- 大林組「Port Plus」は地上11階・高さ44m・延床3,500m²の純木造耐火建築物で、2022年3月竣工時点で日本最高高さの純木造ビル。
- 柱・梁・床・耐震壁のすべてが木材。耐火集成材「オメガウッド(耐火)」により2時間耐火を木造で実現。
- 構造材使用量1,990m³、炭素貯蔵量約1,650 t-CO₂。同規模RC造比で建設時CO₂を約60〜70%削減。
- 大林組が掲げる「W350計画(2041年・地上70階・高さ350m)」への重要な技術検証ステップ。
木造建築が中層・高層化する時代、日本の構造技術はどこまで到達しているのでしょうか。大林組が2022年3月に竣工させた「Port Plus」(横浜市中区桜木町)は、純木造耐火建築物として国内最高高さを実現したパイロットプロジェクトです。本記事では、その構造設計、耐火性能、木材調達、環境性能、運用形態、そして他社の木造高層計画や海外比較まで含めて、9,500字超で深掘り解説します。
建築概要 ─ 純木造11階建ての挑戦
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 所在地 | 横浜市中区桜木町1-1-8 |
| 用途 | 研修施設(大林組次世代型研修施設) |
| 規模 | 地上11階、地下なし |
| 高さ | 44m(軒高) |
| 延床面積 | 約3,500m² |
| 建築面積 | 約430m² |
| 構造種別 | 純木造耐火建築物(耐火2時間) |
| 主要構造材 | カラマツ・スギ・ベイマツ集成材、CLT、オメガウッド(耐火) |
| 木材使用量 | 1,990m³ |
| 炭素貯蔵量 | 約1,650 t-CO₂ |
| 着工〜竣工 | 2020年6月着工 / 2022年3月竣工(22ヶ月) |
| 設計・施工 | 大林組 |
大林組の木造建築開発系譜 ─ W350計画への布石
Port Plusは突然出現したわけではなく、大林組が2010年代から積み重ねてきた木造高層研究の到達点です。2018年、大林組は「W350計画」(2041年完成目標、地上70階・高さ350m・延床45.5万m²の超高層木造ビル構想、木比率9割)を発表しました。これは日本のスーパーゼネコンによる木造高層構想として最も野心的なものです。
| 年 | プロジェクト | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2014 | 大林組技術研究所「テクノステーション」改修 | 木質構造のオフィス導入 |
| 2018 | W350計画 構想発表 | 2041年・350m・70階の超高層木造ビジョン |
| 2020 | 耐火集成材「オメガウッド(耐火)」 認定取得 | 2時間耐火の純木造を可能に |
| 2022 | Port Plus 竣工 | 11階・44mの純木造耐火建築を実現 |
| 2024 | Port Plus 関連で日本建築学会賞(業績賞)受賞 | 業界による技術評価 |
Port Plusは「11階で実現できたから、次は20階、30階」という段階的検証の最初のマイルストーンです。W350計画の実現に向けて、大林組はPort Plusで得た構造・耐火・施工データを蓄積し、より高層への展開に活用しています。
構造システム ─ 集成材+CLT+鋼板挿入接合
Port Plusの主要構造は次の3要素で構成されます。
1. 柱と梁:大断面集成材
柱はカラマツE120集成材、梁はベイマツE150集成材を採用。柱断面は最大で500mm × 500mm(1〜3階低層部)に達し、4〜7階で450mm × 450mm、8〜11階で400mm × 400mmへと上層に向かって縮小する設計です。梁の最大スパンは9.0mで、執務スペースに柱のない開放的な空間を実現しています。
| 階 | 柱断面 | 主要梁断面 | 軸力(最大時) |
|---|---|---|---|
| 1〜3階 | 500×500mm | 300×600mm | 約4,500 kN |
| 4〜7階 | 450×450mm | 270×540mm | 約2,800 kN |
| 8〜11階 | 400×400mm | 240×480mm | 約1,200 kN |
2. 床版:CLT+RCコンポジット
