「木を育てても山は儲からない」——林業の世界でよく聞く嘆きです。それを数字で確かめられるのが、立木価格と素材価格の比較。立木価格とは山に生えたまま売るときの値段、素材価格とは伐って丸太にして市場や製材所に届けたときの値段です。2024年のスギで見ると、山元立木価格は4,127円/m³、素材(中丸太)価格は15,900円/m³。つまり山主の取り分(山元帰属率)は26%しかありません。残りの7割強はどこへ消えるのか。本稿でその仕組みをほどいていきます。

木の値段は、3段階で大きく化ける
木材の価格は、森から建築現場に届くまでに姿を変えます。第1段階が立木価格(山に生えたまま)、第2段階が素材価格(丸太になって市場渡し)、第3段階が製品価格(製材・乾燥・加工を経た最終形)。2024年のスギでいうと、立木4,127円→素材15,900円→製品(スギ正角・乾燥)84,800円。下の図がその落差です。
製材では原木1.8m³からようやく製品1m³が取れます(歩留まり55%)。この換算で考えると、製品1m³に投入される立木は約7,400円ぶん。製品価格84,800円のなかで、山に渡るお金はわずか9%です。残りの大半は、乾燥やプレカットといった「製材所より先」の加工で生まれている。木の価値は、山ではなく工場と流通でつくられているわけです。
山主の取り分は、なぜここまで小さいのか
山元帰属率(立木価格÷素材価格)は、木材経済の利益配分をひと目で示します。2024年はスギ26%、ヒノキ40%。残り6〜7割は伐出・運搬・市場・原木商の取り分です。下の表でスギとヒノキを並べてみましょう。
| 項目(円/m³) | スギ | ヒノキ |
|---|---|---|
| 素材価格(中丸太・2024年) | 15,900 | 22,300 |
| 差引:伐出・運搬・市場等 | 11,773 | 13,360 |
| 山元立木価格(2024年3月末) | 4,127 | 8,940 |
| 山元帰属率 | 26.0% | 40.1% |
| (参考)1980年の素材価格 | 39,600 | 76,400 |
| (参考)1980年の立木価格 | 22,707 | 42,947 |
| (参考)1980年の帰属率 | 57.3% | 56.2% |
※ 立木価格は日本不動産研究所「山林素地及び山元立木価格調」(各年3月末、利用材積1m³あたり)、素材価格は農林水産省「木材価格統計調査」(暦年平均)。調査時点が異なるため帰属率は概算です。なおカラマツの立木価格は独立した統計がなく、同調査では「マツ」(2024年3月末2,570円)としてアカマツ・クロマツ等と一括で扱われています。カラマツの素材価格は2024年で15,300円/m³です。
ここで大事なのが、立木価格は「素材価格から伐出・運搬・流通のコストを引いた残り」として決まるという点です。つまり山主は最後尾に並んでいる。だからヒノキの帰属率が高いのは、差し引かれるコストがスギと大差ない一方で素材単価そのものが高く(22,300円)、その差額がそっくり山元に還るからです。スギとヒノキの素材単価差6,400円が、そのまま立木価格差4,800円になって表れています。
40年で半分以下に:1980年は57%だった
この26%という数字、昔からこうだったわけではありません。1980年のスギは立木22,707円・素材39,600円で、帰属率は約57%。山が「宝」と呼ばれた時代です。ところがプラザ合意以降の円高と輸入材の流入で立木価格は暴落し、いまやピーク比18%の水準です。
注目したいのは、立木価格のほうが素材価格より大きく下がったことです。1980年から2024年で素材価格は約6割減ですが、立木価格は8割以上減りました。素材が下落しても、人件費に連動する伐出・運搬・市場のコストは粘り強く下がりにくい。すると「素材−コスト=立木」の引き算で、しわ寄せがまるごと立木価格に集中します。山元の取り分には、いわば下げ幅が加速して効いてしまう構造があるのです。
地形が値段を決める:傾斜と路網のシビアな現実
