大阪木材仲買会館(大阪)|国内初の耐火木造オフィスと燃エンウッド

大阪市西区、かつて材木商が軒を連ねた堀江の一角に、木の柱と梁をむき出しにした3階建ての建物があります。大阪木材仲買会館――2013年に竣工した、日本で初めて耐火集成材を用いた木造オフィスビルです。規模は延床約1,000m²と決して大きくありません。それでも日本の中大規模木造史でこの建物が繰り返し語られるのは、ここで「都市の耐火建築を木で建てる」技術が実物として初めて成立したからです。

目次

まずは基本データ

所在地 大阪市西区
用途 事務所・会議所(大阪木材仲買協同組合 会館)
竣工 2013年3月(工期 2012年7月〜2013年3月)
規模 地上3階/延床面積 約1,032m²
構造 2〜3階が木造、1階等にRC造・S造を併用した混構造
主要木材 カラマツ耐火集成材(柱・梁)
耐火性能 1時間耐火(燃エンウッド)
設計・施工 竹中工務店
主な受賞 BCS賞、グッドデザイン賞、第16回公共建築賞 優秀賞ほか
大阪木材仲買会館。国内初の耐火木造オフィスビルで、カラマツ耐火集成材の柱・梁が現しになっている。
大阪木材仲買会館。国内初の耐火木造オフィスビルで、カラマツ耐火集成材の柱・梁が現しになっている。
Photo: 聖石大戦ぶぅぶぅ / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

「木の殿堂を建てたい」という組合の注文

発注者は大阪木材仲買協同組合。老朽化した会館の建て替えにあたり、組合が出した要求は明快でした。木材を扱う業界の本部なのだから、木をふんだんに使い、それを社会に対して見せられる建物にしたい。しかも防火地域の都心部で、耐火建築物として。

当時、この注文に応える標準的な工法は存在しませんでした。木造で耐火建築物をつくること自体は制度上可能でしたが、実際には主要構造部を石膏ボードで幾重にも被覆するのが常道で、それでは木は一切見えません。「木でつくったのに木が見えない建物」を組合は望んでいなかったわけです。

燃エンウッド――炭化を途中で止める三層断面

この課題に対して竹中工務店が開発・適用したのが、耐火集成材「燃エンウッド」です。断面を外側から順に、燃えしろ層・燃え止まり層・荷重支持層という三層で構成します。

燃えしろ層(外層) 火災時にまず炭化する犠牲層。木そのままで、表面に現れる意匠面でもある
燃え止まり層(中間層) モルタル等を組み込み、炭化の進行をここで停止させる
荷重支持層(芯) 集成材。火災中も健全に残り、構造耐力を保持し続ける

木は燃えると表面から炭化層をつくり、その炭化層が内部への熱伝達を遅らせます。大断面の木材が「意外に燃え落ちない」と言われるのはこの性質のためですが、放置すれば炭化は進み続け、いずれ断面が不足して倒壊します。燃エンウッドの発想は、その炭化を設計的に途中で止めてしまうこと。結果として、被覆なしの木のまま1時間耐火の認定を得られるようになりました。柱・梁にはカラマツの耐火集成材が用いられています。

図:耐火集成材「燃エンウッド」の断面構成燃えしろ層燃え止まり層荷重支持層燃え止まり層燃えしろ層柱・梁の断面(外側から内側へ)外側から火を受けても、炭化は中間層で停止する三層それぞれの役割燃えしろ層火災でまず炭化する犠牲層。木のまま現しになる燃え止まり層モルタル等を組み込み、炭化の進行をここで止める荷重支持層集成材。火災中も健全に残り、構造耐力を保つ被覆なしで1時間耐火の認定を取得
図1:耐火集成材の三層断面。石膏ボードで覆わなくても法定の耐火性能を満たせるため、木を現しにできる。

塗らずに10年以上使うという判断

この建物のもう一つの特徴は、木部に耐火処理を目的とした薬剤含浸や厚い塗装を施さず、素地の木の表情を残したことです。竣工から10年を超えた時点でも再塗装は行われておらず、経年による色の変化を「経年美化」として受け入れ、そのうえで維持管理の計画を立てる方針が取られてきました。

木造の公共・業務建築で常に問題になるのが、この維持管理の見通しです。「建てたはいいが、10年後どうなるか誰も知らない」状態では発注者は決断できません。国内初の耐火木造オフィスが10年以上の実使用データを蓄積してきたことは、後続のプロジェクトにとって技術そのものと同じくらい重要な資産になっています。

ここから始まった中大規模木造の系譜

2013年という竣工年に注目すると、この建物の位置づけがはっきりします。公共建築物等木材利用促進法の施行が2010年、CLTの日本農林規格(JAS)制定が2013年、CLT関連の建築基準法告示整備が2016年。つまり大阪木材仲買会館は、制度が中大規模木造に舵を切りはじめた、まさにその入口に建てられました。

燃エンウッドはその後、各地の中層木造建築へ展開していきます。同じ竹中工務店によるHULIC &New GINZA 8(2021年・12階)、日本橋本町三井ビルディング &forest(2026年竣工予定・18階)へと続く技術の系譜は、この延床1,000m²の3階建てから始まりました。

よくある質問

Q. 耐火集成材と一般的な集成材は何が違うのですか?

一般的な構造用集成材はラミナ(挽き板)を接着した木材そのものですが、耐火集成材は断面内に燃え止まり層を組み込み、火災時に炭化の進行を停止させる構成にしたものです。石膏ボード被覆なしで耐火性能の認定を受けられる点が決定的な違いです。

Q. なぜカラマツなのですか?

カラマツは国産針葉樹のなかでも比重・強度が高く、大断面の構造用集成材に向いています。北海道・長野を中心に人工林資源が充実し、供給の安定性がある点も採用理由になりました。

Q. 見学はできますか?

組合の会館であり、常時一般公開されている施設ではありません。見学を希望する場合は大阪木材仲買協同組合への事前問い合わせが必要です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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