山形県南陽市。人口3万人ほどの市に、1,403席の木造コンサートホールがあります。南陽市文化会館(愛称シェルターなんようホール)――2015年開館。翌年、ギネス世界記録に「最大の木造コンサートホール」として認定されました。地方都市が身の丈を超えたホールを建てた話ではありません。地元の山のスギと、地元企業の耐火技術で、木造でしか成立しない音響空間をつくった建物です。
まずは基本データ
| 所在地 | 山形県南陽市 |
|---|---|
| 用途 | 文化会館(大ホール・小ホールほか) |
| 開館 | 2015年10月 |
| 大ホール客席数 | 1,403席 |
| 構造 | 木造軸組工法による耐火建築物(木質耐火部材を使用) |
| 主要木材 | 南陽市周辺で伐採された地元産スギ |
| ギネス世界記録 | 「最大の木造コンサートホール」2015年12月認定 |
| 愛称 | シェルターなんようホール(ネーミングライツ) |

Photo: Arg.editor / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
なぜホールを木でつくるのか
コンサートホールの設計は、ほぼ音響で決まります。求められるのは適度な残響と、客席全体への均質な音の行き渡り、そして低音域が痩せないこと。RC造は質量が大きく遮音には強い一方、硬い面は高音域を鋭く反射しやすい。木は適度に振動を吸収し、中低音を柔らかく返します。楽器の胴が木でつくられるのと同じ理屈です。
ただし従来、この理屈は「内装を木で仕上げる」形でしか実現されてきませんでした。RCや鉄骨の躯体をつくり、その内側に木の仕上げを貼る。南陽市文化会館が踏み込んだのは、その内装ではなく主要構造部そのものを木でつくる、という点です。
木造軸組で耐火建築物を成立させる
1,000席を超えるホールは、建築基準法上、耐火建築物として計画する必要があります。多数の人が集まる用途で、避難に時間がかかるためです。木造で耐火建築物をつくること自体は制度上可能ですが、実際には主要構造部に耐火性能をもたせる技術がなければ成立しません。
この建物では、木造軸組工法をベースに木質耐火部材を用いることで、火災時にも構造が倒壊せず自立し続ける性能を確保しました。柱・梁といった主要構造部を耐火構造にすることで、木造のまま大規模なホールが法的に成立します。大阪木材仲買会館(2013年)で耐火木造オフィスが成立してから2年後、それが1,400席のホールというスケールへ展開した形です。
木質耐火部材を供給したのは、山形県に本社を置く株式会社シェルター。ホールの愛称に社名が入っているのはネーミングライツによるものですが、技術の出所と建設地が同じ県内であることは偶然ではありません。地方の中堅企業が開発した工法が、その地元で最大規模の実装を得たという構図です。
地元の山から出した木を使う
使用木材には、南陽市周辺の山から伐り出されたスギが充てられました。山形県は県土の約7割が森林で、置賜地域を中心にスギ人工林が広がります。
公共建築で「地元産材を使う」と言うとき、実務上のハードルは調達量と時期です。ホール1棟分の構造材をまとめて出すには、伐採・製材・乾燥の各段階で相当の段取りが要ります。とくに耐火部材に使う木材は含水率や寸法精度の管理が厳しく、通常の流通材をそのまま使うわけにはいきません。地元の林業・製材と、部材メーカーと、施工者が同じ県内で連携できたことが、この規模の地域材利用を可能にしました。
ギネス記録の意味と限界
2015年12月、大ホールは「最大の木造コンサートホール」としてギネス世界記録に認定されます。認定数値は客席数1,403席でした。
ギネス記録は定義が細かく限定されるため、これをもって「世界一大きな木造建築」と読むのは誤りです。あくまで「コンサートホール」という用途区分での、客席数を指標とした記録です。とはいえ、木造建築が世界記録の対象として扱われること自体に効果がありました。地方自治体が木造の大規模施設を検討するとき、「前例がある」ことは決裁を大きく後押しします。この認定は、南陽市にとってのシビックプライドであると同時に、全国の木造ホール計画にとっての参照点になりました。
よくある質問
Q. 世界最大の木造建築ですか?
いいえ。ギネス世界記録の認定は「最大の木造コンサートホール」という用途を限定したカテゴリで、客席数1,403席を指標としたものです。木造建築全体での最大を意味するものではありません。
Q. 木造なのに火事が心配ではありませんか?
主要構造部に木質耐火部材を用いた耐火建築物として計画されています。火災時にも柱・梁が焼失して倒壊することがないよう性能が確保されており、建築基準法上の耐火要求を満たしています。
Q. 音響は木造だから良いのですか?
木は中低音域を柔らかく返し、硬質な材料に比べて反射音が鋭くなりにくい性質があります。ただし音響性能は形状・容積・仕上げの総合設計で決まるもので、木造であること自体が良い音を保証するわけではありません。

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