日本の集成材生産は、2023年でおよそ200万m³。1990年の約30万m³から33年で6.7倍に膨らんだ計算で、木材産業のなかでは群を抜いて伸びてきたセグメントです。製材が同じ期間に大きく減ったことを思えば、この増え方はかなり異例といえます。
原動力になったのは、住宅の構造材が無垢の柱・梁から集成材へと置き換わっていった流れ。特に柱・梁・桁といった構造用集成材の需要が、市場の拡大を引っ張ってきました。原料の「ラミナ」(薄板)は長らく北米SPFや欧州ホワイトウッドなどの輸入材が主流でしたが、2010年代以降は国産材の比率がじわじわ上がり、2023年時点でおよそ4割が国産原料です。この記事では、200万m³という市場を、用途・原料の国産化・メーカーの集約・CLTやLVLとの関係・生産工程・今後の展望といった切り口から見ていきます。

そもそも集成材とは、そして200万m³までの道のり
集成材は、厚さ20〜50mmほどの薄板(ラミナ)を繊維方向にそろえて並べ、接着剤で積層した木質構造材です。無垢材に対する強みは、おもに4つ。強度のばらつきを統計的にならして均質にできること、大断面や長尺の寸法を自由につくれること、乾燥させたラミナを使うので寸法が狂いにくいこと、そして節や割れのあるラミナをはじいて品質を安定させられること。こうした性質が、住宅構造材での無垢材置き換えを着実に進め、いまの200万m³市場をつくりました。
集成材づくりの技術そのものは1900年代初頭にスイス・ドイツで生まれ、戦後に北米・北欧で育ち、日本には1950年代に入ってきました。当初は意匠用・造作用が中心で、構造用に本格展開し始めたのは1970年代の住宅市場拡大期から。1980年代以降、住宅瑕疵保険や長期優良住宅、品確法といった性能規制が強まるなかで、住宅構造材としての地位を固めていきました。技術導入から60年あまり、いまでは世界でも先進的な集成材生産国のひとつに数えられます。
33年で6.7倍という伸びは、製材(マイナス67%)や横ばいの合板と比べると突出しています。住宅構造材の集成材化、JAS規格の整備、大断面化・長尺化への対応、そして品質の安定性を求める需要――これらが重なって、ここまで市場を押し上げてきました。
主役は構造用集成材180万m³
200万m³の中身は、構造用集成材(住宅・建築の柱・梁・桁・大断面構造材)が約180万m³で全体の9割、造作用集成材(家具・建具・カウンター・階段・内装下地)が約20万m³で1割という構成です。構造用は住宅市場との結びつきが強く、新築住宅着工(年80万戸前後)の動きで需要が決まります。在来軸組工法の新築1棟あたりの使用量はおおむね5〜8m³で、柱・梁・桁といった主要部位が集成材化されています。
柱と梁・桁が市場の中核
柱は、管柱(階高1階分)が75万m³、通し柱(2階建ての全長を通る)が22万m³で、合わせて約97万m³。これだけで構造用集成材の過半を占めます。標準寸法は管柱が105mm角・120mm角で長さ3m、通し柱が同じ角材で5.5〜6.0m長と、住宅瑕疵保険・長期優良住宅基準に合わせた規格化が進んでいます。製造コストの内訳は原料ラミナの調達費が6〜7割、接着・プレス工程が3割、検査・梱包・物流が1割ほどで、要するにラミナ単価がコスト全体を左右します。
梁・桁は床梁・小屋梁・桁などの長尺構造材で、105×210mm・105×240mm・105×300mmで長さ3.6〜4.0mあたりが標準。集成材梁の強みは、長尺・大断面でも品質が安定する点にあり、無垢材では手に入りにくい6m長・断面300×400mm級の梁もつくれます。住宅向けは断面210〜300mmが主流ですが、中大規模木造向けには断面450〜600mm級の超大断面梁の市場も広がりつつあります。
大断面集成材が拓く中大規模木造
断面300mm角以上といった大断面集成材は、オフィスや商業施設、公共建築、倉庫、工場といった中大規模木造の構造体として、年率5〜10%で需要が伸びています。木造ホールや体育館で6〜8m級、木造オフィス・商業施設で12〜15m級、特殊な大規模建築では20mを超えるスパンを実現でき、コンクリート・鉄骨に対する木造の競争力の中核を担う存在です。こうした建築事例は各地で増えており、2030年代にかけて市場が大きく伸びると見込まれています。
ラミナの国産材比率が40%まで上がってきた
