【アオダモ】Fraxinus lanuginosa|野球バット最高級材、北海道産

アオダモ(Fraxinus lanuginosa)

イチローや松井秀喜が手にしたバットの白木——その多くを支えてきたのが、北海道の森に育つアオダモ(学名 Fraxinus lanuginosa)です。軽くて折れにくく、ボールをよく弾く。その絶妙なバランスから、野球バットの最高級材として長く君臨してきました。枝を水に浸すと水が青く光る不思議な木でもあり、近年は「植えても収穫は孫の代」という超長期樹種の資源を守るため、プロ野球選手たち自身が植林に乗り出しています。

気乾比重0.60(0.55〜0.65 高靱性)重硬・耐摩耗バット用大径化60〜70年胸高直径30cm基準超長期樹種丸太1本から約4本取れるバットの数歩留まりの低さ資源育成の会2000年〜行政・野球・生産者北海道各地で植樹
図1:アオダモの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
目次

どんな木か

アオダモはモクセイ科トネリコ属の落葉小高木。北海道から九州(屋久島まで)、サハリンや朝鮮半島にも分布します。樹高は10〜15mと、トネリコ属のなかでは小ぶり。胸高直径は20〜40cmで、バット材に使える太さ(直径30cm)まで育つのに60〜70年もかかる、たいへん成長の遅い木です。湿地を好むヤチダモやシオジと違い、乾いた尾根筋でも育つ適応力があり、ナラ枯れ後の二次林などにも芽生えます。

学名は正確には Fraxinus lanuginosa Koidz. f. serrata(Nakai)Murata で、小葉に鋸歯のある品種としてケアオダモ(母種 F. lanuginosa)から分けられています。種小名 lanuginosa はラテン語で「綿毛のある」の意で、若枝や冬芽を覆う淡褐色の柔らかい毛に由来します。和名「青梻(アオダモ)」の由来は後述しますが、枝を水に浸すと水が青く染まる、この木ならではの性質から来ています。

見分け方のポイント

アオダモの円錐花序と奇数羽状複葉
アオダモの花期(4〜5月)。白色〜淡黄白色の小花を円錐花序にびっしりつける。手前に伸びるのが奇数羽状複葉の若葉(米国・アーノルド樹木園の植栽個体)。写真: Fraxinus lanuginosa, Arnold Arboretum – IMG 6159 by Daderot(パブリックドメイン), via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

もっとも確実なのが「水浸青変」。枝先を折って水に浸すと、水が青色(青緑色)に染まります。これは樹皮や木部に含まれるクマリン配糖体(エスクリンなど)が溶け出し、紫外線下で青く蛍光するためで、フィールドでその場で確認できる珍しい識別法です。樹種の名前そのものがこの化学的性質を表している、稀有な木でもあります。

  • 樹皮:灰白色〜青みを帯びた銀灰色で平滑。地衣類による白斑が混じることが多く、これが「青いタゴ=アオダモ」の名の由来です。
  • 葉:奇数羽状複葉で15〜25cm、小葉は5〜7枚で対生。葉軸や小葉裏の葉脈上に綿毛があり、これが近縁のヤチダモとの判別点になります。
  • 花:4〜5月、雌雄異株で、白色〜淡黄白色の小花を円錐花序にびっしりつけ、芳香があります。
  • 果実:長さ2〜3cmの翼果で、9〜10月に褐色に熟して風で散布されます。

よく似た仲間との住み分け

同じトネリコ属でも、湿地性のヤチダモ(北海道、樹高20〜25m、家具・合板材)、本州の沢沿いに育つシオジ(樹高20〜30m、家具・楽器材)とは、樹高も立地も用途も違います。アオダモは樹高10〜15mと最も小さく、乾燥地でも育ち、バット材に特化しているのが特徴。とくに紛らわしいヤチダモとは、葉軸の綿毛(アオダモは顕著)と水浸青変(アオダモは強く、ヤチダモは弱い)で見分けます。木材としては色も比重も似るため、ヤチダモは家具・合板へ、アオダモはバット用の大径良材へと仕分けられ、市場価格で数倍の差がつくこともあります。シオジの詳細は【シオジ】Fraxinus platypodaをどうぞ。

なぜバット最高級材なのか

アオダモがプロ野球用バットの最高級材とされるのは、四つの性質が絶妙なバランスで両立しているからです。気乾比重0.60の適度な重硬さが打球時の感触を生み、ヤング率10〜12 GPaの弾性がボールへのエネルギー伝達を高めます。さらに衝撃曲げ吸収エネルギーが1.0〜1.3 kgf·m/cm²と高く、内角の速球にも折れにくい。そして900g前後という重さが、日本人選手の体格と振り抜きにちょうど合うのです。軽さと粘り強さの両立という点で、北米のホワイトアッシュをやや上回ります。

