森林経営計画は、所有者や森林組合が「これから5年、この山をどう手入れしていくか」を書き出して市町村長の認定を受ける制度です。2011年の森林法改正で生まれ、2022年度時点で約2,500計画・約400万haが認定されています。私有林1,440万haのおよそ28%、人工林に絞れば約40%。けっして飾りの書類ではありません。認定を取ると補助・税制・融資の優遇がまとめて付いてきて、標準的な100haの集約計画なら5年で1,200〜2,400万円規模の支援になります。山を持つ人・預かる人の経営判断を、お金の面から強く動かしている制度なのです。
「税制優遇目当ての薄い計画」を排除した制度
この制度は、もともとあった「森林施業計画」を作り直したものです。認定の入口は2通り。所有者ひとりで30ha以上を持っているか、複数の所有者をまとめて1団地100ha以上にするか。計画書には伐採・造林・路網整備の年次スケジュールと、合意した所有者の名簿を載せ、市町村長に申請します。審査はおおむね2〜3か月です。
旧制度から変わった肝は、所有者ごとではなく「まとまった一団の森林」を単位に据えたこと、認定を都道府県知事から市町村長に移して現場に近い行政が見るようにしたこと、そして集約化・路網整備・主伐後の再造林をセットで求めたことです。これによって、かつて多かった「税制優遇だけが目当ての中身の薄い計画」がふるい落とされ、実際に手を動かす計画だけが残るようになりました。不認定になるのは2〜3%ほど。多くは補正指示を受けて手直しし、認定にたどり着きます。
計画の有効期間は5年。5年目に新計画を出せば実質的に更新が続けられますが、その際は前の計画の達成率が問われます。林野庁の集計では達成率の平均は伐採量で76%、造林面積で82%、路網延長で71%。木材価格の変動や災害、所有者の交代といった外の事情で、計画と実績が1〜3割ずれるのは日常的で、変更申請の枠組みで吸収されています。
4つのインセンティブ:補助・税制・融資・長伐期
認定で得られる優遇は大きく4本柱です。順に中身を見ていきます。
補助の上乗せ。造林・間伐補助は認定区域だと補助率が約10%上乗せされ、ha当たり3〜5万円ほど負担が軽くなります。新植造林(標準工事費ha200万円)なら自己負担が40〜60万円まで圧縮される計算です。路網整備補助は年間予算の7割前後が認定区域に回る運用が定着しており、認定がないと採択で不利になる――つまり認定は補助金獲得の前提条件として働いています。
税制優遇。これが桁違いに大きい柱です。認定区域内の山林を相続すると、相続税の納税猶予が使え、評価額が80%減額されます。100haの山林(評価額3,000万円)なら評価額は600万円まで下がり、最高税率適用時で相続税はおよそ1,300万円減る。1,000ha級なら1.3億円規模の軽減です。山林所得には概算経費控除もあり、所得税を15〜30%圧縮できます。林業県の中大規模所有者が認定を強く志向するのは、ほぼこの税制が理由です。
融資優遇。日本政策金融公庫の林業基盤整備資金が認定区域では無利子になります。最大1億円・償還35年・据置20年という長期低利で、1億円借りれば35年で3,500〜5,250万円の利息軽減。5,000万円超の高性能林業機械を更新するときに効いてきます。
長伐期助成。標準50年の伐期を80〜100年へ延ばす長伐期施業を選ぶと、造林補助にha当たり5〜10万円が加算されます。投資回収に50〜80年かかる林業の超長期収益を、政策で下支えする仕組みです。
| インセンティブ | 内容 | 経済効果(標準ケース) |
|---|---|---|
| 造林・間伐補助上乗せ | 補助率10%上乗せ | ha当たり5〜9万円 |
| 路網補助の優先採択 | 予算の約7割を優先配分 | 採択率15%向上 |
| 山林相続税 | 納税猶予+評価8割減 | 百万円〜億円規模 |
| 林業基盤整備資金 | 無利子融資(最大1億円) | 35年で利息分の負担減 |
| 長伐期施業助成 | 伐期延長・再造林加算 | ha当たり5〜10万円 |