この産業のいちばんの構造変化は、原料ラミナの国産化です。2010年に約20%だった国産材比率は、2023年には約40%まで倍増しました。理由は3つ。スギ・カラマツの構造用ラミナの品質が上がったこと、国産材ラミナ専用の工場(ラミナ製材+集成材)の立地が進んだこと、そして円安と物流費の上昇で北米・欧州産が割高になったこと、です。
国産ラミナの樹種は、スギが半分
国産ラミナの内訳はスギが約55%、カラマツ約25%、ヒノキ約12%、その他針葉樹約8%。スギラミナは強度等級E70〜E90クラスで、柱や梁の意匠面・横架材に使われます。カラマツラミナはE105〜E120クラスの高強度材として、梁・桁の引張側や大断面構造材へ。ヒノキラミナは耐朽性を生かして土台用集成材や浴室まわりの構造材に、という具合に、それぞれの個性で使い分けられています。
輸入ラミナは欧州が6割
輸入ラミナは欧州産(オーストリア・ドイツ・フィンランド・スウェーデン)が約60%、北米産(米国・カナダ)が約35%、その他5%。欧州産はホワイトウッド(ドイツトウヒ)、レッドウッド(ヨーロッパアカマツ)、カラマツが主で、品質と寸法精度の高さが評価されてきました。北米産はSPFやベイマツが中心で、価格競争力が武器。なお、ロシア材は2022年以降の制裁で輸入が止まり、欧州・北米産と国産材へのシフトが進んでいます。
メーカー約120社――上位30社で出力の8割
集成材メーカーは全国で約120社が稼働しています。規模別では年産1万m³以上の主力工場が約30社、5,000〜1万m³の中規模が約25社、1,000〜5,000m³の中小が約40社、1,000m³未満の小規模が約25社。出力シェアでは主力30社が全体の8割超を占め、製材業よりも集中度の高い構造です。代表的なところでは銘建工業(岡山)、住友林業系、齋藤木材工業などが挙げられます。
製材から集成材・CLTまで一貫で
大型メーカーの典型は、原料ラミナの自社製造(製材一体型)から集成材・大断面構造材・CLT製造、プレカット加工、設計支援までを一気通貫で手がける体制です。年産5万m³級の超大型工場なら、原木調達9万m³前後、ラミナ歩留まり50%でラミナ4.5万m³、集成材歩留まり90%で集成材4万m³といった規模感。新設の投資は50〜100億円、従業員は50〜200人で、製材から集成材・CLT・プレカットまでを束ねた複合事業として運営されます。
その代表格が、岡山県真庭市の銘建工業です。年産10万m³級の集成材に加え、CLT、バイオマス発電、プレカット工場を併設し、地域のスギ・ヒノキの調達から製品づくり、副産物の燃料化までをひとつの流れにまとめています。地域材の需要を生み出しつつ林業・木材産業を底上げする「林業6次産業化」の好例として、国際的にも注目され、中山間地域の参照モデルになっています。
輸入100万m³と合わせると総需要は300万m³
2023年の集成材輸入は約100万m³。国産200万m³と足すと、総需要はおよそ300万m³です。輸入の相手国はオーストリア(約25%)、ドイツ(約20%)、フィンランド(約15%)、ルーマニア(約10%)、その他欧州(約20%)、北米(約10%)。欧州集成材は生産規模の経済による価格競争力と寸法安定性で長く市場を握ってきましたが、2020年代に入って円安・物流費高で輸入単価が上がり、国産との価格差が縮んできました。下の表のとおり、国産比率は2000年の47%から2023年には67%へと、国産化が加速しています。
| 区分 | 2000年 | 2010年 | 2023年 |
|---|---|---|---|
| 国産集成材生産 | 70万m³ | 100万m³ | 200万m³ |
| 輸入集成材 | 80万m³ | 120万m³ | 100万m³ |
| 集成材総需要 | 150万m³ | 220万m³ | 300万m³ |
| 国産集成材比率 | 47% | 45% | 67% |
生産工程と品質基準:薄板から構造材へ
集成材は、かなり厳密な工程と品質管理を経てつくられます。原木入荷 → ラミナ製材(厚さ20〜50mm) → 人工乾燥(含水率15%以下) → 欠点除去(フィンガージョイント) → 強度等級区分 → 接着剤塗布 → 積層プレス → 寸法切削 → 検査 → 出荷。各段階にJASの基準・認証要件がかかります。接着剤はレゾルシノール樹脂・水性ビニルウレタン樹脂・イソシアネート系などを用途で使い分け、構造用には耐水性が最高グレードの「特類接着」が標準です。
