京王相模原線・稲城駅から徒歩3分。51戸が入る5階建ての賃貸マンションが建っています。MOCXION INAGI(モクシオン稲城)――三井ホームが2021年に竣工させた、日本最大級の木造賃貸マンションです。木造の集合住宅というと「音が抜ける」「揺れる」「長く持たない」という印象がつきまといますが、この建物はそれらを一つずつ潰しにいった実証物件でもあります。
まずは基本データ
| 所在地 | 東京都稲城市百村 |
|---|---|
| 用途 | 賃貸集合住宅(2LDK〜3LDK・51戸) |
| 竣工 | 2021年 |
| 規模 | 地上5階/延床面積 約3,738m²/敷地面積 約1,499m² |
| 構造 | 1階 RC造/2〜5階 木造 |
| 住戸面積 | 約50〜96m² |
| 事業・設計施工 | 三井ホーム |
| 主な受賞 | グッドデザイン賞2021、ウッドデザイン賞2022 |
| 最寄駅 | 稲城駅(京王相模原線)徒歩約3分 |
「木造マンション」の三つの壁
木造で中層の賃貸集合住宅をつくろうとすると、事業として必ず三つの壁にぶつかります。遮音、耐震、そして耐用年数です。
| 遮音 | 木は軽い。質量則により、軽い材料ほど音を通しやすい。上下階の生活音が賃貸の最大クレーム要因になる |
|---|---|
| 耐震 | 5階建てともなると水平力が大きく、通常の耐力壁では壁量が足りず、間取りの自由度が失われる |
| 事業性 | 法定耐用年数が短ければ減価償却期間も短く、融資条件と収支計画に直結する |
この三つのうち、事業性は実は制度の話です。木造住宅用建築物の法定耐用年数は22年ですが、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造は47年。ところがこの建物は、構造・仕様の実態にもとづき47年の償却期間で扱われる設計になっています。木造でありながらRC造と同等の償却年数を確保したことは、投資対象としての木造マンションの前提を変えました。「木造は資産として短命」という思い込みが、実務上の障害として一つ外れたわけです。
壁倍率30倍超の耐力壁
耐震については、高性能な耐力壁の開発で応じています。壁倍率とは、耐力壁がどれだけ水平力に耐えられるかを示す指標で、建築基準法上の上限は原則として5倍。この建物では壁倍率換算で30倍を超える耐力壁が導入されました。
意味するところは単純です。同じ耐震性能を、はるかに少ない壁の量で確保できる。壁が少なくて済めば、大きな開口や広いリビングが取れ、賃貸住宅として競争力のある間取りが可能になります。木造の中層化でよく起きる「構造上どうしても壁だらけになり、住戸プランが貧しくなる」という問題への直接的な回答です。
1階をRC造にしているのも合理的な判断です。5階建てでは1階柱脚に最も大きな力が集中します。そこだけRCで受け、上4層を木造にすることで、木造化のメリット(軽量化・工期短縮・炭素貯蔵)を取りつつ構造的な無理を避けています。
遮音は住んでいる人が判定する
遮音性能は、床構成の多層化と界壁の仕様によって確保されています。ただしこの種の性能は、実験室の測定値だけでは説得力を持ちません。生活音は測定条件どおりには発生しないからです。
三井ホームが公表しているのは、入居者アンケートで遮音・耐震を含む住み心地の満足度が98%に達したという実使用データでした。木造集合住宅にとって、これは技術データと同じかそれ以上に重要な指標です。賃貸事業では、性能が良くても入居者がそう感じなければ空室になる。「木造だから音が気になる」という評判が立たなかったこと自体が、この建物の成果と言えます。
集合住宅を木造化する意味
中大規模木造の議論は、これまで庁舎・学校・商業施設といった非住宅に集中してきました。公共建築物等木材利用促進法が2010年に非住宅の公共建築物を対象として始まったことも影響しています。
しかし木材需要の観点で見れば、集合住宅は巨大な市場です。日本の新設住宅着工のうち、貸家と分譲マンションが占める割合は大きく、その大半がRC造・S造でつくられてきました。ここが木造化すれば、木材需要の桁が変わります。
MOCXION INAGIは、その市場に対して「事業として成立する木造マンション」の実物を置きました。大林組Port Plusが純木造高層の技術的限界を押し上げた建物だとすれば、こちらは平凡な賃貸住宅という日常の市場で木造を成立させた建物です。中大規模木造の裾野を広げるという意味では、後者の役割も同じくらい重い。
よくある質問
Q. 全体が木造ですか?
1階が鉄筋コンクリート造、2〜5階が木造という構成です。最も大きな力が集中する下層をRCで受け、上層を木造化しています。
Q. 木造で法定耐用年数47年というのはどういうことですか?
木造住宅用建築物の法定耐用年数は原則22年ですが、構造・仕様の実態に応じた区分によって償却期間が定まります。この建物は47年の償却期間で扱われる設計とされており、賃貸事業の収支計画に直結する要素として公表されています。
Q. 上下階の音は気になりませんか?
床構成の多層化と界壁仕様によって遮音性能が確保されており、入居者アンケートでは遮音を含む住み心地の満足度が98%と公表されています。

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