「梁が折れる」ことを心配して設計する場面は、実はあまりありません。木造の横架材でまず効いてくるのはたわみです。折れる前に、床が沈む・建具が動かなくなる・天井が波打つ。そして木材の場合、それが年単位で進行するのが厄介なところです。
この記事では、たわみの計算式の意味、ヤング係数を上げるのと断面のせいを増やすのはどちらが効くのか、クリープをどう見込むのか、そのうえで等級をどう選ぶかまでを扱います。等級記号そのものについてはJAS機械等級区分E50〜E150、集成材・CLTについては集成材とCLTのヤング係数をご覧ください。
たわみの式は、2つ覚えれば足りる
単純梁(両端で支えただけの梁)のたわみは、荷重のかかり方で式が変わります。実務で使うのはほぼこの2つです。
等分布荷重:δ = 5wL⁴ / (384 E I)
中央集中荷重:δ = P L³ / (48 E I)
δ=たわみ、w=単位長さあたりの荷重、P=集中荷重、L=スパン、E=ヤング係数、I=断面二次モーメントです。長方形断面なら I = b h³ / 12(b=幅、h=せい)。
この式から読み取るべきことは3つあります。
- スパンが効きすぎる:等分布荷重ではLの4乗。スパンが1.2倍になるとたわみは約2.07倍
- せいが効く:Iがhの3乗なので、せいを1割増やすとたわみは約25%減
- Eは1乗でしか効かない:ヤング係数を1割上げても、たわみは約9%しか減らない
つまりたわみ対策としては、まず断面のせいを疑うのが正解です。等級を上げるのは、せいを増やせない事情があるときの手段だと考えるとバランスを崩しません。
等級を上げると、どれだけ小さくできるのか
それでも等級を上げる判断が必要な場面はあります。天井高を確保したい、梁せいを揃えたい、といったときです。数字で押さえておきましょう。
スギの機械等級E70の材(区分は5.9〜7.8kN/mm²、ここでは7.0GPaとします)を、ベイマツ集成材E120-F330(12.0GPa)に置き換えたとします。
- 断面をそのままにする場合:たわみは 7.0 ÷ 12.0 = 0.583倍。約42%減
- たわみを同じに保って断面を小さくする場合:必要なIが0.583倍でよいので、せいは (0.583)1/3 = 0.835倍。約17%減
後者を具体的な寸法にすると、せい360mmの梁が300mmで済む計算です(集成材の梁せいは30mm刻みなので、ちょうど2ランク下がる)。天井内に60mmの余裕が生まれると考えると、意味のある差です。
逆にいえば、ヤング係数を1.7倍にしても断面のせいは17%しか縮まないということでもあります。「高い等級にすれば劇的に細くなる」というイメージは、3乗根が効くぶんだけ現実より甘い。ここは誤解されやすいところです。
クリープ──木は、載せ続けると沈み続ける
荷重をかけた瞬間のたわみ(瞬時たわみ)だけでは、木造の設計は成立しません。木材は荷重を載せ続けると変形が進み続けます。これがクリープです。
とくに木材固有なのがメカノソープティブ・クリープで、含水率が周期的に上下する環境(季節で湿度が変わる、雨がかりがある)では、荷重が同じでも変形が加速します。乾湿の繰り返しが、変形を一方向に押し進めてしまう現象です。
日本の設計では、この分をまとめて変形増大係数で見込みます。平成12年建設省告示第1459号により、木造の変形増大係数は2。計算で出した瞬時たわみを2倍したものが、たわみ検定の対象になります。
そして建築基準法施行令第82条第四号のたわみ制限はスパンの1/250以下。両方を合わせると、実質的に瞬時たわみをスパンの1/500以下に抑えるという設計になります。
| スパン L | たわみ限界(L/250) | 計算上の瞬時たわみの上限(L/500) |
|---|---|---|
| 3.0m | 12mm | 6mm |
| 4.0m | 16mm | 8mm |
| 5.0m | 20mm | 10mm |
| 6.0m | 24mm | 12mm |
| 7.5m | 30mm | 15mm |
参考までに、欧州のEurocode 5は変形増大係数にあたる係数をkdefと呼び、使用環境で3段階に分けています(無垢材・集成材の場合)。
- サービスクラス1(暖房された屋内、乾燥):kdef = 0.60
- サービスクラス2(屋根裏・外部だが雨がかりなし):kdef = 0.80
- サービスクラス3(屋外・常時湿潤):kdef = 2.00
