道、宮城県、新潟県、横浜市、川崎市、千葉県、埼玉県、東京都(一部)、京都市、大阪府、堺市、神戸市、福岡市、北九州市、名古屋市、静岡県、長野県等。
各自治体ごとに対象建築規模・評価ツール・提出時期が異なるため、設計初期に確認が必要です。
認証取得後のメリット(補助金・税優遇)
CASBEE Sランク取得は、財務的・市場的に多面的なメリットをもたらします。
補助金・財政支援
- サステナブル建築物等先導事業(国交省):CO2削減先導型でCASBEE Sランク級が要件、補助率1/2、上限5億円。
- ZEB実証事業(経産省・環境省):CASBEE Sランク・ZEB Ready以上で補助率1/2〜2/3、上限3〜5億円。
- 地域型住宅グリーン化事業(国交省):地域材活用+高性能でCASBEE高評価住宅に補助。
- 地方自治体独自補助金:横浜市・京都市等でCASBEE Sランク取得時に追加加算。
税制優遇
- 容積率緩和(特定行政庁判断):CASBEE Sランクで最大10〜20%の容積率割増を運用する自治体あり。
- 固定資産税軽減:環境配慮型建築物として、自治体により1/2〜1/3軽減(3〜5年間)。
- 建築物省エネ法・省エネ基準達成に伴う住宅ローン減税の拡充措置。
- グリーンビルディング向け融資:政策金融公庫・民間銀行によるESG融資の優遇金利。
市場価値・経営的メリット
- 賃料プレミアム:CASBEE A以上のオフィスは標準物件比で5〜15%の賃料プレミアム(CBRE等の市場調査)。
- 稼働率向上:環境配慮型オフィスは入居率が高く、空室期間が短い傾向。
- ESG投資対象化:機関投資家のESG投資基準に合致、不動産REITでの組入優先度向上。
- 従業員生産性向上:木質空間・高品質室内環境で作業効率3〜10%向上の研究報告。
- 長期コスト削減:運用エネルギー50%削減で20年間で数千万〜数億円の削減効果。
- ブランド価値:企業のサステナビリティ経営の象徴として広報効果。
課題(コスト・認知度)
CASBEE Sランク木造建築には以下の課題が存在します。
コスト面の課題
- イニシャルコスト:高性能化・高品質化のため建築費は3〜10%増加。Sランク特有の認証コスト・設計費も加算。
- 木造Sランクの追加コスト:地域材活用・ZEB対応・長寿命化を同時達成するため、標準木造比でさらに5〜15%増のケースも。
- 地域材調達リスク:県産材・市内産材を一定量確保する必要があり、調達不足時はコスト高騰。
- 評価員不足:CASBEE建築評価員(特に木造に詳しい者)が地方では限られ、報酬が高止まりしやすい。
認知度・市場面の課題
- 一般認知度の低さ:CASBEEは建築業界では知られているが、一般消費者・テナント企業の認知度はLEEDより低い。
- 海外展開時の制約:国際企業はLEED優先、CASBEE単独取得では海外で評価されにくい。
- 評価結果の比較困難:BEE値という独自指標は他制度との直接比較が難しく、グローバル投資家への説明が必要。
- 運用段階の継続評価:建設時のSランクが運用段階で維持される保証はなく、運用品質管理が課題。
制度面の課題
- 評価項目の更新頻度:技術進歩・社会要請に対し評価項目の改訂が遅れる場合あり。
- 地域材の定義の曖昧さ:地域材の範囲(県内・地方ブロック・国内)の定義が地域により異なる。
- 木造特有の評価難しさ:木造の長寿命性・調湿性・健康効果等の定量化が一部困難。
- WELL等他制度との重複:複数認証取得時に評価項目の重複が多く、効率化が課題。
国際比較:日本のCASBEEの位置づけ
世界の建築環境性能評価の中で、CASBEEは以下のように位置づけられます。
普及度の国際比較
累計取得件数では、BREEAM(60万件)、LEED(12万件)に対しCASBEEは約8,000件(2025年推定)と少数です。ただし、国内建築市場でのカバー率では、大規模建築の20〜30%がCASBEE評価対象という推定があり、国内での浸透度は高い水準にあります。
評価哲学の独自性
- BEE比率方式:他制度は絶対点数(ポイント制・スコア制)が主流の中、CASBEEは「品質と負荷の比率」という独自視点。
- 地域性重視:日本の高温多湿気候、地震対策、地域材文化を反映した独自項目。
- ファミリー化:建築・住戸・街区・都市・健康・ウェルネス等10種類以上の派生制度で多面評価。
木造建築での国際的位置づけ
日本の木造建築のCASBEE Sランク取得は、地域材トレーサビリティ(県産材・市内産材という細かい地域単位の材料管理は海外制度にない強み)、高温多湿気候対応(木造の調湿性能評価が日本の気候に適合)、長寿命化評価(100年級設計はBREEAM・DGNBと共通方向)、BIM連携(CASBEE-BIM連携でデジタル評価の効率化進行中)という4点で国際的独自性を持ちます。
FAQ:よくある質問10項目
Q1. CASBEE Sランクはどれくらい難しいですか?
