林班・小班の階層構造|森林管理単位の標準化と運用

林班・小班の階層構造 | Forest Eight

森林の管理は「林班(りんぱん)」と「小班(しょうはん)」という区画の単位で動いています。全国2,505万haの森は、尾根や谷、道路といった境界で区切られた林班(全国で10万超)に分けられ、その中をさらに樹種や林齢のそろった小さなまとまり=小班(合計で数百万)に細分する、という入れ子の仕組みです。伐採の届出も、補助金の申請も、森林経営計画の認定も、J-クレジットも――森にまつわるあらゆる手続きが、この単位を起点に進みます。ふだん目にすることのない言葉ですが、林業のいわば「住所」にあたる大切な概念です。

林班・小班の階層構造 地域森林計画区→林班→小班の3階層構造を概念図で示す 林班・小班の階層構造 地域森林計画区(流域単位、158計画区) 対象面積:1計画区平均約11万ha 記載:地域森林計画書/林班図 林班(10万超) 面積:30〜300ha 命名:1〜n林班・通し番号 小林班(任意・地域差) 面積:林班の中規模区分 命名:1林班イ・1林班ロ 小班(数百万単位) 面積:0.1〜数十ha 区画基準:樹種・林齢・林相・所有・施業 命名:1林班イ1小班・記載:森林簿(30項目)
図1:地域森林計画区→林班→小班の階層構造(出典:林野庁「森林計画制度の概要」をもとに作成)
目次

明治のドイツ林学から続く「住所」の仕組み

この階層体系は、もとをたどれば明治期に導入されたドイツ林学のAbteilung(区画)・Unterabteilung(小区画)に由来します。日本では「地域森林計画区→林班→小班」の3層に整理され、林班は尾根線・谷線・道路・河川・行政界といった境界で囲まれた一団の森を、小班はその中で樹種・林齢・林相・所有者・施業がほぼ同じになる区域を指します。

住所のように番号がふられるのも特徴で、「1林班イ1小班」のように林班番号(数字)→小林班(カナ)→小班番号(数字)で表します。地域によっては小林班を省いて「1林班1小班」としたり、枝番をつけたりと、運用の細部は都道府県・市町村ごとにまちまちです。林野庁は森林資源データベースの整備にあわせて記法の統一を進めていますが、いまも地域固有のやり方が並んで残っています。

林班は地形と所有のかたちで大きさが変わる

林班の大きさは、おおむね30〜300ha。これは地形と所有のかたちで決まります。北海道のように傾斜がゆるく一団の所有がまとまっている地域では、地形を境界に使える範囲が広く、1林班が300〜500haに達することも珍しくありません。逆に関東以西の急斜面で所有が細かく分かれた地域では、地形も所有界も入り組んでいるため、1林班が30〜100haに収まりがちです。

林班が小さいほど管理は細かくなり情報量も増えますが、その分、森林経営計画の認定に必要な「30ha以上の団地」をまとめるハードルは上がります。下の表に、地域ごとの典型的な規模感をまとめました。

地域類型 林班典型面積 小班典型面積 主な区画特徴
北海道(緩傾斜地) 300〜500ha 5〜30ha 大規模・均質
東北・北陸(中規模傾斜地) 100〜200ha 2〜10ha 尾根・谷線中心
関東・中部(中急傾斜地) 50〜150ha 1〜5ha 所有界・道路網と整合
関西・四国・九州(急傾斜地) 30〜100ha 0.5〜3ha 所有規模小・細分化

小班は「同じ顔をした森」のまとまり

小班は管理の最小単位です。「スギ人工林・35年生・1,400本/ha・主伐期前」というように、ひとつの小班の中では森の様子がほぼ均質になるよう区切られ、計画も施業も補助金申請も、すべてこの単位で進みます。判断基準は「樹種が同じ」「林齢の幅が10年以内」「人工林・天然林・無立木地の区分が同じ」「所有者が同じ」「施業計画が同じ」といったところ。1つの林班に20〜30小班が含まれるのが普通で、樹種が入り混じったモザイク状の森ではもっと増え、北海道のカラマツ大規模造林地のような単純な森では5〜10小班程度に収まります。

この小班ごとに記録されるのが「森林簿(しんりんぼ)」という属性データベースで、林野庁の標準書式におよそ30項目――所在、面積、林相、樹種、林齢、本数密度、平均樹高・直径、蓄積(材積)、成長量、施業履歴、所有者、保安林指定の有無など――が並びます。森林の戸籍簿のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。