イチロー、松井秀喜、落合博満、王貞治、長嶋茂雄——歴代の名選手が北海道産アオダモのバットを使ってきました。国内のバットメーカーは、木目の通り方や年輪の詰まり方、節の有無で素材を厳しく等級分けします。一本の丸太から取れるバットは通常4本程度。バットに使える太さまで育てるのに数十年かかることとあわせて、この歩留まりの低さが希少性と価格を支えています。なお2000年代以降は北米産メイプルやホワイトアッシュの普及もあって、アオダモ製バットの使用は減少傾向にあります。

バット以外の顔

アオダモはバット材以外でも高級用途に使われます。淡黄白色の明るい木目と適度な硬さは、テーブルや椅子といったモダン家具・北欧調家具に好まれます。さらに、靱性と曲げ加工性を生かして、木製時代のテニスラケット枠、スキー板の心材、そして斧や鍬の柄まで——衝撃に強く折れにくい性質が、職人の道具を支えてきました。

ここで一つ、よくある混同を整理しておきます。家具や楽器の世界で「タモ」「Tamo Ash」と呼ばれ、ギターやベースのボディ・突板に使われる木は、アオダモではなくヤチダモ(Fraxinus mandshuricaです。同じトネリコ属で見た目も似ていますが別種で、あの縮み杢(ちぢみもく)が出るのはヤチダモのほう。アオダモは樹幹が細く大径の突板が取りにくいため、用途はバットや柄物に寄っています。

北海道産の強みと資源を守る取り組み

北海道産アオダモが最高評価を受けるのには理由があります。低温で生育期間が短いぶん年輪が緻密(20〜30本/cm)になり、均質で耐衝撃性の高い木理が生まれること。ナラやカバと混生する北方林で、まっすぐな良材に育つこと。そして空知・上川・後志といった産地で、伐採から製材・乾燥・出荷までの技術とトレーサビリティが受け継がれてきたことです。

ところが20世紀後半から、アオダモ資源の枯渇が深刻な問題になりました。何しろバット材になる太さまで60〜70年かかり、人工林化が遅れ、天然林の選択伐採後の更新も不十分。そこで2000年(平成12年)、林野庁・北海道森林管理局・北海道庁といった行政と、学生野球・社会人野球などの野球関係者、そしてバット生産者が手を組んで「アオダモ資源育成の会」(のちNPO法人)が発足しました。最初の植樹祭は苫小牧の国有林で120本。以来、苫小牧・栗山・由仁・新冠など北海道各地で毎年植樹が続けられ、北海道は由仁町の道有林を提供して「バットの森づくり」として支援しています。北海道庁によればバット用の成木になるまでには60〜70年。いま植えた木を使うのは孫の世代という、林業のなかでもとりわけ息の長い取り組みです。

気候変動と分布の行方

年平均気温4〜13℃の温帯〜冷温帯を好むアオダモは、温暖化下では分布の北上・標高上昇が予想されます。北海道が今世紀末に2.5〜4.0℃上昇するシナリオでは、主産地の空知・上川南部の適地が縮み、より高標高や道北へと適地が移ると見込まれます。一方で東北山岳部(青森・岩手)では適地の拡大も予測されます。冬の-25℃に耐える耐寒性は北方樹種の強みですが、夏の日平均気温が25℃を超える期間が長くなると若い苗木の活着率が下がるため、植林地選びでは夏の気温と土壌の保水力の両立が鍵になります。長い育成期間を考えると、産地の世代交代を見据えた長期の植林計画が欠かせません。

アオダモの主用途1野球バット材最高級・北海道産2家具・突板北欧調・モダン家具3工具の柄斧・鍬・鳶口4スキー・ラケット木製時代の用具
図2:アオダモの主な使い道

よくある質問

シオジ・ヤチダモとどう違いますか?

樹高(シオジ20〜30m、ヤチダモ20〜25m、アオダモ10〜15m)、立地(シオジ・ヤチダモは湿地中心、アオダモは乾燥尾根もOK)、用途(シオジ・ヤチダモは家具材中心、アオダモはバット材中心)で住み分けます。フィールドでの見分けは、葉軸の綿毛と水に浸したときの青変が決め手です。

アオダモの資源枯渇は深刻ですか?

はい。バット用の成木になるまで60〜70年かかるため、20世紀後半から林業・スポーツ両界の課題でした。2000年に発足した「アオダモ資源育成の会」が行政・野球関係者・バット生産者の連携で北海道各地の植樹を続けていますが、いま植えた木が使えるようになるのは今世紀後半です。

庭木として育てられますか?

北海道から九州の冷涼〜温暖地で植えられます。樹高10〜15mの中型でシンボルツリーや公園樹に向き、秋の黄葉、青みを帯びた樹皮、4〜5月の白花と芳香、そして枝を水に浸す青変実験まで、観賞にも自然観察にも楽しめます。半日陰〜日向、水はけのよい腐植質の土壌を好みます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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