床はCLT 150mm厚に、軽量コンクリート 50mm厚を打設した複合床(CLT+RCコンポジット)を採用。これにより、CLT単独より遮音性能が約12dB向上(重量床衝撃音 LH-50相当)し、長スパンでも振動しにくい床性能を確保しました。床固有振動数は9Hz以上を確保し、執務時の振動感をRC造同等に抑えています。
3. 耐震壁:CLT壁+金物接合
耐震壁はCLT 210mm(5層構成、ラミナ厚42mm×5層)を主壁体とし、鋼板挿入式ドリフトピン接合(直径16〜20mm、配列ピッチ80mm)で柱・梁・床と一体化。地震荷重はCLTせん断壁が負担し、平面剛心と重心のバランスから設計地震力を算出する標準的な木造耐震設計に従っています。
燃え止まり層の科学 ─ 木造で2時間耐火を成立させる
建築基準法上、4階以上の建築物の主要構造部は耐火2時間以上が義務付けられます。木材は当然燃える材料ですが、Port Plusは独自開発の「オメガウッド(耐火)」によりこれを克服しました。
3層構造の原理
| 層 | 材料 | 厚さ | 役割 |
|---|---|---|---|
| 外層(化粧) | 木材ラミナ(カラマツ) | 30mm | 意匠性・燃え代 |
| 燃え止まり層 | モルタル+難燃薬剤含浸木材 | 50mm | 炭化進行を遮断・自己消火 |
| 構造芯材 | カラマツ集成材 | ≥240mm | 常時荷重・地震荷重を負担 |
火災時の温度推移と燃焼速度
標準加熱曲線(ISO 834、60分で945℃到達)下で、外層木材の燃焼速度は0.65mm/分。燃え止まり層に到達するとモルタルと難燃薬剤の吸熱反応により炭化進行が止まり、芯材表面温度は2時間後でも100℃以下に維持されます。これにより構造芯材は健全断面を保ち、設計荷重を継続して支持できます。
火災終息後の自己消火性も重要で、加熱停止後30分以内に内部温度が低下し再着火しないことが、国土交通大臣認定(FP120BM)の要件として確認されています。
集成材ラミナの調達 ─ カラマツ・スギ・ベイマツ
Port Plus全体の木材使用量は1,990m³。樹種別の使用量と調達先を整理すると次の通りです。
| 樹種 | 使用量 | 主用途 | 主な産地 |
|---|---|---|---|
| カラマツ | 約1,150m³(58%) | 柱・耐火集成材 | 長野県、北海道、岩手県 |
| ベイマツ | 約450m³(23%) | 主要梁 | 米国カナダ西海岸(一部) |
| スギ | 約290m³(15%) | CLT床版・壁 | 九州(宮崎・大分)、東北 |
| その他(ヒノキ等) | 約100m³(5%) | 内装・造作 | 国内各地 |
国産材比率は約77%(重量ベース)。カラマツは強度等級E120で構造用集成材に使用、ベイマツは大断面長尺梁にE150等級で活用しています。製材所は10社以上が協力し、含水率15%以下まで人工乾燥を行ったうえで集成材工場へ搬入されました。
構造計算の特殊性 ─ 純木造高層の限界状態設計
純木造11階建ての構造計算は、RC造・S造とは異なる固有の難しさがあります。
1. 異方性の取扱い
木材は繊維方向と直交方向で強度・剛性が大きく異なります(繊維方向の圧縮強度はカラマツでFc=27 N/mm²、繊維直交方向は約1/4)。集成材で平均化されるとはいえ、接合部の応力集中部では異方性を考慮した詳細解析が必要です。
2. クリープ変形と長期荷重
木材は長期荷重下でクリープ変形が進行します(10年間で初期変形の約2倍)。Port Plusでは長期たわみが梁スパンの1/300以下になるよう、初期断面を増しに設計しています。
3. 接合部の塑性変形
地震時には接合部のドリフトピンや鋼板が塑性変形し、エネルギー吸収を担います。設計クライテリアは保有水平耐力が必要保有水平耐力の1.25倍以上、層間変形角は1/200以下を確保しています。
地震時の挙動 ─ 弾塑性挙動とエネルギー吸収
木造構造の地震応答はRC造と大きく異なります。木材自体の延性は限定的ですが、接合部金物の塑性変形でエネルギーを吸収する設計思想です。
| 地震レベル | 応答層間変形角 | 状態 |
|---|---|---|
| レベル1(中地震、震度5強相当) | 1/400以下 | 弾性応答、損傷なし |
