森林整備保全事業という名前は地味ですが、その中身は林野庁の公共事業予算のほぼ全体を背負う大黒柱です。2024年度(令和6年度)の林野庁当初予算は3,003億円。そのうち公共事業費が1,982億円で、予算のおよそ66%を占めます。中身は「森林整備」「治山」「災害復旧等」の3本立てで、最も大きいのは森林整備事業の1,254億円。木を育て、山崩れを防ぎ、災害からの復旧にあてる。地味だけれど、これがなければ日本の山は維持できません。ここでは、その予算がどう配られ、何に使われているのかを、できるだけ具体的な数字でほどいていきます。
3,003億円はどこへ行くのか
令和6年度の林野庁当初予算3,003億円の内訳は、公共事業費が1,982億円、非公共事業費が1,021億円です。公共事業費のうち最大は森林整備事業の1,254億円で、次いで治山事業624億円、災害復旧等事業費105億円。このほか、前年度(令和5年度)の補正予算1,401億円が別枠で積まれています。森林整備保全事業費は「補助公共事業」なので、お金は都道府県や市町村を経由し、実際の工事は地方の市町村・森林組合・林業事業者が担います。国が単独で山を整備するのではなく、地方と分担する仕組みです。
森林環境譲与税(年600億円規模)を合わせると、林政に関わる予算はおおよそ3,600億円規模になります。これを森林面積2,505万haで割ると1haあたり約14,000円。日本の森林の多くが急峻な地形にあり、路網も欧州の林業国に比べて薄いことを考えると、面積あたりで見た投入額は決して潤沢とはいえません。
治山624億円――山崩れを防ぐ公共事業
治山事業の当初予算は624億円です。山腹崩壊地の復旧(山腹工)、渓流の侵食防止(渓間工)、地すべり防止、保安林の整備といった、文字どおり山を守るための工事が中心。1基あたりの費用は数千万円から、大きな堰堤では数億円と、規模も費用も幅があります。実施主体は国直轄と都道府県・市町村に分かれ、国直轄は補助率10/10、都道府県事業は3/4〜2/3と、地方ほど負担割合が大きくなる構造です。
近年は気候変動による豪雨の頻発を受けて、「事前防災・減災」へと重点が移ってきました。全国の山地災害危険地区は多数にのぼり、治山対策の完了率は5〜6割どまり。新しい森林・林業基本計画では、この完了率を2030年に54%から64%へ引き上げる目標が掲げられています。整備の優先順位は、被害想定の人家戸数(5戸以上が優先)、過去の被災履歴、地質の脆さといった客観指標で決まります。なお保安林は全森林面積の約49%にあたる約1,220万haを占め、そのうち水源涵養保安林が最大。伐採制限がかかるかわりに、機能維持の整備が公費で行われる仕組みです。
森林整備1,254億円――予算の中核をなす費目
森林整備事業は1,254億円と、林野庁の公共事業費のなかで最も大きい費目です。植える(人工造林)、育てる(下刈・除伐・枝打ち)、間引く(間伐)、道をつける(作業道・幹線林道)という林業の基礎作業を支える補助で、近年はこれに花粉発生源対策としてのスギ人工林の伐採・植替えが加わっています。面白いのは補助率に段差がある点で、森林経営計画の認定を受けた区域はおおむね7割、未認定区域はそれより低く抑えられます。計画認定を取れば補助が手厚くなる、という誘導装置になっています。
| 事業区分 | 費用の目安 | 補助率の目安 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 人工造林 | 40万円台/ha | 約7割 | 植栽・地拵え |
| 保育(下刈) | 10万円台/ha | 約7割 | 5〜7年継続 |
| 間伐 | 20万円前後/ha | 約7割 | 本数調整 |
| 枝打ち | 数万円/ha | 約5割 | 節無材生産 |
| 作業道整備 | 数千円/m | 約7割 | 路網密度向上 |