立木価格は同じ樹種・同じ時期でも、山の条件によって大きく開きます。生産量がまとまり大型の機械と路網が入れられる地域では搬出コストが下がり、その分だけ立木に回せる金額が増える。逆に急傾斜地や小規模所有が入り組んだ地域では、架線集材が必要になったり作業の段取りに手間がかかったりして、コストが立木価格を押し下げます。
この差を生む最大の要因が地形です。傾斜がゆるく林内に機械を乗り入れられる山と、索道や架線集材に頼らざるを得ない急斜面とでは、1m³あたりの伐出コストが何倍にもなります。立木価格はこの伐出コストの差をそのまま映すので、同じ品質の木でも急傾斜地では手取りが大きく削られる。吉野スギ・尾鷲ヒノキのような銘柄産地が高値を保てるのは、品質に加えて、長年の育林と搬出しやすい山づくりの蓄積がブランドを支えているからでもあります。
「育てる」が割に合わない、その根っこ
帰属率26%が意味するのは、木を育てることへの見返りの薄さです。1ha・蓄積400m³のスギ林を主伐しても、山主に渡るのは立木4,127円×400m³=約165万円。一方、50年間に投じる植栽・下刈・除伐・間伐の費用は、補助なしなら300万円規模になるのが一般的な目安です。補助を使って実質負担を大きく圧縮できても、50年という期間に対する収益はごくわずかにとどまります。
これでは山を持ち続ける経済的な理由がほとんどありません。不在村所有者の増加、所有者不明林の発生、再造林の放棄——林業が抱える構造問題の根っこは、この「育てても報われない」収支にあります。
その先の各段階は、どれだけ乗せているか
山元から先も、丸太が住宅に組み込まれるまでには原木市場・製材所・プレカット工場・工務店を通り、そのつど値段が積み上がります。段階ごとのおおよその取り分は次のとおりです。
| 段階 | 主な役割 | マージンの目安 |
|---|---|---|
| 原木市場 | 集荷・選別・価格発見・決済保証 | 出荷者・買方あわせて10〜13% |
| 製材所 | 製材・乾燥・JAS格付け(歩留まり55〜65%) | 製品価格の10〜20% |
| プレカット工場 | 構造材の機械加工(新築木造の9割弱が利用) | 5〜10%(薄利多売) |
| 工務店・ハウスメーカー | 設計・施工・工程管理・保証 | 住宅本体価格の15〜25%(木材以外のサービスを含む) |
製材所以降のマージンは、単純な「中抜き」ではなく、乾燥・強度保証・加工・施工・アフターサービスといった機能の対価です。30坪の木造住宅で木材費は400〜600万円、本体価格の2割前後、住宅総額でみれば1割強にすぎません。木材価格が1割動いても住宅総額への影響は1〜1.5%程度で、木材だけを値下げしても家は大きく安くなりません。だからこそ論点は、段階をやみくもに削ることではなく、流通を透明にし、山元にきちんと利益を返す設計に組み替えられるかどうかにあります。
取り分を増やすには、何ができるか
山元の取り分を回復させる道は、大きく3方向です。ひとつは流通コストを削ること。路網整備、施業の集約化、高性能林業機械、直送・システム販売を組み合わせれば、伐出・運搬費を下げる余地があります。原木市場を通す場合の市売手数料は10〜13%程度で、直送はこの手数料と横持ち運賃を省ける分が山主に還ります。
ふたつめは需要を広げること。新築住宅頼みから脱し、中大規模木造建築・木材輸出・バイオマスといった新しい出口を開けば、素材価格そのものを底上げできます。みっつめが木材以外の収入です。森林由来のJ-クレジットは、適切な森林経営による吸収量をクレジット化して販売する仕組みで、立木の価値を「売って終わり」から「保全しながら稼ぐ」へと組み替える動きにあたります。ただし認証には計測・モニタリングの費用と手間がかかり、1〜2haの規模で成り立つものではありません。まとまった面積を束ねられるかどうかが、実際の収入になるかどうかの分かれ目です。
立木価格と素材価格の比較は、結局のところ「山を持つ人にどれだけお金が戻るか」を映す鏡です。26%という数字を4割、5割へと押し戻せるかどうかは、流通の効率化と新しい需要、そして木の価値の再定義をどう束ねるかにかかっています。それは林業を次の世代へ手渡せるかどうか、という問いそのものでもあります。

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