森林の管理は「林班(りんぱん)」と「小班(しょうはん)」という区画の単位で動いています。全国2,505万haの森は、尾根や谷、道路といった境界で区切られた林班に分けられ、その中をさらに樹種や林齢のそろった小さなまとまり=小班に細分する、という入れ子の仕組みです。伐採の届出も、補助金の申請も、森林経営計画の認定も、J-クレジットも――森にまつわるあらゆる手続きが、この単位を起点に進みます。ふだん目にすることのない言葉ですが、林業のいわば「住所」にあたる大切な概念です。
森林の「住所」としての階層
この階層体系は、明治期に導入されたヨーロッパ林学の区画法の流れをくむものとされています。日本では「森林計画区→林班→小班」の3層に整理され、林班は尾根線・谷線・道路・河川・行政界といった境界で囲まれた一団の森を、小班はその中で樹種・林齢・林相・所有者・施業がほぼ同じになる区域を指します。
住所のように番号がふられるのも特徴で、「1林班イ1小班」のように林班番号(数字)→小林班(カナ)→小班番号(数字)で表します。地域によっては小林班を省いて「1林班1小班」としたり、枝番をつけたりと、運用の細部は都道府県・市町村ごとにまちまちです。林野庁は森林情報のデジタル化・オープンデータ化にあわせて記法や属性項目の標準化を進めていますが、いまも地域固有のやり方が並んで残っています。
民有林については、全国が158の森林計画区に分けられ、都道府県知事が5年ごとに10年を一期とする地域森林計画をたてます。国有林では森林管理局長が同様の計画を策定し、林班・小班も国有林の体系で管理されます。つまり同じ「林班」という言葉でも、民有林と国有林では番号の付け主が違うわけです。
林班は地形と所有のかたちで大きさが変わる
林班の大きさに全国一律の決まりはありません。境界に地形や道路・河川・行政界を使う以上、その大きさは山のかたちと所有のまとまり方に左右されるからです。北海道のように傾斜がゆるく一団の所有がまとまっている地域では、地形を境界に使える範囲が広く、1林班が大きくなりがちです。逆に関東以西の急斜面で所有が細かく分かれた地域では、地形も所有界も入り組んでいるため、1林班は小さくなります。
林班が小さいほど管理は細かくなり情報量も増えますが、その分、森林経営計画の認定に必要な「30ha以上の団地」をまとめるハードルは上がります。区画の実際の面積は都道府県の森林計画事務の運用に委ねられているため、正確な数字を知りたい場合は、その地域の森林計画図と森林簿にあたるのが確実です。
林班・小班と、登記の地番はまったく別物
林業を調べはじめた人がいちばん混乱するのが、林班・小班と、不動産登記の「地番」の関係です。この2つは目的も決め方もまったく違います。
| 林班 | 小班 | 地番(登記) | |
|---|---|---|---|
| 区切る基準 | 尾根・谷・道路・河川・行政界 | 樹種・林齢・林相・所有・施業の同質性 | 土地の所有権の範囲 |
| 決めるのは | 都道府県(民有林)/森林管理局(国有林) | 同左 | 法務局 |
| 表し方 | 1林班、2林班… | 1林班イ1小班 など | ◯◯町字△△123番 |
| 主に使う場面 | 森林計画図・位置の特定 | 森林簿・施業計画・補助金申請 | 所有権・売買・課税 |
| 境界の性質 | 地形に沿う | 森の状態に沿う | 所有に沿う |
基準が違うので、1つの小班に複数の地番(複数の所有者)が含まれることはよくありますし、逆に1筆の地番が複数の小班にまたがることもあります。この「ずれ」があるために、施業をしようとすると必ず所有者の特定と境界の確認が必要になる。林地台帳の整備が進められているのは、まさにこのずれを埋めるためです。
小班は「同じ顔をした森」のまとまり
小班は管理の最小単位です。「スギ人工林・35年生・主伐期前」というように、ひとつの小班の中では森の様子がほぼ均質になるよう区切られ、計画も施業も補助金申請も、すべてこの単位で進みます。判断基準は「樹種が同じ」「林齢が近い」「人工林・天然林・無立木地の区分が同じ」「所有者が同じ」「施業計画が同じ」といったところ。樹種が入り混じったモザイク状の森では小班の数が増え、北海道のカラマツ大規模造林地のような単純な森では少なくなります。