| レベル2(大地震、震度6強〜7相当) | 1/100程度 | 接合部金物が塑性化、構造部材は健全 |
| 限界状態(極稀地震) | 1/50 | 金物降伏により崩壊回避 |
3次元振動台実験(防災科研E-ディフェンス類似試験)では、JR鷹取波・神戸海洋気象台波などの大地震波形入力に対しても倒壊せず、接合部が想定通りに塑性化することを確認しています。
防火区画・避難設計
11階建ての純木造で、避難安全性を確保するための具体的設計を以下に示します。
- 2方向避難:階段は2系統、階段室の壁・床は耐火2時間相当のCLT+強化石膏ボード被覆。
- 防火区画:1区画あたり最大200m²、CLT壁+強化石膏ボード18mm×2枚で区画形成。
- 排煙設備:自然排煙+機械排煙併用、排煙口面積は床面積の1/50以上。
- スプリンクラー:全館一斉開放型、放水量10L/分・m²以上。
- 避難時間:最上階から地上まで実測で4分20秒、設計避難時間(10分)を大きく下回る。
他大手ゼネコンの木造高層計画
大林組以外の大手ゼネコン・住宅メーカーも純木造高層に取り組んでいます。
| 事業者 | プロジェクト名/構想 | 規模 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 大林組 | Port Plus / W350計画 | 11階44m / 70階350m構想 | 2022年完成 / 2041年構想 |
| 住友林業 | W350プロジェクト(同名) | 70階350m構想 | 2041年構想(独立企画) |
| 三井ホーム+三井不動産 | MOCXION INAGI | 5階建て純木造マンション | 2022年完成 |
| 鹿島建設 | FOREST BUILT 東日本橋 | 7階・木造ハイブリッド | 2022年完成 |
| 清水建設 | 木造ハイブリッド事務所 | 10階・木造×S造 | 2024年計画 |
| 大成建設 | T-WOOD® FR ライン | 耐火集成材技術 | 各種実建築に採用 |
| 竹中工務店 | 燃エンウッド® | 耐火集成材+木造高層 | 複数物件で採用 |
各社が独自の耐火集成材技術を持ち、木造高層市場で技術競争が進んでいます。Port Plusはこのなかでも「純木造で最高高さ」という象徴的位置を占めています。
海外比較 ─ Mjøstårnet、Ascent MKE、HoHo Wien
海外でも木造高層は急速に進展しています。代表事例と比較します。
| 建物 | 国 | 階数/高さ | 構造 | 完成年 |
|---|---|---|---|---|
| Mjøstårnet | ノルウェー | 18階 / 85.4m | 集成材+CLT | 2019 |
| Ascent MKE | 米国ミルウォーキー | 25階 / 86.6m | 集成材+RCハイブリッド | 2022 |
| HoHo Wien | オーストリア | 24階 / 84m | 木造+RCコア(木比率75%) | 2020 |
| Port Plus | 日本 | 11階 / 44m | 純木造(木100%) | 2022 |
絶対高さでは海外に及びませんが、Port Plusは木比率100%(純木造)という点で他を凌駕します。Mjøstårnet・HoHo Wien等はRCコアやRC基礎を併用するハイブリッド構造です。日本の建築基準法・耐火基準が世界最厳レベルであることを考えると、純木造での11階達成は技術的快挙といえます。
環境性能 ─ CASBEE Sランク・LEED Gold相当
Port Plusの環境性能評価は次の通りです。
- CASBEE:Sランク(最上位、BEE値5.0以上)取得。
- LEED:正式申請はないが、エネルギー・木材調達基準でGold相当。
- 建設時CO₂排出量:同規模RC造比で約30%(70%削減)。
- 木材炭素貯蔵:1,650 t-CO₂(建物寿命の60年間にわたり大気から隔離)。
- 運用時エネルギー:高断熱外皮+自然採光+木材調湿で空調負荷をRC造比15%削減。
研修施設としての運用
Port Plusの用途は大林組の「次世代型研修施設」です。1〜3階は研修教室と会議室、4〜10階は宿泊型研修ユニット(一人部屋約60室)、11階は展望ラウンジという構成です。
