森林計画制度の3層構造|全国・地域・市町村の運用実態

森林計画制度の3層構造 | Forest Eight

日本の森は、誰かの思いつきで切られたり植えられたりしているわけではありません。じつは国・都道府県・市町村の3段階の計画にもとづいて、長い時間軸で管理されています。これが「森林計画制度」です。国が15年の大方針を立て、都道府県が10年の地域計画に落とし込み、市町村がさらに細かく区域ごとに具体化する——ピラミッド型に積み重なったこのしくみを、できるだけかみくだいて見ていきます。

山並みに広がる森林と霧
山岳林の俯瞰 (Photo by Paul Summers on Unsplash)
目次

計画は上から下へ流れていく

制度の骨格は森林法(第4条〜第10条)で定められています。一番上が林野庁(農林水産大臣)の「全国森林計画」。15年計画で、全国2,505万haを対象に、伐採・造林・林道・保安林の長期方針を示します。その下に都道府県知事の「地域森林計画」が10年単位で続き、全国の民有林1,747万haを158の計画区に分けて、伐採量や造林面積の目標を数値で定めます。さらに下が市町村長の「市町村森林整備計画」で、区域内の森を10年計画で具体化。そして一番下に、森の持ち主や森林組合が立てる「森林経営計画」(5年)があります。

森林計画制度3層構造の概念図 全国森林計画・地域森林計画・市町村森林整備計画・森林経営計画の関係をピラミッド図で示す 森林計画制度の階層構造 全国森林計画 15年・林野庁 地域森林計画(158計画区) 10年・都道府県/民有林1,747万ha 市町村森林整備計画(1,300超) 10年・市町村/区域内民有林 森林経営計画(経営者単位) 5年・所有者/認定面積400万ha 国有林は別系統で森林管理局長が地域別計画を策定(758万ha対象) 上位計画が下位計画の枠を定める「整合性の原則」が運用の中核
図1:森林計画制度3層構造の階層関係(出典:森林法第4〜10条、林野庁「森林計画制度の概要」)

このピラミッドの肝は、上位の計画が下位を「縛る」ことです。たとえば全国計画で「年間伐採量は○○m³以下」と決めれば、都道府県の計画はその枠を超えないよう調整し、市町村はさらに細かく区域内の伐採量を割り当てる。一方で、現場の実態を上に返すルートもあるにはあるのですが、こちらは仕組みとして弱い。だから市町村の側からは「画一的な数字が上から降ってくる」と受け止められがち——これが運用上の悩みどころのひとつです。なお国有林(758万ha)は、この民有林の系統とは別に森林管理局長が計画を立てています。

区切りの単位は「流域」

地域森林計画が森を158に区切る単位は、都道府県の境界ではなく「流域」、つまり川の水系です。森の水源涵養や土砂流出防備のはたらきは水系ごとにまとまって発揮されるので、行政の線引きより自然の地形に合わせるべき、という考え方によります。1計画区の平均はおよそ11万ha。ただし規模の幅は大きく、北海道の広い流域では60万haを超え、離島では1万ha未満という小さなものもあります。標準的な伐期も樹種ごとに目安があり、スギ40〜50年、ヒノキ45〜55年、カラマツ35〜45年あたりを基本に、計画区ごとに地域調整されています。

市町村が森を「色分け」する

市町村森林整備計画でいちばん大事なのが、区域内の森を役割ごとに塗り分ける「ゾーニング」です。水を守り土砂を防ぐ森、生きものや景観のための森、木材を生産する森——おおまかにこの3つに区分し、それぞれにふさわしい手入れの方針を定めます。

機能区分 主な目的 推奨される施業 面積比(民有林)
水土保全林 水源涵養・土砂流出防備 長伐期・複層林化・択伐 概ね60%
森林と人との共生林 生物多様性・景観・保健 天然更新主体・複層林 概ね15%
資源循環利用林 木材生産 標準伐期での主伐再造林 概ね25%

この比率は地域でかなり違います。林業が盛んな県は木材生産の「資源循環利用林」が多く、首都圏近郊では「人との共生林」が多くなる傾向があります。森を有する市町村は約1,300超あり、計画の策定率はほぼ100%。ただし、中身の精度や改訂の頻度には自治体間で大きな差があるのが実情です。

持ち主が立てる計画には「ごほうび」がある

一番下の森林経営計画は、3層のなかで唯一、持ち主や経営者に直接の見返りがある計画です。市町村森林整備計画に沿った5年計画を立てて認定を受けると、造林補助金の加算、所得税の特別控除、立木譲渡所得の特例といった経済的な優遇を受けられます。だから普及が進み、認定面積は2023年時点で約400万ha、民有林の23%に達しています。

森林経営計画認定面積の推移 2012年の制度導入から2023年までに認定面積が約400万haに達した経緯 森林経営計画認定面積の推移(万ha) 500 300 0 2012 50 2016 210 2020 310 2023 400 2012年導入から認定面積は拡大、民有林の23%水準に到達
図3:森林経営計画認定面積の推移(出典:林野庁「森林経営計画認定状況」より概算)

2012年の制度創設で、団地30ha以上といった要件が現実的に運用できる形になり、森林組合や林業会社が複数の森をまとめて手入れする「集約化施業」の枠組みとして広く使われるようになりました。ただし、認定はされたものの実際の伐採や再造林が進んでいない区域も少なくない——「計画だけが先行している」という課題は残っています。

「立てる計画」から「使う計画」へ

この制度の性格を変えたのが、2019年に始まった森林経営管理制度と森林環境譲与税です。前者は、手入れの行き届かない森について、市町村が持ち主の意向を確認したうえで管理を引き受け、林業事業体に再委託するしくみ。これを動かすには市町村森林整備計画のゾーニングや林地台帳が前提になるため、それまで「作って終わり」だった市町村計画が、いよいよ「実際に使う計画」へと変わりました。森林環境譲与税(2024年度で総額600億円規模)は、その実装を支える財源として配られています。

もっとも、課題も見えています。計画の数字は森林簿や地籍調査の精度に左右され、更新が古い地域では信頼性が落ちます。実際、伐採量や造林面積の目標と実績には1〜3割のズレが恒常的にあります。森を有する1,300超の市町村のうち、林務担当が1人以下という小さな自治体が約半数を占めるのも痛いところ。それでも、航空レーザー測量による森林データの整備やGISの普及が進めば、向こう5〜10年で計画の精度と更新サイクルは大きく改善する見込みです。紙の上の理想と現場の実態のあいだを、いかに埋めていくか——それが、この重層的なしくみに問われている宿題です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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