「木を燃やして電気をつくる」と聞くと、なんだか素朴な発電に思えるかもしれません。けれど日本の木質バイオマス発電は、2012年のFIT(固定価格買取制度)開始からわずか12年で発電容量約650万kW、年間発電量約400億kWhへと急成長した、立派な産業です。燃料の年間消費量は約1,700万t。問題は、その7割が輸入に頼っているという点にあります。この記事では、制度の仕組みとお金の流れ、そして輸入依存というねじれを見ていきます。
FITが火をつけた急拡大
2012年に始まったFITは、再生可能エネルギーで作った電気を電力会社が固定価格で買い取る制度です。これがバイオマス発電に強烈な追い風になりました。認定容量は2012年の約60万kWから2024年には1,200万kWへと20倍に。実際に動いている650万kWでも、原発6.5基分に相当します。
カギは買取単価です。間伐材などの「未利用材」区分は当初40円/kWh。火力発電の10円前後の4倍という破格の値段が、市場を一気に立ち上げました。買取期間は20年間の固定なので、2012〜2014年に認定された発電所は今もこの40円で売電を続けています。
燃料の7割が海外から、というねじれ
ところがFITには「国内のエネルギー自給率を高め、地域経済を潤す」という本来の狙いがありました。ここに大きなねじれが生じています。年間1,700万tの燃料の内訳を見ると、輸入木質ペレットが700万t(41%)、PKS(パームヤシ殻)が500万t(29%)。輸入だけで7割を占め、本来主役のはずの国産未利用材は18%にとどまっているのです。
輸入ペレットの価格は2020年の約2万円/tから、ロシア・ウクライナ情勢で2022年には3.5万円/tへ急騰しました。固定価格で売る発電所にとって、燃料費だけが上がるのは死活問題です。木質ペレットの輸入額は2018年の約300億円から2022年には約1,400億円へと4.6倍。本来は国内林業に回るはずだったお金が、海外へ流出している格好です。
なぜ国産材が広がらないのか。理由ははっきりしています。林地に残った間伐材を発電所まで届けるには、伐倒・集材・チップ化・運搬の工程費が積み上がり、1tあたり1.2〜1.5万円、輸送距離が長ければ2万円を超えます。安い輸入燃料に価格で勝てないのです。
買取単価は年々下がり、制度も変わった
FITの買取単価は新規認定分が毎年見直され、未利用材の40円も2024年度には小規模で32円、大規模で24円まで下がりました。事業規模が大きくなればコストも下がる、という考え方です。区分ごとの推移を見ると、新規参入のうまみが年々薄れてきたことがわかります。
| FIT区分 | 2012年 | 2024年 |
|---|---|---|
| 未利用材(2,000kW未満) | 40円 | 32円 |
| 未利用材(2,000kW以上) | 32円 | 24円 |
| 一般木質(10,000kW以上) | 24円 | 17円 |
| 建設廃材 | 13円 | 13円 |
さらに2022年には、大規模な一般木質発電がFITから外れ、FIP(市場価格+プレミアム)制度へ移りました。固定価格の安心はなくなり、電力市場の価格に応じて収入が変動する仕組みです。市場メカニズムを取り入れた合理化策ですが、発電事業者は燃料費と電力市場価格の二重のリスクを背負うことになりました。
燃料の種類でCO₂削減効果は大違い
バイオマス発電のコストは6〜7割が燃料費。だから燃料の選び方が収益を決めます。種類ごとの値段と熱量を比べると、国産チップは安いものの水分が多く、輸入ペレットは扱いやすいが価格変動リスクが大きい、といった特徴が見えてきます。
| 燃料種類 | 単価(円/t) | 調達特性 |
|---|---|---|
| 輸入木質ペレット | 25,000-35,000 | 為替・国際物流リスク |
| PKS | 15,000-25,000 | パーム油副産物 |
| 国産未利用材チップ | 10,000-18,000 | 水分多・収集コスト高 |
| 建設廃材 | 5,000-12,000 | 処理費含む |
そして「再生可能エネルギー」と呼べるかどうかも、実は燃料次第です。ライフサイクルで見たCO₂削減効果(石炭火力比)は、国産未利用材チップなら95%と優秀ですが、輸入ペレットは輸送・加工のエネルギーがかさみ60%程度。極端な遠距離輸送・低効率加工では30%まで落ちる事例もあります。同じ「木で発電」でも、中身はずいぶん違うのです。
「卒FIT」と、地域に根ざす発電所
2012〜2014年認定の発電所は、2032〜2034年に20年の買取期間を終えます。40円という破格の単価が消え、市場価格の10〜15円へ移れば、売上は大きく減ります。事業者はコーポレートPPA(企業間の再エネ電力取引)への切り替えや延命投資、あるいは廃炉まで、難しい選択を迫られます。
そんな中で注目されるのが、地域に根ざした小規模発電です。岡山県真庭市の銘建工業(地域材100%)、北海道下川町(熱電併給)、岩手県紫波町などは、地元の素材生産者や製材所と直接つながり、発電と同時に熱(製材所や温浴施設への蒸気・温水)も供給することで総合効率80%超を実現しています。固定価格に頼らずに回るこのモデルこそ、卒FIT時代を生き残る一つの答えになりそうです。輸入7割という今の姿から、国産燃料を軸にした地域循環へ——それがバイオマス発電を「本物の再エネ」にしていく道筋です。
よくある質問
なぜ買取単価が40円もの高水準だったの?
建設費・燃料費・運転費・利潤を積み上げて20年で投資回収できる水準を逆算した結果、未利用材区分では40円/kWhが必要と判定されたためです。火力の10円前後より高いものの、市場を立ち上げるための初期インセンティブでした。新規認定では段階的に引き下げられています。
輸入燃料に頼るのはなぜ問題なの?
FITの本来の目的である「エネルギー自給率向上・地域経済の活性化」と食い違うからです。輸入燃料1,200万tの調達費(年間数千億円規模)は海外に流れ、国内林業への恩恵が薄くなります。為替や国際物流の変動が直接、発電所の経営を揺さぶる構造でもあります。
バイオマス発電は本当に再生可能エネルギーなの?
燃料が持続可能に管理された森林由来で、輸送・加工のエネルギーが小さければ、再エネとしての正当性があります。国産未利用材は石炭比95%のCO₂削減効果がある一方、遠距離輸送の輸入材では30%まで落ちる例もあり、燃料の出どころが何より重要です。近年は森林認証の取得や伐採地のトレーサビリティ確保が要件化されつつあります。
出典・参考:資源エネルギー庁「再生可能エネルギー」/林野庁「木質バイオマス利用」/財務省貿易統計/IEA Bioenergy

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