「木の家は環境にやさしい」——よく聞くフレーズですが、実際のところ、鉄やコンクリートとくらべてどれくらい二酸化炭素(CO2)が違うのか、数字で答えられる人は多くないはずです。じつはその差は、ちょっと想像を超えています。
構造材1m³をつくるときのCO2排出量を並べると、木材が約100kg、コンクリートが約340kg、鉄鋼にいたっては約5,300kg。木材は鉄鋼のおよそ53分の1という桁違いの少なさです。しかもこれは「つくるときに出すCO2」の話。木は育つ過程でCO2を吸い込んで体内に炭素を蓄えているので、その貯蔵分(約260kg-C/m³=CO2換算で約950kg)まで数えれば、実質的な排出はマイナスにまでなります。この記事では、こうした素材ごとの違いを、原料採取から廃棄までの全工程に分けて見ていきます。
まずは数字で全体像をつかむ
難しい話に入る前に、主要な建築素材のCO2排出量と炭素貯蔵量を一覧で押さえておきましょう。同じ「1m³」でくらべると、素材によってここまで差が開きます。
| 素材 | CO2排出量(kg-CO2/m³) | 炭素貯蔵(kg-C/m³) | 主用途 |
|---|---|---|---|
| スギ製材 | 約100 | 約260 | 柱・梁・羽柄材 |
| ヒノキ製材 | 約120 | 約280 | 構造材・造作材 |
| 集成材 | 約180 | 約240 | 大断面構造材 |
| CLT | 約220 | 約230 | 中高層木造壁・床 |
| 合板 | 約280 | 約220 | 下地・面材 |
| 普通鋼材 | 約5,300 | 0 | 柱・梁・鉄筋 |
| アルミニウム | 約22,000 | 0 | サッシ・カーテンウォール |
| 普通コンクリート | 約340 | 0 | 基礎・躯体 |
| セメント | 約760 | 0 | コンクリート原料 |
木質系のなかでも、加工度が上がるほど排出量は増えていきます。無垢の製材が一番少なく、集成材・CLT・合板と進むにつれて接着やプレスのエネルギーが乗ってくるからです。それでも、最も加工度の高い合板でさえ、鋼材の20分の1以下にとどまります。
LCAって、結局なにを測っているのか
こうした比較の土台になるのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)という手法です。製品が生まれてから捨てられるまで——原料採取・製造・輸送・使用・廃棄の5つの工程すべてで、環境負荷をまとめて数値化します。国際規格ISO 14040に沿って行われる、いわば「製品の一生分のCO2を勘定する」やり方だと思ってください。
木材のLCAには、他の素材にない2つの特徴があります。ひとつは、原料を採る段階で「光合成によるCO2吸収」をプラスに計上できること。もうひとつは、捨てるときに燃やせば炭素が空気中に戻る一方、長く使ったりリサイクルすれば貯蔵期間を延ばせること。鉄やコンクリート、アルミにはこの「吸って・蓄えて・条件次第で延ばせる」という仕組みがありません。ここが決定的な違いです。
なぜここまで差がつくのか
製造段階だけを取り出して棒グラフにすると、差の大きさが一目で伝わります。木材100kgに対し、コンクリート340kg、鋼材5,300kg、アルミは22,000kg——スケールが合わないほどの開きです。
差の正体は、製造に必要な熱と電力です。鉄鋼は鉄鉱石を還元するため1,500℃の高炉で大量の石炭を燃やし、アルミは原料を電気分解するのに膨大な電力を食います。これに対して木材の製材は、100℃以下の乾燥工程と機械加工がほとんど。そもそも投入するエネルギーの集約度が、けた違いに低いのです。
木造とRC造、一軒まるごとくらべると
素材単体ではなく、家1軒で考えてみましょう。延床150m²の戸建てを60年使う前提で試算すると、木造のライフサイクルCO2は約60t、RC造は約95t。その差はおよそ35tにのぼります。違いの大半は建設時の建材由来CO2(エンボディドカーボン)に集中していて、暮らしている間の暖房・冷房・給湯による排出は、実はどちらもほぼ同じです。
