スギやヒノキを植えても、伐れるようになるのは50〜60年後。植えた本人が収穫を見届けられないこの時間軸が、「伐ったあとに植え直さない」再造林離れの大きな理由になっています。そこで近年注目されているのが、20〜30年で主伐できる早生樹です。なかでも実用段階に入ったのが、家具材になる在来広葉樹のセンダンと、建築材として使える中国原産の針葉樹コウヨウザン。スギの2倍以上のスピードで育つこの2樹種は、林業の経済性をどう変えるのか――収益構造から課題まで見ていきます。
そもそも早生樹とは
早生樹は、在来樹種より成長が早く短い伐期で主伐できる樹種群を指します。日本で実用化が進むのは主に2つ。センダンは古くから神社仏閣の境内木として植えられてきた在来の落葉広葉樹で、淡黄褐色の美しい木目を持つ家具・内装用の高価値材。九州大学と林木育種センター九州育種場が優良系統を選抜し、20〜25年で主伐できます。もう一つのコウヨウザンは姿こそスギに似ていますが別系統の常緑針葉樹で、耐シロアリ性・耐腐朽性が高く、25〜30年で建築材として収穫可能。林野庁が2017年に造林樹種として正式認定しました。
両者の強みは、なんといっても成長の速さです。センダンは年8〜12m³/ha、コウヨウザンは年12〜18m³/ha。スギの5〜8m³/haと比べると、コウヨウザンは2倍以上のペースで蓄積を積み上げます。下のグラフは、樹種ごとの蓄積の伸び方を比べたものです。
1haあたりの収益で、スギを大きく上回る
センダンの標準的な経営(1ha・植栽1,000本・伐期22年)を見てみましょう。植栽コスト40万円、5〜10年の下刈・除伐に約30万円、間伐収入が約15万円、そして22年での主伐収入が約180万円。差し引きの純収益は約125万円/ha、内部収益率(IRR)にして年5〜6%です。スギの50年経営(IRR1〜2%)とは桁違いの効率になります。しかも22年スパンなら、50代の所有者が植栽から主伐まで自分で経営でき、世代をまたぐ問題を避けられる――この実務的なメリットも見逃せません。
コウヨウザン(1ha・2,000本・伐期27年)は植栽40万円・保育60万円・間伐30万円・主伐150万円で純収益約80万円、IRR4〜5%。建築構造材という巨大市場(年間需要約2,500万m³)に乗せられる可能性が魅力です。3樹種を並べると、その差は一目瞭然です。
ただし、この数字はあくまで適地での話。センダンは日照と肥沃な壌土を好む陽樹で、痩せ地や乾燥地、北向き斜面では成長が大きく落ちます。九州(福岡・大分・宮崎・鹿児島)の海抜400m以下が好適地で、年平均気温12度を下回ると成長量は30〜40%も低下します。適地を外せばスギより損失が大きくなるリスクすらある――つまり適地選定が成否の8割を握ります。
植栽はまだ600ha、中国地方と九州が中心
2023年時点の植栽実績は、コウヨウザンが約500ha、センダンが約100ha。コウヨウザンは広島(約120ha)・岡山(約80ha)・山口(約60ha)の中国地方が中心で、センダンは九州(福岡・大分・宮崎)に集中しています。広島県は2014年頃からコウヨウザンを本格化させ、全国最大規模の約120haを保有。庄原市・三次市で集約的に植栽し、試験林では植栽15年で平均樹高15m・胸高直径22cmと設計値を上回る成長を見せています。九州では九州大学と福岡県農林業総合試験場が「センダン経営マニュアル」を整備し、家具メーカーとの需要マッチングも進行中。八女市の森林組合では1haあたり主伐収入210万円という先行事例も報告されています。
本格普及を阻む4つの壁