紙からLiDARへ──情報基盤が変わりつつある

森林簿は5年ごとの地域森林計画の見直しにあわせて更新されますが、全部の小班を現地で測り直すのは現実的でないため、これまでは空中写真の判読や成長式による推定で補ってきました。その結果、30年以上更新が反映されていない区域では材積の誤差が±30%規模に達することもあり、森林経営計画やJ-クレジット、補助金申請の信頼性に直結する課題になっています。

森林情報基盤の進化 紙ベース森林簿から森林GIS・LiDAR連携・森林クラウドへの進化を時系列で示す 林班・小班情報基盤の進化 紙森林簿 手書き・紙図面 〜2000年代 森林GIS 空間情報統合 2000年代後半〜 県職員端末利用 LiDAR連携 点群から自動推定 2015年〜 樹高・本数・材積 単木解析 森林クラウド SaaS型 2020年代〜 市町村・組合・ 事業体共通利用 現場端末連携 単機能 空間統合 高精度化 業務統合・共有 2025年までに航空レーザ測量(ALS)の全国整備が概成見込み。森林簿の自動更新基盤が整う。 経営管理制度・森林環境譲与税の運用も森林クラウド経由で一元管理化が進む。
図2:林班・小班情報基盤の進化(出典:林野庁スマート林業推進方針をもとに作成)

流れを変えつつあるのが、航空レーザ測量(ALS)です。林野庁は2025年までに全国整備を概成する方針で、上空から飛ばしたレーザーの点群データから樹高・本数密度・材積を自動で推定できるようになってきました。これまで5年に1度の現地調査に頼っていた小班の更新が、ALSの再撮影サイクルで高精度に行えるようになる見込みで、紙の森林簿から森林GIS、さらに森林クラウドへと、情報の土台そのものが世代交代を迎えています。

あらゆる手続きが小班から始まる

なぜここまで小班が重要なのか。それは、森林にかかわる手続きのほとんどが小班を起点にしているからです。伐採届も補助金申請もこの単位ですし、森林経営計画の「30ha以上の団地」という認定要件も小班を足し合わせて算定します。日本の森林所有は5ha未満が6割という零細構造なので、実際には複数の所有者の小班を集約して団地をつくるのが普通で、森林組合や林業会社が所有者間の調整役を担っています。2019年に始まった森林経営管理制度の意向調査も、小班単位の所有者情報が出発点。だからこそ小班情報の精度が、制度そのものの土台になっているのです。

手続き/制度 対象単位 小班情報の役割
伐採及び伐採後の造林の届出 小班または一部 届出書類・図面の基準
森林経営計画認定 複数小班の団地 30ha以上要件の算定基礎
造林補助金申請 小班単位 施業面積・補助率算定
J-クレジット(FO方法論) 小班集計 境界・吸収量算定
森林経営管理制度 小班単位 所有者特定・権利設定
林地台帳・保安林指定 小班+地番 所有者・課税情報との連携

ただし注意したいのは、小班は管理の単位であって、不動産登記の地番(所有権の単位)とは別物だという点です。1つの小班に複数の地番(複数の所有者)が含まれることはよくあり、逆に1筆の地番が複数の小班にまたがることもあります。所有者不明の森林が私有林の2割を超えるなか、小班単位での所有者特定と合意形成が、いまの林業の大きな宿題になっています。林班・小班の標準化とデジタル基盤の整備は、林業経営から生物多様性、気候変動対策まで、すべての土台を支える地味だけれど重要な課題なのです。

よくある質問

Q. 林班番号と小班番号はどうつけるの?
林班番号は計画区内で上流から下流へ(または北西から南東へ)通し番号でふられ、小班も林班内で同じ規則性で1、2、3とつきます。地域により小林班(イ・ロ・ハ)を挟み、「1林班イ1小班」のように記します。

Q. 森林簿は誰でも見られますか?
都道府県(民有林)や森林管理署(国有林)が管理する行政情報で、ふつうは自分の所有森林分について所有者が閲覧・写しを請求できます。第三者の閲覧は個人情報保護の観点から制限されることが多いです。

Q. 1ha未満の小さな小班もありますか?
あります。区画基準が同質性なので、特殊な林相や小規模所有が混ざる関西・四国・九州の急傾斜地では、0.1〜1ha規模の小班も珍しくなく、1林班に40〜50小班入る例もあります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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