オヒョウ(Ulmus laciniata)は、魚に名前を取られた木である。カレイの仲間のオヒョウは大型で有名なので、検索すると魚が先に出る。ところが木の和名の元は、樺太の白浦地方で樹皮を指したアイヌ語「オピウ」だとされる。葉を魚に見立てたという説もあるが、懐疑的な見方がある。この木の主役は、葉でも魚でもなく、樹皮のほうだ。
ニレ科ニレ属の落葉広葉樹で、高さは約25mになる。葉の先が3〜9つに裂けるのが目印で、北海道から九州まで、涼しい山地に生える。内側の樹皮(靭皮)の繊維は強く、アイヌの人びとはこれを織って、衣服「アットゥシ」にした。
ニレ科の中の居場所
まず住所を確認しておこう。オヒョウは、バラ目ニレ科ニレ属に属する。ニレ属は北半球の温帯に約20種があり、日本で「ニレ」といえば、ふつうはハルニレを指す。サクラやバラと同じ「バラ目」に入っているのは意外だが、目は、科の上にある、かなり大きな括りだ。
同じニレ科のケヤキは別の属で、ニレ属との違いは葉の縁にある。ニレ属の葉は、大きな鋸歯の間に小さな鋸歯が入る二重鋸歯だ。ケヤキ属は普通の鋸歯である。なお、エノキやムクノキも、以前はニレ科だったが、最近はアサ科に入れることが多い。分類は、動かない台帳ではなく、更新され続ける台帳である。
ニレ属を葉で見分ける
日本で見かけるニレ属の代表は、オヒョウ、ハルニレ、アキニレだ。オヒョウは、葉の先が裂けることで、ほかの2種と区別できる。ハルニレは春に咲き、アキニレは、名前のとおり秋に咲く。秋咲きは、ニレ属のなかでも珍しい。
オヒョウの葉は、一枚として同じものがないとされる。形が一定しない「異葉性」の木で、裂け方は3〜9と幅がある。縁は重鋸歯で、両面に白い短毛が密に生えるため、触るとざらつく。

見分け方のポイント
- 葉:楕円形から広い倒卵形で、先が3〜9裂する。縁は重鋸歯で、両面にざらつく短毛がある。
- 樹皮:淡い灰褐色から灰褐色で、縦に細かく浅く裂け、長く剥がれ落ちる。繊維は強靭。
- 花:4〜6月ごろ、新葉が開く前に、花弁のない淡紅色の小花が束になって咲く。
- 果実:長さ約2cmの平たい翼果。6月ごろ褐色に熟す。
- 冬芽:卵形で先が尖り、濃い栗色でつやがある。5〜6枚の芽鱗に包まれる。
日本では北海道、本州、四国、九州に分布し、本州以南では山地で見られる。東北地方や信州、木曽に多いとされる。水が十分にあり、洪水のない肥沃な土地を好み、自生する場所はハルニレと似ている。

アットゥシ──木の皮が衣になる

アットゥシは、オヒョウやハルニレなどニレ科の木、またはシナノキ科のシナノキの内皮(靭皮)の繊維を織った布だ。なかでもオヒョウの繊維は、北方の樹種で最も優れるとされ、同じ用途のシナノキより高級で希少だという。別名が「アツシノキ」なのは、この布の名前から来ている。布の名前を、そのまま木の別名にした形だ。
作り方は手間がかかる。樹木に水分が多い5月末から6月ごろに樹皮をはぎ、内皮を取る。柔らかくするため、沼の水や温泉に最長1週間ほど浸けるか、灰汁を加えて煮る。温泉に浸けると、繊維が白くきれいに仕上がるといわれる。そのあと細く裂いて撚り、糸にして、腰機(こしばた)で織る。

晴れ着には、襟や袖に木綿の布を当て、刺繍やアップリケでアイヌ文様を施すことが多い。文様の線の始まりと終わりを角ばらせるのは、魔よけの意味があるとされる。
北海道沙流郡平取町の二風谷で織られるものは、「二風谷アットゥシ」として、2013年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品になった。北海道の工芸品としては初の指定である。2020年に開館した国立アイヌ民族博物館(ウポポイ)でも、アイヌ文化の展示を見ることができる。
木材としての顔
木材としては、器具材、薪炭材、パルプなどに使える。この木の知名度は、材よりも繊維が稼いでいる。
近縁種との見分け方
- ハルニレ:日本でニレといえばこの木。オヒョウと似た場所に生える。葉先は、ふつう裂けない。
- アキニレ:中部地方以西、四国、九州の水辺に分布する。花が秋に咲くので、花期だけで区別がつく。
- ケヤキ:同じニレ科だが別属。葉の縁が二重鋸歯にならない。
- シナノキ:シナノキ科で、ニレとは別の科。内皮の繊維を織物に使う点だけが共通している。
よくある質問
Q. オヒョウとハルニレはどう違うの?
いちばん分かりやすいのは葉先だ。オヒョウは先が3〜9裂し、ハルニレはふつう裂けない。どちらもニレ属で、自生する場所は似ている。
Q. 魚のオヒョウと関係はある?
和名の由来は、樺太の白浦地方で樹皮を指したアイヌ語「オピウ」とされる。葉を魚に見立てたという説もあるが、懐疑的な見方がある。
Q. どこで見られる?
北海道から九州に分布し、本州以南では山地に多い。東北地方や信州、木曽に多いとされる。水が十分にある肥沃な土地で、ハルニレと並んで見つかることがある。

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