「森林・林業基本計画」と聞いても、なかなかピンとこないかもしれません。けれど造林補助金の単価や森林環境譲与税の使い道、林野庁予算の配分まで、林政のお金の流れはすべてこの計画に紐づいて決まっています。いわば日本の森林政策の設計図のような存在です。森林・林業基本法第11条に基づき、政府が概ね5年ごとに改定する最上位計画で、直近は2021年6月に第5次計画が閣議決定されました。ここでは、この計画がどんな数値を掲げ、それがどう予算とつながっているのかを、できるだけかみくだいて整理してみます。
そもそも基本計画とは何か
基本計画の法的な根拠は、2001年に全面改正された森林・林業基本法の第11条にあります。第1項で政府に策定を義務づけ、第7項で「概ね5年ごとに検討を加え、必要があれば変更する」と定期改定を制度化しています。つまり5年というサイクルそのものが法律で決まっているわけです。
計画は3つの層で構成されます。理念や基本方針を示す層、森林の多面的機能や木材供給に関する数値目標の層、そして具体的な政策パッケージの層です。さらにこの基本計画は、全国森林計画(林野庁長官)、地域森林計画(都道府県知事)、市町村森林整備計画(市町村長)という下位の計画群へ方針を伝える役割も担います。
制度の起点は1964年の林業基本法です。高度経済成長期の木材需要急増を背景に、林業の生産性と従事者の所得向上を目的として施行されました。当初は林産物の生産・流通に焦点を絞った計画でしたが、1990年代に水源涵養や生物多様性、CO2吸収といった森林の多面的機能への要請が高まり、2001年6月に「森林・林業基本法」へと改名。政策対象を森林全体へ広げた大改正が、いまの体系の出発点になっています。
5回の改定がたどってきた道
2001年以降、基本計画は2001年・2006年・2011年・2016年・2021年と5回改定されてきました。それぞれが時代の課題を映しています。第1次は多面的機能を軸にゾーニングを導入、第2次は国産材需要の回復、第3次は東日本大震災と森林・林業再生プランの反映、第4次はパリ協定対応、そして第5次はカーボンニュートラル2050宣言を受けた大幅な目標引き上げ、という流れです。
| 改定 | 策定年 | 主な背景 | 特徴的な数値 |
|---|---|---|---|
| 第1次 | 2001年 | 基本法改正・多面的機能重視 | 機能区分3類型のゾーニング |
| 第2次 | 2006年 | 国産材需要回復・構造改革 | 国産材自給率50%目標 |
| 第3次 | 2011年 | 再生プラン・震災復興 | 10年後素材生産3,900万m³ |
| 第4次 | 2016年 | パリ協定・温暖化対策計画 | 森林吸収量2,700万t-CO2 |
| 第5次 | 2021年 | カーボンニュートラル2050 | 素材生産4,200万m³・吸収量3,800万t |
第5次計画(2021年)が掲げる数値
2021年6月の第5次計画は、2020年のカーボンニュートラル宣言を受けて目標が大きく上方修正されました。中核となるのが2030年の素材生産量4,200万m³。これは2020年実績2,200万m³の約1.9倍で、過去20年の伸び率をはるかに上回る加速ペースです。木材自給率は50%(2024年実績42.4%)、森林吸収量は3,800万t-CO2で、これは温室効果ガス46%削減目標の内訳として整合させた数字です。
面白いのは森林吸収量の動きです。第3次(3,800万t)→第4次(2,700万t)→第5次(3,800万t)と、いったん下げてから再び引き上げる軌跡をたどっています。第4次の保守的な目標は、人工林の老齢化で成長量そのものが落ちてきたことを反映したもの。第5次でカーボンニュートラルのため再び引き上げる際には、エリートツリーの普及(2030年に苗木年3,000万本)や再造林率の向上(2030年60%)といった政策パッケージで吸収量を確保する設計に組み替えられました。数字の裏に、こうした技術と政策の積み上げがあるわけです。
4本柱の政策パッケージ
第5次計画は施策を4つの柱に整理しています。第1は「多面的機能の発揮」(間伐・再造林、シカ被害対策、災害に強い森林づくり)、第2は「林業の持続的な発展」(木材の安定供給、経営体育成、スマート林業)、第3は「林産物の供給・利用」(木材利用拡大、輸出促進、木質バイオマス)、第4は「カーボンニュートラルへの貢献」です。
第5次で目を引くのが「新しい林業」というキーワード。ICT・ドローン・LiDAR・自動造材といったスマート林業技術、エリートツリーや早生樹による短伐期施業、再造林の機械化など、生産性を倍増させる技術ロードマップが組み込まれました。これらは「林業イノベーション推進事業」などの予算事業に直接ひも付いており、計画と予算の整合が運用面でも担保されています。
計画と予算はどうつながっているのか
基本計画の数値は、林野庁の予算編成にそのまま反映されます。当初予算は概ね3,000億円規模で、内訳は森林整備事業1,200億円、治山事業620億円、林道整備450億円などです。各項目の積算根拠には「基本計画の目標達成に必要な事業量」が示され、たとえば森林整備事業の造林補助金部分は「2030年再造林率60%達成のための年間3万haの再造林」として算出されます。目標が単なる努力目標ではなく、お金の根拠として実務的に機能しているのです。
森林環境譲与税(2019年度創設、個人住民税年1,000円を国税として徴収し市町村・都道府県へ譲与)も、その制度設計理念に「経営管理制度の市町村実装に必要な財源」という位置づけが明示されており、基本計画と地続きです。2024年度の規模は約500億円。市町村レベルの間伐・路網・人材育成・木材利用促進の財源として、森林経営管理制度と連動しながら使われています。
進捗はどうなっているか
計画は毎年の林業白書(基本法第10条に基づく法定の年次報告)で進捗評価を受けます。主要KPIの前年実績と目標進捗率が公表され、未達項目は原因分析と政策強化につながる仕組みです。第5次計画策定から2024年までの3年間を見ると、素材生産量は2,200万m³から約2,300万m³(年率1.5%増)、木材自給率は41.8%から42.4%へ。2030年目標に対する達成ペースは素材生産で約6割、自給率で約5割程度にとどまり、現状ペースでは達成が難しい水準です。だからこそ、再造林率の引き上げや林業労働力対策の強化が次の課題として議論されています。
2026年には第6次計画の策定が予定されています。論点として林政審議会で示されているのは、2035・2040年の中間目標の設定、エリートツリー・早生樹普及のさらなる加速、森林環境譲与税の使途拡大と経営管理制度の市町村実装率引き上げ、生物多様性指標の組み込み、そしてスマート林業による労働生産性の確保です。林業労働力は1980年の14.6万人から2020年4.4万人へと約7割減っており、人手をどう補うかは避けて通れないテーマになっています。
よくある質問
Q. 基本計画はどのくらいの頻度で改定されますか?
森林・林業基本法第11条により概ね5年ごとです。直近は2021年6月の第5次計画で、次回は2026年に第6次計画が策定される予定です。改定内容は林業白書・予算編成・補助金単価・税制要望の基礎資料として5年間活用されます。
Q. 基本計画と森林経営計画はどう違いますか?
基本計画は政府全体の最上位計画(閣議決定)、森林経営計画は森林所有者または受託者が個別の森林について作る5年計画です。基本計画→全国森林計画→地域森林計画→市町村森林整備計画→森林経営計画という5階層で、上位の方針が下位へ伝わる設計になっています。

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