| フェーズ | 木造(t-CO2) | RC造(t-CO2) | 差 |
|---|---|---|---|
| 建設時(建材製造) | 25 | 55 | −30 |
| 建設時(施工) | 5 | 5 | 0 |
| 運用時(60年間) | 25 | 28 | −3 |
| 解体・廃棄 | 5 | 7 | −2 |
| 合計(粗) | 60 | 95 | −35 |
| 炭素貯蔵控除 | −30 | 0 | −30 |
| ネット排出 | 30 | 95 | −65 |
ここで木材の炭素貯蔵分を差し引くと、差はさらに広がります。木造のネット排出は約30t、RC造は95tのまま——その開きは約65tです。住宅1戸に使う木材10〜12m³が、それだけで約30tのCO2を閉じ込めているからです。日本では年間およそ80万戸の住宅が着工され、現状の木造率は58%。もし新築をすべて木造化できれば、理論上は年間約2,400万tのCO2削減につながると試算されています。
木を使うと、3つの経路でCO2が減る
木材が温暖化対策に効くのは、ひとつの理由ではありません。大きく3つの経路があります。木の中に炭素を閉じ込める「炭素貯蔵」、CO2集約的な鉄やコンクリートを置き換える「マテリアル代替」、そして端材を化石燃料の代わりに燃やす「燃料代替」。この3つを足し合わせると、構造材1m³あたりおよそ3.3t-CO2もの削減効果になります。
3.3tというと、ピンと来ないかもしれません。これは、ふつうの乗用車1.5台が1年間に出すCO2にほぼ匹敵する量です。日本の建築用木材の年間消費量(製材・合板・ボードなどの合計)約3,000万m³に当てはめれば、年間約1億t-CO2もの緩和ポテンシャルになります。欧州ではこの効果をいち早く制度に取り込み、フランスのRE2020規制(2022年施行)が新築建築物の建材由来CO2に上限を設けるなど、木造化を後押しする動きが広がっています。日本でも2025年以降、建築物LCAの算定義務化が議論される見通しです。
ただし、前提しだいで答えは揺れる
ここまで木材の優位を見てきましたが、ひとつ大事な注意があります。LCAの結果は、置く前提によってかなり動くのです。とくに効いてくるのが3つのパラメータ。「使用期間(何年使うか)」「廃棄後の処理(燃やすかリサイクルか)」「電力ミックス(製造に使う電気がどれだけクリーンか)」です。
たとえば木造を30年で建て替えて廃材を焼却し、現状の電力で計算すれば、木造の優位は1.3倍ほどに縮みます。一方、80年使って廃材をリサイクルし、脱炭素電力で計算すれば、優位は3倍近くにまで広がります。電力がうんとクリーンになれば、鉄の相対的な排出が下がって木材有利が逆転する場面すらありえます。だからこそ、LCAの数字を見るときは「どんなスコープ・前提・データで計算したのか」を確かめることが欠かせません。「木は環境にいい」を、条件抜きの結論にしないことが肝心です。
まとめ:選択基準が変わりつつある
木材1m³のライフサイクルCO2はおよそ100kg。鉄鋼の約53分の1、コンクリートの約3.4分の1で、炭素貯蔵まで含めればネットの排出は実質マイナスになります。木造住宅をRC造とくらべたときのCO2削減効果は約35t、3つの経路を合算すれば1m³あたり約3.3tの緩和ポテンシャル。これらの数字は前提に左右されるとはいえ、木材の優位そのものはおおむね揺るぎません。建築物LCAの普及やESG情報開示の広がりを背景に、住宅・建築の選び方は「コストとデザイン」から「コスト・デザイン・CO2」の3軸へと、静かに移り変わりつつあります。

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