森林の冠雪害|雪荷重の仕組みとリスク予測のいま

森林の冠雪害湿雪荷重と予測

同じ「積雪10cm」でも、雪の種類しだいで樹冠が受ける重さは10倍以上変わります。冠雪害は、北日本や日本海側の山で林業をいちばん悩ませる気象災害で、林野庁の統計では森林の気象害のうち雪害が面積で3〜4割、被害材積は年に40万〜80万m³にのぼります。近年はこの被害を、気象データと衛星画像、森林簿を組み合わせた機械学習で前もって予測する取り組みが進んでいます。ここでは雪荷重の基本から、予測技術、現場での使い方までを整理します。

湿雪密度300-500kg/m³乾雪の3-10倍樹冠雪荷重上限2-5kN/m²(スギ壮齢)超過で折損重要な指標形状比 H/D高いほど折れやすい密植放置林で悪化年被害材積40-80万m³/年林野庁統計
図1:冠雪害を考えるうえでの主要数値(林野庁森林被害統計、森林総研、気象庁の資料をもとに整理)
目次

こわいのは「重い湿雪」

雪荷重を考えるカギは、雪の密度の幅広さです。荷重は「雪密度 × 重力 × 積雪深」でおおよそ決まるので、軽い粉雪と重い湿雪では同じ深さでもまるで違います。下の表のように、新雪は1m³あたり50〜100kgしかありませんが、0℃前後の湿雪は300〜500kgにもなります。

雪種 密度(kg/m³) 気温帯 荷重リスク
新雪・粉雪 50〜100 −10℃以下 軽微(風で落下)
こしまり雪 150〜250 −5〜−1℃
しまり雪 250〜400 0℃前後
湿雪(重雪) 300〜500 0〜+2℃ 極高(着雪しやすい)
ざらめ雪 400〜700 融解期 中(落雪する)

湿雪は含水率が高く枝葉に付きやすく、風が吹いても落ちにくいのが厄介です。2014年2月の関東甲信豪雪では甲府市で積雪114cmという記録的な大雪となり、山梨・群馬を中心に人工林で大規模な冠雪害が発生しました。逆に新潟の山で積雪3mあっても、軽い粉雪なら数日かけて圧密しながら風で落ちていくので、被害は意外と限られます。深さより「重さ」が問題なのです。

樹齢と樹種で耐える力が違う

どれくらいの荷重で被害が出るかは、樹種・樹齢・林分密度で大きく変わります。スギ人工林の場合、森林総研の長期観測ではおおむね次のしきい値です。

樹齢 樹高 被害多発荷重 主な被害形態
5〜10年生(幼齢) 3〜6m 0.8〜1.5 kN/m² 押し倒し・幹曲がり
15〜25年生(若齢) 10〜18m 1.5〜2.5 kN/m² 幹折損・根返り
30〜45年生(壮齢) 20〜28m 2.5〜4.0 kN/m² 枝折損・梢頭折損
50年生以上(成熟) 28〜35m 3.5〜5.5 kN/m² 大枝折損・部分倒木

樹種では、円錐形の樹冠で雪をためやすいトドマツエゾマツが北海道で被害多発。枝が水平に近く着雪面積の広いスギは日本海側で深刻です。枝が下垂気味のヒノキは雪が落ちやすく中程度、落葉するカラマツや広葉樹は冬の樹冠が疎なので比較的軽微です。林分密度が高すぎると初期は木どうしが支え合いますが、いったん倒れ始めるとドミノ式に広がる「連鎖倒木」が起きることも分かっています。被害の形は、枝が折れる枝折損、幹が途中で折れる幹折損、根ごと抜ける根返り、幼木が雪の重みで湾曲する押し倒し(雪起こしの対象)の4つに整理できます。

気象・衛星・森林簿を重ねて予測する

近年の研究では、気象データ・衛星画像・森林簿の3層を統合してリスクを予測するアプローチが試みられています。地上のアメダス降雪・気温・風速、LiDARや衛星から得た樹冠構造、地形(斜面方位・傾斜)、林分の樹種・林齢・密度といった変数を機械学習(ランダムフォレストやXGBoostなど)に学習させ、「どの林分で被害が出やすいか」を確率で示すものです。雲に左右されないSAR(合成開口レーダー)画像は、大雪の後に被害域を素早く把握するのにも使われ始めています。経験則だけのリスク評価より精度を高められる可能性がある一方、まだ研究段階のものが多く、実用化に向けた検証が進められているところです。

樹冠雪荷重(kN/m²)と倒木・折損発生確率100%75%50%25%0%01.02.03.04.05.0雪荷重(kN/m²)幼齢林(5-10年)壮齢林(30-45年)成熟林(50年〜)
図2:樹冠雪荷重と倒木・折損発生確率の関係(森林総研・各大学研究の総合)

予測でとくに効くとされるのは、直近1〜3日の累積降雪量、降雪中の気温(湿雪かどうかの判定)、最大瞬間風速といった気象系の変数です。次いで樹高をDBHで割った「形状比」が効きます。密植して間伐が遅れた林は形状比が大きく(幹が細く高く)なり、折損リスクが跳ね上がるからです。さらに北西〜北向き斜面などの地形条件、その林分の過去の被害履歴も手がかりになります。

現場での使い方と気候変動への備え

予測を現場につなげる流れは、秋に森林簿と気候の平年値からシーズン全体のリスクマップを作って点検対象を絞り、冬はアメダスの実況と数値予報から数日先の被害の起きやすさを見ながら備える、というものです。大雪の後はSAR画像の差分で被害域の候補を抽出し、ドローンで現地確認します。高リスクの林分は間伐で立木密度を下げて荷重を分散したり、押し倒しが予測される若齢林の雪起こしを優先したりします。被害が出たら、被害材を早めに搬出して材価の下落を防ぐことが大切です。

気候変動の影響は一筋縄ではいきません。日本海側の年間降雪日数は長期的に減る傾向にある一方、1日あたりの降雪強度の極大値は増える傾向が指摘されています。気温上昇で雪が乾雪から湿雪へシフトするため、降雪量が減っても樹冠雪荷重リスクはむしろ増す地域があると考えられています。「暖冬だから雪害も減る」と一律に安心するのは禁物です。だからこそ、こうした予測モデルも、気候の変化を織り込んで更新していくことが求められます。林業保険の分野でも、将来的に林分単位のリスク評価を保険設計に活かす方向が模索されています。

よくある質問

雪荷重のkN/m²とkg/m²はどう換算しますか?

1 kN/m²はおよそ102 kg/m²に相当します(重力加速度9.81 m/s²で換算)。たとえば樹冠雪荷重3 kN/m²は約306 kg/m²です。

予測モデルはどこまで当たりますか?

林分単位で「被害が出やすい場所」を絞り込む用途では有望ですが、まだ研究段階のものが多く、1本ずつの被害有無を高い精度で当てるのは困難です。現地の点検・計測と組み合わせて使うのが前提になります。

個人の林業者でも予測を使えますか?

今のところ研究機関・大手林業会社・自治体が中心です。林業クラウドサービスやスマホアプリ化が進んでおり、数年内には小規模な林業者でも使えるようになる見込みです。

主要出典・参考

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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