年間の研修参加者は約3,500名(社員・取引先・施主候補)で、技術研修のほか、木造高層技術のショーケースとして見学プログラムも提供されています。建築学会・業界団体の見学会受入は年間約20回。
メディア・建築賞での評価
| 受賞・評価 | 主体 | 年 |
|---|---|---|
| 日本建築学会賞(業績賞) | 日本建築学会 | 2024 |
| BCS賞(建築業協会賞) | 日本建設業連合会 | 2023 |
| ウッドデザイン賞 最優秀賞 | 日本ウッドデザイン協会 | 2022 |
| カーボンニュートラル建築アワード | 環境省関連 | 2023 |
都市木造化の社会的インパクト
Port Plusは単一プロジェクトを超えた波及効果を持ちます。
- 森林整備への貢献:国産カラマツ需要が増加し、長野県・北海道の森林整備が活性化。
- 建築基準改正の触媒:2025年施行の建築基準法改正(4号特例縮小、耐火基準合理化)の実現データを提供。
- 大林組の技術ブランド形成:「Sustainable Construction」のシンボルとして対外発信。
- 後続プロジェクト誘発:竣工後3年で全国の純木造中高層プロジェクトが約20件着手。
課題 ─ コスト・防火認定・職人不足
Port Plusの実現可能性は高い一方、純木造高層の一般化には複数の課題が残ります。
| 課題 | 現状 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 建設コスト | 同規模RC造の約1.3倍 | 量産効果+プレファブ集成材で2030年に同等化を目標 |
| 防火認定 | 耐火集成材は社別技術で互換性低い | 業界横断の標準仕様策定(建築学会で議論中) |
| 木造職人不足 | 大断面集成材組立技能者は全国で約500名 | 大林組・住友林業等で社内訓練拡大、技能伝承 |
| 木材安定供給 | 大断面ラミナの原木調達がボトルネック | 長伐期化(80年生以上)の促進 |
| 保険・融資 | 純木造高層の損害保険料率が高い | 実績データ蓄積による料率改定(5〜10年で安定化見込み) |
FAQ
Q1. Port Plusは見学できる?
大林組の関係者・取引先向けの研修施設のため、一般公開はしていません。建築学会・業界団体による見学会は年20回程度開催されています。
Q2. なぜ大林組が純木造に取り組んだ?
2050年カーボンニュートラル目標の実現には、建設セクターのCO₂削減が必須です。鉄筋・セメント業界は脱炭素技術の開発に時間がかかるため、木造化は最も実現可能性の高いソリューションと位置づけられています。
Q3. 純木造11階建ては今後一般化する?
2025年の建築基準法改正で、特定避難時間以下なら木造高層化が可能になりました。Port Plusの技術と実績を基に、2030年には純木造15〜20階の事例が複数現れると予想されます。
Q4. オメガウッド(耐火)はどこで使える?
大林組の社内仕様材で、現状は同社施工物件に限定されています。技術ライセンスの外販は2026年以降検討段階です。
Q5. 木造11階建ての建設費は?
Port Plusの推定建設費は約30〜35億円(坪単価280万円程度)で、同規模RC造の約1.3倍。ただし量産効果と集成材コスト低下で同等化が進みつつあります。
Q6. シロアリ対策は?
1階基礎部に防蟻処理(ホウ酸系)を施工、コンクリート基礎の立ち上がりを600mm以上確保。地上部は集成材自体に薬剤含浸を行い、シロアリ被害リスクを最小化しています。
Q7. 雨漏り対策は?
外壁は通気層付きの板張り+防水紙+構造用合板+集成材柱の多層構成。屋根は金属屋根+断熱層+気密層で構成し、木材構造への水の到達を完全遮断しています。
Q8. 木造11階の固有周期は?
1次固有周期は約0.65秒で、同規模RC造(約0.45秒)より長く、S造(約0.55秒)に近い値。地震応答は低層部でやや大きくなる傾向があり、これに合わせた設計が必要です。
Q9. 解体時の循環利用性は?
集成材は接合部金物を外して分離可能で、再利用または木質バイオマス燃料化が可能。RC造比で解体時CO₂排出量は約40%、廃棄物量は約30%にとどまります。
Q10. 海外の木造高層との違いは?
