山のブナ林やミズナラ林を歩いていると、緑がかった樹皮に白い縦縞が走る若木に出会うことがあります。これがウリハダカエデ(Acer rufinerve)。和名の「瓜膚楓」は、若木の樹皮模様がマクワウリの肌に似ることにちなんだもので、見たままを名前にした素直なネーミングです。日本にだけ自生する固有種で、北海道南部から九州まで、標高300〜1,800mの温帯林に広く分布します。
いちばんの見どころは「若木の樹皮」
この木の魅力は、なんといっても若木の樹皮模様です。緑色〜淡い灰緑色の地に白い縦縞が走り、葉を落とした冬こそコントラストが鮮明になります。庭木として植えるなら、観賞のピークは意外にも落葉期の12〜3月。この時期に樹皮そのものを楽しめる樹種は他にあまりありません。
ただしこの縞模様は永遠ではありません。10年生で帯緑灰色、20年生で帯灰緑色、30年を超えるころには暗い灰褐色になって縞は薄れていきます。つまり「縞を楽しめるのは若いうち」。林道沿いの伐採跡で萌芽再生した若木が、いちばん見ごたえがあります。
縞の正体は、樹皮の表層に縞状に蓄積したカルシウム塩(シュウ酸カルシウム結晶など)。なぜこんな模様ができるのかは決着していませんが、白い縞が日射を反射して樹皮温度を下げる(暗緑色部より2〜4℃低いという測定例があります)、苔や地衣の生える林床で目立たなくなるカモフラージュ、といった説が議論されています。樹齢とともに消えていく事実は、縞が若木時代に効く何らかの生態的な意味を持っていたことをうかがわせます。
葉と花、見分けの手がかり
葉は掌状で5裂、長さ10〜20cmとカエデの中では大ぶり。上の3裂が深く、下の2裂は浅いのが特徴的な形です。裏返すと、葉脈の付け根に赤褐色の毛のかたまりが見えます。学名の rufinerve(=赤い葉脈)はこの毛に由来しており、後述する近縁種との決め手にもなります。花は5月、淡い黄緑色の小花を房状に垂らして咲かせます。秋には黄色から橙、紅色まで個体差大きく色づきます。
そっくりさん「ウリカエデ」との違い
もっとも混同しやすいのが近縁のウリカエデ(A. crataegifolium)。どちらも若木の樹皮に白い縦縞を持つので、樹皮だけでは見分けられません。手がかりは葉です。
| 形質 | ウリハダカエデ | ウリカエデ |
|---|---|---|
| 葉の長さ | 10〜20cm(大型) | 4〜8cm(小型) |
| 葉の形 | 掌状5裂 | 3裂(中央が大きく、ほぼ切れ込まないことも) |
| 葉裏脈腋の毛 | 赤褐色の毛叢あり | ほぼ無毛 |
| 樹高 | 8〜15m | 4〜8m |
| 主な標高帯 | 300〜1,800m | 100〜1,200m(より低山寄り) |
いちばん手っ取り早いのは葉のサイズ。手のひらと比べて大きければウリハダカエデ、小ぶりならウリカエデ、と覚えておけば現場で迷いません。葉長が10cm前後で迷うときは、葉裏の赤褐色の毛叢を確認すれば確実です。ざっくり言えば、標高1,000m以上はウリハダカエデ、里山の500m以下はウリカエデが優勢、という住み分けもあります。
木材としての立ち位置
材は気乾比重0.50〜0.60の中軽量材。辺材・心材ともに淡い黄白色で境界がはっきりせず、緻密で割れにくい木目を持ちます。ただし家具の定番であるイタヤカエデ(0.65〜0.75)ほど重硬ではなく、幹も細め・短めのため、構造材として大量に流通することはほとんどありません。市場では「カエデ類雑材」として他のカエデと混ぜて扱われるのが実情です。
とはいえ、均質で旋盤加工に向く性質を生かして、箱根寄木細工の淡色素材、茶道具や小物、椀・茶筒といった工芸品に小ロットで使われてきた歴史があります。量産材ではなく、色合いの個性を生かす脇役、という位置づけです。
庭木としてはどうか
樹高8〜15mと住宅の庭にはやや大きめですが、剪定で6〜8m程度に抑えれば自然風庭園のシンボルツリーとして十分使えます。半日陰から日向、水はけのよい湿った土壌を好み、耐寒性も強いので東北・北関東から九州まで広く植えられます。大型の掌状葉、暖色系の柔らかな紅葉、そして何より冬の樹皮模様と、四季を通じて見どころがあるのが魅力です。シンボルツリー用の大苗で1〜5万円ほどが目安になります。
よくある質問
どこで見られますか?
北海道南部から九州までの山地、とくにブナ-ミズナラ林帯(標高800〜1,500m)の中木層に普通に生えています。日光・奥多摩・南アルプス・大山・九州山地など、たいていの登山道で出会えます。林道沿いや伐採跡で再生した若木は、樹皮の縞が鮮やかで観察向きです。
北米のストライプメープルと関係がありますか?
あります。両種とも「ヘビモドキ節(Section Macrantha)」に属し、若木の樹皮に縦縞を持つ近縁グループです。アジアと北米にまたがって分布するこの仲間は、種分化や植物地理学の研究対象になっています。

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