「木を育てても山は儲からない」——林業の世界でよく聞く嘆きです。それを数字で確かめられるのが、立木価格と素材価格の比較。立木価格とは山に生えたまま売るときの値段、素材価格とは伐って丸太にして市場や製材所に届けたときの値段です。2024年のスギで見ると、立木は約4,000円/m³、素材は14,200円/m³。つまり山主の取り分(山元帰属率)は28%しかありません。残りの7割はどこへ消えるのか。本稿でその仕組みをほどいていきます。

木の値段は、3段階で大きく化ける
木材の価格は、森から建築現場に届くまでに姿を変えます。第1段階が立木価格(山に生えたまま)、第2段階が素材価格(丸太になって市場渡し)、第3段階が製品価格(製材・乾燥・加工を経た最終形)。スギでいうと、立木4,000円→素材14,200円→製品90,000円。下の図がその落差です。
製材では原木1.8m³からようやく製品1m³が取れます(歩留まり55%)。この換算で考えると、製品1m³に投入される立木は7,200円ぶん。製品価格90,000円のなかで、山に渡るお金はわずか8%です。残りの大半は、乾燥やプレカットといった「製材所より先」の加工で生まれている。木の価値は、山ではなく工場と流通でつくられているわけです。
山主の取り分は、なぜここまで小さいのか
山元帰属率(立木価格÷素材価格)は、木材経済の利益配分をひと目で示します。2024年はスギ28%、ヒノキ43%、カラマツ30%。残り6〜7割は伐出・運搬・市場・原木商の取り分です。下の表でスギ・ヒノキ・カラマツの中身を並べてみましょう。
| 項目(円/m³) | スギ | ヒノキ | カラマツ |
|---|---|---|---|
| 伐倒造材費 | 4,000 | 4,000 | 3,000 |
| 運搬費 | 3,000 | 3,500 | 3,000 |
| 市場手数料・原木商利益 | 3,200 | 4,200 | 3,000 |
| 流通コスト合計 | 10,200 | 11,700 | 9,000 |
| 立木価格(山元の残り) | 4,000 | 8,800 | 3,800 |
| 素材価格 | 14,200 | 20,500 | 12,800 |
ここで大事なのが、立木価格は「素材価格から流通コストを引いた残り」だという点です。つまり山主は最後尾に並んでいる。だからヒノキの帰属率が高いのは、流通コストが他樹種と大差ない一方で素材単価そのものが高く(20,500円)、その差額がそっくり山元に還るからです。スギとヒノキの素材単価差6,300円が、ほぼそのまま立木価格差4,800円になって表れています。
40年で半分以下に:1980年は55%だった
この28%という数字、昔からこうだったわけではありません。1980年のスギは立木22,000円・素材39,600円で、帰属率は約55%。山が「宝」と呼ばれた時代です。ところがプラザ合意以降の円高と輸入材の流入で立木価格は暴落し、いまやピーク比18%まで落ち込みました。
注目したいのは、立木価格のほうが素材価格より大きく下がったことです。素材が下落しても、人件費に連動する流通コスト(伐出・運搬・市場手数料)は粘り強く下がりにくい。すると「素材−流通コスト=立木」の引き算で、しわ寄せがまるごと立木価格に集中します。山元の取り分には、いわば下げ幅が加速して効いてしまう構造があるのです。
地形が値段を決める:傾斜と路網のシビアな現実
立木価格は地域によっても1.5倍ほど開きます。宮崎・大分など九州の集積地はスケールメリットが効いて全国平均の110〜120%(スギで4,400〜4,800円)。逆に急傾斜地や小規模林家中心の四国・近畿は80〜90%にとどまります。
この差を生む最大の要因が地形です。傾斜30度未満の緩い斜面なら機械が林内に入れて伐倒造材費は2,500〜3,500円で済みますが、30〜45度では集材機や索道が要って4,500〜5,500円、45度を超えると架線集材で6,000〜8,000円まで跳ね上がります。立木価格はこの伐出コストの差をそのまま映すので、急傾斜地では緩傾斜地の半額〜3分の2に圧縮されてしまう。吉野ヒノキや尾鷲ヒノキのような銘柄産地が高値を保てるのは、品質に加えて、出材しやすい山がブランドを支えているからでもあります。
「育てる」が割に合わない、その根っこ
帰属率28%が意味するのは、木を育てることへの見返りの薄さです。1ha・蓄積400m³のスギ林を主伐しても、山主に渡るのは立木4,000円×400m³=160万円。一方、50年間に投じた植栽・下刈・間伐・管理費は補助なしなら300〜400万円。補助込みで林家の実質負担を120万円程度に抑えられたとしても、純収益は50年で40万円ほど、年あたり8,000円/haにしかなりません。
これでは山を持ち続ける経済的な理由がほとんどありません。不在村所有者の増加、所有者不明林の発生、再造林の放棄——林業が抱える構造問題の根っこは、この「育てても報われない」収支にあります。
取り分を増やすには、何ができるか
山元の取り分を回復させる道は、大きく3方向です。ひとつは流通コストを削ること。路網整備(目標100m/ha)、施業の集約化、高性能林業機械、直送・システム販売を組み合わせれば、伐出・運搬費を1m³あたり1,000〜2,000円下げられる余地があります。市場を通さない直送は手数料8〜12%と運搬費15〜25%の節約になり、その分が山主に還ります。
ふたつめは需要を広げること。新築住宅頼みから脱し、中大規模木造建築・木材輸出・バイオマスといった新しい出口を開けば、素材価格そのものを底上げできます。みっつめが木材以外の収入です。J-クレジット制度の森林由来クレジットなら、40〜50年生スギ林1haあたり年8〜12トンのCO2吸収から年2.4〜6万円のクレジット収入が見込め、伐期までの数十年で累計100〜300万円/haの副収入になりえます。立木の価値を「売って終わり」から「保全しながら稼ぐ」へと組み替える動きです。
立木価格と素材価格の比較は、結局のところ「山を持つ人にどれだけお金が戻るか」を映す鏡です。28%という数字を5割、7割へと押し戻せるかどうかは、流通の効率化と新しい需要、そして木の価値の再定義をどう束ねるかにかかっています。それは林業を次の世代へ手渡せるかどうか、という問いそのものでもあります。

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