この小班ごとに記録されるのが「森林簿(しんりんぼ)」という属性データベースで、所在、面積、林相、樹種、林齢、平均樹高・直径、蓄積(材積)、施業履歴、所有者、保安林指定の有無などが並びます。森林の戸籍簿のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。記載項目は都道府県によって差があり、近年はオープンデータとして森林簿・森林計画図を公開する県も出てきました。
紙からLiDARへ──情報基盤が変わりつつある
森林簿は地域森林計画の見直しにあわせて更新されますが、全部の小班を現地で測り直すのは現実的でないため、これまでは空中写真の判読や成長式による推定で補ってきました。その結果、長く更新が反映されていない区域では、記載されている樹高や蓄積が実態と食い違うことがあり、森林経営計画やJ-クレジット、補助金申請の信頼性に直結する課題になっています。
流れを変えつつあるのが、航空レーザ計測(ALS)です。上空から飛ばしたレーザーの点群データから、樹高・本数密度・材積を面的に推定できるようになり、都道府県による計測が広がってきました。林野庁も、こうして整備された高精度な森林資源情報のオープンデータ化を進めています。これまで現地調査に頼っていた小班の情報更新が、計測データの解析で置き換えられるようになりつつあり、紙の森林簿から森林GIS、さらに森林クラウドへと、情報の土台そのものが世代交代を迎えています。
あらゆる手続きが小班から始まる
なぜここまで小班が重要なのか。それは、森林にかかわる手続きのほとんどが小班を起点にしているからです。伐採届も補助金申請もこの単位ですし、森林経営計画の「30ha以上の団地」という認定要件(属地計画の場合)も小班を足し合わせて算定します。日本の森林所有は零細で、2020年農林業センサスによれば林家のうち保有山林10ha未満が大多数を占めます。そのため実際には複数の所有者の小班を集約して団地をつくるのが普通で、森林組合や林業会社が所有者間の調整役を担っています。2019年に始まった森林経営管理制度の意向調査も、小班単位の所有者情報が出発点。だからこそ小班情報の精度が、制度そのものの土台になっているのです。
| 手続き/制度 | 対象単位 | 小班情報の役割 |
|---|---|---|
| 伐採及び伐採後の造林の届出 | 小班または一部 | 届出書類・図面の基準 |
| 森林経営計画認定(属地計画) | 複数小班の団地 | 30ha以上要件の算定基礎 |
| 造林補助金申請 | 小班単位 | 施業面積・補助率算定 |
| J-クレジット(森林管理プロジェクト) | 小班集計 | 境界・吸収量算定 |
| 森林経営管理制度 | 小班単位 | 所有者特定・権利設定 |
| 林地台帳・保安林指定 | 小班+地番 | 所有者・課税情報との連携 |
所有者の所在が分からない森林の存在は、この仕組みの弱点として長く指摘されてきました。地籍調査でも、林地は所有者にたどりつけない割合がほかの地目より高いことが知られています。小班単位での所有者特定と合意形成が、いまの林業の大きな宿題です。林班・小班の標準化とデジタル基盤の整備は、林業経営から生物多様性、気候変動対策まで、すべての土台を支える地味だけれど重要な課題なのです。
よくある質問
Q. 林班番号と小班番号はどうつけるの?
林班番号は計画区内で一定の規則にしたがって通し番号でふられ、小班も林班内で同じように1、2、3とつきます。地域により小林班(イ・ロ・ハ)を挟み、「1林班イ1小班」のように記します。付番の細かいルールは都道府県ごとに定められています。
Q. 森林簿は誰でも見られますか?
都道府県(民有林)や森林管理署(国有林)が管理する行政情報で、ふつうは自分の所有森林分について所有者が閲覧・写しを請求できます。第三者の閲覧は個人情報保護の観点から制限されることが多い一方、近年は所有者情報を除いた森林簿・森林計画図をオープンデータとして公開する県も増えています。
Q. 1ha未満の小さな小班もありますか?
あります。区画基準が同質性なので、特殊な林相や小規模所有が混ざる地域では、1ha未満の小班も珍しくありません。逆に単一樹種の大規模造林地では、ひとつの小班が数十haになることもあります。

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