地球温暖化と森林|温暖化適応の森林管理

地球温暖化と森林 | Forest Eight

森林を歩いていると、ここ数十年で植生がじわじわ変わってきていることに気づく方もいるかもしれません。日本の年平均気温は1898年から2023年までの125年間で1.30℃上昇しており、特に1990年代以降の上がり方が速くなっています。森林は数十年から数百年かけてゆっくり遷移する生態系なので、この速さの気温変化に自然のペースでは追いつけない――そこに森林管理の難しさがあります。

この記事では、気候変動が日本の森林にどんな影響を与えているのか、そして「温暖化に適応する森林管理」としてどんな手が打たれているのかを、できるだけ数字に沿って整理します。生育適地のシフト、CO2吸収機能の変化、病害虫の拡大、そしてエリートツリーや長伐期施業といった具体策まで、順を追って見ていきましょう。

目次

気温上昇で森林の「適地」が動く

気候変動が森林にもたらす影響は、温度上昇による生育適地のシフト、降水パターン変化による水ストレス、病害虫の分布拡大、山火事リスクの上昇、開花・結実時期のずれによる生態系撹乱、と多岐にわたります。なかでも分かりやすいのが「適地が動く」現象です。

日本の年平均気温の長期変化 1900年から2100年までの観測値と予測値を折れ線で示す 日本の年平均気温の偏差(1991-2020年平年値比、℃) +4 +2 0 -1 1900 1950 2000 2050 2100 RCP8.5 +4.0℃ RCP2.6 +1.4℃ 観測(実線) 2024年 過去125年で+1.30℃。2100年の予測は排出シナリオで+1.4-+4.0℃と幅がある。
図1:日本の年平均気温の長期変化(出典:気象庁、IPCC AR6、環境省「日本の気候変動2020」)

2100年までの気温上昇幅は、排出シナリオによって+1.4℃(RCP2.6)から+4.0℃(RCP8.5)まで開きがあります。どちらに転んでも、森林にとっては「これまでの場所が適地でなくなる」変化です。

スギは北へ、ブナは山頂へ

森林総合研究所・国立環境研究所の生物気候モデルによれば、気温上昇下でスギの生育適地は北方へ100〜200km、標高で200〜400m上方へシフトすると予測されています。現在のスギ人工林444万haのうち、2100年時点で適地条件を満たす区域は60〜70%まで縮小し、特に九州・四国の低標高域では適地外に転落する区域が広く出てくる見込みです。ヒノキも同様で、夏の高温・乾燥ストレスへの弱さが課題になります。

温帯落葉広葉樹林を代表するブナは、最も強く影響を受ける樹種の一つです。現在のブナ林分布45万haのうち、RCP8.5シナリオでは2100年までに70%以上が適地外となり、本州中部の標高1,200m以上にだけ残る、という縮小予測が示されています。一方で暖温帯のシイ・カシ類は北へ分布を広げ、関東・中部の低標高域で拡大する見込み。樹種の地図そのものが書き換わっていくイメージです。

あわせて降水パターンも変わります。気象庁の予測では、1時間50mm以上の極端豪雨日数が現在比1.5〜2倍に増える一方、年間無降水日数も10〜15%増加します。「乾湿の振幅」が大きくなることで、根の発達が弱い若齢林や浅根性の樹種ほどストレスを受けやすくなります。

森林のCO2吸収は、いま減りつつある

森林は大気中のCO2を吸収する自然の炭素吸収源ですが、その吸収量は森林の齢構成・健全度・面積に左右されます。日本の森林CO2吸収量は2014年の5,260万t-CO2/年をピークに減少が続き、2022年には4,761万t-CO2/年になりました。理由はシンプルで、人工林の高齢化です。樹齢20〜40年の若齢林が最もよくCO2を吸うのに対し、主伐期に達した51年生以上の壮齢林は吸収速度が半減してしまうのです。

森林CO2吸収量の経年推移 2000年から2030年までの森林CO2吸収量推移と目標値を示す 森林CO2吸収量推移(万t-CO2/年) 6000 5000 4000 3000 2000 2000 2010 2014 2022 2030 5,260(ピーク) 4,761 3,800(目標) 2014年ピーク後は人工林の高齢化で吸収量減少。2030年目標達成には主伐+再造林の循環加速が必要。
図2:森林CO2吸収量の経年推移(出典:温室効果ガスインベントリオフィス、地球温暖化対策計画2021年)