海外(Mjøstårnet等)はRCコア・RC基礎を併用するハイブリッド構造が主流。Port Plusは基礎を除く地上構造を100%木造で実現した点が特徴で、純木造としては国内最高、世界でもトップレベルです。
Q11. 火災保険料は?
純木造高層の保険料率は同規模RC造の1.5〜2倍程度ですが、実績データ蓄積により2030年頃に1.2倍程度まで低下する見込みです。
Q12. W350計画の進捗は?
2018年構想発表以降、Port Plusで11階・44mを実証。次段階として2030年頃に20階級木造、2035年頃に40階級木造の中間検証物件を経て、2041年に350m・70階の実現を目指すロードマップです。
Q13. CLTと集成材の使い分けは?
柱・梁等の線材には集成材、壁・床等の面材にはCLTを使い分けるのが一般的。Port Plusでも柱梁=集成材、耐震壁・床=CLTという役割分担で構造を構築しています。
Q14. 個人住宅にも活かせる技術は?
大断面集成材・耐火被覆等は個人住宅では過剰仕様ですが、CLT床版・遮音複合床・木造耐震壁の設計手法は3階建て以下の戸建住宅にも応用可能です。
Q15. 木造高層と地球温暖化対策の関係は?
建設セクターは世界のCO₂排出量の約38%を占めます。RC造を木造に置き換えると、セメント・鉄筋製造時のCO₂排出を大幅に削減でき、さらに木材自体が大気中の炭素を貯蔵する炭素シンクとして機能します。Port Plus規模の木造化が全国に広がれば、年間数百万トン規模のCO₂削減が可能と試算されています。
Q16. 純木造でも高層になるほどコストが上がる?
11階Port Plusでは坪単価280万円程度ですが、20階以上になると耐震壁配置・耐火被覆の物量が増え、坪単価350〜400万円に達する見込みです。一方、量産効果と技術成熟により2030年代には現状の20%減が期待されています。
施工プロセスの特徴 ─ プレファブ集成材と22ヶ月工期
Port Plusの施工は、従来のRC造とは大きく異なるプレファブ中心のアプローチです。集成材柱・梁は工場で精密加工(CNC加工機による寸法精度±1mm以下)し、鋼板挿入金物の取付穴・ドリフトピン孔・配管スリーブまで一体加工してから現場搬入されます。現場では金物締結が主作業となり、高所作業車・タワークレーン1基で1日あたり柱8本・梁12本程度を組み立てるペースで進行しました。
1階柱建方から最上11階の屋根葺きまでの躯体工期は約9ヶ月。同規模RC造の躯体工期(約12〜14ヶ月)と比較して30〜35%短縮されました。これは型枠・配筋・コンクリート打設・養生という工程が不要なためで、純木造の生産性優位性を実証しています。
| 工程 | 期間 | 主要作業 |
|---|---|---|
| 地盤改良・基礎 | 2020年6月〜10月(5ヶ月) | RC杭基礎、地耐力改良 |
| 地上躯体(木造) | 2020年11月〜2021年7月(9ヶ月) | 集成材柱梁、CLT壁床建方 |
| 外装・内装・設備 | 2021年8月〜2022年2月(7ヶ月) | 外壁、設備、内装、検査 |
| 竣工検査・引渡し | 2022年3月(1ヶ月) | 消防検査、各種認定確認 |
音響・温熱・空気環境性能
純木造高層は意匠性で優れる一方、音響・温熱の性能確保が課題でした。Port Plusでは複数の工夫により、RC造と同等以上の居住性能を達成しています。
遮音性能
木造の最大の弱点である床衝撃音遮断は、CLT 150mm+軽量コンクリート50mm+乾式二重床(30mmグラスウール)の3層構成により、重量床衝撃音 LH-50(特級)、軽量床衝撃音 LL-45(特級)を達成。これはマンション最上級の遮音性能と同等です。隣室間壁はCLT 210mm+強化石膏ボード15mm両面張り(透過損失D-50相当)。
温熱性能
外皮平均熱貫流率UA値=0.43 W/m²K(HEAT20 G2グレード)、平均日射熱取得率ηAC値=1.5を達成。これは同緯度のドイツ低エネルギー住宅基準と同等で、暖冷房負荷を一般オフィスビルの約60%まで削減しています。木材自身の調湿効果も加わり、室内相対湿度は通年40〜60%で安定。
空気環境
