カラマツ人工林100万haの戦後造林史|北海道50万ha・長野24万haの構造

カラマツ人工林 100万ha | Forest Eight

日本の人工林というとスギ・ヒノキを思い浮かべる方が多いと思いますが、第3の柱としてカラマツがあります。面積は約100万ha、人工林全体のおよそ1割。おもしろいのは、その分布が北海道と長野県にぐっと偏っていることです。この2道県だけで全国の約74%を占めます。なぜこんなに偏ったのか、そしていま再評価が進んでいるのはなぜか——歴史と数字を追いながら整理してみます。

目次

分布は北海道と長野に集中している

カラマツ人工林100万haのうち、北海道が約50万ha(全国の50%)、長野県が約24万ha(24%)。続いて岩手8万ha、山梨4万ha、福島3万haと並び、この上位5道県で全国の約89%に達します。北海道の50万haは道内人工林147万haの3分の1を占め、北海道林業の主力樹種となっています。

カラマツ人工林の都道府県別面積 北海道・長野・岩手等のカラマツ人工林面積を棒グラフで比較 カラマツ人工林面積(万ha) 北海道 50 長野 24 岩手 8 山梨 4 福島 3 青森 2.5 群馬 2 秋田 2 山形 1.5 北海道50万ha+長野24万ha=74%。冷涼地への極端な偏在
図1:カラマツ人工林の都道府県別面積(出典:林野庁「都道府県別森林資源の現況」2022年)

偏りの理由はシンプルで、カラマツの生育適地が冷涼地に限られるからです。年平均気温5〜10℃、水はけのよい火山灰土・褐色森林土を好み、これは北海道の道央〜道南、本州中部山岳の標高800〜1,500m帯、東北の山岳地帯にほぼ重なります。スギ・ヒノキが育ちにくい高標高・寒冷地に植える樹種としてカラマツが選ばれた——その積み重ねが、いまの極端な分布をつくりました。

信州で生まれ、北海道で広がった

カラマツ造林の起点は、明治期の長野県(信州)です。殖産興業の山地造林で、高標高地でも育つ樹種としてカラマツが選ばれ、信州大学農学部や県の林業試験場が育種・造林技術を体系化しました。「信州カラマツ」は戦前から建材・土木材・坑木材として全国に流通し、のちの北海道造林に向けた苗木供給と技術伝承の元にもなりました。

その北海道では、戦後の1950〜1970年代に大規模造林が一気に進みます。もともとトドマツ・エゾマツの天然林が中心でしたが、戦後復興期の旺盛な木材需要に応えるため、成長の早いカラマツが選ばれました。1955〜1975年の20年間、年1〜3万ha規模の植栽が続き、累計で50万ha規模に達します。

カラマツ植栽面積の経年推移 1950年代〜2020年代までのカラマツ年次植栽面積を棒グラフで示す カラマツ年次植栽面積の推移(万ha/年) 3.0 2.0 1.0 0 1950 1970 1990 2010 2020 3.8 1960年代がピーク(年3〜4万ha)。1980年代以降縮小、2020年代に微増回復
図2:カラマツ年次植栽面積の推移(出典:北海道・長野県等の林業統計をもとに概算)

ところが造林は1980年代以降、急速に細ります。素材価格の下落、住宅材として捻れ・狂いが大きいという弱点の顕在化、より付加価値の高いトドマツや道産広葉樹への植え替え志向——この3つが重なりました。1990〜2010年代の植栽は年3,000〜5,000ha水準まで落ち込みます。風向きが変わるのは2020年代。集成材・CLT原料としての需要が伸び、植栽が回復に転じました。

「使いにくい木」から「構造材」へ

カラマツは曲げ・圧縮の強度が針葉樹のなかでも高い部類で、密度・耐久性も優れます。一方で生材時の捻れ・狂い、脱脂の難しさがあり、戦後しばらくは住宅構造材としての評価は低め。坑木・土木用材・梱包材といった「低付加価値材」が主用途でした。

潮目を変えたのが、2000年代以降の高温乾燥・人工乾燥技術です。最大の弱点だった捻れ・狂いが大きく改善され、構造材としての活用が一気に進みました。とくに集成材・CLTの原料として、強度・寸法安定性・接着性の高さが再評価され、北海道・長野・岡山などのCLT工場で主原料になっています。用途の内訳は次のとおりです。

用途 需要量 構成比 動向
合板用材 約66万m³ 30% 北洋カラマツ代替で拡大
製材(構造材) 約55万m³ 25% 高温乾燥で改善
集成材・CLT原料 約44万m³ 20% 中大規模木造で急拡大
梱包・土木用材 約33万m³ 15% 伝統用途、横ばい
パルプ・燃料材 約22万m³ 10% バイオマス向け増加