Eurocodeでは最終たわみを δfin = δinst × (1 + kdef) で評価するので、乾燥屋内なら1.6倍、屋外なら3.0倍。日本の一律2倍は、この中間を安全側に丸めた値だと理解しておくと、屋外デッキや半屋外の架構を検討するときに感覚が働きます。同じ断面でも、置かれる環境で沈み方は倍近く変わるのです。
それでも木は、長い時間に耐える
クリープの話をすると木造の寿命が心配になりますが、長期の材質変化についてはむしろ明るいデータがあります。
千葉大学名誉教授の小原二郎が法隆寺の部材をもとに行った研究では、ヒノキの曲げ強度と圧縮強度は伐採後およそ200〜300年かけて2〜3割上昇し、その後ゆるやかに低下して、1000年ほどでほぼ新材と同じ水準に戻るとされています。1300年を経た法隆寺の材が今も構造として働いているのは、この長期安定性によるところが大きい。
ただし、これは雨がかりのない屋内環境に置かれた場合の話です。含水率が周期的に変動する環境では、前述のメカノソープティブ・クリープが効いて変形が進みます。木材の長寿命は、材そのものの性質と同じくらい、濡らさない・乾湿を繰り返させないという納まりの結果だと考えるのが実際に近いところです。
等級の選び方──「高いほうが得」は成り立たない
ここまでを踏まえると、等級選びの筋道はかなりはっきりします。
1. その部材が何で決まるかを先に見る。 長スパンの梁・桁のようにたわみで断面が決まる部材ではE値が効きます。一方、短スパンの梁や耐力壁のように応力で決まる部材ではFb値が効く。両者を混同して一律に高等級を指定すると、効かないところに金を払うことになります。
2. せいを増やせないか先に検討する。 前述のとおり、せい1割増でたわみ25%減。等級を1段階上げるよりも効きが大きく、しかも普通は安い。天井高やスラブ厚の制約で本当にせいを増やせないときに、初めて等級の話になります。
3. 手に入る等級かどうかを確認する。 スギならE70、ヒノキならE90あたりが流通の厚い層で、上位等級は本数が細ります。せいの大きい材ほどヤング係数は下がる傾向があるため、「せい360mmでE110を100本」といった指定は、価格以前に数が揃いません。この場合は集成材に切り替えるほうが、納期もコストも読めます。
住宅の2階床梁であれば、たいていはスギE70か無等級材で成立します。6m級のスパンが要る中規模木造のオフィスになると、無垢材では厳しくなり集成材のE105-F300やE120-F330が候補に入る。設計条件が等級を決めるのであって、等級から設計を始めるわけではない——順番を間違えないことが、結局いちばんのコスト管理になります。
よくある質問
Q. たわみ計算のEは、平均値と5%下限値のどちらを使いますか?
A. たわみ(使用性)の検討には平均値を、応力度(安全性)の検討には5%下限値をもとにした基準強度を使うのが基本です。たわみは多数の部材が荷重を分担しあう性質のものなので、最弱材を前提にする必要がないという考え方によります。
Q. 変形増大係数2は、集成材でも同じですか?
A. 告示1459号は木造の変形増大係数を2としており、集成材だからといって小さくできるものではありません。集成材はばらつきが小さいという利点はありますが、クリープそのものが小さくなるわけではないためです。
Q. 完成直後は水平だったのに、数年で床が下がってきました。
A. クリープに加えて、施工時の含水率が高かった可能性があります。未乾燥材は乾燥にともなって収縮し、同時にヤング係数も設計時の想定と食い違います。D20以下の乾燥材を指定し、搬入時に含水率を確認しておくのが予防策です。
Q. たわみを抑えるために、あらかじめ上に反らせておく(むくり)のは有効ですか?
A. 見た目の水平を保つ手法としては有効で、長スパンの梁では実際に行われます。ただし応力やたわみの計算値が変わるわけではないので、構造の検定は別途必要です。
出典・参考
まとめ
木造の横架材はたわみで決まることが多く、たわみはスパンの4乗に比例し、断面のせいの3乗・ヤング係数の1乗に反比例します。ヤング係数を1割上げてもたわみは9%しか減らない一方、せいを1割増やせば25%減る。まず断面、次に等級という順番が理屈のうえでも正しい順序です。
そして木材は載せ続けると沈み続けます。日本では変形増大係数2を乗じ、スパンの1/250以下に収める。実質、瞬時たわみをスパンの1/500に抑える設計です。長期の材質そのものは法隆寺が示すとおり驚くほど安定していますが、それは乾いた屋内に置かれた場合の話。濡らさない納まりまで含めて、はじめて設計値どおりの性能が長持ちします。

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