近年は予算配分の重心が、間伐から「主伐再造林」へと移りつつあります。戦後に植えた人工林が伐り頃を迎え、約1,020万haの人工林の半分以上が主伐期に達したからです。ところが伐ったあとに植え直す再造林率は3〜4割にとどまり、伐りっぱなしの山が増えるのが深刻な課題。そこで林野庁は、伐採から植栽までを一気通貫で行う一貫作業システムに標準単価の2〜3割を上乗せするなどして、再造林を後押ししています。認定区域と未認定区域の補助率の差は1haあたり十万円規模の助成差になるため、所有者にとって計画認定を取る実利は小さくありません。新しい基本計画では、民有人工林の集積・集約化を2030年に210万haへ広げる目標が掲げられています。
林道と路網――欧州の半分ほどという現実
林道事業は、本格的な構造物を伴う森林管理道(幹線)と、林内の簡易な作業道を整備する事業です。森林管理道は舗装・橋梁・トンネルを含むため1kmあたり数千万円〜1億円と高コスト、作業道は1kmあたり数百万円。林道・林業専用道・森林作業道を合わせた路網の総延長は40万kmを超えますが、それでも路網密度は約24m/haで、ドイツ・オーストリアなど(40〜50m/ha級)の半分ほどにとどまります。
路網密度が欧州林業国の半分ほどというのは、機械化や効率化を縛る条件です。背景には、日本の森林の多くが急斜面に広がっているという地形条件があります。緩やかな斜面が中心の欧州とは、そもそも前提が違うのです。それでも林野庁は補助率の高い森林作業道の整備を続けています。急斜面での無理な伐採・搬出は林業労働災害の主因でもあり(死傷年千人率は22前後で全産業のなかでも高い水準)、路網の充実は安全面でも切実な意味を持ちます。
森林環境譲与税と災害復旧という二つの補い
森林整備保全事業費(一般会計の補助公共事業)の隣には、2019年度に始まった森林環境譲与税があります。2024年度以降の譲与総額は年600億円規模(市町村9割・都道府県1割)。財源は個人住民税に上乗せされた森林環境税(年1,000円)で、林業者ではなく国民全体で森林を支える設計です。両者の使い分けはシンプルで、補助公共事業費は造林や間伐など事業主体が所有者・森林組合のもの、譲与税は市町村が経営管理権を集めた森林の整備や人材育成・木材利用など、市町村自身が裁量で動かせるもの。合算した林政関連予算は3,600億円規模になります。
もう一つ忘れてはならないのが災害復旧です。森林整備保全事業費は当初予算に加え、大きな災害が起きると補正予算で積み増しされます。2018年西日本豪雨では治山関連で約700億円、2020年7月豪雨(球磨川流域)でも約400億円の補正が組まれ、流木対策の透過型堰堤などが新設されました。激甚災害に指定されると国費負担率が2/3以上に引き上げられ、被災市町村の負担が大幅に軽くなります。被災後3年ほどの集中整備に予算が寄るのが特徴で、年でならすと当初予算の2〜3割に相当する規模になります。
よくある質問
森林整備保全事業と森林環境譲与税はどう違うのですか?
森林整備保全事業費は林野庁の補助公共事業予算(一般会計)で、対象事業・標準単価・補助率が国の基準で厳密に決まっています。一方、森林環境譲与税は市町村・都道府県に直接譲与される税源で、人件費やPR事業、木材利用促進など、市町村の裁量で幅広く使えます。所管も予算スキームも使途の自由度も異なり、互いを補い合う関係です。
治山事業の補助率がなぜ高いのですか?
治山施設は所有者個人ではなく、下流の住民や公共インフラを守るための施設です。社会的便益が私的な経済合理性を超えるため、市場に任せると過小供給になりがち。そこで直轄10/10、都道府県事業3/4〜2/3といった高い補助率を設定し、地方の負担を抑えて積極的に整備を進める設計になっています。
林道整備がなかなか進まないのはなぜですか?
最大の理由は地形です。日本の森林は急斜面に広がるものが多く、森林管理道は1kmあたり5,000万〜1億円もかかります。加えて所有境界が未確定の土地が多く、地元の合意形成にも時間がかかります。近年は低コストの森林作業道の整備が進んでいますが、急峻な地形そのものは簡単には変えられません。

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