数字の上では魅力的な早生樹ですが、広く普及させるには越えるべきハードルがあります。第1に苗木供給。センダン優良苗は年3〜5万本、コウヨウザンも年30万本程度で、これでは年30〜300haしか植えられません。国内年間造林面積3万haの1〜2%にすぎず、シェア10%(年3,000ha)を狙うなら苗木生産を10倍にする必要があります。第2に木材需要。センダンは家具材の既存需要があるものの流通量は限定的で、コウヨウザンの建築材としての市場はまだ確立途上。製材所やプレカット工場の標準ラインナップに載るには10年以上かかりそうです。
第3にシカ害。植栽後5年ほどは食害リスクが高く、とくにコウヨウザンの新芽はニホンジカの好物。広島の事例では防護柵のない区域で約30%が枯死しました。金網柵(1km当たり50〜80万円)や個別のツリーシェルター(1本300〜500円)が事実上の必須投資になります。第4に気候変動。温暖湿潤地を好む両樹種は、気温上昇で適地が北へ移動し、現在の植栽地が将来は不適地になる可能性も。北限が北関東付近から東北南部へ動くと見られ、機会と不確実性が同時に進みます。
「銀の弾丸」ではなく、ポートフォリオの一部として
早生樹は、すべての山をこれに置き換える万能薬ではありません。現実的には、既存のスギ・ヒノキ施業と組み合わせる「ポートフォリオの一部」として使うのが賢い。たとえば1,000ha規模の人工林なら、緩傾斜の好適地(2割)に早生樹を集中投下して短伐期で高回転させ、中傾斜の標準地(5割)はスギ・ヒノキを通常伐期で、急傾斜の低生産地(3割)は針広混交林や天然林へ――という傾斜に応じたゾーニングです。これで全体の年間素材生産量は約1.4倍、純収益は1.6倍に向上する試算が示されています。
| ゾーニング | 面積比 | 主要樹種 | 年間収益貢献 |
|---|---|---|---|
| 緩傾斜・好適地 | 20% | 早生樹(センダン・コウヨウザン) | 約45% |
| 中傾斜・標準地 | 50% | スギ・ヒノキ通常伐期 | 約45% |
| 急傾斜・低生産地 | 30% | 針広混交林・天然林 | 約10% |
補助の面でも追い風があります。早生樹植栽は通常の造林補助(補助率68%)の対象で、林野庁の「成長に優れた苗木による造林」枠で優先採択されるほか、広島・福岡などでは苗木代の30〜50%上乗せ補助も。市町村の森林環境譲与税を使った実証林の設置も広がっており、補助込みなら植栽1haあたりの実質負担は20万円前後まで下がります。さらにコウヨウザンは炭素固定量が大きく、J-クレジット(森林吸収源)の対象として1haあたり累積30〜45万円の副収入も見込めます。苗木と需要という2つの壁が10年以内に解消すれば、早生樹は年間造林面積の5〜10%を担う戦略樹種になっていくでしょう。
よくある疑問
センダンとコウヨウザン、どちらを選ぶ?
立地と用途で決まります。年平均気温14度以上の好適地で家具材市場が近ければセンダン、気温12〜15度で建築材を狙うならコウヨウザン。広島・岡山・山口の中国地方はコウヨウザン、九州中南部はセンダンが選ばれる傾向です。リスク分散として両樹種の混植も技術的には可能です。
苗木はすぐ手に入る?
センダン精英樹苗は九州大学や林野庁系の事業体で年3〜5万本、コウヨウザン苗は指定業者で年約30万本の生産です。前年度予約が基本で、新規参入地域では2〜3年待ちになることも。各県の林業普及指導員を通して発注すると確度が高まります。
シカ害対策は何をすればいい?
植栽後5年間は樹高が低く食害リスクが高いため、金網柵(2m高、1km当たり50〜80万円)か個別ツリーシェルター(1本300〜500円)の設置が標準です。広島の事例では柵ありで食害率5%以下、柵なしで30%超と差が歴然。初期投資ですが省けません。市町村のシカ捕獲事業との連携も効果的です。

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