いくらの見返りになるのか
標準的な100ha集約計画で5年分を積み上げると、造林・間伐の補助上乗せ300〜500万円、路網優先200〜400万円、相続時の税制優遇で約500万円、長伐期助成200〜500万円。合計1,200〜2,400万円、ha当たりにすると12〜24万円の経済効果です。1,000ha計画でもha当たりの水準はほぼ同じで、規模の経済はきれいに線形に効きます。税制優遇は相続が起きたタイミング次第で大きく振れるので、相続事象がなければ補助・融資の枠内に収まる、という点だけ頭に入れておくとよいでしょう。
近ごろは、認定の有無が公共工事の入札参加要件のように働く場面も増えました。造林・間伐の公共発注では、認定事業体・認定区域での実績が技術評価点に反映され、認定なしだと実質的に応札で不利になる。認定はもはや「もらえる特典」というより、林業ビジネスに参入するための条件になりつつあります。
計画を作る主役は森林組合で、計画数の約6割を占めます。組合員150万人を通じて所有者情報を持ち、合意形成のノウハウを蓄えているからです。残りは認定林業事業体が約3割、所有者個人が約1割。1計画あたりの平均面積は1,600haと大きく、組合員100〜300人をまとめる「面的な団地計画」が標準形です。合意形成には半年から1年かかります。
制度が広がってきた実感は数字にも出ています。認定面積は2012年の100万haから2022年に400万haへと、10年で4倍。具体例を2つ挙げます。京都府南丹市の日吉町森林組合は、約1,800haを5計画に分けて認定取得。組合員約1,200人に延べ3,000戸超の個別訪問を重ね、18か月かけて合意をまとめました。認定後の補助で5年累計約3.5億円を獲得し、組合員1人あたり平均30万円を還元。機械化と路網整備でha当たり素材生産費を1.8万円から1.3万円へ約28%下げています。岐阜県中津川市のトヨタ自動車所有林(約1,750ha)は企業所有林の代表例で、伐期100年の長伐期と水源涵養を両立させた計画で5年累計約8,000万円を獲得。認定計画をサステナビリティ戦略の中核に組み込んでいます。
立ちはだかる「所有者不明」の壁
制度が万能かというと、そうではありません。運用の悩みは主に4つです。複数所有者を集約する100ha計画は、1人でも反対すれば頓挫します。私有林の25%・約360万haは所有者不明や連絡不能で、そもそも計画の対象にできません。計画書の作成費用は1計画50〜200万円かかり、推進主体の負担になります。そして5年の途中で市況が動けば、実績は計画からずれていきます。
とりわけ深刻なのが所有者不明の問題です。背景にあるのは相続未登記と共有名義の細分化。1筆の山が10〜20人の共有になっている例は林業県では珍しくなく、伐採方針の変更のような「処分行為」を含む計画は、共有者全員の同意が要る。1人でも所在不明なら計画化できません。森林経営管理法(2019年施行)の市町村集積計画はこの受け皿として作られましたが、市町村の人手不足で進みは鈍いのが実情です。なお作成費用には「森林経営計画作成サポート事業」で5〜7割の補助があり、所有者の負担はいくらか和らぎます。
2030年に私有林の半分へ
林野庁は森林・林業基本計画で、2030年までに認定面積を私有林の50%・約720万haへ広げる目標を掲げています。現状の400万haから320万haの上積み、年率約8%の増加が必要です。鍵を握るのは、やはり所有者不明森林360万haの処理。森林経営管理法の市町村集積計画と、2024年4月から始まった相続登記の義務化を組み合わせ、年間30〜50万haずつ計画対象に取り込めれば、2030年目標は現実的な射程に入ります。森林資源GISの全国統合や所有者情報DBの整備も並行して進んでおり、計画づくりの手間とコストを下げていく見込みです。お金の優遇という強い動機と、デジタルでの効率化。この両輪がそろってはじめて、半分という目標が見えてきます。

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