2030年目標の3,800万t-CO2は、いまのまま放置すれば達成が難しい水準です。だからこそ、人工林の若返り(主伐後の再造林率向上)、エリートツリー導入による成長加速、抵抗性育種による被害抑制が、ひとつの政策セットとして組まれています。なお森林全体の炭素貯留量は2022年時点で約30億t-Cと、年間吸収量のおよそ230倍にあたる巨大な貯蔵庫。この貯蔵庫を維持・拡大できるかが、ネット吸収量を左右します。

あわせて2013年のインベントリ報告ガイドライン改定により、伐採木材製品(HWP)への炭素貯留も森林由来の貢献として算定されるようになりました。日本のHWP貯留量は2022年で年間約500万t-CO2。木造建築の長寿命化やCLT等の新製品で、この枠を年間1,000万t-CO2級まで広げる試算もあり、2030〜2050年に向けた吸収源拡張ルートとして注目されています。

温暖化に適応する森林管理――4本柱

林野庁は2018年策定の「気候変動適応計画(森林・林業分野)」と2021年改定の森林・林業基本計画にもとづき、温暖化適応の森林管理を主に4本柱で進めています。エリートツリーの普及、長伐期施業の拡大、抵抗性育種、針広混交林化。いずれも森林の物理的な健全性とCO2吸収機能を、同時に守ろうとする設計です。

適応策 具体的内容 2030年目標
エリートツリー 成長量1.5倍・少花粉・無花粉品種 植栽3割
長伐期施業 伐期80年以上、林冠安定化 +50万ha
抵抗性育種 マツ材線虫病・スギカミキリ抵抗性 品種登録10種
針広混交林化 広葉樹混生によるリスク分散 100万ha化
早生樹導入 コウヨウザン・センダン等 5万ha試行
再造林率向上 主伐跡地の確実な植林 60%

エリートツリー:成長1.5倍で、伐って植えるサイクルを速める

エリートツリーは、林木育種センターが選抜した第1世代精英樹のうち、成長量・通直性・材質に優れた個体を交配・選抜して開発した第2世代精英樹です。2018年時点でスギ182品種、ヒノキ45品種、カラマツ38品種が認定され、通常品種に比べ成長量が約1.5倍。伐期を50年から30〜35年程度まで短縮できる可能性があり、再造林サイクルを速めて若齢林期の活発な炭素吸収を増やす効果が期待されます。

とはいえ2022年時点の植栽率は全国平均で約12%。2030年目標の3割にはまだ開きがあります。苗木の供給が需要に追いつかない(採種園・採穂園の整備に10年以上かかる)、林家への普及啓発が足りない、補助制度に地域差がある、といった事情が背景です。林野庁は採種・採穂園の拡大、補助単価の上乗せ、コンテナ苗との組み合わせによる植栽効率化を進めています。少花粉・無花粉品種を併用すれば花粉症対策にもなる――この一石二鳥の点が政策的にも重視されています。

長伐期施業と針広混交林化

長伐期施業(伐期80年以上)は、林冠の安定・土壌炭素貯留・大径材生産を同時に狙う施業です。基本計画は2030年までに50万ha追加する目標を掲げ、保安林や水源涵養林など公益機能の高い森林で重点的に進められます。課題は経済性で、施業期間が延びるほど下刈・除伐コストが積み上がり、主伐収益も後ろ倒しになります。森林環境譲与税やJ-クレジット連携による収益補完を組み合わせた支援が整備されつつあります。

もう一つの針広混交林化は、針葉樹単純林に広葉樹を混ぜることで、病害虫・気象害・山火事のリスクを分散する狙いです。特定樹種への被害が他樹種に波及しにくくなり、生物多様性も上がります。基本計画では2030年までに100万haの混交林化を目標とし、スギ・ヒノキ人工林1,020万haのおよそ1割にあたる規模感です。

