【イタヤカエデ/板屋楓】Acer pictum|カエデ類最普通種、家具材・メープルシロップの戦略樹種

イタヤカエデ | Forest Eight

「カエデ」と聞くと、まっ赤に染まるイロハモミジを思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、日本の山でいちばんありふれた、そして木材としていちばん役に立つカエデは、実はイタヤカエデ(Acer pictumです。北海道から九州まで広く分布し、ブナやミズナラと並ぶ冷温帯林の主役のひとつ。秋には鮮やかな黄色〜橙色に色づきます。

面白いのは、この木が「働き者」だということ。重くて緻密な木材は家具や床材、野球のバットにまでなり、しかも早春には幹から樹液が採れて、あのメープルシロップになります。北米のサトウカエデの親戚なんです。見た目の華やかさはモミジに譲っても、暮らしへの貢献度ではナンバーワン。そんなイタヤカエデの実力を見ていきましょう。

気乾比重0.72(0.65〜0.78)重硬・耐摩耗曲げ強度95-110MPa高強度曲げヤング率10-13GPa高剛性耐朽性★★★☆☆屋外要処理
図1:イタヤカエデの主要スペック(含水率15%基準・代表値)

「イタヤ(板屋)」という名前は、昔この木の重く丈夫な材を屋根板に使ったことに由来します。北国の山村では屋根を葺く材として重宝されたわけです。アイヌ語では「トペニ(樹液の樹)」。樹液を採る文化が古くからあったことが、名前にも残っています。

目次

見分け方──モミジとどう違う?

イタヤカエデの葉は手のひら状に5〜7に切れ込み、長さ7〜15cmと大ぶり。枝に向かい合って(対生に)つきます。同じカエデでも、よく知られるイロハモミジとの見分けは意外と簡単です。

ポイントは3つ。(1) 葉の大きさ──イタヤカエデは7〜15cmと大きく、イロハモミジは4〜7cmと小ぶり。(2) 葉の縁──イタヤカエデは縁がほぼなめらかで鋸歯(ギザギザ)がほとんどないのに対し、イロハモミジははっきりした重鋸歯があります。(3) 紅葉の色──イタヤカエデは黄色〜橙色、イロハモミジは赤。さらに樹高もイタヤカエデは15〜25mと大きく、種子は翼のついた「翼果」で、その翼の開く角度がほぼ水平に近いのも特徴です(イロハモミジは鋭角に開きます)。

イタヤカエデと主要針葉樹の力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率 イタヤカエデ スギ ヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
図2:イタヤカエデとスギ・ヒノキの力学特性比較

木材としての実力──家具からバットまで

イタヤカエデ材は気乾比重0.72ほどの重くて硬い広葉樹です。曲げ強度95〜110MPaはナラやブナに匹敵し、スギの約2倍。木目は緻密で均質、柾目には絹のような独特の光沢(シルキーシーン)が出て、これが家具や楽器の世界で高く評価されます。製材で1m³あたり15〜25万円という、ナラ・ブナと並ぶ高級材です。

用途は幅広く、家具、フローリング、バイオリンやギターの裏板・側板、ピアノの内部部材、そして体育館やボウリング場の床材まで。スポーツの世界では、かつて主流だったアオダモ資源の枯渇を背景に、2000年代以降メジャーリーグでメープル製の野球バットが一気に広まりました。国産でもイタヤカエデ系のバットを作るメーカーがあります。重硬なぶん刃物の摩耗が激しく加工には手間がかかりますが、その分だけ高付加価値の分野で輝く木です。

日本産メープルシロップという楽しみ

イタヤカエデのもうひとつの顔が、メープルシロップの原料です。北米のメープルシロップはサトウカエデから採りますが、イタヤカエデはその近縁種。早春、夜は氷点下・昼はプラスという寒暖差のある時期に、幹に小さな穴を開けると樹液がしたたります。

1本の木から1シーズンに30〜100Lの樹液が採れますが、糖度は1〜2%と低いので、40〜60倍に煮詰めてやっとシロップになります。手間がかかるぶん希少で、国産メープルシロップは1Lあたり1〜3万円というプレミアム価格。それでも北海道・下川町、埼玉・秩父、岩手・葛巻町などで生産が定着し、観光体験やふるさと納税の返礼品として人気を集めています。木を伐らずに毎年の恵みをいただく――森林資源の新しい活かし方として注目されています。次の表でサトウカエデと比べてみましょう。

イタヤカエデの主用途1家具材2フローリング3楽器材4スポーツ用品5メープルシロップ原料
図3:イタヤカエデの主用途
項目 イタヤカエデ サトウカエデ(北米)
樹液の糖度 1〜2% 2〜3%
1樹あたり樹液量 30〜100L/シーズン 40〜120L/シーズン
シロップ化倍率 40〜60倍 30〜45倍
主産地 日本(北海道・東北) カナダ・米国北部

よくある質問

Q. イタヤカエデとイロハモミジはどう違うの?
同じカエデ属の別種です。イタヤカエデは葉が大きく(7〜15cm)樹高も15〜25mと大型で、用材やシロップに使われます。イロハモミジは葉が小さく(4〜7cm)、紅葉観賞や盆栽が中心。葉の縁の鋸歯(イロハモミジは明瞭、イタヤカエデはほぼなめらか)と紅葉色(赤か黄橙か)で見分けられます。

Q. メープルシロップは家庭でも作れますか?
原理的には可能ですが、樹液採取には土地・樹木の所有者の許可が必要で、煮詰める設備もいります。1Lのシロップに40〜60倍の樹液を濃縮するので、家庭規模だと数十Lの樹液から数百mLが採れる程度。多くは生産組合に参加する形で行われています。

Q. 庭木にできますか?
樹高15〜25mの大木になるので、一般の住宅の庭にはやや大きすぎます。広い敷地や公園、街路樹、記念樹に向きます。小さな庭ならイロハモミジなど小型のカエデがおすすめです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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