【マテバシイ】Lithocarpus edulis|沿岸部の常緑カシ、渋みのない食用ドングリ

マテバシイ | Forest Eight

ドングリは渋くて食べられない──そう思っている人にぜひ知ってほしいのが、このマテバシイ(学名 Lithocarpus edulis)です。種小名の edulis はラテン語で「食用の」という意味。その名のとおり、このドングリは渋み(タンニン)がほとんどなく、アク抜きなしでそのまま食べられるという珍しい木です。しかも潮風にも排ガスにも強く、東京湾岸の埋立地の街路樹や海岸の防潮林として大量に植えられている、都会でいちばん身近なドングリの木でもあります。千葉県の県木にも選ばれています。

気乾比重0.71(0.65〜0.80)重硬・耐摩耗樹高15-20m胸高直径50-80cm最大25m級もドングリ2-3cm渋抜き不要・食用可2年成熟型県木指定千葉沿岸部の代表種街路樹普及度高
図1:マテバシイの主要スペック(気乾比重は含水率15%基準・代表値)

分類はブナ科マテバシイ属。属名 Lithocarpus はギリシャ語で「石の果実」を意味し、硬いドングリを言い表しています。名付け親は牧野富太郎です。同じブナ科でもコナラ属(カシ・ナラ類)とは別属で、雄花の穂が直立すること、ドングリが2年がかりで熟すこと、葉のふちに鋸歯がなく全縁なことなどで区別されます。本州は千葉県あたりから西、九州・南西諸島まで分布し、植栽なら東北南部まで広がっています。

目次

渋抜きいらず、縄文人の主食だったドングリ

マテバシイのドングリの渋みのなさは際立っています。タンニン含量は0.3〜1.5%ほどで、コナラ類の8〜15%に比べると桁違いに低い。だから水にさらすアク抜きをしなくても、フライパンで10〜15分ほど弱火で煎れば、栗のような風味でそのまま食べられます。栄養も栗に近く、炭水化物が65〜70%、ミネラルも豊富です。

この食べやすさゆえ、縄文時代には貴重な食料でした。千葉市の加曽利貝塚(国史跡)など太平洋岸の遺跡からは、マテバシイのドングリを地下に蓄えた「貯蔵穴」が多数見つかっており、1か所に数百〜数千個が貯えられた跡もあります。縄文時代中期〜後期(約5,500〜3,000年前)の太平洋岸の人々にとって、まさに主食的な存在だったわけです。いまも千葉県・静岡県・鹿児島県の道の駅では、ドングリ団子やドングリせんべいが地域の特産品として売られ、小学校の食育や自然観察会では「渋抜きいらずのドングリ」として子どもたちに人気です。

潮風と排ガスに強い、都市と海岸の働き者

マテバシイのもう一つの顔が、防潮林・街路樹としての働きです。海水のしぶきが直接かかる海岸の最前線でも育つほど塩に強く、深く根を張るので台風でも倒れにくい。関東以南の太平洋岸や九州沿岸の防潮林に、昔から植えられてきました。2011年の東日本大震災でクロマツの防潮林が津波で大きく流された後は、より塩害・冠水に強い広葉樹としてマテバシイが再評価され、海岸防災林の再生にも導入されています。

都市では、排ガスに強く、樹形が整い、常緑で一斉に落葉しない、病害虫も少ない──と街路樹向きの条件がそろっており、東京湾岸(豊洲・有明・台場)や大阪湾岸の埋立地緑化の主役になっています。関東以南の街路樹の植栽実績では常に上位。シンボルツリーや生垣として住宅にも人気で、秋にドングリ拾いが楽しめる「食育シンボルツリー」としての魅力もあります。木材としても気乾比重0.71の重硬材で、耐摩耗性が高いことから神社仏閣の縁甲板や道場の床板に使われ、コナラ・クヌギに次ぐシイタケ原木としても重要です。

スダジイ・ツブラジイ・ウバメガシとの見分け方

マテバシイと近縁・類似カシ類の識別比較マテバシイ葉12-25cm 全縁堅果2-3cm細長殻斗瓦状鱗片2年成熟型タンニン0.3-1.5%食用◎渋抜き不要スダジイ葉7-12cm 上部鋸歯堅果1.5cm卵形殻斗完全包被2年成熟型タンニン1〜3%食用◎生食可ツブラジイ葉5-10cm 上部鋸歯堅果1cm球形殻斗完全包被2年成熟型タンニン1〜3%食用◎生食可ウバメガシ葉3-6cm 鋸歯有堅果1.5cm殻斗短鱗片2年成熟型タンニン6〜10%食用×備長炭原料
図2:マテバシイと近縁カシ類4種の識別比較。葉サイズ・堅果形態で容易に識別可能

見分けは葉の大きさが決め手です。マテバシイは葉が12〜25cmと大きく、ふちはつるりとした全縁。同じく食用ドングリのスダジイ(7〜12cm)やツブラジイ(5〜10cm)は葉の上半分に鋸歯があり、備長炭原料のウバメガシは3〜6cmと小さい。ドングリも、マテバシイは細長い卵形、スダジイは小ぶりな卵形、ツブラジイは球形と、形が違います。和名「馬刀葉椎(マテバシイ)」の「マテ」は細長いマテガイに由来し、葉の形を貝に喩えたものです。

見分け方のポイント

  • 葉:12〜25cmと大型で全縁(鋸歯がない)。枝先に集まって輪生状に見える(最大の決め手)
  • ドングリ:細長い卵形2〜3cm、上半分が瓦状の殻斗に覆われる。渋抜き不要で食べられる
  • 樹皮:暗灰褐色でなめらか
  • 分布:関東以南の沿岸部。海岸防潮林・湾岸の街路樹・公園に多い
マテバシイの6大用途1街路樹公園樹沿岸都市2防潮林防風林海岸防災3食用ドングリ渋抜き不要4用材床材・家具気乾比重0.715シイタケ原木関東以南6薪炭材食育素材地域経済
図3:マテバシイの6大用途

よくある質問

本当に渋抜きなしで食べられる?
はい。タンニンが0.3〜1.5%と非常に低いので、アク抜きなしで食べられます。生食よりは、フライパンで弱火10〜15分ほど煎ると栗のような風味が出ておすすめ。粉にして団子やクッキーにもできます。

ドングリの収穫時期は?
9月下旬〜11月上旬が完熟・落下の時期です。マテバシイは2年がかりで熟す木なので、花が咲いた翌年の秋に実が落ちます。落ちたての新鮮なものが食感・風味とも最良。乾燥に強く、紙袋などで数か月は保存できます。

庭木にできますか?
関東以南なら植えられます。潮風と剪定に強く、シンボルツリーや生垣として人気。年1〜2回の軽い剪定で樹形を保てます。深く根を張るので、植え穴は深さ・直径とも60cm以上を確保すると安心です。秋のドングリ拾いも家庭の楽しみになります。

なぜ千葉県の県木なの?
1966年に県民投票で選ばれました。房総半島の海岸に広く自生する代表種であること、縄文時代から食べられてきた食文化、防潮林・街路樹として県土を支える実用性などが理由です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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