木は高く売れる——そんなイメージはもう過去のものかもしれません。スギの素材(丸太)価格は2024年で約14,200円/m³(中目材)。1980年のピーク約50,000円/m³からなんと72%も下がりました。しかも山主の取り分である立木価格に至っては、さらに大きく沈んでいます。なぜここまで下がったのか、林業経営にどう響いているのかを、数字で見ていきます。
ピークから44年、下げ続けた価格
戦後の復興需要で価格は上がり続け、1980年に約50,000円/m³のピークをつけました。住宅需要が急拡大する一方で国産材の供給が追いつかなかった時期です。ところがその後、輸入材の優位が固まり、住宅着工が減り、価格は下がり続けます。2002年に約20,000円/m³で底を打ち、以降は10,000〜15,000円/m³の低位で20年以上推移。2024年の14,200円/m³は、まさにこの「低位安定期」のなかの標準的な水準です。
山主にしわ寄せ——立木価格は86%下落
注目すべきは、素材価格(14,200円/m³)よりも立木価格(約3,200円/m³)のほうが、下落率が大きいことです。両者の差およそ11,000円は、伐り出し・運搬・市場経費といった中間費用に充てられます。問題は、この中間費用が人件費や燃料費の影響であまり下がらなかったこと。結果、価格下落のしわ寄せが、山主の取り分である立木価格に集中したのです。
| 項目 | 1980年 | 2024年 | 下落率 |
|---|---|---|---|
| スギ素材価格 | 約50,000円/m³ | 約14,200円/m³ | ▲72% |
| スギ立木価格 | 約22,700円/m³ | 約3,200円/m³ | ▲86% |
| 山元立木価格率 | 約45% | 約23% | 半減 |
素材価格に占める立木価格の割合(山元立木価格率)は、1980年の約45%から2024年の約23%へとほぼ半減。これは林業経営の収益性が大きく落ち込み、山主の手取りが極端に縮んだことを意味します。生産量がいくら増えても、立木価格が低いままでは林業経営の質的向上には結びつきません。
下落を生んだ3つの力
長期下落の背景には、相互に絡み合う3つの構造要因があります。
① 輸入材の優位。1960年代の丸太輸入自由化以降、北米材(SPF)・欧州材(ホワイトウッド集成材)が、品質の安定性と長期供給契約、大量生産による単価の安さで日本市場を席巻しました。住宅構造材の標準パーツとして定着し、国産材は価格で苦戦が続きます。これが最大の下落圧力でした。
② 住宅着工の減少。新設住宅着工は1990年の170万戸から2024年の70万戸前後へと半減。スギ構造材の需要そのものが縮み、価格を押し上げる力が働かなくなりました。人口減と既存住宅の飽和で、この傾向は今後も続く見込みです。
③ 需要の中身の変化。2010年代以降、燃料材や合板用材といった単価の低い用途が増えました。生産量は押し上げる一方、これらは付加価値が低く、平均価格を抑える方向に働いたのです。
ウッドショックでも回復しなかった理由
2021年、世界的なウッドショックが起きました。コロナ後の住宅需要急増と物流混乱で輸入材価格が一時2〜3倍に高騰し、これに引っ張られてスギ素材価格も一時約20,000円/m³まで上昇。2002年以降の最高値でした。しかし2022年以降に沈静化すると輸入材価格は元に戻り、スギも再下落して14,200円/m³に落ち着きます。「輸入材依存のリスク」を浮き彫りにはしたものの、構造的な価格回復には至らなかった——下落トレンドの根強さを物語る出来事でした。
太さと樹種で大きく変わる値段
同じスギでも、丸太の太さ(径級)で値段はまるで違います。太いほど製材歩留まりが良く、用途も広がるためです。
| 径級・等級 | 価格目安 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 大径材(末口30cm以上) | 18,000〜25,000円/m³ | 構造材・化粧柱 |
| 中目材(末口20〜30cm) | 14,000〜16,000円/m³ | 構造材・羽柄材 |
| 小径材(末口14〜20cm) | 10,000〜13,000円/m³ | 合板・羽柄材 |
| 低質材・端材 | 5,000〜8,000円/m³ | チップ・燃料材 |
太い大径材と低質材では、価格差は3〜4倍。林業の収益性は、生産する丸太にどれだけ太い良材が含まれるかに大きく左右されます。樹種でも差があり、スギ14,200円/m³に対しヒノキは20,500円/m³(1.4倍)、カラマツは12,800円/m³。立木価格で見るとヒノキ約8,000円・スギ約3,200円・カラマツ約4,000円で、ヒノキの収益性が際立ちます。化粧柱や神社仏閣用材といった高付加価値の用途を持つことが、ヒノキの強みです。
価格下落が林業経営を変えた
立木価格が1980年の7分の1まで縮んだことは、林業経営に深刻な打撃を与えました。立木価格3,200円/m³では、1haあたりの立木販売収入はせいぜい130〜160万円。そこから再造林コスト100万円(補助込みで山主負担30万円)を払うと、手元に残るのはわずかです。50年の伐期で割れば、年あたりの実質収益は数千円〜2万円程度。これでは「植えて育てよう」という意欲はなかなか湧きません。
そのため現在の林業は、間伐補助・路網整備補助・主伐再造林補助といった補助金を前提とした経営構造が定着しています。森林環境譲与税やJ-クレジット、FIT制度などの財源も加わり、補助の総量が経営収益の数倍に達することもあります。これは森林の公益機能(水源涵養・CO₂吸収・生物多様性保全)への公的還元として一定の正当性を持ちますが、裏を返せば、市場メカニズムによる立木価格の本格回復は構造的に難しいということでもあります。
回復のシナリオ
では価格は戻るのでしょうか。上昇方向の要因としては、国内人工林の主伐期到来による良材供給、EUDR等の輸入規制による輸入材コスト上昇、中大規模木造・CLT・木造高層といった木造建築需要の拡大、円安の継続が挙げられます。一方で、住宅着工の長期減少、プレカット・集成材化による中目以下材の汎用化、外材との価格競合といった下押し要因も根強く残ります。
これらがせめぎ合うなか、2030年代のスギ素材価格は、楽観シナリオで18,000〜22,000円/m³、中位で14,000〜16,000円/m³、悲観で12,000〜13,500円/m³と幅広く想定されます。最も現実的なのは中位の横ばい〜微増でしょう。再造林を含めて経営が成り立つには立木価格8,000〜10,000円/m³(素材価格18,000〜22,000円/m³)が一つの目安とされ、ここに届くかどうかが持続可能な林業の分かれ目になります。スマート林業による伐出費削減、事業体の経営規模拡大、CLT・集成材の地域内サプライチェーン形成——地道な構造改革の積み重ねが、価格回復への唯一の道筋です。

コメント