林地台帳と固定資産税|市町村における運用実態と課題

林地台帳と固定資産税 | Forest Eight

森林をめぐる市町村の事務には、性格のちがう2つの「台帳」が登場します。ひとつは2019年度から全市町村で整備が義務づけられた林地台帳――民有林の所有者・地番・面積・林班小班などをまとめた電子台帳です。もうひとつは固定資産税の固定資産課税台帳。どちらも「誰がどこの森を持っているか」を扱う点で重なり合っているのに、目的も担当部署もばらばらで、現場ではうまく連携できずに苦労している――というのが今回のテーマです。地味な話ですが、森林政策がきちんと回るかどうかの土台にあたる部分です。

林地台帳と関連情報基盤 林地台帳・森林簿・地籍調査・固定資産税課税台帳の関係を示す 林地台帳と関連情報基盤の関係 林地台帳(市町村) 所有者・地番・面積・ 林班小班・地籍調査状況 森林簿 都道府県管理 林相・蓄積・施業履歴 地籍調査結果 国土交通省/市町村 境界・地番・所有者 固定資産税課税台帳 市町村税務課管理 所有者・評価額・税額 統合活用:森林経営管理制度・森林環境譲与税・森林経営計画 情報基盤の統合により実装可能性を確保
図1:林地台帳と関連情報基盤(森林簿・地籍調査・固定資産税課税台帳)の関係(出典:林野庁・国土交通省・総務省資料をもとに作成)
目次

林地台帳とは、森の「情報基盤」

林地台帳は、2016年の森林法改正で生まれ、2019年4月から全市町村で整備・公表が義務づけられた制度です。対象は民有林1,747万haのすべて。登記簿、固定資産税課税台帳、都道府県が持つ森林簿、地籍調査の結果、所有者からの届出といった情報を市町村が一つにまとめ、電子台帳として管理します。狙いは、同じ2019年に始まった森林経営管理制度の運用基盤になること、市町村森林整備計画の根拠になること、そして所有者の連絡や境界明確化の出発点になることです。いわば、いまの森林行政を支える「情報の幹」にあたる存在です。

記載項目は所有者の氏名・住所を含め20項目ほどありますが、誰でも見られるのは所在・地番・地目・面積・林班小班・森林計画上の位置づけ・地籍調査の有無の7項目だけ。所有者の氏名・住所は個人情報保護のため公表されず、本人や、同意を得た森林経営計画の作成希望者などにのみ提供される仕組みです。

山林の固定資産税は、驚くほど安い

もう一方の固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者にかかる市町村税で、標準税率は1.4%です。山林も対象ですが、その評価額は宅地や農地に比べてぐっと低く、1ha当たりおおむね数万円〜数十万円。立木の価値が低迷していること、山林の収益性が低いこと、地形や利用制限で経済価値が限られることが反映されています。結果として税額は1ha当たり年数百円〜数千円程度にしかなりません。

山林の固定資産税の構造 山林の固定資産税評価額・課税標準・税額・優遇措置の流れを示す 山林の固定資産税の課税構造 評価額 数万〜数十万円/ha 課税標準額 評価額 ≒ 課税標準 ×1.4% 税額 数百〜数千円/ha・年 優遇措置 ・保安林:非課税 ・課税最低額(土地30万円)以下:免税 ・森林経営計画認定林地:市町村独自の評価減・減免(市町村差大) 所有者の合計評価額が30万円を下回ると免税で、小規模林家の多くが該当。 固定資産税は林地所有者の経営圧迫要因にはなりにくいが、 市町村側は名寄せの手間と少額納税通知の発送コストが課題となる。
図2:山林の固定資産税の課税構造と優遇措置(出典:地方税法・総務省資料をもとに作成)

さらに、同じ市町村内の同じ所有者の土地の評価額合計が30万円未満なら課税されない「免税点」があります。山林の評価額は低いので、宅地を持っていない小規模な山林所有者の多くがこれに当てはまり、実際には課税されないケースが珍しくありません。保安林にいたっては地方税法で非課税。経営に制限がかかる代わりに税負担がゼロになるわけで、保安林指定への同意を促す効果も持っています。森林経営計画の認定林地に独自の減免を設ける市町村もありますが、こちらは任意施策なので自治体ごとの差が大きいのが実情です。