価格はスギよりやや安い

カラマツの素材価格(中丸太)は2023年で12,800円/m³。スギの14,200円/m³よりやや低く、ヒノキ20,500円/m³の6割ほどです。1980年代の30,000円水準からは半値以下に下がっており、スギ・ヒノキと同じ長期デフレの構造のなかにあります。立木価格は2,400円/m³。ただし地域差が大きく、大量供給の北海道は1,800〜2,200円、信州ブランドのプレミアムが乗る長野は3,000〜3,500円と、2〜3割の開きがあります。CLT・集成材工場に近い地域ほど立木に値がつきやすい、という分かりやすい構図です。

ロシア材ショックが追い風になった

2000年代まで、日本の合板産業はロシア極東産の北洋カラマツを主原料にしていました。ところが2007年のロシア丸太輸出関税引き上げ(25%)、そして2022年以降のウクライナ侵攻に伴う制裁でロシア材の輸入が激減。国内の合板産業は、国産カラマツ・国産スギへの原料転換を一気に進めました。

合板原料に占める国産材比率の推移 合板原料の国産材比率を1990・2000・2010・2020・2023年で比較 合板原料の国産材比率の推移(%) 100 75 50 25 1990 2000 2010 2020 2023 3% 13% 50% 85% 90% 国産材転換でカラマツ・スギ需要が拡大、北洋カラマツ依存から脱却
図3:合板原料に占める国産材比率の推移(出典:林野庁「木材需給表」「合板産業統計」)

合板原料の国産材比率は2000年の約13%から2023年には90%水準へ。主役はカラマツ(とくに北海道産)とスギ(東北・九州産)に置き換わりました。北海道のカラマツ素材生産は合板工場の旺盛な調達に支えられ、年180〜200万m³規模で安定しています。CLT・集成材の需要拡大とあわせて、カラマツは2000年代以降で需要環境が最も好転した樹種のひとつと言っていいでしょう。

高齢化した森をどう更新するか

気になるのは森の年齢です。平均林齢は約54年で、標準伐期40〜45年を10年以上超えた過熟状態。41年生以上の主伐適期を迎えた林分が約75万ha(75%)に積み上がっています。これは戦後の一斉造林が一斉に高齢化した結果で、伐れる木が需要を上回る「資源過剰」の状態です。

潜在的な供給力は十分にある——これは強みです。一方で、主伐後にきちんと植え直す再造林率は4〜6割程度にとどまり、次世代の若い森が積み上がりにくいという課題も抱えます。北海道の年間カラマツ植栽は4,000〜6,000ha水準。再造林ではトドマツや道産広葉樹への転換も進みますが、注目株はグイマツ雑種です。これはカラマツとグイマツ(千島列島原産)のF1雑種で、成長量がカラマツの1.2〜1.5倍、ネズミ食害や雪害への耐性も高い。材質も実用上問題なく、北海道の国有林・道有林を中心に年2,000〜3,000ha規模で植えられています。

北海道と長野で役割が違う

同じカラマツでも、北海道と長野では立ち位置がはっきり分かれます。北海道産は合板・パルプ・集成材ラミナといった量産用途が中心で、素材生産の3分の2ほどが工業用原料へ。高度に機械化された大型集材システムで、生産性は20〜30m³/人日と本州山岳地のスギ・ヒノキ素材生産の2〜3倍に達します。地形が緩やかな平坦地が多いことが効いています。

対する長野産は、「信州唐松」「木曽カラマツ」「南信州カラマツ」といった地域ブランドを持ち、構造材・建具材・内装材など高付加価値用途への配分が多めです。素材生産量は年25〜30万m³と北海道より小さいものの、製品単価が高く、収益の組み立て方が北海道とは異なります。北海道がラミナを大量供給し、長野が高付加価値製品で磨く——両者の特性を活かした広域連携が、今後のカラマツ産業の発展軸として注目されています。

このさき20年

CLT建築の市場拡大により、カラマツ需要は2030年代に向けてさらに伸びる見込みです。鍵になるのは、CLT・集成材原料としての高付加価値化、グイマツ雑種など優良品種への世代交代、そして北海道林業を支える路網と労働力の確保。75万haという伐期到達資源を抱える北海道のカラマツが、本州の中大規模木造建築を支える「川上」として機能していく——使いにくい木と言われた時代から、ずいぶん遠くまで来たものだと思います。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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