森林が吸収したCO2を国が「クレジット」として認証するJ-クレジット制度。よく「森林クレジットは制度の主役」と語られますが、数字で見ると事情は違います。J-クレジット制度全体の累積認証量は約1,333万t-CO2(2026年3月時点)で、その内訳は省エネによる削減が約496万t、再エネなどによる削減が約782万t。森林などの吸収系はこのうちごく一部にとどまります。森林経営活動による認証量は累計で約150万t-CO2(2025年時点)と、制度全体の1割前後という位置づけです。この記事では、森林由来クレジットが制度のなかでどこに立っているのか、認証量がどう伸びてきたのか、価格や課題はどうなっているのかを整理します。
制度全体のなかの「森林」
J-クレジットの方法論は2026年時点で76件あり、その内訳は省エネルギー等43件、再生可能エネルギー11件、工業プロセス8件、農業7件、廃棄物4件、そして森林3件(森林経営活動・植林活動・再造林活動)です。認証量でも削減系(省エネ・再エネ)が大半を占め、吸収系は少数派です。ただし森林由来は「地域の森を手入れして生まれる」「生物多様性や国土保全といった副次的な価値がある」といった点が評価され、企業がオフセットに使う際の人気は高く、価格も高めに付きます。
右肩上がりに伸びてきた森林由来の認証量
森林経営活動による認証量は、単年度ベースで年々ペースを上げてきました。2023年度は44.8万t-CO2と単年度で過去最高を記録し、2024年度もそれを上回るペースで推移しています。累計では2025年3月時点で約140万t-CO2、2025年央には約152万t-CO2に達しました。伸びの背景には、2020年のカーボンニュートラル宣言以降の企業需要の高まり、県有林・道有林や森林組合連携による大規模プロジェクトの増加、そして方法論やモニタリングの手続き簡素化があります。
森林由来は「高く売れる」クレジット
価格面では、森林由来クレジットは削減系より高値で取引されます。東京証券取引所のカーボン・クレジット市場では、森林由来(再エネ由来など「その他」区分)が2024年に1t-CO2あたり6,000円前後、2026年春には5,000円前後で推移してきました。省エネ・再エネ由来の削減系(おおむね2,000〜3,500円)と比べて明確に高く、相対取引では1万円/t-CO2を超える事例も報告されています。林野庁はこの上乗せ分を「非炭素プレミアム価値」と呼び、地域貢献や生物多様性への評価が価格に反映された結果だと説明しています。
ただし、この価格でも森林所有者の手取りが大きく増えるとは限りません。プロジェクト1件あたりの認証量が小さく、5年ごとに100万〜200万円規模の第三者検証費用がかかり、追加性(クレジット収入がなければ実施しなかったと示すこと)の証明にも手間がかかるためです。年間の認証量を再造林の対象面積で割ると1haあたり数千円〜2万円程度の追加収入にとどまるとの試算もあり、再造林の採算を底上げする一要素ではあっても、それ単独で林業経営を変えるほどの規模ではありません。
一方で、地方自治体がクレジット販売を森林整備の補完財源として活用する例は着実に増えています。高知県は2018年度からの累計販売額が数億円規模、岡山県西粟倉村のような小規模自治体でも累計1億円規模の販売実績を積み上げています。企業がCO2オフセットと地方創生支援をあわせて実現できる「ふるさと納税型」の販売は、価格よりも地域とのつながりを重視した購買につながりやすく、相対取引で高値がつく傾向があります。
世界のカーボンクレジット相場との位置関係
世界の自主的炭素市場(VCM)の森林系クレジットは、2024年の主要レジストリ平均で、REDD+(途上国の森林減少抑制)が1t-CO2あたり5〜15米ドル、IFM(既存林の管理改善)が10〜25米ドル、ARR(植林・再造林)が15〜30米ドル。日本の森林由来J-クレジットは1t-CO2あたり5,000〜6,000円(約35〜40米ドル)で、国際相場と比べてもむしろ高めの水準にあります。ただし日本のクレジットは国内市場でのみ取引され国際移転ができず、プロジェクト規模も小さいため、世界市場との価格裁定はほとんど働きません。参考までに、義務的排出量取引であるEU-ETSの排出枠は2024年で60〜90米ドルと、自主市場のクレジットとは性質も価格帯も異なります。
拡大のカギはプロジェクトの大型化とデジタル化
森林由来クレジットをさらに増やすには、いくつかの壁を越える必要があります。ひとつはプロジェクトの大型化で、市町村や都道府県が森林経営管理制度で集約した森林をまとめて一つのプロジェクトにする動きが各地で進んでいます。もうひとつはモニタリングの省力化で、これまで人手で行っていた毎木調査を、ドローン・航空レーザー(LiDAR)・衛星画像で置き換える手法の標準化が課題です。国も方法論の簡素化や申請支援を進めており、森林経営管理制度の市町村での実施が広がれば、委託された森林からのクレジット創出が今後の伸びしろになります。
国の森林吸収量とは別もの
混同されがちですが、J-クレジットの認証量と、国が国連に報告する森林吸収量は別の概念です。国の森林吸収量は2023年度実績で年約5,000万t-CO2規模、UNFCCCの方法論に基づく国全体(森林面積約2,500万ha)の吸収量です。一方J-クレジットの森林由来分は、認証要件(追加性・モニタリング等)を満たす特定のプロジェクトの吸収量で、規模は桁違いに小さい。J-クレジットの認証は国の吸収量から差し引かれるわけではなく、その一部を「誰の取組による吸収か」を明確にして市場で評価できるようにする仕組みだと理解するとよいでしょう。日本の2030年度の森林吸収量目標は約3,800万t-CO2で、森林の高齢化で吸収ペースが鈍るなか、間伐や再造林を進める財源として民間資金(J-クレジットを含む)の活用拡大が課題になっています。
よくある質問
森林由来J-クレジットの累積認証量はどのくらいですか?
森林経営活動による認証量が累計で約150万t-CO2です(2025年時点)。J-クレジット制度全体の累積認証量約1,333万t-CO2(2026年3月)のうち、吸収系(森林等)は移行分を含めても1割前後という位置づけです。
森林クレジットの価格はいくらですか?
東京証券取引所の市場で1t-CO2あたり5,000〜6,000円前後(2024〜2026年)、相対取引では1万円を超える例もあります。省エネ・再エネ由来の削減系(2,000〜3,500円程度)より高値で取引されます。
国の森林吸収量(約5,000万t)とは違うのですか?
別ものです。国の森林吸収量は日本全体の森林の吸収量をUNFCCC方法論で算定したもの。J-クレジットの森林由来分は、認証要件を満たす個別プロジェクトの吸収量で、規模ははるかに小さく、市場で取引できる点が特徴です。

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