伐り出された丸太が製材所に届くまでの道のりは、ひと昔前とずいぶん変わりました。かつては市売市場(原木市場)に上場してセリにかける流れが流通の柱でしたが、いまや市場を通さず、素材生産業者と製材所が直接やり取りする「システム販売」や「直送方式」が主流です。2023年には国内素材生産2,200万m³のうち、この直接取引がおよそ6割を占めるまでになりました。なぜここまで逆転したのか、仕組みとコストの両面から見ていきます。
システム販売とは何か
システム販売は、素材生産業者と製材所・合板工場が中長期契約(多くは1年・半年・四半期単位)で、出荷量・単価・等級・引渡時期を事前に取り決め、市場を通さず継続的に直接取引する仕組みです。1980年代後半に大型製材所が台頭するなかで広まり、いまでは国産材流通の最大シェア(約35%)を占めています。一方の直送方式は、伐採地から製材所へ丸太を直接運び、中継土場や市場上場を省く物流のかたち。実際には「直送によるシステム販売」というかたちで両者を組み合わせるのが、大型製材所の標準的な調達モデルになっています。
この仕組みの経済的なうまみは、市売手数料8〜12%が浮くこと、出荷側も買い手側も調達・販売が安定すること、径級や等級をあらかじめ指定できて加工効率が上がること、そして継続取引で代金決済の信用関係が築けること――この4点に集約されます。素材生産業者は伐採計画や労働力配置の見通しが立てやすくなり、製材所は原料コストの予測がつき、加工ラインの稼働率を最適化できる。双方にメリットがある関係です。
直送方式は運搬コストを削る
直送方式の最大の利点は、運搬コストの圧縮にあります。1990年代以降の林業機械化と道路整備で、伐採地から製材所まで20〜80kmの直接運搬が経済的に成り立つようになりました。中継土場を挟む場合(運搬が2回発生)に比べ、おおむね15〜25%のコスト削減になります。経路別の運搬コストを並べると、その差がはっきり見えます。
| 流通経路 | 標準運搬距離 | 運搬コスト/m³ | 適用範囲 |
|---|---|---|---|
| 市売市場経由 | 山→市場→製材所 計60-100km | 2,500〜3,500円 | 小ロット・スポット |
| 中継土場経由 | 山→土場→製材所 計40-80km | 2,000〜2,800円 | 中ロット・規格品 |
| 直送方式 | 山→製材所 直接20-80km | 1,500〜2,200円 | 大ロット・近距離 |
| 遠距離直送 | 100km超 | 2,500〜4,000円 | 特殊用途・銘柄材 |
製材所の大型化と表裏一体
この流通の変化は、製材工場の大型化とぴったり連動しています。年間処理量5万m³超の大型製材所は2024年時点で34工場。これだけで国産材製材出力の40%超を占めますが、その原料調達はほぼ100%がシステム販売・直送方式で、市売市場への依存度は実質ゼロに近い水準です。中堅製材所(年1〜5万m³、約500工場)は調達の6〜8割がシステム販売・直送、残りが市売という混合モデル。一方、中小製材所(約3,800工場)は依然として市売市場が主な仕入れ先です。製材所の規模による二極化が、そのまま流通形態の二極化を生んでいるわけです。
では、林家や小規模事業者はこの流れに乗れないのか。そこで存在感を増しているのが森林組合です。組合員からの委託出荷をまとめ、システム販売・直送で大型製材所へ供給するモデルが広がっており、全国700組合のうち製材所と直接契約を結ぶ「販売事業強化型」は約200組合に達します。個人で契約交渉する難しさを避けつつ、市売市場経由より高い単価で出せるのが利点です。出荷主体ごとの主な販路を整理すると、次のようになります。
| 出荷主体 | 主要販路 | 特徴 |
|---|---|---|
| 大規模素材生産業者 | 大型製材所・直接契約 | 年5,000m³+ 出荷、システム販売主軸 |
| 中規模素材生産業者 | 中堅製材所・市売市場併用 | 年1,000-5,000m³、混合モデル |
| 森林組合 | 組合員委託の集約販売 | 中堅・大型製材所と契約 |
| 林家・自伐林家 | 市売市場・森林組合経由 | 年100-1,000m³、市売主軸 |
| 国有林 | 入札・素材生産請負 | 年間50万m³規模、国有林独自方式 |
流通マージンが縮み、山元にお金が戻る
システム販売・直送方式が広がったことで、流通段階のコストにはっきりした変化が出ています。市売市場経由の流通マージン(手数料+運搬費+荷役費)は丸太価格の15〜20%に相当しますが、システム販売・直送ではこれが8〜12%程度まで縮みます。経路別にコストを積み上げると、その差がよく分かります。
浮いたマージンの一部は山元へ還元され、出荷者に支払われる山元価格は市売市場経由比で5〜10%ほど高くなる傾向が見られます。林業所得の底上げにつながる構造です。加えて、中長期契約で単価を固定すれば、市場のスポット価格の乱高下を避けられ、出荷側・製材所側ともに収益が安定します。
便利さの裏にある課題
もっとも、いいことばかりではありません。いちばんの懸念は価格の見えにくさです。市売市場では公開された競り価格が相場の指標になっていましたが、システム販売・直送は相対契約のため契約価格が表に出ず、市場全体の価格水準がつかみにくくなっています。さらに、長期契約ベースの世界には既存の信頼関係や品質実績が要るため新規参入のハードルが上がること、災害や人手不足で出荷できなくなったときの契約履行リスク、そして市売市場の縮小が小規模林家の販路選択肢を狭めること――こうした副作用も抱えています。
市売市場は取扱量を1990年代の1,000〜1,200万m³から約400万m³へと減らしましたが、消えてしまうわけではありません。小ロットや銘柄材、地域材の取引、そして主要市場の落札価格が業界全体の価格指標になる――こうした機能はむしろ純化しています。林野庁も、流通形態の多様性を保ちつつ、価格統計の集計精度向上や林業クラウドによる受発注の電子化を後押ししています。流通の二極化はおそらく不可逆な構造変化ですが、それぞれの形態が役割を補い合うことで、林業全体の持続性をどう保つか――そこが、これからの設計の勘どころになりそうです。

コメント