構造用集成材は、外層に高強度のラミナ(E120)、中層に中強度(E90)を置く非対称構造をとります。曲げ応力が最も大きい外層に強いラミナを集中させる、合理的な設計です。こうして原木1m³から集成材は約0.45m³(歩留まり45%)。製材の55%より低いのは、ラミナ段階で欠点除去(フィンガージョイント)が必要なためです。長期の耐久性は接着剤次第で、構造用の特類接着剤は煮沸・浸水・温冷反復といった試験をクリアし、屋外曝露や浴室まわりのような湿潤環境でも50年以上もつ性能を備えています。海外には100年を超える集成材建築の例も多く、適切に設計・施工・維持すれば、無垢材と同等以上の寿命が期待できます。
これからの10年:住宅は縮み、中大規模木造は伸びる
今後10年は、住宅市場の縮小と中大規模木造市場の拡大が同時に進む局面になりそうです。住宅着工は年80万戸から2030年代には60〜70万戸へと減り、住宅向け集成材には5〜10%ほどの減少圧力。その一方で、オフィス・商業・公共建築・倉庫・工場向けの大断面集成材は年率5〜10%で伸びる見通しです。差し引きすると、市場全体は200万m³前後で推移する、というあたりが妥当な読みでしょう。
原料ラミナの国産化はさらに進み、2030年代には50%超もありえます。スギラミナの強度等級向上(エリートツリー化、機械等級区分の精度向上)、北海道の主伐期到来によるカラマツの大量供給、ヒノキの高単価ニッチ拡大――この3つが国産供給力を押し上げます。輸入は当面欧州産が主流ですが、為替や物流コスト次第で国産シフトが加速する余地は十分あります。加えて、これまで国内需要型だった日本の集成材産業も、韓国・台湾・東南アジア向けの輸出開拓が始まりました。美しい木目と寸法安定性を持つ日本産スギ集成材は東南アジアの高級住宅市場で評価され、年に数万m³規模の輸出が現実のものになりつつあります。
🌲 現場メモ
(運営者の実体験コメントを後日追記)
よくある質問
集成材生産200万m³は世界的に見てどのくらい?
ドイツ約400万m³、オーストリア約350万m³、フィンランド約200万m³といった欧州主要国と比べると、中位の規模です。住宅向けの構造用集成材市場としては東アジア最大級で、日本と中国(約150万m³)が東アジア市場の二本柱。輸出はまだ限定的で、基本は国内需要型の産業です。
なぜこの30年で6.7倍も伸びたの?
4つの要因が同時に効きました。住宅瑕疵保険・長期優良住宅基準で含水率管理が必須になり、品質の安定した集成材が選ばれやすくなったこと。大断面・長尺の需要に集成材だけが応えられたこと。プレカット化との相性がよいこと。そしてJAS構造用集成材規格の整備で設計への適用が広がったこと。これらが住宅構造材での無垢材置き換えを押し上げ続けました。
集成材は無垢材より高いの?
住宅向けの柱・梁では、無垢材より15〜30%ほど高いのが一般的です。KD無垢の柱がおよそ6〜8万円/m³に対し、集成材柱は7〜10万円/m³。その差を吸収するのが、品質の安定・大寸法対応・施工効率(プレカット適合)の3つで、資材費だけでなく施工や手戻りリスクまで含めたトータルでは集成材が有利、と判断する住宅メーカー・工務店が多いのが実情です。
CLT・LVLとは何が違う?
集成材はラミナを繊維方向にそろえて積層した直線材(柱・梁・桁)が主体で、住宅構造材の主流。CLT(直交集成板)はラミナを直交させて積んだ大判パネル(壁・床)で、中大規模木造の構造体向け。LVL(単板積層材)は薄い単板を平行に積層した直線材で、梁・横架材向けです。用途も形も市場も違い、互いを補い合う関係にあります。
集成材の寿命はどのくらい?
きちんと設計・施工・維持すれば、無垢材と同等以上の50〜100年以上が見込めます。ポイントは、結露や浸水を避ける雨仕舞、使用環境に合った接着剤(特類)の選定、そして定期的な点検・補修の3つ。住宅瑕疵保険・長期優良住宅基準を守り、防腐・防蟻処理を適切に行えば、コンクリートや鉄骨に並ぶ建物耐用年数を確保できます。
おわりに
30年で6.7倍――集成材は、無垢材に代わる住宅構造材として静かに、しかし確実に主役の座をつかんできました。これからは住宅市場が縮むなかで、大断面集成材を武器にした中大規模木造へと活躍の場を広げていく段階に入ります。同時に進むのが原料の国産化で、スギ・カラマツ・ヒノキのラミナが輸入材に置き換わっていく流れは、林業の出口づくりという意味でも大きな意義があります。地域材を集成材に変えて都市の建築へ送り出す――その循環が回り始めた今、この産業の役割はますます重みを増していきそうです。

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