大館樹海ドーム(秋田)|秋田杉25,000本でつくった国内最大級の木造ドーム

秋田県大館市。米代川沿いの盆地に、長辺178mの木造ドームが伏せた椀のように置かれています。大館樹海ドーム(現・ニプロハチ公ドーム)――1997年竣工、国内最大級の木造ドームです。CLTも耐火集成材もまだ一般化していない1990年代に、地域のスギを25,000本使ってこれだけの大空間を成立させた。中大規模木造の日本での起点を探すなら、まずこの建物にたどり着きます。

目次

まずは基本データ

所在地 秋田県大館市
用途 多目的全天候型ドーム(野球・サッカー・イベント)
竣工 1997年6月(工期 1995年7月〜1997年6月)
規模 長辺 約178m/高さ 約52m/観客席 約5,040席
構造 木造ドーム+RC造テンションリング
主要木材 秋田スギ集成材(樹齢60年以上・約25,000本相当)
木材産地 米代川流域(加工は大館市内の集成材工場)
設計 / 施工 伊東豊雄建築設計事務所 / 竹中工務店
現名称 ニプロハチ公ドーム(ネーミングライツ)
大館樹海ドームの内部。秋田スギ集成材によるアーチが立体的に組まれ、ドーム面を構成している。
大館樹海ドームの内部。秋田スギ集成材によるアーチが立体的に組まれ、ドーム面を構成している。
Photo: 掬茶 / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

秋田杉を「使う理由」からつくられた建物

この建物の出発点は、意匠でも構造でもなく、地域の林業でした。秋田スギは木曽ヒノキ・青森ヒバと並ぶ日本三大美林のひとつ。ただし1990年代の秋田は、天然秋田杉の伐採が終息へ向かい、戦後に植えた人工林が本格的な利用期に入ろうとする転換点にありました。売り先をどうつくるか、という現実的な課題があったのです。

県の総合プロジェクトとして構想された樹海ドームは、その答えを「県内最大の木材需要を、県が自らつくる」という形で出しました。使われたのは米代川流域の樹齢60年以上のスギ、約25,000本相当。しかもラミナへの加工と集成材製造を、できる限り大館市内で行う方針が採られました。着工時点では県内の集成材加工設備が間に合わず、一部を長野県で加工せざるを得なかったという経緯も残っています。この「加工設備ごと地域に立ち上げる」という発想は、後年のCLT工場立地の議論とそのまま重なります。

178mを木で飛ばす構造

ドーム構造の要点は、屋根の自重と積雪・風圧をどう地面まで下ろすかにあります。樹海ドームは、秋田スギ集成材によるアーチ状の骨組みを立体的に組んでドーム面をつくり、その足元をぐるりと囲むRC造のテンションリングで受ける構成です。

ドーム形状は荷重を圧縮力に変換して足元へ流しますが、そのままだと足元が外側へ開こうとします。この開こうとする力(スラスト)を引張で押さえ込むのがテンションリングの役割です。木は引張にも効きますが、接合部で確実に引張を伝えるのは難しい。圧縮はスギ集成材に、引張はRCに――と材料の得意分野で役割を分けたことで、178mという規模が成立しました。

そのテンションリングが地上5〜10mの高さに浮いており、その下がぐるりと開いているのが、この建物の見た目上の最大の特徴です。ドームが地面に接地せず、周囲の田園風景の上に浮いているように見える。豪雪地でありながら閉じた印象を与えないのは、この操作によるところが大きいと言えます。

図:木造ドームにおける力の流れ秋田スギ集成材のアーチ(圧縮)RC造テンションリング(引張)ドーム形状は荷重を圧縮に変え、足元へ流す。外へ開こうとする力(スラスト)をRCリングが引張で押さえる。圧縮は木、引張はRC。材料の得意分野で役割を分けたことで長辺178mが成立した。
図1:アーチの圧縮とテンションリングの引張。木は接合部で引張を伝えにくいため、引張はRCが受け持つ。

1997年という年に置いてみる

1992年 出雲ドーム竣工(大断面集成材による木造ドーム)
1997年 大館樹海ドーム竣工/京都議定書 採択
2000年 建築基準法の性能規定化(木造の設計自由度が拡大)
2010年 公共建築物等木材利用促進法 施行
2013年 CLTのJAS制定/大阪木材仲買会館(国内初の耐火木造オフィス)

樹海ドームは、建築基準法の性能規定化より3年早い時点で建っています。仕様規定が色濃く残る制度環境のもとで大規模木造を成立させるには、個別の大臣認定や実大実験を積み重ねる必要がありました。その蓄積が、後の制度緩和や技術基準の整備に対する実証データとして働いています。

竣工から四半世紀たって

竣工から四半世紀以上が経過し、樹海ドームはいまも現役の多目的施設として使われています。木造大空間の長期耐久性――接合金物の状態、集成材の含水率変化、屋根面の維持――に関する実データを持つ数少ない建物であり、その意味では建った当時よりむしろ現在のほうが参照価値が高いとも言えます。

国産材で大空間をつくるという系譜は、その後このはなアリーナ(2015年・天竜スギ集成材)や有明体操競技場(2019年・90mスパン張弦梁)へと引き継がれていきます。

よくある質問

Q. 日本一大きな木造ドームですか?

木造ドームとしては国内最大級で、長辺約178m・高さ約52mという規模は竣工当時から現在まで国内屈指です。ただし「日本一」の定義は測り方(スパン・面積・容積)で変わるため、公式資料では「最大級」という表現が使われます。

Q. 見学できますか?

多目的施設として稼働しており、イベント開催日以外にも一般利用が可能です。利用状況は運営者の公式サイトで公開されています。

Q. なぜ「ニプロハチ公ドーム」と呼ばれるのですか?

ネーミングライツによる愛称です。大館市は忠犬ハチ公の生誕地であることから「ハチ公」が採られています。建物としての正式名称は大館樹海ドームです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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