気温上昇で広がる病害虫

気温が上がると、森林病害虫の活動範囲も広がります。代表例がマツノマダラカミキリを媒介者とするマツ材線虫病で、1980年代以降の被害材積は累計1億m³規模に達し、アカマツ・クロマツ人工林の大部分を失わせました。かつて秋田県中部だった被害北限は、いまや青森県津軽地方まで北上し、北海道道南でも一部発生が確認されています。気温上昇で媒介昆虫の越冬・繁殖条件が広がったためです。

もう一つがナラ枯れ。カシノナガキクイムシが媒介するナラ類の集団枯損で、2010年に被害材積33万m³とピークを打った後、対策強化で漸減し2022年は19万m³となりました。コナラ・ミズナラの大径木を狙って枯らすため、薪炭林として管理されてきた里山の広葉樹林に深刻な打撃を与えています。

これに対し、林木育種センターは抵抗性アカマツ・クロマツ・テーダマツを育成し、すでに18品種が登録済みです。抵抗性個体は感染しても枯死率が大幅に低く、被害林の再造林に活用されています。ナラ枯れについてもコナラ抵抗性系統の選抜が進み、2030年までに数品種の登録が見込まれます。抵抗性育種は、いわば森林のワクチンに相当する基盤技術です。

制度と地域でどう動いているか

2021年6月に閣議決定された森林・林業基本計画は、温暖化対応を基本軸の一つに据え、2030年目標として木材自給率50%、国産材供給量4,200万m³、森林吸収量3,800万t-CO2を設定しています。これらを達成するには、主伐・再造林サイクルの加速、エリートツリー普及、長伐期施業拡大、地域材活用、木造建築推進が同時並行で進む必要があります。年間500〜600億円規模の森林環境譲与税は、市町村単位での再造林・間伐・路網整備の財源として、こうした若返り政策を支えています。

影響の出方には地域差があります。九州・四国・東海など暖温帯では夏の高温・乾燥でスギ・ヒノキの衰退リスクが高く、東北・北海道ではエゾマツ・トドマツなど寒冷地針葉樹の適地縮小が課題に。とくに北海道はトドマツ・エゾマツ・カラマツが主要造林樹種で、針葉樹適地の縮小が他地域より先鋭的に現れます。トドマツは北部・東部のみが2100年に適地として残る予測で、カラマツへの樹種転換も現実的な選択肢として議論され、北海道立林業試験場では複数樹種の混植試験が続けられています。中部・関東山地のブナ林は最大の影響地域で、保護林・自然公園内での長期モニタリングが拡充されています。

あわせて、適応投資の経済性を支える金融の仕組みも動いています。J-クレジット制度のFO方法論(森林管理プロジェクト)では、適切な施業による炭素貯留増加を1tCO2あたり1,500〜3,000円のクレジットとして認定・取引でき、エリートツリー植栽や長伐期施業転換が投資回収を補う収益源になります。グリーンボンドの拡大で、自治体や林業事業体が森林整備の資金を低利で調達できるルートも広がりつつあります。

よくある質問

Q. 森林CO2吸収量はなぜ減っているのですか?

2014年の5,260万t-CO2/年をピークに減少しているのは、人工林の高齢化が主な原因です。樹齢20〜40年の若齢林がCO2を最もよく吸うのに対し、51年生以上の壮齢林は吸収速度が半減します。日本の人工林は51年生以上が約6割を占めるため、主伐して植え直す「若返り」が吸収量回復の鍵になります。

Q. エリートツリーとは何ですか?

林木育種センターが選抜・交配した第2世代精英樹で、通常品種比1.5倍の成長量と、少花粉・無花粉という特性を持ちます。スギ182品種・ヒノキ45品種が認定済み(2018年時点)。伐期短縮による再造林サイクルの加速と、花粉症対策の両面で温暖化対応の要となる品種で、2030年に植栽率3割が目標です。

Q. 林業者は気候変動適応として何から始めればよいですか?

まずはエリートツリー苗の選択と、再造林率の向上(主伐後3年以内の確実な植林)が出発点です。あわせて針広混交林化や長伐期施業への転換、GIS・衛星モニタリングなど森林管理のデジタル化を検討するとよいでしょう。森林環境譲与税や造林補助金、J-クレジットといった政策ツールと連動させて経営計画に組み込むのが現実的です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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