みんなの森 ぎふメディアコスモス(岐阜)|東濃ひのき20層のうねる屋根

岐阜市の中心部、市役所に隣接して、うねる木の屋根をもつ図書館があります。みんなの森 ぎふメディアコスモス――2015年開館、伊東豊雄の設計です。天井を見上げると、幅120mm・厚さ20mmという細い板が三方向に編み込まれ、そのまま曲面をつくって波打っている。集成材の大断面で押し切るのでもなく、CLTの面材で構成するのでもない。「薄い板をたくさん重ねる」という、木の性質そのものに素直な方法で大屋根がつくられています。

目次

まずは基本データ

所在地 岐阜県岐阜市司町
用途 市立中央図書館・市民活動交流センター・展示ギャラリー
開館 2015年7月
構造 1階RC造+2階 木造格子シェル屋根
主要木材 東濃ひのき(幅120mm×厚20mmの薄板)
屋根の構成 薄板を三方向に交互積層/最厚部は約20層・厚さ約40cm
特徴的要素 吊り天蓋「グローブ」(傘状の照明・空調装置)
設計 伊東豊雄建築設計事務所
みんなの森 ぎふメディアコスモス。周辺の山並みに呼応してうねる木製格子屋根が外観にも表れている。
みんなの森 ぎふメディアコスモス。周辺の山並みに呼応してうねる木製格子屋根が外観にも表れている。
Photo: Eugene Ormandy(CC0), via Wikimedia Commons

「大断面をやめる」という選択

木造で大空間の屋根をつくるとき、定石は大断面集成材です。太い梁を架け渡し、必要なら張弦梁やトラスで補う。有明体操競技場の90mスパン張弦梁はその極致にあたります。

ぎふメディアコスモスはそちらへ行きませんでした。使ったのは幅120mm・厚さ20mmという、住宅の下地材程度の薄い板です。これを三方向に向きを変えながら交互に重ねてレイヤーをつくり、面全体で力を負担させる格子シェル構造としています。もっとも力のかかる部分では約20層を積層し、屋根厚は約40cmに達します。

この方式には木材の性質上の利点があります。薄い板は乾燥ムラや反りが出にくく、材の品質を揃えやすい。大断面の集成材は太いラミナを大量に必要としますが、薄板であれば中小径材からでも歩留まりよく取れます。人工林から出てくる木の大半が中小径材である日本の資源構成に、実はよく適合した使い方なのです。

図:薄板を三方向に交互積層する屋根の構成断面:もっとも力のかかる部分約40cm20層1枚は幅120mm・厚さ20mmの東濃ひのき平面:三方向に交互積層1層目2層目3層目薄板は乾燥ムラや反りが出にくく、中小径材からも歩留まりよく取れる。本来のしなりを利用して現場で積み上げるため、曲げ集成材の型が要らない。
図1:厚さ20mmの薄板を三方向に重ねて面で力を負担する。応力に応じて積層数が変えられている。

曲げずに、しならせる

屋根の曲面は、周辺の山並みに呼応してゆるやかにうねっています。ここで注目したいのは、この曲面をつくるために特殊な曲げ加工をほとんど行っていないことです。薄い板は、そもそもよくしなる。その本来のしなりを利用し、現場で形状になじませながら積み上げていくことで曲面が形成されました。

集成材で曲面をつくる場合、通常は工場で型に沿わせて接着する曲げ集成材を用います。精度は高いものの、部材ごとに型が要り、コストも工期もかさむ。薄板を現場で積層するやり方は、木の弾性という物性をそのまま設計条件に組み込むことで、この工程を回避しています。技術で木を屈服させるのではなく、木のふるまいに設計を合わせた例と言えます。

グローブ――屋根と一体になった環境装置

館内には、うねる天井から吊られた傘状の大きな覆いが並びます。「グローブ」と呼ばれるこの装置は、照明・空調・音環境をまとめて担う環境装置です。閲覧席はこのグローブの下に配置され、一つひとつが小さな居場所として区切られる。大空間でありながら、体感としては小さな部屋がいくつも並んでいるような感覚になります。

大空間の図書館は、空調の効率と音の反響が常に課題になります。全体を均一に空調すれば膨大なエネルギーを要し、天井が高いほど音は拡散して落ち着かない。グローブは、必要な範囲に環境を局所的につくることでこの二つを同時に処理しています。うねる木の屋根は意匠上の主役であると同時に、この局所環境をぶら下げるための構造でもあるわけです。

東濃ひのきという選択

使用木材は岐阜県産の東濃ひのき。木曽ヒノキと産地帯を接する岐阜県東濃地域のヒノキで、緻密な年輪と淡い色味に特徴があります。従来は高級な内装材・造作材として扱われてきた材ですが、ここでは構造材として、しかも建物の第一印象を決める位置に使われました。

地域材の活用というと「地元の木を使いました」という調達面の話で終わりがちですが、この建物では材の性質(薄板にしたときのしなりと色)が構法の選択そのものを規定しています。地域材活用がデザインの必然にまで踏み込んだ事例として参照される理由がここにあります。

よくある質問

Q. 屋根は木造ですか、それともRC造ですか?

1階がRC造、2階の大屋根が木造の格子シェルという構成です。屋根は東濃ひのきの薄板を三方向に交互積層してつくられています。

Q. 20層重ねて約40cmというのは屋根全体の厚さですか?

もっとも力のかかる部分での積層数と厚さです。屋根面全体が均一に20層というわけではなく、応力に応じて積層数が変えられています。

Q. 見学だけでも入れますか?

公共の図書館・市民活動交流施設なので、開館時間内であれば自由に入館して天井を見られます。閲覧席の利用ルールは施設の案内に従ってください。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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