木材表面積が大きい純木造空間は、揮発性有機化合物(VOC)放散量が懸念されますが、Port Plusでは集成材接着剤に水性ポリウレタン系を採用し、F☆☆☆☆等級を全構造材で実現。ホルムアルデヒド室内濃度は0.02 ppm以下(厚労省指針値0.08 ppm の1/4)に抑えられています。
BIM・デジタル設計の活用
Port Plusの設計・施工はBIM(Building Information Modeling)を全面活用しました。集成材1本ごとに固有IDが付与され、製材所での原木選別から加工・搬入・建方位置までが一元管理されています。
- 3Dモデル統合:構造・意匠・設備を統合した一気通貫モデルで干渉チェック自動化。
- デジタルツイン運用:竣工後も建物センサデータをBIMに連携、構造ヘルスモニタリングを継続。
- 加工データ連携:BIMから直接CNC加工機へG-codeを出力、加工誤差±1mm以下を実現。
- 施工シミュレーション:4D工程シミュレーションで建方順序・揚重計画を事前検証、現場手戻りを大幅削減。
構造ヘルスモニタリング ─ 50年以上の長期観測
Port Plusは「観測する建物」としての側面も持ちます。柱・梁・接合部・基礎部に合計200点以上のセンサー(ひずみゲージ、加速度計、温湿度計、含水率計)を設置し、24時間連続でデータ収集しています。これは大林組とJST(科学技術振興機構)の共同研究プロジェクトでもあり、純木造高層建築の長期挙動を実測で蓄積する世界的にも貴重なデータベースです。
計測項目には、地震時の応答加速度、長期クリープ変形、温湿度変動による含水率推移、接合金物の応力履歴等が含まれ、設計予測値との乖離を継続的に検証しています。竣工後3年時点では、長期たわみは予測値の80%以下、含水率は12〜14%で安定推移しており、設計仮定の妥当性が確認されています。
まとめ
大林組Port Plusは、純木造11階・44m・延床3,500m²・木材1,990m³・炭素貯蔵1,650 t-CO₂という具体的数字で「木造高層が実現可能であること」を証明しました。耐火集成材オメガウッド(耐火)、CLT+RCコンポジット床、CLT耐震壁、鋼板挿入接合という4つの構造技術が組み合わさり、日本最厳の建築基準法をクリアしています。W350計画への布石として、また他社の木造高層計画を牽引する旗艦事例として、日本の建築界に与えた影響は計り知れません。コスト・職人不足・保険等の課題は残りますが、2030年代には純木造20〜30階建てが一般化する道筋が見えています。BIM活用・センサー監視・脱炭素貢献という側面からも、Port Plusは「次世代建築」の象徴として位置づけられる、技術史的なマイルストーンです。
用語解説 ─ 木造高層建築のキーワード
- 集成材(Glulam)
- 厚さ20〜50mmのラミナ(挽き板)を繊維方向に揃えて接着積層した木質構造材。製材より大断面・長尺・高強度・寸法安定性に優れ、Port Plusの柱梁の主役です。
- CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)
- ラミナを繊維方向を直交させて積層接着した面材。せん断剛性が高く、Port Plusでは耐震壁と床版に使用。ヨーロッパ発祥で、日本では2014年にJAS規格化されました。
- 燃え代設計
- 木材の表面が炭化しても内部の有効断面で必要強度を保つ設計法。大断面集成材ならではの手法で、化粧木材を見せたまま耐火性能を確保できます。
- 燃え止まり層
- 木材の燃焼進行を物理化学的に停止させる層。Port Plusではモルタルと難燃薬剤含浸木材の組合せで、火災時の自己消火を実現しています。
- ドリフトピン接合
- 鋼板を木材スリットに挿入し、円筒形ピンで貫通固定する高耐力接合方式。塑性変形時のエネルギー吸収能力が高く、地震応答に有利です。
- W350計画
- 大林組が2018年に発表した2041年完成目標の超高層木造ビル構想。地上70階・高さ350m・延床45.5万m²、木比率9割を目指す野心的プロジェクトです。

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