似ているのに、つながらない2つの台帳

林地台帳と固定資産課税台帳は、所有者・地番・地目・面積といった項目が大きく重なります。だったら相互に参照しながら更新すればいい、と思いますよね。ところが、ここに壁があります。税務情報には地方税法第22条の守秘義務がかかっていて、税務課がつかんでいる所有者情報を森林部局がそのまま使うには、法的な整理が必要なのです。森林法はこの相互利用を可能にする規定を整えていますが、実際にどこまで連携するかは市町村の判断しだいで、温度差があります。下の表に、2つの台帳の性格のちがいを整理しました。

項目 林地台帳 固定資産課税台帳
目的 森林経営管理 地方税の徴収
運用主体 市町村の林務部局 市町村の税務部局
更新サイクル 5〜10年(随時更新あり) 毎年(評価替えは3年毎)
林班・小班 記載あり 記載なし
評価額・税額 記載なし 記載あり
第三者への開示 条件付(経営管理目的) 原則非開示(守秘義務)

山林分の固定資産税収は全国で年間およそ100億円。固定資産税全体(約9兆円)から見れば0.1%ほどで、財政への貢献は正直なところ小さい。1ha当たり数百円の税額では、評価・名寄せ・通知発送といった徴税コストとの採算すら怪しいのが実情です。それでも課税台帳には別の値打ちがあります。所有者の情報を毎年そこそこ新しい状態でつかめる、数少ない行政情報の源だからです。「税収としての価値」より「所有者情報インフラとしての価値」のほうがずっと大きい――この領域はそう考えるべきなのです。

最大の壁は「所有者不明」

両台帳の運用でいちばんの悩みの種が、所有者不明林・相続未登記です。林地の相続未登記率は約24〜28%と推定され、登記簿上の所有者がすでに亡くなって相続人が登記を済ませていない、という状態が広く残っています。こうなると固定資産税の通知も届きにくく、林地台帳の所有者欄も実態とずれてしまう。2024年4月から相続登記が義務化(取得を知った日から3年以内)され、構造的な解決へ一歩踏み出しましたが、これまで積み上がった未登記分が解消するには長い時間がかかります。

市町村の体制も心もとないのが現実です。全国の林務担当職員は約4,700名、林学系の専門職はそのうち約1,200名にすぎず、1市町村あたり平均2〜3名。過疎地域では農業や観光と兼務でこなしているケースも目立ちます。ここを支えているのが森林環境譲与税です。「地域林政アドバイザー」(元都道府県林務職員などの専門人材)の任用や、所有者調査・GIS整備の財源として活用され、林地台帳の精度向上に役立っています。台帳の電子化率はすでに95%超に達しており、次の段階は森林簿・地籍・税・登記情報をつないだ「林地ベースレジストリ」の構築。森林政策も林業経営も気候変動対策も、この情報基盤の上に乗っていくことになります。

よくある質問

Q. 林地台帳は誰でも見られますか?
所在・地番・地目・面積・林班小班・森林計画上の位置づけ・地籍調査の有無の7項目は、市町村窓口で誰でも閲覧できます(Web公開する自治体も増加中)。所有者の氏名・住所は公表されず、本人や同意を得た経営計画作成希望者などにのみ提供されます。

Q. 山林の固定資産税は1haでいくら?
地域や林相で変わりますが、評価額は1ha当たり数万円〜数十万円、税額は数百円〜数千円/年が目安です。評価額の合計が30万円の免税点を下回る所有者は課税されません。保安林は非課税です。

Q. なぜ2つの台帳がうまく連携しないのですか?
税務情報には地方税法の守秘義務がかかっており、税務課の所有者情報を森林部局がそのまま使うには法的な整理が要るためです。森林法で相互利用の規定は整っていますが、運用は市町村の判断しだいで差があります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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