A. 全建築種で年間30〜50件程度(IBEC公表値ベース推定)と、極めて高水準です。BEE値3.0以上+Q≧50点という二重条件を満たす必要があり、設計段階から計画的取り組みが不可欠。木造でのSランクは特に地域材調達・ZEB対応・長寿命化の同時達成が求められます。
Q2. 認証取得のコストはいくらですか?
A. 認証手数料単独では10万〜80万円、CASBEE評価員報酬は50万〜300万円。追加設計費・追加工事費含めると建築費の3〜10%増が目安。延床1,000m²の中規模建築で総追加コスト500万〜2,000万円程度です。ただし補助金・税優遇・運用コスト削減で5〜10年での投資回収が一般的です。
Q3. LEEDとCASBEE、どちらを取得すべき?
A. 用途次第です。日本国内中心・地域材重視ならCASBEE、グローバル展開・国際企業の本社ビル・海外投資家対応ならLEED。両方取得する事例も増加(東京ミッドタウン日比谷、虎ノ門ヒルズ等)。木造建築では地域材評価が独自のCASBEEに優位性があります。
Q4. リフォーム・改修でも取得できますか?
A. はい。CASBEEには「CASBEE-建築(改修)」があり、既存建築の改修による環境性能向上を評価可能です。築古オフィス・公共建築の改修案件で活用が増えており、新築より低コストでの環境配慮アピールが可能です。
Q5. Sランク取得後の主なメリットは?
A. ①テナント誘致と賃料プレミアム5〜15%、②補助金優遇(サステナブル建築物等先導事業等)、③固定資産税軽減1/2〜1/3、④容積率緩和10〜20%、⑤ESG投資対象化、⑥ブランド価値向上、⑦運用コスト削減、⑧従業員生産性向上、と多面的です。
Q6. 木造建築は本当にSランクを取りやすいのですか?
A. 構造的に有利な要素は多いです。木材の炭素貯蔵効果(1m³あたり約0.9t-CO2)、低いLCCO2、調湿性能、地域材の地域性評価加点、解体時のリユース性等。ただしZEB対応・長寿命化等の他要件も満たす必要があり、木造であれば自動的にSランクという訳ではありません。
Q7. CASBEE評価員はどこで探せますか?
A. IBECのウェブサイトに登録CASBEE評価員データベースがあり、地域・専門分野で検索可能です。木造に詳しい評価員は地方では限られるため、設計初期の早期確保が重要。設計事務所が評価員資格を持つ場合も多く、設計と評価を一体化できます。
Q8. 運用段階でのSランク維持はどうすれば?
A. CASBEE Sランクは設計時評価が中心ですが、運用段階の継続評価には「CASBEE-不動産」や「CASBEE-建築(既存)」を活用できます。BEMSによるエネルギー消費継続管理、定期メンテナンス、テナント協力での運用ルール等が重要。5年ごとの再評価で品質維持を可視化できます。
Q9. 地域材活用率はどれくらい必要ですか?
A. CASBEEのLR2項目では明確な数値基準は設定されていませんが、Sランク取得事例では構造材・内装材合計で地域材活用率50〜80%が標準。県産材を主軸に、市内産・市町村産のさらに狭い範囲の材料を併用するとより高評価です。地域材の定義(県内・地方ブロック等)は申請時に明示します。
Q10. 個人住宅でもSランクは取得できますか?
A. はい。「CASBEE-戸建(新築)」でSランク取得が可能で、年間数百件の取得実績があります。地域材活用+ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)対応+長寿命化(耐震等級3、メンテナンス容易性)の組み合わせが標準。住宅金融支援機構のフラット35S金利優遇等とも連動します。
まとめ
CASBEE Sランク木造建築は、日本独自の建築環境性能評価制度における最高位認証で、地域材活用・ZEB達成・長寿命化・LCCO2削減の複合要件を満たす必要があります。年間取得件数は全建築種で30〜50件程度と限定的ですが、補助金優遇・税制優遇・容積率緩和・賃料プレミアム等の多面的メリットがあり、ESG投資・脱炭素社会への対応として戦略的価値が高まっています。LEED・WELL等の国際制度と並行・連携活用することで、グローバル市場でも通用する環境配慮建築として位置づけられ、日本の木造化政策・脱炭素政策の重要なシグナル機能を担っています。

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