1本の木が住宅に組み込まれるまでには、ずいぶん長い旅があります。山主から始まり、原木市場、製材所、木材市場、プレカット工場、工務店——と人の手を渡るたびに値段が積み上がっていく。山に立っているときは1m³あたり2,000円ほどだった木が、最終的に建築に組み込まれる頃には20万円を超える。実に100倍です。この記事では、その各段階で誰がどれだけのマージンを取り、価格がどう積み上がっていくのかを、数字で追っていきます。
山元の手取りは原木価格の1〜2割しかない
木材流通の出発点は山主と素材生産業者の関係です。山主が立木の状態で売るより、業者に伐採を委託して丸太として売る形が一般的。ここでひとつ衝撃的な事実があります。原木市場で14,000円/m³で売れたスギ丸太でも、山主の手元に残るのは2,000円程度、わずか14%ほどなのです。
| 項目 | 金額(円/m³) | 備考 |
|---|---|---|
| 原木市場販売価格(スギ建築用中丸太) | 12,000〜16,000 | 2024年市場相場 |
| 素材生産費(伐倒・造材・集材) | 5,000〜8,000 | 地形・機械化度で変動 |
| 運搬費(土場〜市場) | 1,500〜3,000 | 距離100km想定 |
| 市場手数料(5〜8%) | 700〜1,300 | 原木市場経由の場合 |
| 立木代(山主取り分) | 1,500〜3,000 | 原木価格の10〜25% |
残り86%は、伐倒・搬出・運搬の生産費と市場手数料に消えていきます。とりわけ素材生産費が重く、これは地形の険しさや機械化の度合いで決まります。「山元の手取りが少なすぎる」と長く言われてきたのはこのためで、再造林がなかなか進まない経済的な背景でもあります。中間段階を省く直送・直販で山主の取り分を増やそう、という取り組みが各地で進んでいるのは、こうした構造への反省からです。
原木市場と製材所が値段を積み上げる
全国に約180ある原木市場は、年間1,500万m³(国産材生産量の約65%)を扱います。小さな素材生産業者から丸太を集め、品質ごとに選別し、製材所や建材業者が競りで買う——その仲立ちと、決済保証による信用補完が市場の役割です。手数料は売主から3〜5%、買主から1〜3%。小規模な生産者でも安定して売れて、透明な相場で値がつく利点がある一方、手数料負担や大量取引への不向きという弱点もあります。
市場から丸太を買った製材所は、それを建築用の構造材に挽いて売ります。製材所の儲けを左右する最大の変数が「歩留り」、つまり原木1m³から何%の製材品が取れるか。スギの構造材で55〜65%が標準で、ここが数%動くだけで利益率が大きく変わります。
| 項目 | 金額・比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 原木仕入れ単価 | 14,000円/m³ | 市場相場 |
| 歩留り | 55〜65% | スギKD構造材標準 |
| 製材品単価 | 40,000〜55,000円/m³ | KD仕上げ・JAS材 |
| 製材費(労務・電力・乾燥) | 10,000〜15,000円 | 人件費・固定費 |
| 製材所マージン | 5,500〜10,500円 | 10〜20%程度 |
製材所のマージンは10〜20%。歩留りを上げ、乾燥を効率化し、端材・チップ・おが粉といった副産物を売り、JAS認証材で高く売る——これが利益を伸ばすレバーです。近年は中・大規模への集約が進み、年間3,000m³未満の小さな製材所は廃業が増えています。一方でCLTやLVL、地域材ブランドに特化した中堅は、しっかり付加価値を確保しています。
プレカットと工務店——最後にいちばん値がつく
製材品が現場に届く前に、木材市場や建材問屋、そしてプレカット工場を通ります。なかでもプレカットは要所で、新築木造住宅の85〜90%がプレカット材を使っています。工場であらかじめ構造材を加工しておくことで、現場の手間を大きく減らせるからです。プレカット工場のマージンは5〜10%と製材所より薄め。大量生産・長期契約による薄利多売モデルです。
そして最終消費者である工務店・ハウスメーカーの段階で、いちばん大きな付加価値が乗ります。住宅1棟に使う木材は構造材・羽柄材・造作材を合わせて40〜50m³ほど。工務店のマージンは住宅本体価格の15〜25%ですが、これは木材だけの利益ではなく、設計・営業・工程管理・保証・アフターサービスといった総合的なサービスの対価です。木材1m³あたりに換算すると4〜8万円の付加価値が、この建築段階で上乗せされる計算になります。
なぜ国産材は流通で不利なのか
日本は世界第3位の木材輸入国です。輸入材は、商社がまとめて買い付け、港湾倉庫で保管し、全国へ効率的に配り、大手ハウスメーカーへ直納する——という段階数の少ない「集中型」。これに対し国産材は、山元→原木市場→製材所→建材問屋→プレカット→工務店という「多段階分散型」で、どうしても流通効率で見劣りします。これが国産材自給率が戦後の85%超から2002年の18.8%まで落ち込んだ大きな要因でした。
もっとも、近年は流れが変わっています。国産材製材所の大型化、プレカット工場の整備、地域材の直送モデル普及、ハウスメーカーの国産材活用拡大で、輸入材との効率差が縮まり、自給率は2024年に42.4%まで回復しました。岡山県西粟倉村の「百年の森林事業」では、自治体直営の森林管理と直販で山元手取りを1m³あたり3,000〜5,000円まで引き上げています。宮崎県諸塚村や岩手県釜石市でも、市場を省いた直送協定で中間マージンを削る試みが続いています。共通するのは、地域内で流通を完結させ、品質保証とトレーサビリティを確立し、山主にきちんと収益を還元する、という発想です。
住宅価格の1〜2割が木材費
ところで、よく「木が高くて家が建てられない」と言われますが、構造を正しく見ておきたいところです。30坪の木造住宅で木材費は400〜600万円、本体価格の20〜25%、住宅総額で見れば10〜15%にすぎません。残りは土地・基礎・屋根・サッシ・断熱・設備・大工の人件費・諸経費です。つまり木材価格が10%動いても、住宅総額への影響は1〜1.5%程度。木材だけを値下げしても家は大きく安くなりません。
逆に言えば、木材の付加価値化——地域材やJAS材、カーボンクレジットと連動した木材——は、価格を下げる話ではなく、住宅を差別化しブランド化する戦略になり得ます。流通の各段階が担う機能(集荷・選別・在庫・信用・配送)は本来どれも必要なもの。だからこそ改革の鍵は、段階をやみくもに削ることではなく、デジタル化で透明にし、地域単位で流通を完結させ、トレーサビリティを整え、山元にきちんと利益を返すこと。山主から建築主まで、価値がきれいに伝わる流通へと組み替えられるかどうかが、これからの林業の行方を左右します。

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