【リョウブ/令法】Clethra barbinervis|古代救荒食「リョウブ飯」と滑らかな樹皮

リョウブ | Forest Eight
気乾比重0.60(0.55〜0.65 中重量)緻密・床柱適花期7-8月白い穂状花夏の蜜源樹高5-10m落葉小高木最大15m樹皮滑らか斑模様に剥離サルスベリ似
図1:リョウブ/令法の主要スペック(代表値)

夏に白い穂状の花を立ち上げ、滑らかに剥がれる迷彩模様の樹皮を持つ落葉小高木がリョウブ(令法・Clethra barbinervisです。里山の雑木林や社寺の境内、最近は住宅のシンボルツリーとしても見かけます。地味な木に見えて、じつは「飢饉のときに食べる木」として、奈良時代から日本人の暮らしと深く結びついてきた、いわくつきの樹種です。

目次

「令法」という名前の重み

和名「令法(リョウブ)」は、植物名としては極めて珍しい行政命令由来の名とされます。養老律令から平安期にかけて、朝廷や諸国が飢饉対策としてリョウブの植樹を「令(命令)」じた──その経緯が名に残った、というのが有力説です。つまり名前そのものが、古代日本の食料安全保障史を物語っています。「若葉を食べる法を定めた」とする別説もありますが、いずれも食料政策と結びついた語源である点は共通です。

古代の救荒食「リョウブ飯」

リョウブの若葉を食べる文化は、日本で最も古く記録された救荒食の一つです。新葉を摘んでたっぷりの湯で2〜3分茹で、水にさらしてアクを抜き、刻んで炊きたての米に混ぜ込む──これが「リョウブ飯」。米の収量が低い山間集落では、飢饉の年だけでなく平年でも飯のかさ増しに常食された地域があり、長野・木曽、岐阜・飛騨、新潟・魚沼などで20世紀中頃まで実食の記録が残ります。茹でて干した「干しリョウブ」は冬の保存食でもありました。

意外なことに、味のクセは少なめ。本草書も「軽く渋みがあり香気は淡い」と評しており、ヨモギやウドのような強い個性はありません。若葉100gあたりビタミンC 30〜50mg、β-カロテン2,000〜3,500μgと栄養面でも侮れず、おひたし・胡麻和え・天ぷら・炊き込みご飯など和洋問わず使える素材です。近年は長野・岐阜・新潟の道の駅や郷土料理店で「リョウブ飯」体験が復活し、暗い救荒食の歴史を地域ブランドへ転換する動きが各地で見られます。

サルスベリそっくりの樹皮

リョウブのもう一つの顔は、その美しい樹皮です。褐色〜赤褐色の地肌に淡褐色〜灰白色の薄片が斑模様に剥がれ、迷彩のような独特の景観をつくります。あまりに滑らかで美しいため、「サルスベリモドキ」「サルナメ」といった地方名が各地に残るほど。ただし本物のサルスベリ(ミソハギ科)とは分類学的に全くの別系統で、サルスベリが赤紫の素肌を大きく脱ぐのに対し、リョウブは小さな薄片が斑に剥がれる点で見分けられます。冬でも観賞価値が落ちないこの樹皮が、現代住宅の素材感とも好相性で、シンボルツリー人気を支えています。

7〜8月には、当年枝の先に長さ10〜15cmの白い穂状花序を直立させます。夏は庭木の花が少ない時期なので、芳香を放つこの白花はひときわ目立ち、ハナバチやコアオハナムグリを集めます。養蜂家の間では希少な夏の蜜源「リョウブ蜜」として知られ、淡琥珀色で後味の軽い蜂蜜が地域限定で流通します。秋は橙〜赤橙〜暗赤色のしっとりした紅葉。春の若葉・夏の白花・秋の紅葉・冬の樹皮模様と、一年中見どころのある木です。

リョウブ/令法の主用途1救荒食2シンボルツリー3床柱・銘木4薪炭材
図2:リョウブ/令法の主用途

里山を支える木、銘木にもなる木

生態的には、コナラ・クヌギを主体とする薪炭林の伴生樹で、林冠より一段低い亜高木層に分布します。萌芽力が強く、伐っても切株からひこばえを立ち上げて速やかに再生するため、薪炭林の輪伐システムと相性抜群。痩せ地や尾根筋、崩壊地の先駆樹種としても現れます。夏の白花は蜜源の乏しい時期に大量の花蜜を供給し、里山の受粉ネットワークを支える鍵種の一つです。

材は気乾比重0.55〜0.65の中重量・中強度材で、緻密で狂いが少なく加工性も良好。テーブルや小箪笥などの家具材、薪炭材として地域利用されてきました。特筆すべきは、滑らかな樹皮を活かした「皮付き床柱」。数寄屋建築や茶室の銘木材として珍重され、製材1m³あたり10〜30万円のプレミアム取引が続いています。盆栽素材としても、樹皮の景観美が小品サイズでも映え、葉性が整いやすいことから人気で、古木は10〜30万円で取引されます。

育て方と入手

耐寒性・耐乾性にすぐれ、樹高5〜10mに収まるため住宅庭園向き。日当たり〜半日陰で、酸性〜中性のやや肥沃な土壌を好みます。病害虫も少なく手入れは最小限。剪定は冬の落葉期に枝抜き中心で、萌芽力が強いため強剪定すると徒長枝が乱立して樹形を崩すので注意します。植栽適期は11〜3月の落葉期で、最初の1夏だけ週1〜2回の灌水とマルチングをすれば、その後はほとんど放任で育ちます。苗木は樹高2.5〜3mの株立ち品で3〜5万円が目安です。

リョウブを核にした地域振興も各地で動いています。長野・木曽のリョウブ飯と地酒のペアリング、岐阜・白川村のリョウブ蜜ブランド化、新潟・十日町の古民家カフェでのリョウブ茶など、救荒食文化の継承・薪炭林整備・里山ツーリズムを組み合わせた6次産業化は、森林環境譲与税の活用ともなじみます(森林環境譲与税の詳細)。文化・生態・経済の三層を同時に動かせる、稀少な里山シンボルツリーです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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